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IMFから垣間見る、ポストコロナ時代の米中通貨戦争

「ポストコロナ」の世界はどうなるのか――。そのヒントのひとつは、コロナ騒動で資金難にあえぐ国と、資金を提供する側の国との争いでしょう。ロイターは昨日、IMFにおいて「SDR」と呼ばれる仕組みの拡充という議論が出てくるなかで、「中国やイランに資金が渡る」として、米国がこれに反対している、という話題が出てきました。すこし大げさかもしれませんが、「米中通貨戦争」は水面下で始まっているのかもしれません。

2020/04/20 16:11追記

当初公表バージョンに中見出しがひとつ欠落していましたので、追加しています。

感染爆発?それとも…

感染爆発と闘う日本

いまや全世界にばら撒かれた武漢コロナウィルスSARS-CoV-2を巡り、世界各国は、まずはその抑え込みに苦慮している状況です。

イラン、韓国、イタリア、米国などの感染者数が急拡大したことの影響もあるのでしょうか、3月初旬ごろまでは、日本は感染者数でみると世界の中でも「優等生」と呼べるほど少なかったといえます。しかし、ここに来て、日本の感染者数が急拡大しています。

厚生労働省のウェブサイト『新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年4月16日版)』によると、4月16日正午時点で感染者数は8582人、死者数は136人で、新規感染者は488人でした。

また、東京都のウェブサイト『都内の最新感染動向』によれば、4月16日20時時点の感染者数は2595人、死亡者数は56人、新規感染者は149人で、とくに新規感染者数についてはピーク時(4月11日の197人)よりは減ったとはいえ、依然として予断を許さない状況です。

こうした状況を受け、昨日の各種報道によれば、政府は7都府県を対象に4月7日に発出した緊急事態宣言を、今後は全国に拡大する方針を示したそうです。

緊急事態宣言、全国に 首相「大型連休の移動最小に」/13都道府県は重点的に対応 5月6日まで

安倍晋三首相は16日、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、緊急事態宣言の対象を全国に広げると表明した。<<…続きを読む>>
―――2020/4/16 15:50付 日本経済新聞電子版より

「遅すぎ」の批判は向ける対象が違う

この点、日本政府の動きについては、「遅すぎる」といった批判があることは事実でしょう。実際、『内閣支持率の逆転と無関係に「ズッコケ」る立憲民主党』でも報告したとおり、産経・FNNによる合同世論調査では、8割超が政府の対応について「遅すぎる」と考えている、との調査結果が出ているほどです。

ただ、これについては正直、緊急事態立法もなく、「日本政府が防疫のために強権を発動する」ということもできない状況にあるという状況を、正当に評価したものだとはいえません。

本来、最も強く批判されるべき対象は「安倍総理の初動が遅かったこと」に対してではなく、「日本国憲法のせいで強権の発動ができない状況」であり、さらにいえば「改憲議論そのものを妨害する立憲民主党やオールドメディア」、「彼らに社会的な悪影響を及ぼすことを許している私たち日本国民」です。

当ウェブサイトでは一貫して申し上げて来ましたが、現行の入管法では、疫病などを理由に特定国からの入国を拒否するということは非常に難しく、現在の安倍政権は基本的に入管法第5条第1項第14号などを強引に拡大解釈して、入国拒否を行っている状況にあるのです。

出入国管理及び難民認定法第5条第1項

次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に上陸することができない。(略)

十四 前各号に掲げる者を除くほか、法務大臣において日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者

武漢コロナが騒がれ始めた1月中旬の時点で、この「第5条第1項第14号」を使って中国などからの入国拒否を発動すれば、危機感のないオールドメディアから、安倍政権が「袋叩き」にされていたであろうことは想像に難くありません。

また、サプライチェーンが寸断されることに対し、当時の産業界は強く反発したでしょうし、昨今のように日中両国の産業が極めて密接に結びついている状況だと、初動段階で入国規制をかけることが難しいのは当然のことです。

安倍政権が諸外国からの入国を拒否する措置を講じていること自体、入管法の拡大解釈という「政治リスク」を取っているという事情などを無視して、気楽に安倍政権を「初動が遅い」だの「不十分」だのと叩く人たちは、現在の日本が置かれた正当に評価しているとはいえないでしょう。

日本の状況はまだ「マシ」

その一方、次のCNNの記事によれば、米国では少なくとも感染者数が63.6万人、死亡者が2.8万人に達しており、また、全世界の感染者数は200万人を突破したのだそうです。

新型コロナ感染者、全世界で200万人を突破

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によれば、新型コロナウイルスに感染した人の数が205万人超となった。<<…続きを読む>>
―――2020.04.16 12:21 JST付 CNNより

こうした諸外国の状況と比べ、日本が置かれている状況は、遥かにマシです。

もちろん、「外国と比べて日本がマシだから、日本には問題がない」、という議論にはなりません。現在の日本は、依然として感染爆発の瀬戸際にあると考えられますし、『【読者投稿】「安心より安全を」理系研究者の緊急提言』などのなかで、

  • 「水際対策」は序盤の国内侵入モニタリングのためと割り切り、国内侵入後は危険性評価を急ぐ
  • 最も警戒すべきは医療崩壊であり、最も優先すべきは医療崩壊の防止と重症者の救命である
  • そのためには流行の山を遅く、低くすることが重要だが、それは国民ひとりひとりの行動にかかっている

などと主張されていることを思い出す必要があります(※「読者投稿」という形で提言していただいた読者の皆さまには、改めて感謝申し上げます)。

金融面:すでに米中対決が始まる

米ドル安全網に引っかかる国、外される国

さて、当ウェブサイトのテーマのひとつは「金融」ですが、このコロナ騒動については「金融」という観点からも、先日の『新興国からの資金流出は「落ち着いた」といえるのか?』では、国際金融協会(IIF)のレポートや日経新聞の報道などをもとに、「表面上、新興市場(EM)諸国からの資金流出は一巡し、現在は小康状態にある」、という見立てを紹介しました。

ただ、くどいようですが、これはあくまでも「表面上は小康状態にある」という意味です。昨今の新型武漢コロナウィルスSARS-CoV-2やそれに伴う肺炎COVID-19の蔓延が、最終的にどの程度の損害を、世界や日本の経済にもたらすのか、そのインパクトはいまだ読めません。

株式市場や債券市場、あるいは為替市場などは3月以降、方向感を失い、日々、乱高下を繰り返しています。そして、新興市場諸国のうち、ロシア、メキシコ、ブラジル、南アフリカ、インドネシアといった諸国の通貨は、とくに大きく売られています。

このように考えていくと、現時点における金融市場への影響は、あくまでも「小康状態」に過ぎないと見るのが正しいのではないかと思います。

そして、すでに「米ドル」という基軸通貨を通じて世界に金融覇権を確立している米国は、全世界の金融システムを「米ドルで救済する相手」とそうでない相手に選り分けているように見受けられるのです。その具体例は、「為替スワップ」と「FIMAレポ」でしょう。

具体的には、『速報:米FRBが9つの中央銀行と為替スワップを締結』や『FIMAレポは「為替スワップと並ぶ安全弁」なのか?』などでも報告したとおり、FRBは日英欧瑞加以外の諸国に対しても、米ドルの資金を供給すると発表したのです。

現実の資金供給が多いとは言えないが…

このうち、為替スワップは「相手国の通貨を担保にFRBニューヨーク連銀が米ドル資金を相手国民間金融機関に貸し付ける協定」で、FIMAレポは「相手国が保有する米国債などを担保に資金を貸し付けるオペ(いわゆるレポ取引/リバース・レポ取引)」です。

ただし、FIMAレポについてはそもそも米国債などの「レポ適格債券」を保有していなければ資金提供を受けることはできないため、「安全弁」としてはさほど効果が期待できません。結局、事実上の「安全弁」は、為替スワップに限られます。

ここで改めて状況を整理すると、米FRBが為替スワップを締結している相手国、締結していない相手国は、次のとおりです。

米FRBと為替スワップ
  • グループ①期間・金額無制限…日英欧瑞加の5中銀
  • グループ②期間6ヵ月~・金額上限600億ドル…豪州、ブラジル、韓国、メキシコ、シンガポール、スウェーデン
  • グループ③期間6ヵ月~・金額上限300億ドル…デンマーク、ノルウェー、ニュージーランド
  • グループ④米国との為替スワップがない主要国等…中国、香港、ロシア、インド、インドネシア、トルコ、アルゼンチン、南アフリカなど
  • グループ⑤米国との為替スワップもなく、主要国でもない地域…上記以外

そのうえで、これらのうち④と⑤を除く3つのグループにおける借入額の状況は、グループ①が図表1、グループ②が図表2、グループ③が図表3のとおりです。

図表1 グループ①期間・金額無制限の5中銀の借入額(4月17日時点)
相手先 借入金額 平均利率/日数
日本銀行 1962.0億ドル 0.34%/82日
欧州中央銀行 1393.4億ドル 0.36%/81日
イングランド銀行 222.8億ドル 0.35%/77日
スイス国民銀行 112.8億ドル 0.32%/61日
カナダ銀行 なし
合計 3691.1億ドル 0.35%/80日

(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページに掲載されているエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” に掲載されている4月15日までの入札情報を参考に著者作成)

図表2 グループ②期間6ヵ月~・金額600億ドルの6中銀の借入額(4月17日時点)
相手先 借入金額 平均利率/日数
韓国銀行 140.9億ドル 0.72%/84日
メキシコ銀行 65.9億ドル 0.77%/84日
シンガポール通貨庁 61.0億ドル 0.60%/74日
豪州準備銀行 11.5億ドル 0.33%/84日
スウェーデンリクスバンク なし
ブラジル銀行 なし
合計 279.2億ドル 0.69%/82日

(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページに掲載されているエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” に掲載されている4月15日までの入札情報を参考に著者作成)

図表3 グループ②期間6ヵ月~・金額300億ドルの3中銀の借入額(4月17日時点)
相手先 借入金額 平均利率/日数
デンマーク国民銀行 52.9億ドル 0.33%/68日
ノルウェー銀行 15.8億ドル 0.35%/84日
NZ準備銀行 なし
合計 68.7億ドル 0.34%/72日

(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページに掲載されているエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” に掲載されている4月15日までの入札情報を参考に著者作成)

つまり、これで読む限り、図表1に示した日本銀行の借入額が2000億ドル近く、欧州中央銀行(ECB)の借入額が1400億ドル弱に達していて、ずば抜けて多いのですが、この両行を除けば、世界的な為替スワップの借入額は700億ドル弱であり、決して多額であるとは言えません。

よって、現時点においては、為替スワップの使用状況に照らしても、全世界の金融市場は「絶対的なドル不足」にあるとは言い難いのです。

舞台は国際通貨基金(IMF)へ?

ただ、上記についてはあくまでもグループ①~③の話であり、それ以外の国については、米国の中央銀行にあたるFRBからの直接融資を受ける立場にはありません。

そうなってくると、どうしても各地域の通貨安定の仕組み、たとえばアジアでいえば「チェンマイ・イニシアティブ・マルチ化協定」(CMIM)や日印通貨スワップなどに頼らざるを得ないのですが、それでもダメならば、最終的には「最後の貸し手」である国際通貨基金(IMF)に依存せざるを得ません。

こうしたなか、昨日は『韓国のベネズエラ化が加速?日本は混乱から距離を置け』に「海辺の仕事場」様というコメント主の方から、こんな記事のリンクを教えていただきました。

U.S. stalling massive IMF liquidity boost over Iran, China: sources

U.S. opposition to opening new avenues of funding for Iran and China is preventing the International Monetary Fund from deploying a powerful tool to help countries fight the economic impact of the coronavirus, according to two sources familiar with the matter.<<…続きを読む>>
―――2020/04/15 14:53付 ロイターより

これはロイターのスクープで、「中国やイランへの資金提供につながりかねない」として、米国がIMFの融資枠を増大させようとする動きに反対している、という内容の記事です。以下、部分的に意訳したうえで箇条書きにしておきましょう。

  • 各国の財相や中央銀行、著名なエコノミストらは、IMFが特別引出権(SDR)と呼ばれる機能を使い、諸国に流動性を供給する機能を大幅に拡充することを提唱している
  • IMFには189ヵ国が加盟しているが、SDRを使えば外貨準備が枯渇しつつある国に対し、事実上、資金を供給することができるという考えだ
  • しかし米国の関係者は、米国自身がこの提案に反対していると明らかにした

…。

ロイターのことなので真偽は不詳ですが、もしこの報道されている内容が事実だとすれば、個人的には「さもありなん」と感じてしまいます。

方や、米ドルに替わる通貨覇権を目指しつつも、アジアインフラ投資銀行(AIIB)もシルクロード基金構想も一帯一路も中途半端な状態で、現実には人民元の通貨改革が遅々として進まず、米国の影響をできるだけ受けずに米ドルを調達したいと思っている中国。

方や、米ドルの支配力と、米ドルを必要とする諸国へのグリップを維持しようとして、SDRなどの仕組みの拡充に反対する米国。

そんな2ヵ国の「水面下のせめぎ合い」が、すでに始まっているのかもしれません。少し大げさな言い方をすれば、まさに「米中通貨戦争」です。

SDRの仕組み

ここで気になるのは、「SDR」という用語です。

これについては、じつは当ウェブサイトでは今から約4年前の『SDRとは?』という記事で解説したいるのですが、これは「通貨そのもの」ではありません。「緊急時に外貨(5大通貨)の引出が可能な権利」のことです。

IMFのウェブサイトによると、SDRとは「加盟国の準備資産を補完する手段としてIMFが1969年に創設した国際準備資産」のことですが、これについて解読してみましょう。

IMFは、まず各国にSDRを「配分」しますが(具体的な配分額はIMFの英語版ウェブサイト等を参照)、「配分」された時点で、IMF加盟国にとってみれば「同額の権利と義務」が発生します(図表4。なお、図表4では権利が資産側に、義務が負債側に計上されます)。

図表4 SDRの配分額とSDRの保有額

(【出所】IMFのウェブサイトなどを参考に著者作成)

ここで「SDR配分額」とは、他の国から「おカネを貸してくれ」といわれたときに貸してあげる義務であり、「SDR保有額」とは、他の国に対して「おカネを貸してくれ」と要求する権利のことですが、平常時においてはこの権利と義務が均衡しているため、SDRバランスからは金利は発生しません。

ところが、このSDRが使用されると(例:2015年5月にギリシャがSDRを取り崩してIMFに債務を返済したことがあります)、この「権利」が減少し、「義務」の部分がそのまま残りますので、結果的に手数料(支払利息)の支払が発生します(図表5)。

図表5 SDRを権利行使した国のバランス

(【出所】IMFのウェブサイトなどを参考に著者作成)

逆に、どこかの国(たとえばギリシャ)がSDRを引き出した場合には、裏でそれに応じた国がいるはずです(つまり「債権国」)。この「債権国」からすれば、「SDR配分額」に応じて相手国に外貨を引き渡したので、その時点でその「SDR配分額」が減少し、結果的に利息の受取が発生します(図表6)。

図表6 SDRを権利行使された国のバランス

  

(【出所】IMFのウェブサイトなどを参考に著者作成)

つまり、このSDRは、IMFを経由しているだけであり、IMFからおカネを直接借りるわけではありません。また、IMFによれば、SDRの権利行使方式には、次の2つの方法があります。

  • 都度指定する方式…ある国がSDRを行使しようとするときに、IMFが「強い外貨ポジション」を持つ国を指定し、その国から「自由利用可能通貨」を受け取る方式
  • 事前の協定方式…事前に加盟国間で自主的に協定を締結し、その協定に基づいてSDRの売買を行う方式

つまり、このSDRはその名のとおり、「特別に『自由利用可能通貨』を借り入れる権利」のことですが、

借り入れる国からすればIMFから直接借りるわけではないため、気楽に(?)借りることができる、というメリットがあります。

おそらくは引出方式についてはいちいちIMFが他の加盟国と協議しなければならないという事情もあるようで、実質的には使い勝手が悪く、過去にSDRが引き出された事例はさほど多くありません(例外は2015年にギリシャが行使した事例くらいでしょうか)。

SDRよりも相対支援で

ドル建ての二国間通貨スワップを持たない中国

さて、現在、世界各国は外貨準備高が枯渇したときに備え、通貨スワップや為替スワップなどの協定を積極的に結んでおり、中国も人民元建ての通貨スワップや為替スワップをさまざまな国と締結しています(図表7)。

図表7 中国が諸外国と締結する通貨スワップ、為替スワップ
相手国 上限(人民元) 上限(相手国通貨)
ニュージーランド(2017年5月) 250億元 50億NZドル
香港(2017年11月) 4000億元 4700億香港ドル
タイ(2018年1月) 700億元 3700億バーツ
オーストラリア(2018年4月) 2000億元 400億豪ドル
ナイジェリア(2018年5月) 150億元 7200億ナイラ
パキスタン(2018年5月) 200億元 3510億Pルピー
マレーシア(2018年8月) 1800億元 1100億リンギット
日本(2018年10月) 2000億元 3.4兆円
英国(2018年11月) 3500億元 ポンド(上限不明)
スイス(2018年11月) 1500億元 210億スイスフラン
インドネシア(2018年11月) 1000億元 ルピア(上限不明)
アルゼンチン(2018年12月) 1300億元 ペソ(上限不明)
シンガポール(2019年5月) 3000億元 シンガポールドル(上限不明)
欧州連合(2019年10月) 3500億元 450億ユーロ
マカオ(2019年12月) 300億元 350億パタカ

(【出所】表中にリンクで明示。なお、日本とのスワップは通貨スワップではなく為替スワップである)

ただ、中国の場合、いずれも人民元と相手国通貨を交換する協定ばかりであり、日本との為替スワップを含め、米ドルで入手できるタイプの二国間通貨スワップは1本もありません。

また、中国が参加する「多国間通貨スワップ」にはCMIMと呼ばれる仕組みがありますが(図表8)、このCMIMを使う場合、上限の30%を超えてドルを引き出そうとすれば、IMFが介入して来てしまうという欠点もあります。

図表8 日本が参加する多国間通貨スワップであるCMIM
拠出額 引出可能額
日本 768億ドル 384億ドル
中国(※) 768億ドル 405億ドル
韓国 384億ドル 384億ドル
インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン 各 91.04億ドル 各 227.6億ドル
ベトナム 20億ドル 100億ドル
カンボジア 2.4億ドル 12億ドル
ミャンマー 1.2億ドル 6億ドル
ブルネイ、ラオス 各0.6億ドル 各3億ドル
合計 2400億ドル 2400億ドル

(【出所】財務省『CMIM 貢献額、買入乗数、引出可能総額、投票権率』。ただし、中国については香港との合算値。中国以外のIMFとの「デリンク」割合は30%。また、香港はIMFに加盟していないため、中国の引出可能額に占める「IMFデリンク」割合は他の国と異なる)

ドルスワップを供給できる数少ない国

一方で、非常に面白いことに、日本は米ドルを使用している国ではないにもかかわらず、日本が提供するスワップのうち、通貨スワップについては、いずれも米ドルでの引出を前提とした協定です(図表9)。

図表9 日本が諸外国と締結する二国間スワップ
契約相手 交換上限 交換条件
米連邦準備制度理事会(FRB) 無制限 (為)日本円と米ドル
欧州中央銀行(ECB) 無制限 (為)日本円とユーロ
英イングランド銀行(BOE) 無制限 (為)日本円と英ポンド
スイス国民銀行(SNB) 無制限 (為)日本円とスイスフラン
カナダ銀行(BOC) 無制限 (為)日本円と加ドル
豪州準備銀行(RBA) 1.6兆円/200億豪ドル (為)日本円と豪ドル
中国人民銀行(PBOC) 3.4兆円/2000億元 (為)日本円と人民元
シンガポール通貨庁(MAS) 1.1兆円/150億シンガポールドル (為)日本円とシンガポールドル
タイ中央銀行(BOT) 8000億円/2400億バーツ (為)日本円とタイバーツ
インドネシア銀行(BI) 227.6億ドル (通)日本円または米ドルとインドネシアルピア
フィリピン中央銀行(BSP) 120億ドル (通)日本円または米ドルとフィリピンペソ
シンガポール通貨庁(MAS) 30億ドル (通)日本円または米ドルとシンガポールドル
タイ中央銀行(BOT) 30億ドル (通)日本円または米ドルとタイバーツ
インド準備銀行(RBI) 750億ドル (通)米ドルとインドルピー

(【出所】日銀『海外中銀との協力』のプレスリリース、財務省『アジア諸国との二国間通貨スワップ取極』等より著者作成。「交換条件」欄に(為)と示しているものが為替スワップ、(通)と示しているものが通貨スワップ。なお、通貨スワップについては「相手国が日本から引き出す際の条件」のみを記載している)

逆にいえば、インドネシアなど東南アジア4ヵ国とインドは、米ドル資金が不足した場合でも、日本から通貨スワップを使って米ドルを引き出すことができるというわけですね。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

さて、国際金融協力のやり方には、「IMFによる融資」、「IMFによるSDR」、「ローカル通貨建ての二国間通貨スワップ(BLCSA)」、「米ドル建ての通貨スワップ」、「為替スワップ」、「多国間通貨スワップ」など、さまざまな仕組みがあります。

中国やイランなどが望むやり方は、当然、「米国の介入なしに米ドルを手に入れる仕組み」であり、その点からはSDRは打ってつけなのですが、ただ、SDRの金額を拡大してしまうと、米国(や日本)などはこれらの国から大して感謝されることなく、貴重な外貨を明け渡さねばならないという悩みがあります。

通貨、つまり「おカネ」は、相手を支配する手段でもあります。

とくに事実上、軍隊を持つことが制限され、戦争を行うことが難しい日本にとっては、おカネは大きな武器でもあります。

日本にできることは、「友好国とのスワップ網の拡充」』でも報告しましたが、日本としてはIMFというチャネル以外にも、友好国との通貨スワップ、為替スワップの拡充を通じて直接、相手国に対して金融支援を行う、という在り方が望ましいように思えてならないのです。

新宿会計士:

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  • 今年に入ってやたらと中国の批判情報(ウイグルやWHO等々)が増えていますね。

    情報戦すでに始まっているのかなと感じます。

    プロパガンダという意味ではアメリカのほうが数段上手な気がしますが、賄賂やハニトラなどの使い方は中国のほうが上手?

  • コロナ前から中国は経済覇権に手を染めていたが、ここに来て躓きや対抗の動きが顕著になってきたというのが現在の状況ではないかと。
    大陸勢力と海洋勢力のせめぎ合いがどっちに傾くのか…一国に依存するリスクが顕在化した今、情勢から目を離せません。

  • 『「初動が遅かったこと」に対してではなく、「日本国憲法のせいで強権の発動ができない状況」であり、さらにいえば「改憲議論そのものを妨害する立憲民主党やオールドメディア」、「彼らに社会的な悪影響を及ぼすことを許している私たち日本国民」です。』

    全くその通りだと思います。そして日本のマスコミにこういった視点が存在しないのは、まず自分らを客観視出来ないことの現れであり戦後民主主義的な甘えでしかないと思います。
    結果も考えず結果に責任も負わず、後先考えない刹那的な悪態をつくだけのことを批判だと思い込んでる様です。

  • 1人10万円支給の話を聞いて,今(から3年くらいの間)はみんな喜んでいられるけど,3年後に爆発しそうな時限爆弾をしかけてしまったな,と思いました。日本だけじゃなく,アメリカ,韓国,EU諸国みんな同じです。一応,個人的には対策を考えて用意していますが,ポピュリズムが好きな8割の人達は大丈夫でしょうか。あと,今,融資が急拡大していますが,1~2年後に不良債権がどれだけ発生しているか,そこが非常に心配です。そうすると,株・債券などが暴落し金融危機を引き起こします。
    ところで,コロナで仕事が増えた人と暇そうな人と,極端に分化してしまいました。個人的には前者です。

    •  10万円で喜んでいられるのは、3年でなく
      1ヶ月でしょ。
       一人10万円=日本全体で12兆円。

      れは、一回限りですよ。
       毎月12兆円、一年間で144兆円は無理、この3倍は絶対に無理!

  • 金融はまわりまわってどこに影響を及ぼすか(特に素人には)わからないので、どの国であっても破綻しないに越したことはないと思ってます。その点、覇権争いのようなどす黒い争いさえ無ければ、安全性は高いに越したことはないと考えます。
    (隣国は自業自得なので売掛金の回収さえ問題ないなら上記の対象から除外したいところです)

    逆に言えば、こんな時に足の引っ張り合いをするなと言いたくなりますが、中国にそんなこと言っても仕方ないので、あきらめます。

    話変わって、コロナ禍でV字回復を目指して~と言っているのを聞くと、疑問が湧いてきます。投入した資金は、投入しないで被る損失と比較すればリターンが大きい、という理屈なんでしょうか。
    突然死リスク(念のため、比喩表現です)を減らすために最低限生活が破綻しないよう一定額を給付して、その間に生き残る術を探し、生存確率を上げる、ということだと思ってました。

    前に例え話を書きましたが、不運にも船が難破して無人島に流れ着いてしまった人に、当面の食料と水が一緒に流れ着いたかどうかで、生存確率が大きく変わるだろう、という意味です。
    しかし用意された食料や水が尽きる前に無人島で生きる術を見いだせなければ、それまでです。V字回復というのは、救出してくれる船がすぐそこまで来ている、という理屈ですね。
    サービス業で仕事のなくなった人材を農業で活用するような話を聞きましたが、それが正しい方向性だと思います。人材の再編成が可能なら、そっちの方がいいでしょう。

    逆に言えば、私の属する半導体産業では、恐らくそこまでの支援は必要ありません。多くの工場が操業不能になったらそんなこと言ってられないですが(東芝が20日から長期休暇に入るなど、そろそろ影響が出てますね)。例の中国からの足抜け資金など、サプライチェーンの再構築支援はあった方がいいと思います。

    • ピークを過ぎたソフトエンジニア 様

      難破船と違うのは、設備等がそっくり残っていることでしょう。

      武漢肺炎の波が去った時、復活へ歩めるかどうか、

      知っている限りでは、保安に手を尽くしているようです。

      先は読めるわけもなく、ケセラセラ、なるようになる。

  • 「ドルを持っている」という状態はどういうことなのかまとめ直して欲しいですね。
    いくら帳面上、莫大なドルを持っていても、米国債の形にしてしまったので、手が付けられないとか、ジャンクボンドになっていて実際は換金できないとかw。

    •  莫大な米国債は、売るに売れません。そう言われていますが、これだけでは半分です。
      『米国債を売る誘惑に云々』

      冗談言って若死にした総理大臣の時代レベルのままですね。

       ところで何故ドルを売らなきゃならないんですか、我が国ではドルは通用しないのに。というのはさておき
       我が国は、世界最大の米国債保有国と同時に
      世界最強通貨ハードカレンシー『円』を有し世界中に円相場がある。
       故に、我が国だけは米国債を売らずとも無限と言いたくなるほどのドルを手に入れられる。

       円を発行して『ドル買/円売り』これだけでドルがいくらでも手に入る。
       米国債は売ってないのに莫大なドルが手に入ります。
       こんな芸当ができるのは、世界広しといえど我が国だけ。
       

      • 団塊さま
        確かに、そですね。
        無限は無いとしても、国民一人に100万配るくらいは、楽勝ですよね。

  • それは別。
    百万円は円。ドルではないから。

     一人百万円ということは、全体で120兆円。
    政府のが新たな国債を発行(借金)して手に入れた120兆円をドル買い/円売りして約1兆1千億ドル手に入れるということは、貸し借りチャラ、円がドルに変わっただけ。
     真面目な日本人は、政府も真面目。ドルで石油等々有効活用して価値が増えても減ることはない。
    (こんな莫大なドルの使い道、ドル円市場とか米国債くらいしか思い付きませんが)

     一方、国民に120兆円ばらまく場合は、政府は120兆円の借金(国債)が増えるだけ。満期がきたら借換債。
     永遠に借換債を繰り返す。これで良いと思うんですが、大蔵省は嫌がるでしょうね。

  • 新宿会計士さま

     私が、とあるツイートで気になった記事を早速取り上げて下さり、また、さらに詳しい解説付き論評をアップしていただき、ありがとうございます。私も、改めて勉強になりました。

     私が思うに、アメリカが狙っているのは、中国から多くの借金を抱えている国を敢えてデフォルトに追い込み、中国にダメージを与えることではないかと。現に、中国から多くの開発資金を借りている多くの国(パキスタンとか、アフリカ諸国とか、太平洋の島嶼国もか)が経済的に苦境に陥るのは明白で、借りた資金の返済に苦慮くる国が出てくるのは間違いないと思います。 IMFがそのごにこれらの国に助けを出すと結局中国を助けることになります。 中国への債務に苦しむ国は、まとめてデフォルトさせて、そのあとで再生のために必要な支援を有志国家で行えばよいのです。

     日本も、多くの国にデフォルトされるダメージを食らうと思いますが、戦略眼を持って対応してほしいところです。先日、麻生財務相がIMFへの資金提供を表明したのですが、非常に不安を感じます。リーマン危機の際には当時の中川財務相がIMFへの支援を表明しましたが(これ自体は、世界的に評価されましたし、日本にとって良かったのか悪かったのか私にはわかりませんが)、この時の記者会見での事が発端になって、中川財務相が政治的生命のちには彼自身の生命までも失うことになりました。中川昭一氏が今も存命ならばと残念でなりません。中川首相の治世を見たかった。