株高の日本経済はそもそも「地盤沈下」などしていない

「日本経済は地盤沈下しているのに、なぜか日経平均株価が史上最高値を更新中。なぜだ!?」――。そんな疑問点を持つ人もいるかもしれません。ただ、これに対する、数値的に見て最も適切な答えは、こうです。「そもそも日本経済は、地盤沈下などしていない」。日本経済に課題が多いことは事実ですが、残念ながら「日本経済地盤沈下論」の多くは、根拠薄弱と言わざるを得ないのです。

「日本経済の地盤沈下」とは?

大手メディアなどでは、かなり以前から、「日本経済の地盤沈下」が指摘されています。

著者にいわせれば「地盤沈下」しているのは「日本経済」ではなく、じつは「大手メディア」の方ではないか、というツッコミをしたくてならないのですが(笑)、この点については本稿ではとりあえず脇に置きましょう。

この「日本経済の地盤沈下」とは、わかりやすくいえば、日本が世界で存在感を失いつつある、というものです。

たとえば世銀データに基づく2022年の1人あたりGDPランキングは39位ですし(ちなみに2つ下には韓国がいます)、少子化も進んでいて、2021年における合計特殊出生率は1.3人と、下から数えた方が早いほどです(日本より低い国はイタリア、スペイン、中国、マルタ、韓国くらいしかいません)。

また、世界各国でも日本製品をあまり見かけなくなった、という報告も多く、実際、世界の人々が愛好している携帯電話はたいていの場合、米アップル社の製品であったり、グーグル・ピクセルであったり、あるいは中国メーカーの携帯であったりしますし、テレビなどの家電の世界でも、日本製品はすっかり見かけなくなりました。

だからこそ、「日本経済はすっかり地盤沈下した」、「日本に代わって今後は、アジアでは中国、韓国などが発展していくに違いない」、といった主張も、まことしやかに展開されているのでしょう(そのわりに、中韓の出生率が日本より低いという事実に言及している人が少ないように見えるのは、気のせいでしょうか?)。

円安が拍車をかける「日本没落論」

こうした状況に追い打ちをかけるように生じているのが、円安です。

1ドル=150円を挟む円安が続いているためでしょうか、海外旅行に行くコストがすっかり高くなってしまった、といった嘆きを目にすることも増えているように思えます。

もともと変動相場制が導入される以前は、1ドル=360円の時代が長く続いていたという事実、あるいはバブル経済絶頂期だった1989年12月29日時点の為替相場が1ドル=143.60円だったという事実を踏まえると、現在の為替相場がヒストリカルに見て円安といえるのか、といった疑念も、とりあえずは脇に置きます。

ちなみに国際決済銀行(BIS)のデータだと、ドル円は民主党政権の2011年10月28日に1ドル≒75.77円という史上最高値水準を記録しているのですが、そのピーク時と比べ、現在の為替相場は円の価値がちょうど半分になってしまっている計算です。

この2011年といえば、日本は東日本大震災で各地が大きな被害を受けていた時期でもあるのですが、じつは国際社会では円が(なぜか)売られるのではなく「買われ」ていて、主要国中銀が円高を食い止めるための協調介入を行っていたりするという年でもあります。

当時、海外旅行に行った人は、(海外の物価が現在ほど高くなかったという事情もあるにせよ)地域によっては日本と比べたときの海外の滞在費用の安さには驚いたのではないかと思いますし、また、円の購買力を痛感したのではないでしょうか。

こうした時代を知っている人ならばなおさら、現在の円安は異常に見えるのでしょうし、まさに「日本没落論」を信奉するに至るのかもしれません。

少子化は日本経済衰退論の論拠にならない

ただ、「日本経済が凋落した」、「日本経済が地盤沈下した」、などと述べる人たちの主張については、部分的には正しいこともあるものの、総合的に見ると、やはり自説に都合の良い部分を切り取っていることもあるようです。

というよりも、「日本経済崩壊論」などを唱えている人たちを眺めていると、新聞の論説委員であったり、フリーのジャーナリストであったり、紀行家であったり、投資家であったり、酷いケースだと哲学者などであったりするのですが、不思議なことに、経済・産業・金融の専門家の姿をあまり目にしないのです。

たとえば先日の『日本悲観論者は黙って「セルジャパン」をすればよい話』でも紹介した「某著名投資家」の方も、「日本は国の借金が巨額であり、未来がない」などとする趣旨のことを主張しているようですが、「日本が借金大国である」といいながら、資金循環統計や国際与信統計などに言及しようとしないのは謎というほかありません。

もちろん、国家には栄枯盛衰がありますので、かつて栄えていた国が没落する、というのはよくある話です。

しかし、「日本悲観論者」(?)の皆さんが「日本衰退の証拠」として出してきているデータは、残念ながら、どれも日本経済が衰退している決定的な証拠とは言い難いものばかりです。

たとえば少子化に関しては、日本の状況もたしかに深刻ではあるものの、これは日本「だけ」の問題ではありません。

「社会全体の人口を維持するために必要な出生率」は2.1程度だといわれていますが、OECDの2021年における全54ヵ国のデータで見て、2人を超えているのはインド(2.03)、インドネシア(2.17)、ペルー(2.19)、南アフリカ(2.37)、サウジアラビア(2.43)、イスラエル(3)の6ヵ国に過ぎません。

また、少子化が深刻であるはずの国でも、十分に経済成長を遂げている国はいくらでもあります。

というよりも、そもそも論としてマクロ経済学の基礎知識ですが、経済成長率は一般に、人口成長率、資本成長率、技術成長率の総和として定義されます。

少子化ということは人口成長率が低い(またはマイナス)、ということであり、経済成長率を押し下げる要因として働きますが、それだけではありません。資本成長率(つまり投資)、技術成長率(たとえば技術革新)などが行われれば、経済は成長していくのです。

日本に有り余る資金

では、これを現在の日本に当てはめると、どうでしょうか。

日本はたしかに人口が減り始めている社会ではありますが、それと同時に資本成長率がプラスになる潜在力を兼ね備えた社会です。資金循環統計などで見ても、日本には2121兆円(!)という巨額の金融資産を保有する家計部門を筆頭に、資金が有り余っているからです。

これを図示したものが、いつもの日本の資金循環構造(図表1)です。

図表1 日本の資金循環構造(2023年9月末時点)

(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)

「国の借金」(?)とやらはたしかに巨額なのですが、そもそも中央政府がおカネを借りている相手は国内の機関投資家からであり、その国内の機関投資家がおカネを借りている相手は家計部門です。

図表2は、国債のおもな保有主体を列挙したものです。

図表2 国債のおもな保有主体(2023年9月末時点)
主体金額構成割合
中央銀行576兆円47.74%
預金取扱機関132兆円10.97%
保険・年金基金231兆円19.16%
社会保障基金52兆円4.30%
海外165兆円13.70%
その他50兆円4.13%
合計1207兆円100.00%

(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)

これによると国債発行残高1207兆円のうち、海外投資家が保有している金額は165兆円、金額割合にして13.7%に過ぎません。

また、国債は発行残高の半額近い576兆円を日銀が保有しているのですが、その日銀は預金取扱機関(銀行、信金、信組、労金など)から日銀当預のかたちでおカネを借りていて、その預金取扱機関は家計部門からおカネを借りているため、間接的には私たち日本国民が国債の8割を持っているようなものです。

国債などの中央政府の債務を「国の借金」と呼ぶのが間違っているという理由は、こうした資金循環構造から当然に導き出されるものです。

巨額の経常収支黒字

そして、日本経済は巨額の資金を国内で余らせている結果、それらを「対外証券投資」(758兆円)、「対外直接投資」(294兆円)、あるいは貸出(225兆円)などのかたちで海外に振り向けており、その額は1500兆円にも達している格好です(これは「海外部門」の「負債」側に出ます)。

ただし、海外部門も日本国内に株式などのかたちで1027兆円の資金を投じているわけですが、日本国内の投資家が海外に投資する金額はそれを473兆円も上回っており(いわゆる対外純資産)、その結果として、日本は海外から巨額の利息配当金を受け取っているのです(図表3)。

図表3 経常収支

(【出所】財務省『国際収支の推移』サイトの『6s-1-4  国際収支総括表【月次】』データをもとに作成)

とりわけこの「第一次所得収支」の黒字幅、なかなかに凄いことになっています。

というのも、2023年を通じた第一次所得収支は34兆5574億円の黒字で、これは2022年の34兆4622億円を上回る、過去最大のものだったからです。

「衰退している国」、「地盤沈下している国」で受取利息配当金が史上最大を記録しているという時点で、そもそも本当に日本が衰退しているといえるのか、あるいは地盤沈下しているといえるのか、不明です。

率直に申し上げて、日本経済には少子化、原発再稼働・新増設、国防、憲法改正などの課題もたしかにたくさんあるものの、それらの課題は現在の日本にとって、決して「乗り越えられない程に困難な課題」では断じてありません。

むしろ名目GDPが600兆円の大台達成目前となっていること、株価が史上最高値水準を更新しつつあることなどを踏まえると、客観的に見て、「日本経済は力強く復活しつつある」、とする証拠の方が遥かに多いのです。

日本経済が地盤沈下しているのになぜ日経平均は史上最高値なのか

こうした前提条件を踏まえ、最後に取り上げておきたいのが、こんな記事です。

日本経済が地盤沈下しているのになぜ日経平均株価は高値更新しているのか? 背景にある米国の対日政策の大転換

―――2024/02/28 16:15付 Yahoo!ニュースより【マネーポストWEB配信】

小学館が運営する『マネーポストWEB』というサイトが28日付で配信したもので、「日本経済は地盤沈下している」のに、「なぜか日経平均株価は高値更新している」として、その背景の事情に迫る、という趣向の記事です。

リンク先記事をやや乱雑に要約すると、日本が衰退したのは米国の戦略によるものであり、日本の株価が戻りつつあるのは米国の対日戦略が変化したからだ、などとするものでしょう。

この点、当ウェブサイトは米国政治を専門に見ているサイトではないため、「米国の対日・対中政策の変化」が日本経済の栄枯盛衰に与える数量的なインパクトに関して論証することは困難です(というか、それができる人ならば、今すぐどこかの大学の教授に迎え入れてもらえるほどではないかと思います)。

また、現在の株高が海外資金流入によるものであり、少々オーバーシュート気味である、という可能性については注意は必要です。ただ、それ以外の部分に関していえば、そもそも論として、この記事の前提条件である「日本経済が衰退している」という事実認定自体が誤っているのではないでしょうか。

大変申し訳ないのですが、記事を読んでいても日本の産業構造の特徴(たとえば「素材産業や製造装置産業、あるいは金融業に強い」、など)についてはほとんど触れられていませんし、また、BIS規制に言及しているわりにはバーゼルⅢやG-SIBs、TBTFなどの論点も無視しています。

いずれにせよ、産業構造などに照らせば、「日本経済の地盤沈下」とする主張の多くは論拠を欠いているといわざるを得ないように思えますし、それどころか、そもそも現在の日本経済の姿を正確に読み取ることができていない、というのが実情ではないか、などと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    日本、中国、韓国、台湾の東アジア4ヶ国で比べると出生率首位なのは日本であり、ドベが韓国、ドベ2は台湾、その次に中国が続きます。

  2. sqsq より:

    >「米国の対日・対中政策の変化」が日本経済の栄枯盛衰に与える数量的なインパクトに関して論証することは困難です

    日本に限らず世界はアメリカの経常赤字でメシ食わしてもらってるんじゃないですか。
    「アメリカがくしゃみをすると日本は風邪ひく(そして韓国は肺炎になる)」とはよく言われたよね。

    1. はにわファクトリー より:

      アメリカが引き締めをやると即座に困窮する構図が出来上がっているのは隣国韓国だけでないと思います。中国の金融政策選択余地は一層狭まりました。アメリカの金利操作からデカプリングが成立するようになって本邦は本当によかったと思います。これが「失われた30年」から日本が得たものなのでしょう。

  3. sqsq より:

    毎朝テレビ東京のモーサテを録画して(朝5:45からなのでまだ寝ているため)観ている。
    株、為替、世界経済などを題材に専門家を呼んで解説する番組だ。
    新聞をとらなくなったので世間と同期をとるために観ている。
    まじめな番組で(コマーシャルが異様に多いが)経済、株、為替の動向をデータと理論を交えながら解説している。ターゲットの視聴者に株やFXに投資する人達が多いのだろう、いいかげんな予想では納得しないのだ。
    そこに現れたのが日経解説委員。うけを狙って「悪い円安」論。
    かなり批判されたんだと思う。番組の中で「悪い円安は解消された」と意味不明のことを言っていた。

    1. はにわファクトリー より:

      しどろもどろの錯乱解説委員が勤務する悪い日本の経済新聞
      インターネットが存続する限りうそのしんぶんとお節介検索されるのも時間の問題
      タダ読み上等新聞記事

      そのような哄笑が幻聴で聞こえた気がします。

      1. カズ より:

        >しどろもどろの錯乱解説委員が勤務する悪い日本の経済新聞

        「日本経済崩壊論を報じる新聞は崩壊している。」ってことですか?
        何処の社とかはともかくとして、【日本経済・新聞崩壊論】ですね。

      2. はにわファクトリー より:

        来月を待たずして信頼喪失により有料読者が逃げる予感がします。

  4. sqsq より:

    1989年当時は東証時価総額は世界一、東京の土地を売ればアメリカ全土が買えるなど異常だった。その異常な時と比べて「衰退している」というのはいかがなものか。
    ラッキーだったのは日本にはカネがあったこと。サイト主作成の韓国の資金循環表をみていると韓国には日本のようなカネがない。政府が借金して経済対策を打つようなことは大規模にはできないのではないか。隣は立ち枯れていくのではないか。

  5. まんさく より:

    まあマスコミは売れてナンボの商売なので、センセーショナルなタイトルで煽るものです。いちいち噛みついていても仕方ないかと。

    それより問題は、日本にある解決しなければいけない課題をどうするかですよね。GDPは人口減にリンクして下がる分には大きな問題ではないです。まあ、国際競争力を維持するには相似形で縮小せずに、捨てるべきは捨ててフォーカスする分野をきめないといけないですが。

    少子化もゆっくりなら問題ないですが、ちょっとスピードが早いみたいなんで、調整は必要でしょう。金がないから子供を作らないと言う話がありますが、途上国は貧困なのに子沢山です。この辺も見渡してどう言う状況になったら人は子供を作るのかとか考えてみるのも良いかも知れません。

    1. sqsq より:

      戦時スローガンに「進め一億火の玉だ」というのがあった。1億は朝鮮、台湾を含めた概数で日本人は8000万人程度だった。

    2. はにわファクトリー より:

      言うまでもないことですが、若い世代が社会や未来をどう捉えてるのかが出生数に直結しています。新社会人が入社して来ない職場はこれからどんどんと広がって行きます。彼らが希求しているのは勤労を通じた成長期待・達成機運であって、新聞産業界のように 10 年以内に労働廃墟となろうことがはっきりしている職場には向かおうとはしません。だからこそ、スタートアップ企業に高学歴人材や若年意欲層が向かう。経済団体が集計する会員企業が高度人材を取れないのは成長を期待をしていないからと解釈するほかないでしょう。

  6. はるちゃん より:

    私の感覚としては、諸外国がインフレ若しくはバブル状態なのであって、日本はのほうがまともでは無いかと感じています。
    ただ、日本は経常収支の黒字国ですので、外国との金利差が縮小すれば円高圧力が高くなります。
    今のうちに各企業は自社でできる円高対策を進めておく必要があるのではないでしょうか?
    対策としては、中国以外のコストの安い国を探すか、国内でより付加価値の高い商品やサービスを目指すか生産性を上げるための投資ではないでしょうか?

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