【読者投稿】ここまで歪んでしまった武漢肺炎状況把握

当ウェブサイトでは読者投稿を歓迎しており、読者投稿要領等につきましては『【お知らせ】読者投稿の常設化/読者投稿一覧』にまとめているとおりです。さて、例の「武漢肺炎」を巡り、これまで合計14本の読者投稿を寄せてくださった「伊江太」様というハンドルネームの読者様から、今回は「数字で読み解く武漢肺炎」シリーズの「最終稿」として、15本目の論考を頂きました。タイトルには、『ここまで歪んでしまった武漢肺炎の状況把握』とあります。

読者投稿につきまして

当ウェブサイトは「読んで下さった方々の知的好奇心を刺激すること」を目的に運営していますが、当ウェブサイトをお読みいただいた方々のなかで、「自分も文章を書いてみたい」という方からの読者投稿につきましては、常時受け付けています。

投稿要領等につきましては、『【お知らせ】読者投稿の常設化/読者投稿一覧』等をご参照ください。また、読者投稿は専用の投稿窓口( post@shinjukuacc.com )までお寄せ下さると幸いです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

この読者投稿のなかでも、「伊江太」様というハンドルネームの読者様からは過去に14本ほど、非常に優れた投稿を寄せていただきました。

伊江太様から:「データで読み解く武漢肺炎」シリーズ

第1稿によると、伊江太様は某国立大学医学部の微生物関係の研究室での勤務経験を通じ、実際にウイルスを扱っていたそうです。そして、これまでの投稿でもわかるとおり、どの論考も力作ぞろいで、とくに豊富なデータと合理的な着眼点で、マスメディアが垂れ流す言説をバサバサ斬っていくさまは、圧巻です。

こうしたなか、伊江太様からは昨日、15報目を頂きました。どんなことがかかれているのでしょうか。

さっそく、読んでみましょう(なお、原文、タイトル、小見出し等につきましては、当ウェブサイト側にて修整している箇所もありますのでご了承ください)。

数字で読み解く武漢肺炎第15報

ここまで歪んでしまった武漢肺炎の状況把握

昨年3月に初めて掲載いただいて以来、武漢肺炎という、突然この世に現われ、瞬く間に世界中に拡がった感染症に関する、わたしなりの考えを、この読者投稿欄の場をお借りして、14報も書き連ねてきました。

そのときどきの状況に合わせて、いろいろな話題を論じては来ましたが、それらを通じてのライトモチーフとでも言うべき主張は、「この日本という社会では、武漢肺炎はそれほど大規模には拡がらない」、ということです。

日本のおおよその感染者数は、7月初めの時点で検査陽性者数なら80万人、死者数なら1万5千人。

これが欧米諸国では、例えば人口が日本の約半分のイタリアで検査陽性者426万人、死者12万8千人ですから、桁が違うのです。

さらに検査陽性者数にしても、これまで度々論じてきたように、その多くは偽陽性判定であって、実際に感染している人の数はその半分にも満たないであろうとわたしは考えています。

言い訳しておきますと、わたしが日本における武漢肺炎の流行規模が小さいことにこだわるのは、この感染症のリスクをたいしたものではないと言いたいがためではありません。

この疾患の死亡率を考える場合、母数を検査陽性数の80万人とすれば、その値は2%弱ですが、実際の感染者がずっと少ないとすれば、それだけ死亡率は高いことになります。わたしは本当の死亡率は5%くらいではないかと考えています。

死亡率が2%と言ったところで十分に危険な疾患ではあるのですが、もしそれが5%にもなるのなら、国内に常在するウイルス病の中で比肩できるほど危険なものといったら、マダニが媒介する重症熱性血小板減少症候群くらいということになってしまう、それを前提としての話をしているのです。

この危険で、かつ世界中で猛威を振るうほど強い伝播力をもった武漢肺炎のウイルスですが、幸いなことに日本という社会はどうも居心地が悪いらしい。

おそらくほとんどの日本人は、このウイルスにきわめてよそよそしく振る舞っている。

それが具体的にはどういう社会的、個人的慣習に起因するのか、そうした疑問に対するわたしなりの考えを書き連ねてきたのですが、どうやらそれもおしまいにするタイミングに来ているようです。

最近の本編記事で、新宿会計士さんが精力的に報告されているように。医療関係者、高齢者を対象にワクチン接種が急速に進んでおり、一部若年者に対する接種も始まりました。

すでにその影響は徐々に現われてきていると思います。これはもちろん嘉すべきことではあるのですが、わたし個人にとってはいささか興をそがれることでもあります。野放しにされていたからこそ観察できた、ウイルスの日本社会での振る舞いに、強制的な人工的抑制が掛かるのですから。

ワクチンによる武漢肺炎の制圧が、一筋縄でいくのかどうか、今のところはなんとも言えませんし、もしかしたら、その過程は国ごとに大きく違うことになるのかも知れません。しかし、そうしたはなしは、今までのわたしの関心からは外れます。

ということで、何か新しい視点でも提示できれば、それを潮時に投稿を終わりにしようと思っていたのですが、ちょうどいいと思われる材料が出てきました。いまのところほぼ首都圏限定で顕著になってきた、人によっては第5波ともよぶ感染拡大です。

これについては7月8日付けの本編記事『東京で第5波?むしろ「感染危険指数」は伸びていない』で採り上げられていますが、年齢層ごとに重症化率、死亡率の重み付けをして求められる危険指数で感染全体を評価すれば、今東京都を中心に声高に言われる感染拡大の第5波の危機というのは、明らかに過剰反応というのが新宿会計士さんのご意見です。

そして、危険指数がさほど上昇しないのは検査陽性判定者中の高齢層の割合が著減していることに起因するのですが、その理由として高齢者層のワクチン接種を挙げておられます。

首都圏で再び危機が高まっているという意見に与しないという点では、わたしも同じです。

ただわたしの場合は、そもそも今報告されている感染者の増加ということ自体が、絵空事に近いものと考えています。そしてまた、報告されている高齢層の感染数の減少についても異なった見方をしています。

以下、その理由を書いていきますが、別にそれで上記の記事に反駁しようとか、ことの白黒を争おうとかの意図はまったくありません。追従で言うのではありませんが、記事の中で展開されている議論は、公開されているデータを素直に読めば自然に導かれるしごく真っ当なものです。

おバカなマスコミはともかく、政府自治体の防疫担当者、いわゆる感染症の専門家、医師などの中からこうした見解が出てこないのは、むしろ不思議とも言うべきだと思っています。

ただ、ものごとを判断する上で、正攻法だけでは面白味に欠ける。タテ、ヨコ、ナナメ、ときにはウラから、さまざまな見方をすることで、より重層的に理解が進むということもあるでしょう。これまでの稿にしてもそうですが、世の中にはそんな考え方をする人間もいるんだと、好奇心の足しにしていただければとの思いで書いてみます。

検査陽性判定数のどれだけが本当の感染か?

年初来の非常事態宣言が3月半ばにようやく解除されたと思ったら、直後からの感染再拡大(第4波)でゴールデンウィークを控えての3度目の非常事態宣言。

それがようやく下火となり、6月半ばに宣言解除となったのも束の間、今度は前回を上回るほどのペースの感染者数というか、検査陽性者数の激増(第5波)で、ついに4度目の非常事態宣言の発令に追い込まれる。

東京都にお住まいの方はまったくヤレヤレといった気分でしょう。

しかし、世界広しといえども、こんな短期間に、ジェットコースターみたいな感染の急拡大と縮小を繰り返している国なんて、他には見当たりません。何か変だと思いませんか?

あの4~5月の感染拡大第4波について、重症者、死者の発生状況に限ってみれば、大阪府と兵庫県を中心とする関西圏に著しく偏ったものであったことは、以前の稿に書きました。

【読者投稿】流行状況の把握を歪める「多数の偽陽性」』(2021/05/17 09:30)

【読者投稿】流行状況の把握を歪める「多数の偽陽性」

【読者投稿】新型コロナは「人間社会の縮図そのもの」』(2021/06/16 06:00)

【読者投稿】新型コロナは「人間社会の縮図そのもの」

両府県では高齢層の検査陽性判定者の時ならぬ増加が観察された後、重症者、死者数の上昇が続いています。それより小規模ながら、のちに北海道、愛知、福岡県などの大都市を含む自治体でも、高齢陽性者数と重症数、死亡数がはっきりと連動して増加しています。

一方、検査で陽性と判定される人の大多数を占める非高齢層については、発症頻度、あるいは重篤度といった疾患そのものに関わる指標との対応関係を調べるのはとても困難です。

無症状、あるいは軽度の発熱程度の非特異的な症状を呈する人まで含めて、すべてを検査陽性=感染と見なしていいという根拠は欠落していると思うのです。

これまで、検査の陽性判定の相当部分は偽陽性であるということを散々書いてきた手前、その上さらにとなるとしつこいようではあるのですが、ちょうど流行第5波が始まったという話題が世を賑わしている東京都の感染を具体例に議論してみます。

検査実施数と陽性判定数の間に横たわる不都合な真実

図表1は、武漢肺炎の流行第4波を挟んだ時期に東京都で報告された、検査(PCR+抗原検査)陽性判定者の数を、70歳以上の高齢者(濃紺の折れ線)と非高齢者(水色の折れ線)に分けて、グラフに表したものです(それぞれの値は7日間移動平均値で示しています)。

図表1 過剰な検査が生み出す非高齢層の感染拡大という虚像

(【出所】年代別検査陽性者数は『東京都福祉保健局報道発表』、検査実施数は東京都新型コロナ対策サイト『検査実施件数』より投稿者作成。東京都で武漢肺炎についてのPCRおよび抗原検査により報告された陽性判定数を高齢者層(70歳以上、濃紺折れ線)と非高齢層(70歳未満、水色折れ線)に分けてグラフに示したもの。また、それらの値を発出した検査の実施数(緑折れ線)も合わせて示している。値はいずれも7日間移動平均値。陽性判定数はグラフの左軸、検査実施数は右軸の尺度に対応している)

このグラフにはもう一項目、これらの値を発出した検査の全数も加えてあるのですが、その表示には若干の仕掛けが施されています。

グラフの右軸に示すその値の最小値を,300(件)にしてあることがひとつ。そして、同じ幅の目盛りが、左軸の陽性症例数に比べて6倍の数に相当するように案配していることが、もうひとつです。

ある程度作為的なグラフではありますが、検査で出てくる非高齢層の陽性判定数が、ゴールデンウィークの期間と最近の値を除けば、ときどきの検査数にほぼ完全に依存しているのは一目瞭然と思います。

7月10日くらいから検査数と陽性判定数が急に離れていますが、これは検査陽性の報告が即日上がってくるのに対して、陰性分は遅れて五月雨式に報告されるのが理由のようです。

毎日更新される検査数の報告値は過去分の補正も含んでおり、1ヵ月前くらいの検査数でも変更されることがあります。直近1週間分なら連日百~数百件上積みされていくのが普通で、これまでフォローしてきた経験からすると、現在は乖離して見えても、2つの折れ線は遠からず近接していくことになると思います。

このグラフが意味するところを、わたしは次のように読み取ります。

  • ①通常、都内の検査需要の過半は、陽性判定の発生率が低い検査機関によって取り扱われており、その処理能力は5300件プラスアルファ。可能な時にはこれが目一杯利用されているから、検査数の5300件が陽性判定数のゼロ点に対応することになる。
  • ②上記施設の処理能力を超えた数の検査は、より高い陽性判定を出す検査機関に委ねられるが、そこから出てくる結果は、処理検体数の15%近くが陽性と判定されている。
  • ③ゴールデンウィーク期間中、陽性判定率の低い機関からの報告数は顕著に減少する。一方、陽性判定率の高い機関は変わらず報告を出し続け、結果、陽性報告数は前後の期間とさほど変わらない。

③のポイントについては、この年末年初に検査機関の休業に伴う検査実施数が激減したにもかかわらず、陽性判定数がさほど減らなかったという観察を巡って、同趣旨のことをすでに書いています。

【読者投稿】これだけある!「検査至上主義」への疑問』(2021/02/03 07:00)

【読者投稿】これだけある!「検査至上主義」への疑問

検査機関別の陽性率のデータは公表されていないのですが、わたしが下す結論はこのときと同じ。

陽性判定率が低い方が、休祝日に休業する、公的検査機関と病院の各種検査を古くから請け負っている大手の検査会社。高い方が、検査の取り次ぎのみをおこない治療には関わらない小規模クリニックの検体を引き受けている、民間の(多分新出来の)検査センター、ということです。

この陽性判定率の差をどう見ればよいでしょう。

わたしの立場は今更言うまでもありませんが、要するに偽陽性の発生率の差だと考えます。

理屈の上では、後者の機関の検出感度は数等高く、前者では見逃されるような微量のウイルスまで引っかけているという説明も、あるいは可能かも知れません。

しかし、非高齢層の陽性判定数を実際の感染数と見なしてしまえば、わずか2~3ヵ月の周期で急激な拡大と縮小を繰り返す感染の有り様を一体どう説明すればいいのか、そういう根源的な疑問に直面せざるを得ないと思います。

陽性判定者数=感染者数と見て、実効再生産数なる数値が1.0を超える状態が続くと、お約束のように出てくるのが「専門家」による今後の拡大予測というヤツです。

さすがにこれまでの経緯を考慮してか、最近では対人接触8割減などと非現実的なことは言わず、「緊急事態宣言で人流抑制がうまくいけば」、ベースラインまで下がるくらいの想定になっているようですが、言うことを聞かない場合は、天井知らずの指数的増加が待っているぞと、脅迫的なご託宣を垂れるのは相変わらずです。

宣言の連発で人出の抑制効果は失せたというのは、もうかなり前から明らかになっていますが、そんなこととは関わりなく、陽性判定数がある程度まで上がれば、また落ちる。日本国民は行政や専門家が言って聞かせねば、好き勝手にリスクある行動をとる愚民の群れではありません。

今や大半の人は、武漢肺炎という感染症は、個人的にきちんと対策を取っている限り、満員の通勤電車に乗り合わそうが、繁華街やショッピングセンターで袖触れ合おうが、劇場、球技場で赤の他人の隣りに座ろうが、感染のリスクなどほとんどないことを、言わば肌感覚で知っていると思います。

それが実際その通りであることは、今までの日本の感染状況が証しています。

陽性判定数、というより検査実施数が頻繁に増減するのは、それではなぜでしょうか。

わたしは社会心理学的な問題と考えています。不安が不安をよぶ。4月に始まる感染拡大の第4波の場合は、再びの緊急事態宣言を必要にしないためと称して。

政府が一層の検査数の増加を促したところに、大阪での高齢者間の感染急拡大と重症病床の逼迫という連日の報道が重なって、不安の拡散を大いに助長した。今度の第5波についてなら、デルタ変異株への恐怖とか五輪開催の危険といったところでしょうか。

ことの本質がそういうものなら、連鎖反応的に拡がるのも速い代わりに、それに乗せられる人の数には限りがある。それに、実際には身の周りにそんな危険が及んでくる兆候が見えないと気付けば、世の中の熱も早急に冷めていく。

一般人のワクチン接種が始まった当初、一刻も早く接種を受けねば今すぐにも命に関わると強迫観念に駆られたのが、よくよく考えてみれば、しっかりした免疫ができるのはさらに3~4週も先の2回目接種が済んでからと、ハッと気付いて正気に戻るなんてのも、似たようなことかも知れません。

図表1に見られる検査実施数と非高齢層の検査陽性判定数との関係を数式で表すと、

非高齢層の検査陽性判定数=(検査実施数-5.300)÷6

となります。

そのときどきの実際の感染状況は、この式の値に何ら影響しません。極端なことを言えば、本当の感染者がゼロであっても、毎日8300件以上の検査をおこなっていれば、東京都がステージⅣ判断の目安としている週3500人を上回る新規感染者(陽性判定者)が出続けるという、馬鹿げたことも起こりうるわけです。

一方で、8月初めには、1日の感染者数が3000人にも達するという予測を眼にしましたが、2万件を遙かに超える検査がおこなわれてこそ、この数字は出る。

現在の検査数が、1週間そこそこで倍になるという事態は、ちょっと想定しにくいでしょう。

東京に若年感染者がまったくいないと言っているのでは、もちろんありません。ただその数は、圧倒的な偽陽性数に隠されて、グラフのパターンに影響を与えない程度の存在であろうと考えるのです。

それでは高齢の感染者数は?

高い割合で偽陽性報告を出す検査機関は、高齢者の検体も扱っているはずですから、当然都が公表する高齢者の感染数には偽陽性分が相当数含まれていると考えるべきでしょう(図表2)。

図表2 高齢者の検査陽性数から「本物の」感染分を切り分ける

(【出所】年代別検査陽性者数は『東京都福祉保健局報道発表』、検査実施数は東京都新型コロナ対策サイト『検査実施件数』より投稿者作成。上図には、東京都における武漢肺炎検査で陽性と判定された高齢者の数(濃紺折れ線)と、死亡発生数(グレー折れ線)の長期的推移を示している。非高齢層の検査陽性数は直接表示せず、代わりに高齢層との比E/Y(Elder vs. Younger)を加えている。濃オレンジの細線はE/Y比の推移、淡色の太線は、「本物の」感染が極小化した局面で、E/Y比がとると推定される値を示す。下図は、同期間に東京都でおこなわれた武漢肺炎検査数(PCR+抗原検査)。都の健康安全研究センターの実施分(濃紺)と民間の検査施設分(水色)は区別して表示している。東京版CDC設置などと大言壮語しながら、その検査能力があまりに貧弱な状態のまま放置されていることは指摘しておきたい。すべての項目は、7日間移動平均値を計算した上で、グラフ化している)

図表2の上図には、昨年まで遡って、東京都で報告された高齢層の検査陽性数と死者数の推移を示しています。また非高齢層の検査陽性数について、その実数を表示する代わりに高齢層/非高齢層の比(E/Y比)を、併せて表示しています。

下図には東京都でおこなわれた検査数を掲げています。都の検査施設と民間でおこなわれた分を区別して表示していますが、昨年6月以降急拡大した検査需要はほぼすべて民間の検査施設で賄われているのが分かります。

検査数がまだ少なかった4月は感染拡大の第1波に当たる時期です。この時期、E/Y比が極めて高かったことは注目すべきです。

当時は発症者とその濃厚接触者にほぼ限ったPCR検査がおこなわれていたのですが、この検査のやり方の評判は散々でした。しかし、これで帰国者によって欧米からもち込まれた武漢肺炎の流行は、きれいに抑え込まれたのです。

検査対象者をこのように絞れば当たり前ですが、高齢の陽性判定者の多くは本物の感染者で、当然その数に応じた死亡が発生しています。

その後検査数が急増していくのですが、一旦E/Y比は急下降します。7~8月頃に拡大した検査のおもな対象が、当時盛んに言われた「夜の街」に出入りする若者層に向けられたことが理由でしょう。

やがて検査のやり方は、言葉は悪いが「手当たり次第」の様相を呈していき、E/Y比は0.12~0.13くらいの値まで上昇したところで安定します。

東京でおこなわれた民間分の検査の内訳は公表されていないのですが、厚労省発表の全国統計で見ると(※)、E/Y比がプラトーに達した10月は、7月頃から増加し続けていた「陽性判定を高率に発生する検査機関」の利用割合が、20%程度まで上がって、とりあえず一定となった時期に符合します。

(※厚生労働省オープンデータ『PCR検査実施数』)

この間、高齢の陽性判定者数は検査数とともに増加していくのですが、それが死者数の増加に結びついていないことは明らかです。つまり、その大半は偽陽性症例でしょう。E/Y比が動かないのは、検査を受けるのが高齢者1に対して非高齢者8の割合で、ほぼ一定していたということでしょう。

今年に入りいわゆる流行第3波の後半、感染規模が収束に向かった時期に、E/Y比は大きく上下し始めます。そしてこの変動は死亡数の増減と連動しているのが分かります。

グラフ上でE/Y比の変動の底に当たる部分を直線で結ぶと、10~12月の間水平であったものが、以後右下がりとなって、現在に至っているように見えます。淡いオレンジで示したこのベースラインよりもE/Y比の値が大きい場合には、その差に比例するように死亡が発生する、そう推定できそうです。

この方法なら、直接実感染数の算定値が求められるわけではなく、また適用できるのが高齢の陽性判定者限定という弱点はあるのですが、多数の偽陽性症例の中から本物の感染を拾い上げる手立てにはなっていると思います。

死亡の減少自体は無論いいことなのだが

東京に始まり、首都圏、さらに地方の大都市にも及びつつあるかに見える、いわゆる流行の第5波ですが、陽性判定者数の激増とは裏腹に、死亡者数は一月以上経った今も減少を続けており、全国合わせても一桁に止まる日も現われています。

高齢者へのワクチン接種の拡がりが一意的原因と考えたいところですが、どうも死亡減少のペースはワクチンの普及と足並みを揃えているようには見えないのです。

図表3は流行第4波(4月~6月)の時期に多数の死亡が発生した大阪府、兵庫県、北海道で、陽性判定数とE/Y比がどのように動いたかを見たものです。

図表3 「本物の」感染拡大のあと急減する検査受診者中の高齢者の割合

(【出所】死亡数:NHK『特設サイト 新型コロナウイルス』内のデータダウンロードリンク、年代別検査陽性者数は大阪府:『新型コロナウイルス感染症患者の発生状況について』、兵庫県:『新型コロナウイルス感染者の発生状況』、北海道:『オープンデータポータルサイト・新型コロナウイルス感染症に関するデータ』より投稿者作成。大阪府、兵庫県、および北海道で報告された、死亡数(グレー折れ線)と高齢/非高齢別の検査陽性数(濃淡の青折れ線)の推移を、E/Y比(オレンジ折れ線)とともに示す。グラフにはすべて7日間移動平均値で表示している)

どの自治体でも、死亡者数がピークを迎えた頃から、E/Y比の値は急速に減少しており、その傾向は流行がほぼ収束した後も続いています。

検査で偽陽性が発生する率は高齢層と非高齢層で変わりはないはずですから、流行時を過ぎてもなおE/Y比が低下し続けるのは、検査を受ける高齢者が減少していることを意味すると思うのです。

その背景には、単に検査受付場所へ足を向けるのを控えるに止まらず、感染を怖れて外出すべてを止め、家に引きこもる老人が増えている状況が推測されるのです。

急激に起こった行動自粛なら、喉元を過ぎればで、すぐ元に戻ることも考えられます。しかし図表2で見た東京都のE/Y比の低下は、昨年12月頃から緩慢かつ持続的に観察され、かつて、高齢者1に対して非高齢者8の割合と推定された検査受診者は、今や1対40くらいになっています。

日々テレビのニュース情報番組に登場し、感染拡大時には医療崩壊の危機を叫び、やや収束すれば、人流が減らぬ限り、まもなくの危機の再来は不可避などと警告する――。これらの医師、専門家のほとんどは東京、首都圏の医療機関や大学などに籍を置く人達です。

そこで語られる感染状況とは、要するに都民の身の周りの情景です。

最早若者はそうした言に耳を傾けなくなっているようです。

緊急事態宣言が繁華街の人出にほとんど影響しなくなっているのが、その端的な表れでしょう。これまでの経験を経て、専門家連がなんと言おうが、自分の身の周りにそういう危険が及んでくる可能性は極めて低いことに気が付いているのだと思います。

しかし、高齢者の場合は違います。この年齢層はもともと権威に弱く、その言を信じやすい上に、この感染症が自分にとって危険なものであることを、本当に怖れているのですから。

武漢肺炎の抑圧の任に当たる人にとって、具体的施策の案出とともに、国民に注意喚起をおこなうのはもちろん必要なことです。この疾患の危険を喧伝している人達は、実際そのつもりでやっているのだとは思います。しかし、わたしにはそれが、感染の実情に照らせば度を超していると感じることが、まれではありません。

武漢肺炎の被害にもっとも脆弱な高齢者層の感染機会が減少することは、望ましいことではあるでしょう。しかし、ほとんどの高齢者は、若い年齢層の人達と同様、感染予防に必要な知識は身につけ、それにしたがって慎重に行動しているはずです。

もし、その人達を脅しつけて家に引き籠もらせる影響の方が、感染抑止の効果を超えるなら、そのマイナスは等閑視すべきではないと思います。

以前から指摘されている、コロナ下の老人の行動自粛と、それに伴う運動、認知能力の低下の問題が悪化するなら、多数の健康寿命の短縮という犠牲の上に、少数の武漢肺炎死亡を減らそうとするが如きの、本末転倒とも言える結果を招きかねない。

況してや、高齢者のワクチン接種がここまで進んできた今、只管に自粛を強いるばかりの疾患抑制対策は見直すべきではないかと考える次第です。

饒舌が過ぎて、一編の上限と考えていた8000字をとうに超えてしまいました。

書こうと思っていた項目をいくつか省略するハメになりましたが、最初に書いたとおり、この稿をもって武漢肺炎に関するわたしの投稿はおしまいにしたいと思います。

不備な部分に手直しを加えていただいた上に、15編もの拙文を読者投稿欄に採択してくださった新宿会計士様には、改めて深い感謝の念を捧げます。また、それらの内容に興味をもち、数々の有益なコメントを寄せてくださった皆様にも、厚く御礼申し上げます

伊江太拝<了>

読後感

…。

いかがでしょうか。

内容の判断は読者の皆さまにお任せしますが、個人的には「大変に合理的で納得の論考」だと考えます。

とくに、今回の論考に関しては、当ウェブサイトでこれまで紹介してきた、「新規陽性者に占める高齢層の比率が急減して来たこと」に関するひとつの仮説が提示されています。これはこれで大変に参考になります。

いちおう、伊江太様によれば、武漢肺炎に関する論考は本稿をもって終了とのことですが、論じるべきテーマがあれば、是非ともまた議論していただきたいと思う次第です。

当ウェブサイトでは常々、「そもそもの前提条件を疑うことも大切」だ、と申し上げているつもりですが、今回の論考も、まさに「前提条件を疑うこと」の大切さを改めて痛感した思いがします。「本稿で最終」といわず、是非、続きを読ませていただきたいと思います。

(「数字で読む武漢肺炎」シリーズはいったん終了ということであれば、次回以降は「数字で読むワクチン」、「数字で読むPCR検査至上主義」でも構いませんので、どうか継続をお願いしたいと思う次第です。)

いずれにせよ、伊江太様、今回も優れた論考をご寄稿賜り、大変ありがとうございました。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    増幅した後に流して生成物の配列や長さを確認して陽性と判定するというPCRの標準手順が以前紹介されていましたけど、サンプルが増えてくると増幅だけしかしないところに依頼が行くようになって、それが陽性者数を押し上げているのではないかと想像しています。

    あと、世界各国の流れを見ていると、20~30歳はワクチンではなく自然感染で免疫を獲得してもらう方向に舵を切っているように見えますね。そうすると課題になるのは中高年層と若年層の接触をどうやって減らすかという点でしょうか。

  2. 匿名 より:

    検査陽性とは「鼻咽頭(採取場所)にウイルスが存在する、または存在していた状態」
    感染とは「体内にウイルスが侵入し増殖している状態のこと」
    鼻咽頭にウイルスが付着しても免疫機能により増殖しなければ感染には至らない。
    と認識しています。
    鼻咽頭(採取場所)にウイルスが存在することは感染者とみなしてよいという意見もありますが。
    PCR検査では免疫機能で感染性を失ったウイルスを検出する、回復期の感染者も同じ。
    したがって、ワクチンにより免疫機能得た人間にウイルスが侵入しても感染には至らないがPCR検査では陽性となる場合がある。
    特に日本は検査のためにウイルスを増殖するサイクル=CT値が諸外国と比べて多く、微量のウイルス付着でも検出してしまう。

    という認識で問題ないでしょうか?

    ワクチン接種の進んだイギリスで平均4万人/日もの検査陽性者(マスコミは感染者と呼ぶ)が出ていても重症者、死亡者が少ないのは、検査陽性者は多いが感染者は少ない(ワクチン効果)ということなのかもしれません。

    1. 匿名 より:

      高齢者の重症化が減少しているのはワクチンにより重症化を防ぐのではなく、偽陽性ならぬ偽感染判定で、もともと感染していなかったのではないかと思います。

      ワクチン接種しているはずのオリンピック関係者の陽性者も(マスコミは嬉しそうに感染者と呼んでいますが)偽感染判定なのかもしれません。

  3. りょうちん より:

    もういいかげんに、ウィズ・コロナの必要性を受け入れて、経済活動とのバランスを受け入れた生活様式に全面的にパラダイムチェンジすべきなんですよ。
    かつては、吉原とかの花街で梅毒貰ってまで遊んでたのが、コンドーム使用が当然になったように。

    ついでにインフルエンザなんかの死亡者も減ります。
    個人的に私は飲酒をやめたので、宴会が減ったのは、ラッキーとかまで思っていますw。

  4. 赤ずきん より:

    今日のニュースに以下のものがありました。
    米CDCは新型コロナのPCR検査を今年末で終了すると発表
    -PCR検査のct値によっては最大90%の「陽性者」が実際にはウィルス保有せず

    https://bonafidr.com/2021/07/26/%e7%b1%b3cdc%e3%81%af%e6%96%b0%e5%9e%8b%e3%82%b3%e3%83%ad%e3%83%8a%e3%81%aepcr%e6%a4%9c%e6%9f%bb%e3%82%92%e4%bb%8a%e5%b9%b4%e6%9c%ab%e3%81%a7%e7%b5%82%e4%ba%86%e3%81%99%e3%82%8b%e3%81%a8%e7%99%ba/

  5. 元ジェネラリスト より:

    検査厨やゼロコロナ(ゼロリスク)厨の跋扈を、最後まで抑えられませんでした。
    マスコミの報道姿勢によるところ大だとは思いますが、マスコミにバカなことを報道させないような政府の情報発信の工夫の余地もあったのではないかと思います。
    伊江太さんの見立てでは、政府自身も数値を正しく理解していないのかもしれません。
    今後に備えるための材料はたくさん揃ったと思います。どのように総括されるのか、よく見ておきたいと思います。

    >非高齢層の検査陽性判定数=(検査実施数-5.300)÷6
    重箱の隅で申し訳ないですが、正しくは、「-5300」ではないでしょうか?

  6. 解せぬ より:

    伊江太様のこれまでの投稿には納得させられるものが多かったのですが、

    >さらに検査陽性者数にしても、これまで度々論じてきたように、その多くは偽陽性判定であって、実際に感染している人の数はその半分にも満たないであろうとわたしは考えています。

    厚労省が毎週公表している「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向:2021年7月21日18時時点」によれば確定週別人数の有症者数は冬の第三波までは全体の半分程度ですが、春の第四波以降は割合が増えて最新では確定者全体の9割近くが有症者で占められています。
    専門家ではないので症状はあっても偽陽性だと言うのは???ですが普通の風邪の発熱なのに新型コロナだと判定されてたってことなのでしょうかね?
    普通の風邪からもインフルからも肺炎を起こすことはあるそうですし、普通の風邪やインフルで死んでても新型コロナ死者としてカウントされてるってことですかね?

    1. 成功できなかった新薬開発経験者 より:

      解せぬ 様

      偽陽性の解釈は難しいのですが、たまたま気道にいたウィルスを
      検知しただけな結果を偽陽性と表現するなら、伊江太様の主張も理解できます。

      普通の風邪の患者の気道にたまたまコロナウィルスがいた。

      PCR検査の感度が高過ぎて、日本ではさらに高くしているような。

      日本では武漢風邪は単なる風邪になった可能性も否定できず、
      そちらに期待しています。

      1. 解せぬ より:

        成功できなかった新薬開発経験者 様

        コメントありがとうございます。 しかしながら無理筋で伊江太様の主張を擁護しているだけだとしか受け取れません。

        >普通の風邪の患者の気道にたまたまコロナウィルスがいた。

        元コメントではそんなケースは例外的だろうという反語疑問だったんですけど。
        よくあることだと確信できる理由はあるのですか?
        夏風邪が例年以上に流行しているとかあれば別ですが。

        たまたまコロナウイルスがいたってケースが多いなら風邪をひいてない人の中で発生する方が絶対数はずっと多いと思います。

        >PCR検査の感度が高過ぎて、日本ではさらに高くしているような。

        第4波以降に感度を上げたっていう検査方式の変更はありますか?
        仮に感度を高めたとしたらむしろ無症状陽性者率が上がると思います。

  7. イーシャ より:

    伊江太 様
    いつも素晴らしい論考をありがとうございます。
    この時期に偽陽性が増えるのは、夏休みに旅行したいと、無駄な検査をする人が増えているからかもしれません。

  8. 赤ずきん より:

    最初は 経済とコロナ対策と言っていたはずなのに マスコミの煽りにくじけて経済無視の無観客五輪に追い込まれて 政権の腹の座っていないのが暴露されてしまった。失業保険も破綻寸前 この後続々続く 増税や保険料値上げやサービス低下が恐ろしい。

  9. ななき より:

    伊江太さん

    毎度、興味深く論考拝見させていただいておりました。
    今回、省略された部分もあったとのこと、他にも新たな発見等有りましたら、また読者投稿していただければ、一読者として嬉しく思います。

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