先ほどの『日本で「トリプル安」発生、ヘッジファンド返り討ちも』でいったん議論をぶつ切りにしてしまいましたが、本来報告したかった方の論点について、何とか本日間に合いましたので、掲載したいと思います。通貨が脆弱な国におけるトリプル安のインパクトとならんで、数日前から当ウェブサイトで取り上げている、米メディアWSJが提唱した「為替スワップの復活」提案について、本稿ではじっくり考えてみたいと思います。

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通貨が脆弱な国は?

本当に危ないのはソフトカレンシー国

さて、本稿は『日本で「トリプル安」発生、ヘッジファンド返り討ちも』の続きです。中途半端なところで切ってしまった理由は、自分自身で書いていて、ちょっと長すぎたと思ったからです。

それはさておき、先ほども申しあげたとおり、『今こそ消費税の税率を「引き下げる」決断を!』や『総理、「リーマン級のショック」は生じていますよ!』、『コロナショックへの対応は消費税の減税が手っ取り早い』などで申し上げたとおり、現在の日本では、抜本的な経済対策が必要とされています。

ただ、米国や日本のように、もとから基礎体力のある国家の場合だと、減税などの形で「真水」を供給すれば、それによって経済が復活を遂げる可能性は十分にあります。しかし、これが基礎体力のない国(とくに新興市場諸国)だと、いったいどうなるのでしょうか。

これを読み解くうえで参考になるのが、「通貨」という視点です(ソフト・カレンシー、ハード・カレンシーの違いについては先ほどの記事をご参照ください)。とくに、ソフト・カレンシー国でありながら、ある程度は資本の移動の自由が保障されているような国の場合、国際的な投機筋から見れば格好の標的です。

日韓ではトリプル安の意味がまったく異なる!

さて、昨日、日本と同様に「トリプル安」に直面した国が、韓国です(『【速報】韓国でトリプル安が発生』参照)。そして、日本の場合と異なり、韓国では「キャピタルフライト」が国家の存続に関わります。

なぜでしょうか?

その理由は簡単で、韓国企業は外国の金融機関や投資家からおカネを借りて、生産活動を行っているからです(※自国通貨建ての借入もありますが、多くの場合は外貨建てです)。

国際決済銀行(BIS)の統計によれば、韓国の企業、公的セクターなどが2019年3月末時点で外国の金融機関から借りているカネの総額は約3300億ドル(※最終リスクベース)であり(図表1)、外貨建ての短期債務は1000億ドルを超えています(図表2)。

図表1 韓国がカネを借りている外国金融機関の所在地(2019年9月末、最終リスクベース)
相手国金額比率
米国883.3億ドル26.78%
英国811.0億ドル24.59%
日本539.9億ドル16.37%
フランス270.9億ドル8.22%
ドイツ152.7億ドル4.63%
台湾103.6億ドル3.14%
その他536.3億ドル16.26%
合計3297.6億ドル100.00%

(【出所】BISのCBSデータ『B4-S』より著者作成)

図表2 韓国の外国金融機関からの1年内債務(2019年9月末、所在地ベース)
相手国金額比率
米国392.3億ドル34.25%
英国167.1億ドル14.59%
日本103.1億ドル9.01%
フランス69.3億ドル6.05%
その他413.6億ドル36.11%
合計1145.4億ドル100.00%

(【出所】BISのCBSデータ『B4-S』より著者作成)

ちなみに日本は隣国でありながら、もともと「カネの面」では韓国との結びつきが弱いのですが(『数字で見た、「日韓は切っても切れない関係」論のウソ』参照)、カネの面で韓国が深く依存しているのは日本ではなく、米国や英国であるということも、これらの図表からは明らかでしょう。

数字で見た、「日韓は切っても切れない関係」論のウソ

コベナンツの悪化vs交易条件の悪化

さて、実際のところ、韓国にとってはウォン高になるのが良いのでしょうか、それともウォン安になるのが良いのでしょうか。

結論的に言えば、ウォン高になり過ぎれば輸出企業が海外で自社製品を売るときに困りますし、ウォン安になり過ぎれば外貨でおカネを借りている企業が「財務制限条項」(コベナンツ)に引っ掛かってしまい、困ります。

おそらく許容できる為替相場のレンジは、1ドル=1100~1200ウォン(あるいは最近だと1ドル=1150~1250ウォン?)程度と、非常に狭いのではないでしょうか。そして、韓国は常に自国通貨が下落し過ぎず、上昇し過ぎないように調整しているフシがあるのです。

そして、同国がやたらと「わが国には4000億ドルを超える巨額の外貨準備がある」だの、「いざとなれば多くの国との通貨スワップ協定がある」だのと強調するのも、通貨当局なりの「口先介入」と考えれば筋が通ります。

意味深な通貨スワップ報道

通貨スワップの一覧

ちなみに韓国銀行が「保有している」と発表している外国通貨当局との通貨スワップ(二国間通貨スワップ、多国間通貨スワップ)と、それらを昨日深夜時点の為替で換算したものは、図表3のとおりです。

図表3 韓国が保有している(と自称しているものを含む)通貨スワップ
相手国と失効日金額とドル換算額韓国ウォンとドル換算額
中国(2020/10/13?)3600億元(514.2億ドル)64兆ウォン(530.0億ドル)
スイス(2021/2/20)100億フラン(105.2億ドル)11.2兆ウォン(92.8億ドル)
UAE(2022/4/13)200億ディルハム(54.4億ドル)6.1兆ウォン(50.5億ドル)
マレーシア(2023/2/2)150億リンギット(35.1億ドル)5兆ウォン(41.4億ドル)
オーストラリア(2023/2/22)120億豪ドル(75.3億ドル)9.6兆ウォン(79.5億ドル)
インドネシア(2023/3/5)115兆ルピア(77.9億ドル)10.7兆ウォン(88.6億ドル)
二国間スワップ小計862.1億ドル106.6兆ウォン(882.8億ドル)
CMIM384.0億ドル
通貨スワップ小計1,246.1億ドル
カナダとの為替スワップ期間、金額無制限

(【出所】韓国銀行発表等を参考に著者作成。換算額は昨日深夜時点のWSJのマーケット欄を参照)

このうち、中国とのスワップについては書面による契約が存在しておらず、2017年10月10日に失効後、韓国側が「中国と口頭で延長に合意した」と述べているものに過ぎず、危機の際に実際に発動できる代物であるかどうかは不明です。

というよりも、そもそも人民元自体が国際的な市場で通用しないソフトカレンシーですので(『いったいなぜ、IMFは人民元をSDRに加えたのか』等参照)、万が一、人民元を引き出したとしても、通貨危機の際に助けになるものではありません。

いったいなぜ、IMFは人民元をSDRに加えたのか

また、インドネシアやマレーシアとのスワップは、ソフトカレンシー同士のスワップであり、企業に例えていえば「信用力の劣る中小企業同士がお互いに債務保証をしているような状態」、あるいは「お互いに融通手形を出し合っている状況」に近いと考えて良いでしょう。

インドネシアが危機に陥れば韓国が、韓国が危機に陥ればインドネシアが、それぞれ相手国の危機に巻き込まれるという可能性があるわけで、正直、こうした弱小国通貨同士の通貨スワップは国際的な金融市場にとって有害無益です(『弱小通貨同士の通貨スワップの「融通手形」説』参照)。

弱小通貨同士の通貨スワップの「融通手形」説

以上より、韓国が危機に際して使えるスワップは、事実上、オーストラリアとの120億豪ドルのスワップ、スイスとの100億フランのスワップ、UAEとの200億ディルハムのスワップに限られます(※カナダとのスワップは為替スワップであり、通貨スワップとして使うことはできません)。

WSJの議論

さて、昨日の『中央日報「米韓通貨スワップ待望論」に見る事実の歪曲』でも少しだけ触れたのですが、米メディアのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は現地時間3月9日19時14分付の “The Fed’s Market Emollients” という記事で

米FRBが外国中銀と締結している為替スワップを拡張すべきだ

と主張しました。該当するくだりを再掲しておきましょう。

“The Fed currently has swap arrangements with the central banks of Canada, U.K., European Union, Switzerland and Japan. It could extend these swap lines to other countries with markets in tumult like Australia, South Korea, China, Taiwan and Hong Kong. Foreign central banks should also be encouraged to supply dollars to their banks if needed.”

(【意訳】FRBは現在、カナダ、英国、欧州連合、スイス、日本の各中央銀行と為替スワップ協定を保持している。これらの協定は、オーストラリア、韓国、中国、台湾、香港など、市場が揺れ動いている諸国にも拡大することができる。これにより外国の中央銀行が自国の銀行に対し、必要に応じてドル供給を行うことができる。

これについてどう読むべきなのでしょうか。

過去に14の銀行がFRBと契約を締結

実際、FRBのウェブサイト “Credit and Liquidity Programs and the Balance Sheet” によると、米FRBは2007年12月以降、次の14の外国中央銀行と締結した為替スワップ( “dollar liquidity swap lines” )を締結したものの、それらは2010年2月に終了したそうです。

  • 豪州準備銀行(the Reserve Bank of Australia, RBA)
  • ブラジル中央銀行(the Banco Central do Brasil)
  • カナダ銀行(the Bank of Canada, BOC)
  • デンマーク国民銀行(Danmarks Nationalbank)
  • イングランド銀行(the Bank of England, BOE)
  • 欧州中央銀行(the European Central Bank, ECB)
  • 日本銀行(the Bank of Japan, BOJ)
  • 韓国銀行(the Bank of Korea)
  • メキシコ銀行(the Banco de Mexico)
  • ニュージーランド準備銀行(the Reserve Bank of New Zealand, RBNZ)
  • ノルウェー銀行(Norges Bank)
  • シンガポール通貨庁(the Monetary Authority of Singapore, MAS)
  • スウェーデン・リクス銀行(Sveriges Riksbank)
  • スイス国民銀行(the Swiss National Bank, SNB)

ただし、FRBは現在、この14の中央銀行のうち、カナダ銀行、英イングランド銀行、ECB、日本銀行、スイス国民銀行の5つの銀行との間で、期間・金額無制限の為替スワップを常設化しています。

言い換えれば、一時は14の中央銀行と締結していた為替スワップ協定を、現在はたった5つの中央銀行に絞ってしまったということですが、それと同時に、FRB自身が5つの中央銀行以外との間でも為替スワップ協定を再開させるうえで、ハードルは高くない、ということでもあります。

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スワップ再開の可能性

視点①金額的重要性

さて、再開するのだとしたら、FRBはいったいどこと再開するのでしょうか。

それには2つの視点があります。1つ目は、金融市場におけるインパクトの大きさ(その通貨の重要性)、2つ目は「政治的判断」です。

このうち「通貨の重要性」とは、金融市場におけるその通貨の取引のシェア、重要性などを意味しており、たとえば国際決済銀行(BIS)が3年に1回公表している「外為市場通貨ペア比率」などで上位に来る通貨の発行体が考えられます(図表4)。

図表4 OTC外為市場通貨ペア比率(単位:%)
通貨2013年2016年2019年
米ドル87.0487.5888.30
ユーロ33.4131.3932.28
日本円23.0521.6216.81
英ポンド11.8212.8012.79
豪ドル8.646.886.77
加ドル4.565.145.03
スイスフラン5.164.804.96
人民元2.233.994.32
香港ドル1.451.733.53
NZドル1.962.052.07
スウェーデン・クローネ1.762.222.03
韓国ウォン1.201.652.00
シンガポールドル1.401.811.81
ノルウェー・クローネ1.441.671.80
メキシコ・ペソ2.531.921.72
インド・ルピー.991.141.72
その他11.3811.6012.04
合計200.00200.00200.00

(【出所】BIS “Triennial Central Bank Survey of Foreign Exchange and Over-the-counter (OTC) Derivatives Markets in 2019 (Data revised on 8 December 2019)” の “Foreign exchange turnover” より著者作成。なお、「通貨ペア」が集計されているため、合計すると100%ではなく200%となる)

図表4のうち、ユーロ、日本円、英ポンド、スイスフラン、加ドルの5通貨を除けば、「豪ドル、人民元、香港ドル、NZドル、スウェーデン・クローネ、韓国ウォン、シンガポールドル、ノルウェー・クローネ、メキシコ・ペソ、インド・ルピー」の10通貨が候補として挙がって来ます。

視点②政治的な重要性

一方、これに対して重要なのは「政治的な重要性」でしょう。

たとえば、先ほど挙げた金融危機の際の為替スワップ締結先には韓国が含まれていましたが、当時の韓国は親米派の李明博(り・めいはく)政権が執権していました。しかし、現在は反米派の文在寅(ぶん・ざいいん)政権が執権しています。

常識的に考えて、金額的重要性は決して低いと言えなくても、政治的な優先度で韓国とスワップを締結するほど米国もお人よしではないような気がします。

ただ、逆に中国に関しては、この10年あまりで通貨としての重要性が増したことに加え、米銀が中国本土で営業を活発化させているという事情を踏まえると、何らかの政治的駆け引きとして、米中為替スワップが成立する可能性は否定できません。

また、政治的な障壁がさほど高くない豪州やニュージーランドとのスワップ再開は十分にあり得る話だと思います。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

いずれにせよ、米国が5中銀との為替スワップを他国にも広げるのかどうかを巡っては、現時点ではWSJが提唱しているだけの話であり、何ともわかりません。しかし、コロナショックがリーマンショック並みの混乱をもたらし始めていることを思えば、為替スワップの再開は十分にあり得る話でしょう。

金融評論家としては、「為替スワップ」という分野で、またひとつ、興味深い話題を追いかけることになりそうです。

※本文は以上です。

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  • 2020/05/20 12:00 【時事
    中韓との出入国制限、もしも長期化したらどうなるのか (14コメント)
  • 2020/05/20 12:00 【読者のページ
    読者雑談専用記事通常版 2020/05/20(水) (88コメント)
  • 2020/05/20 08:00 【時事|経済全般
    ポストコロナ時代は「人類対中国」?科学よ負けるな! (21コメント)
  • 2020/05/20 05:00 【韓国崩壊
    鈴置論考が解く、韓国が「輸出規制撤回」を求める理由 (92コメント)
  • 2020/05/19 14:00 【日韓スワップ|韓国崩壊
    「G20スワップ」提唱の韓国こそトルコとスワップを (32コメント)
  • 2020/05/19 12:00 【時事|金融
    日本とトルコの通貨スワップがロシアに対する牽制に? (19コメント)
  • 2020/05/19 08:00 【時事|国内政治
    検察庁法改正案で大騒ぎした挙句に自爆した立憲民主党 (56コメント)
  • 2020/05/19 05:00 【韓国崩壊
    入国規制解除に失敗すれば日韓関係「自然消滅」実現も (40コメント)
  • 2020/05/18 15:30 【時事|韓国崩壊
    米中対立局面で日韓関係をあまり「放置」できない理由 (55コメント)
  • 2020/05/18 12:00 【読者のページ
    読者雑談専用記事 COVID-19編~8~ (79コメント)
  • 2020/05/18 11:11 【時事|金融
    日米為替スワップは「日本が米国を助ける手段」なのか (22コメント)
  • 2020/05/18 08:00 【時事|外交
    中央日報「日本がコロナ経験共有を韓国に求めて来た」 (25コメント)
  • 2020/05/18 05:00 【外交
    時事「政府、中国などへのビジネス渡航解禁」記事の怪 (23コメント)
  • 2020/05/17 15:00 【時事|外交
    産経「日本政府がWHOのコロナ対応検証を提案へ」 (18コメント)
  • 2020/05/17 09:00 【読者投稿
    【読者投稿】武漢肺炎で中国はわざとウソを流したのか (44コメント)
  • 2020/05/17 05:00 【韓国崩壊
    韓国メディア「約束破りは韓国の文化。日本は理解を」 (116コメント)
  • 2020/05/16 12:00 【読者のページ
    読者雑談専用記事通常版 2020/05/16(土) (199コメント)
  • 2020/05/16 09:00 【時事|韓国崩壊
    米中コロナ対立の折、日韓関係決める「3つの守り神」 (61コメント)
  • 2020/05/16 05:00 【マスメディア論
    新聞崩壊?「押し紙」認めた判決契機に訴訟ラッシュも (51コメント)
  • 2020/05/15 16:30 【時事|外交
    トランプ氏「米中断交すれば5000億ドル節約」 (26コメント)
  • 2020/05/15 12:00 【読者のページ
    読者雑談専用記事 COVID-19編~7~ (82コメント)
  • 2020/05/15 11:11 【時事|経済全般
    鈴置論考「韓国は反面教師」説を裏付ける安倍発言 (17コメント)
  • 2020/05/15 08:00 【経済全般
    コロナとは経済問題 無駄な既得権を飼う余裕は消える (28コメント)
  • 2020/05/15 05:00 【RMB|日韓スワップ|韓国崩壊
    中国は「使えない中韓通貨スワップ」で韓国を支配へ? (21コメント)
  • 2020/05/14 15:00 【時事|金融
    【速報】ネコと和解せよ (26コメント)
  • 2020/05/14 11:11 【時事|経済全般
    特別定額給付金で「ミス頻発」は「歳入庁」実現の好機 (20コメント)
  • 2020/05/14 08:00 【時事|金融
    米国の対中輸出管理強化と「コウモリ国家」の命運 (20コメント)

  • 著者のコンタクト先:info@shinjukuacc.com

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