以前、『【総論】4種類のスワップと為替スワップの威力・限界』で通貨スワップや為替スワップなどのスワップ取引についていろいろと議論したのですが、あれから少し時間が経ってしまったことに加え、わが国が新たな為替スワップを締結したことや、米FRBが提供する為替スワップの引き出し状況に特筆すべき状況が出たことなどを受け、内容が少し陳腐化しているきらいがあります。そこで、『数字でみる「強い」日本経済』が公式には本日、書店の店頭に並ぶのを契機にして、スワップについてじっくりとまとめておきたいと思います。
目次
【宣伝】公式には本日発売
我ながらしつこいと思いますが、最初に宣伝させてください。
当ウェブサイト初の試みとして、『数字でみる「強い」日本経済』が、公式には本日、全国の書店の店頭に並びます。
これは、『数字で読む日本経済』シリーズをベースに、当ウェブサイトのこれまでの主張を書籍という形にまとめたものであり、その際、データも最新版にアップデートしています。ぜひ、書店でお手に取って見てください。
また、もしも本書をアマゾンなどのサイトで買っていただいた方がいらっしゃれば、高い評価をしていただく必要はありませんので、レビューを書いてくださるとうれしいです。以上、宣伝でした。
スワップ論考アップデート
国際金融協力の世界におけるスワップ取引については、『【総論】4種類のスワップと為替スワップの威力・限界』などを含め、当ウェブサイトでもこれまでずいぶんと取り上げて来ましたし、また、一連のシリーズについてはかなり多くの方々に読んでいただけたようです。
ただし、上記記事から少し時間が経過してしまったのに加え、「スワップ論考」について、上記記事の時点と比べ、日本が新たに結んだスワップ協定もあることなどの事情も踏まえ、久しぶりに「スワップ論考」のアップデートを行っておきたいと思います。
スワップの種類
デリバティブは対象外
まずは、本稿が対象とする「スワップ取引」です。
金融機関のマーケット部門などにお勤めの方であれば、スワップといえば「バイセル取引」(いわゆる為替スワップ)、ISDAベースの金利スワップ、ベーシススワップ、通貨スワップやクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)などを思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし、これらのスワップについてご興味がある方には大変申し訳ないのですが、本稿(あるいは当ウェブサイト)では、これらについては基本的に言及しません(さる事情があり、これについては理由も含めてノーコメントとさせていただきます)。
ただし、為替スワップ(Buy-Sellまたは Foreign Exchange Swap)、通貨スワップ(Cross-Currency Swap)については、本稿でいう為替スワップ(Bilateral Currency Liquidity Swap Agreement)や通貨スワップ(Currency Swap Agreements)と日本語表現が同じです。
このため、いちおうお断り申し上げておきますが、本稿で為替スワップ、通貨スワップと称するときは、デリバティブの世界でいう為替スワップ、通貨スワップのことではありません。
スワップ取引とは?
ごく大雑把に整理しておくと、スワップ取引とは通貨当局同士が協力して通貨を融通し合う協定のことで、このうち通貨スワップとは通貨当局が直接、外貨を手に入れるための協定のことであり、為替スワップとは民間金融機関に外貨の短期資金を融資するための協定のことです。
あくまでも当ウェブサイトなりの理解・整理に基づけば、次のように分類できます(図表1)。
図表1 国際金融協力におけるスワップ
用語 | 概要 | 英語表現と略称の例 |
---|---|---|
通貨スワップ | 通貨当局が直接、外国から外貨を手に入れるための協定 | Currency Swap Agreement, CSA |
→うち、二国間通貨スワップ | 二ヵ国間で締結される通貨スワップ協定 | Bilateral Currency Swap Agreement, BSA |
―→うち、国際通貨のスワップ | スワップの引き出し通貨の少なくとも片方が国際的に広く使われる通貨(とくに米ドル)であるような二国間通貨スワップ | (略称なし) |
―→うち、自国通貨のスワップ | スワップの引き出し通貨が協定締結当事国同士の通貨であるような二国間通貨スワップ | Bilateral Local Currency Swap Agreement, BLCSA |
→うち、多国間通貨スワップ | 多くの国が参加する通貨スワップ協定 | Multilateral Currency Swap Agreement, MSA |
為替スワップ(流動性スワップ) | 通貨当局が相手国の通貨当局を通じて自国の金融機関に短期資金を融資するためのスワップ | Bilateral Foreign Exchange Liquidity Swap, BLA |
(【出所】著者作成)
これについてはわかりやすく、「樹形図」の形にもしておきましょう。
スワップ
├通貨スワップ
│ ├二国間通貨スワップ
│ │ ├国際通貨建ての二国間スワップ
│ ├ └自国通貨建ての二国間スワップ
│ └多国間通貨スワップ
└為替スワップ
オーソドックスな二国間通貨スワップ
よく勘違いされているのですが、これらのスワップ、効果は同じではありません。
まず、「スワップ」といわれるときに、多くの人が真っ先に思いつくのが「通貨スワップ」ですが、厳密にはこれも一種類ではありません。大きく、①二国間の通貨スワップ(国際通貨建て)、②二国間の通貨スワップ(自国通貨建て)、③多国間の通貨スワップ、という区別があります。
アジアの場合は1997年のアジア通貨危機に対する反省から、2000年5月にタイ・チェンマイで、ASEAN(当時は5ヵ国)と日中韓3ヵ国が参加して、いざというときにはお互いの外貨準備から外貨を融通しあうための仕組み作りで合意しました。
これがチェンマイ・イニシアティブ(CMI)であり、当初はこの8ヵ国が通貨スワップのネットワークを構築する、という形で安全網が設けられました(詳しくは財務省『チェンマイ・イニシアティブ(CMI/CMIM)について』等参照)。
つまり、上記の「樹形図」でいうところの、「国際通貨建ての二国間通貨スワップ」を、このチェンマイ・イニシアティブ(CMI)に参加する国が相互に結んでいったのです。
CMIMの発足
ただし、これには大きな問題がありました。契約の本数が増えすぎるのです。たとえば、日本の場合だと、少なくとも7本のスワップ協定が成立してしまいます。
- 日韓通貨スワップ(韓国)
- 日中通貨スワップ(中国)
- 日泰通貨スワップ(タイ)
- 日比通貨スワップ(フィリピン)
- 日尼通貨スワップ(インドネシア)
- 日星通貨スワップ(シンガポール)
- 日馬通貨スワップ(マレーシア)
同じく、韓国が中国、タイ、フィリピン、インドネシア、シンガポール、マレーシアと、中国がタイ、フィリピン、インドネシア、シンガポール、マレーシアと、…、といった具合に契約を結んでいくと、同じ内容の契約が同時に28本も存在してしまうのです。
しかも、その後はASEAN加盟国も拡大されましたが、加盟国が1ヵ国増えるたびに、契約本数はどんどんと増えて行ってしまいます。等差数列の和の計算に詳しい方ならご存じでしょうが、参加国数をNと置くと、契約の本数はN×(N−1)÷2本です(参加国が8ヵ国なら8×7÷2=28)。
CMIの参加国が9ヵ国に増えれば契約は36本(=9×8÷2)、CMIの参加国が12ヵ国に増えれば78本(=12×11÷2)、というわけです。つまり、いくつものスワップが同時にたくさん成立し、収拾がつかなくなってしまいます。
CMIMは多国間通貨スワップの仕組み
そこで、このCMIについては、2010年3月に「マルチ化」、つまり多国間協定化しますが(いわゆるCMIM)、このCMIMが上記樹形図でいう「多国間通貨スワップ」です。
そして、CMIを多国間協定化したことで、同じルールに基づいて、各国が貢献額と引出可能額を決めるという形を取るだけで良くなり、順次、個別の通貨スワップ協定については廃止されていきました(※ただし、日本はインドネシアなど4ヵ国とは個別の通貨スワップを維持しています)。
財務省の説明資料から現在のCMIMの概要を要約しておきましょう(図表2)
図表2 日本が参加する多国間通貨スワップであるCMIM
国 | 拠出額 | 引出可能額 |
---|---|---|
日本 | 768億ドル | 384億ドル |
中国(※) | 768億ドル | 405億ドル |
韓国 | 384億ドル | 384億ドル |
インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン | 各 91.04億ドル | 各 227.6億ドル |
ベトナム | 20億ドル | 100億ドル |
カンボジア | 2.4億ドル | 12億ドル |
ミャンマー | 1.2億ドル | 6億ドル |
ブルネイ、ラオス | 各0.6億ドル | 各3億ドル |
合計 | 2400億ドル | 2400億ドル |
(【出所】財務省『CMIM 貢献額、買入乗数、引出可能総額、投票権率』。ただし、中国については香港との合算値。中国以外のIMFとの「デリンク」割合は30%。また、香港はIMFに加盟していないため、中国の引出可能額に占める「IMFデリンク」割合は他の国と異なる)
自国通貨(ローカル通貨)建ての通貨スワップ
次に、通貨スワップのなかでも「ローカル通貨建ての通貨スワップ」というものがありますが、これはその名のとおり、契約を締結している国同士がお互いの自国通貨を交換するというスワップのことです。
わかりやすい事例は、韓国でしょう(図表3)。
図表3 韓国が締結している(と自称している)通貨スワップ(CMIMを含む)
相手国と失効日 | 金額とドル換算額、割合 | 韓国ウォンとドル換算額 |
---|---|---|
中国(2020/10/13?) | 3600億元 ≒ 514.5億ドル(40.95%) | 64兆ウォン≒525.0億ドル |
スイス(2021/2/20) | 100億フラン ≒ 106.3億ドル(8.46%) | 11.2兆ウォン≒91.9億ドル |
UAE(2022/4/13) | 200億ディルハム ≒ 54.4億ドル(4.33%) | 6.1兆ウォン≒50.0億ドル |
マレーシア(2023/2/2) | 150億リンギット ≒ 35.2億ドル(2.80%) | 5兆ウォン≒41.0億ドル |
オーストラリア(2023/2/22) | 120億豪ドル ≒ 83.7億ドル(6.67%) | 9.6兆ウォン≒78.8億ドル |
インドネシア(2023/3/5) | 115兆ルピア ≒ 78.3億ドル(6.23%) | 10.7兆ウォン≒87.8億ドル |
二国間通貨スワップ 小計 | 872.4億ドル(69.44%) | 106.6兆ウォン≒874.5億ドル |
多国間通貨スワップ(CMIM) | 384.0億ドル(30.56%) | ― |
通貨スワップ 合計 | 1,256.4億ドル | ― |
(【出所】報道や各国中央銀行報道発表等より著者作成。ただし、中国との通貨スワップについては公式にはその存在は確認できず、あくまでも韓国の通貨当局の自己主張に基づいて記載している。なお、為替換算はWSJのマーケット欄などを参考に昨日夜時点のものを用いている)
韓国が保有している通貨スワップは、CMIMの384億ドルを含めれば、昨日時点でその金額は1256.4億ドルに達しています。
なお、この1256.4億ドルのうち、中国との通貨スワップが約41%を占めていますが、じつは中韓通貨スワップは2017年10月にいったん失効しており、しかも中国当局はこれを「延長した」とはヒトコトも述べていません。韓国が「3年延長した」と一方的に宣言しているだけです。
このため、韓国が外国と保有している通貨スワップは、じつは1256.4億ドルではなく、742.0億ドルに過ぎないと見るのが正しいのではないか、というご指摘もあろうかと思いますが、図表3ではとりあえず中韓通貨スワップについては失効していないとする前提を置いています。
なお、韓国は上記図表3以外にも、カナダと無制限のスワップ、米国と600億ドルのスワップを結んでいますが、この米加両国とのスワップは後述する為替スワップであり、通貨スワップではありませんのでご注意ください。
ローカル通貨建て通貨スワップの落とし穴
では、韓国が保有する通貨スワップのドル換算額が1256.4億ドルだったとしましょう。しかし、ここに大きな落とし穴があります。韓国が保有している通貨スワップで引き出せる通貨は、CMIMを除けば、いずれも米ドル建てではなく、協定締結相手国の通貨(つまりローカル通貨)です。
ハード・カレンシーであるスイスフラン、準ハード・カレンシーである豪ドルを除けば、いずれの通貨も国際的な市場で広く取引されているとは言い難く、アジア通貨危機のような事態が再来した場合に役に立つのか、という疑問は尽きません。
いや、もう少し嫌な言い方をすれば、『弱小通貨同士の通貨スワップの「融通手形」説』などでも触れたとおり、国際的な弱小通貨同士の通貨スワップ協定は、金融危機、通貨危機を全世界にばら撒く可能性もあり、非常に危険ですらあります。
その意味では、ローカル通貨建ての通貨スワップについては、まさに「玉石混交」というほかないのではないかと思います。
「強い」ローカル通貨建て通貨スワップもある
さて、このローカル通貨建ての通貨スワップ、日本が外国と締結しているものにも含まれています。
日本は米ドル建ての通貨スワップを提供することができる、世界の中でも数少ない国のひとつです。CMIMを除くと日本が外国と締結している通貨スワップは5本ありますが、インドとの750億ドルのものを除けば、いずれも米ドル、日本円双方での引き出しが可能です(図表4)。
図表4 日本が外国と締結している通貨スワップ
契約相手 | 交換上限 | 相手から見た交換条件 |
---|---|---|
インドネシア銀行(BI) | 227.6億ドル | 日本円または米ドルとインドネシアルピア |
フィリピン中央銀行(BSP) | 120億ドル | 日本円または米ドルとフィリピンペソ |
シンガポール通貨庁(MAS) | 30億ドル | 日本円または米ドルとシンガポールドル |
タイ中央銀行(BOT) | 30億ドル | 日本円または米ドルとタイバーツ |
インド準備銀行(RBI) | 750億ドル | 米ドルとインドルピー |
(【出所】日銀『海外中銀との協力』のプレスリリース、財務省『アジア諸国との二国間通貨スワップ取極』等より著者作成)
一般に通貨スワップのなかで最も相手に喜ばれるものは米ドル建てのスワップです。その理由は、米ドル以外のスワップだと、相手から通貨を引き出したとしても、そのままでは使うことが難しく、いちいち米ドルなどに両替しなければならないからです。
しかし、日本円の場合、それ自体が世界の外為市場で3番目に取引量が多い通貨であるなどの事情もあり、「ローカル通貨建ての通貨スワップ」といっても、円を引き出すタイプの通貨スワップは、かなり強力です。というのも、円はいつでも自由にほかの多くの通貨と交換することができるからです。
人民元建て通貨スワップ
これに対し、同じローカル通貨建ての通貨スワップのなかでも、中国が旺盛に推進している「人民元建ての通貨スワップ」については、必ずしもパワフルであるとは言い切れません。なぜなら、人民元自体が国際的な通貨市場でほとんど取引できない通貨だからです。
著者が調べた限り、中国は人民元建ての通貨スワップを積極的に推進しており、主なものだけでも10~20本は確認できます(図表5)し、先ほどの図表3でも挙げた韓国とのスワップのように実在するかどうかあやふやなものまで含めれば、本数はさらに膨らみます。
図表5 人民元建ての通貨スワップ(おもなもの)
相手国‣締結時点 | 人民元 | 相手通貨 |
---|---|---|
ニュージーランド(2017年5月) | 250億元 | 50億NZドル |
香港(2017年11月) | 4000億元 | 4700億香港ドル |
タイ(2018年1月) | 700億元 | 3700億バーツ |
オーストラリア(2018年4月) | 2000億元 | 400億豪ドル |
ナイジェリア(2018年5月) | 150億元 | 7200億ナイラ |
パキスタン(2018年5月) | 200億元 | 3510億Pルピー |
マレーシア(2018年8月) | 1800億元 | 1100億リンギット |
英国(2018年11月) | 3500億元 | ポンド(上限不明) |
スイス(2018年11月) | 1500億元 | 210億スイスフラン |
インドネシア(2018年11月) | 1000億元 | ルピア(上限不明) |
アルゼンチン(2018年12月) | 1300億元 | ペソ(上限不明) |
(【出所】各国中央銀行プレスリリース等)
人民元は局地的にはそれなりに存在感が高まっていて、たとえば、『トルコが中国との通貨スワップを実行し人民元を引出す』でも紹介したとおり、中東のトルコは中国との通貨スワップを実行して人民元を引き出し、中国企業からの輸入代金の決済に充てた、という話を聞きます。
しかし、こうした特殊な用途でもない限りは、人民元を引き出したところで国際的な市場では使い物になりません。なにせ、中国政府の肝いりで設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)自体、人民元を使っていないほどです(『日本がAIIBに参加する「機は熟した」、本当?』等参照)。
このため、ローカル通貨建ての通貨スワップは、使い物になる場合とならない場合の落差が激しいといえます。
誤解されやすい為替スワップ
さて、こうした一連の通貨スワップと異なり、同じスワップでも、最近になってとくに注目を集めているものが、為替スワップ(あるいは流動性供給スワップ)です。
これは通貨当局が金融市場に対して短期的な外貨流動性の供給を行うためのスワップであり、日本の場合だと米国、英国、カナダ、スイスの4ヵ国の中央銀行と欧州中央銀行(ECB)とのあいだで金額無制限の為替スワップ協定を保有しています。
この為替スワップは、通貨スワップと異なり、自国の通貨当局が相手国の通貨当局から直接に外貨を入手できるという協定ではありませんが、米ドルなどの外貨の資金繰りに悩む金融機関が、自国の通貨当局などを通じて直接、米FRBから米ドルを借り入れる、といった使い方ができます。
日本が外国と締結している為替スワップの一覧を確認しておきましょう(図表6)。
図表6 日本が外国中央銀行等と締結する為替スワップ
契約相手 | 交換上限 | 相手から見た交換条件 |
---|---|---|
米連邦準備制度理事会(FRB) | 無制限 | 日本円と米ドル |
欧州中央銀行(ECB) | 無制限 | 日本円とユーロ |
英イングランド銀行(BOE) | 無制限 | 日本円と英ポンド |
スイス国民銀行(SNB) | 無制限 | 日本円とスイスフラン |
カナダ銀行(BOC) | 無制限 | 日本円と加ドル |
豪州準備銀行(RBA) | 1.6兆円/200億豪ドル | 日本円と豪ドル |
中国人民銀行(PBOC) | 3.4兆円/2000億元 | 日本円と人民元 |
シンガポール通貨庁(MAS) | 1.1兆円/150億シンガポールドル | 日本円とシンガポールドル |
タイ中央銀行(BOT) | 8000億円/2400億バーツ | 日本円とタイバーツ |
(【出所】日銀『海外中銀との協力』のプレスリリース、財務省『アジア諸国との二国間通貨スワップ取極』等より著者作成)
この協定は中・長期的、あるいは慢性的な外貨不足を補うための手段としては不十分ですが、2008年のリーマンショック時、あるいは今年のコロナショック時のような金融市場の混乱に対処するうえでは、非常にパワフルです。
また、武漢コロナ禍の最中には、米連邦準備制度理事会(FRB)から世界14ヵ国・地域の中央銀行・通貨当局(FIMA)に提供された為替スワップが使用されましたが、これについては『「為替スワップは長期支援に不適」と今さら気付く韓国』でまとめていますので、適宜ご参照ください。
拙著にも反映させました
さて、この通貨スワップや為替スワップの議論、あまり世の中で出版されているものがなかったという点については、個人的には非常に疑問に感じていたのですが、これについては本日出版される書籍で取り上げられています。
『【宣伝】いよいよ『数字でみる「強い」日本経済』発売』で宣伝したとおり、『数字でみる「強い」日本経済』が公式には本日、書店の店頭に並ぶそうです。当ウェブサイトで把握している限り、100部近くが事前にアマゾンのサイトで売れたようですが、読者の皆様には深く感謝申し上げます。
この通貨スワップや為替スワップに関する議論は、世の中のメディア報道などを眺めていると、なにかと誤解も多く、とくに2018年秋口に広まった「日本が中国と通貨スワップを締結するのはけしからん」といった論調は酷かったと思います。
これについては『通貨スワップと為替スワップを混同した産経記事に反論する』あたりを読んでいただければわかりますが、そもそも通貨スワップと為替スワップはまったくの別物であり、「日中通貨スワップ」というものは存在しません。あるのは「日中為替スワップ」です。
また、韓国メディアは米韓為替スワップのことを韓国国内では「韓米通貨スワップ」といまだに誤記し続けていますが、これについては『韓銀、為替スワップを通貨スワップと意図的に誤記か?』でも報告したとおり、どうやら韓国当局が意図的に誤解を招く発表をしている可能性が濃厚です。
いずれにせよ、メディアがきちんと報じない以上は、誰かがきちんと整理しなければなりません。
スワップ論争において、『数字でみる「強い」日本経済』がささやかな一石になればうれしいと思う次第です。
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中国は中日為替スワップをなんと呼んでいるんでしょうね?
要するに通貨スワップと為替スワップの違いは中央銀行に外貨がプールされる通貨スワップか、即市中金融機関に外貨が供給される為替スワップかの違いです。
本来通貨スワップで中銀が外貨を一旦プールしても、それを即市中銀行に供給して外貨決済不安からデフォルト連鎖になるのを防ぐのが本来の「スワップ」の意味です。
ですが韓国はどこでどう勘違いしたのか、通貨スワップで一旦中央銀行にプールした外貨を市中銀行に渡さず通貨防衛の介入資金、又は見せ金に使っていいと思ってしまっています。
「通貨スワップの外貨は介入につかえる」の韓国特有の勘違いは、ある時期に意図的に作られたものと想像します。韓国お得意の「歴史の捏造」がスワップ分野でも発揮された説です。
実は韓国自身はスワップを介入資金に使ったり、見せ金として使って通貨危機を食い止めたことは『ありません』(赤字強調したい)。
一応韓国が語るスワップの成功体験はリーマンショック時に突然アメリカから与えられた米韓為替スワップによって通貨不安がスーっと消えた。というものです。しかしそれは新宿会計士さまの論説にもあるように、タイミングとしては一致せず、単なるリーマンショックから回復過程と為替スワップが与えられてた時期が偶然一致していたにすぎません。
為替スワップが通貨危機を起こさなかった効果は今回のコロナによる米韓為替スワップでも語られ(騙られ)始めてますね。どう考えても関係ないのに、偶然ウォン安が起こらなかったのをいいことに「スワップの恩恵」ということに記憶の捏造がされ始めています。
市中金融機関に外貨を渡すことが強制される為替スワップは韓国にとってはなんら意味のないものです。なぜなら市中金融機関の国際業務が弱く、与えられた外貨を企業に供給する能力がないからです。そもそも市中金融機関より、国際的に有名な韓国一般企業たちの外貨調達力の方が強いですから。
市中金融機関は大切な適格担保を大量に中央銀行に預けた上で為替スワップで得た外貨を、有効には使えず、チョロっと安全確実な運用に回しただけで、期限の3ヶ月後に返して終わりだったと想像しています。だから例の6月の返済期限にロールオーバーの動きもなければ、返済出来なかった的騒ぎもなかったのです。要するに市中金融機関は金利負担と担保を一時取られただけの騒ぎだったと。
なぜそのような「記憶の捏造」までするか。
韓国にとって必要なスワップは日本とのスワップだけです。スワップそのものが韓国を通貨危機から守るのではなく、「日本に守られている」という事実が韓国を唯一通貨不安から守るのです。
だからスワップは通貨危機に効くという記憶の捏造を行った上で日本に通貨スワップを結んでもらうための手を打っていく。そんな話なんだと思っています。
ブログ主様
香港が今後どうなるかが注目されていますが、人民元の信頼性はどうなるでしょう。香港において財産権が簡単に侵害される状況、つまり中国共産党により財産が簡単に差し押さえられるような状況になったら、人民元の国際化は、人民元の経済圏の中だけということになるでしょう。
>国際的な弱小通貨同士の通貨スワップ協定は、金融危機、通貨危機を全世界にばら撒く可能性もあり、非常に危険ですらあります。
そういえば「金融の大量破壊兵器」として騒がれたCredit Default Swapの現状はどうなっているのでしょう。
何か改善策が打たれたのでしょうか。
SFヲタとしては、CDSというとラジェンドラ号の必殺兵器というイメージw。
りょうちん 様
いつもコメントありがとうございます。
CDSについては一般に契約当事者同士がISDA(国際スワップデリバティブ協会)の定める契約雛形に準拠した契約書を取り交わし、CSA(担保契約書)で担保授受をすることが(日本法では)義務付けられているため、リーマンのときのようなスプレッドの急激なワイドニングでもない限りは、基本的にCVAリスクが金融機関の自己資本を破壊する、ということはないはずです。もっとも、CVAリスクの捕捉を巡っては金融規制当局としても頭を悩ませているようですが…。
新宿会計士さんへ質問です。
今までローカルカレンシーという単語が出できたことがありません
が
ハードカレンシンーがローカルカレンシーで、いいんですか?
ローカルカレンシー=地域通貨であり法定通貨ではない。
あるいは
ローカルカレンシー=ソフトカレンシー
で
あ
り
ハードカレンシンは、ローカルカレンシーとイコールではないと思うのですが、どうでしょう?
団塊 様
いつもコメントありがとうございます。
確かにローカルカレンシーとは当ウェブサイトではこれまであまり使ったことがない見慣れない表現ですね。
いちおう、著者自身の定義によれば、
●ハード・カレンシー…国際的に広く通用する通貨
●ソフト・カレンシー…それ以外の通貨
のことであり、「ローカル・カレンシー」は「ソフト・カレンシー」と同じ意味で使うことが多いです。
引き続き当ウェブサイトのご愛読とお気軽なコメントを何卒よろしくお願い申し上げます。