増税と「外国人が国債売りで金利暴騰」のトンデモ理論

先日、『本日、日本が財務省に敗北?本当の戦いはこれからだ!』のなかで、「日本経済をぶっ壊してでも増税を実現しようとする財務省こそが日本国民の敵であり、日本の敵だ」と申し上げました。複雑怪奇な軽減税率制度に加え、複数税率の問題など、さまざまな議論が生じてくる中で、「国民はニンジンの皮でも喰って増税を我慢しろ」と主張した例のメディアに、「国債は国の借金」、「バラマキをやめろ」、「外国人が国債売りに転じれば金利が暴騰する」、といった、実に香ばしい議論が掲載されていました。

消費税率は10%ではありません!

世間では消費税の税率は「8%から10%に引き上げられるとともに、従来どおり8%が適用される軽減税率区分が設けられた」、と思っている人が多いと思いますが、この認識は企業経理の世界では大きな間違いです。

経理の世界では、消費税の税率は10%ではありません。7.8%です。「消費税」と呼ばれているものは、国税である消費税(7.8%)と地方消費税(2.2%)から構成されており、結果として合計税率が10%になる、ということです。

そして、軽減税率の場合、国税の税率は6.24%であり、従来の国税の税率(6.3%)よりもむしろ引き下げられているのです。地方消費税はそれぞれ1.76%、1.7%であるため、いずれも合計税率が8%になる、というだけの話です。

ということは、「地方消費税」の議論を無視して「消費税」だけの税率について正しく記述するならば、

  • 1989年4月…3%
  • 1997年4月…4%(※5%ではない!)
  • 2014年4月…6.3%(※8%ではない!)
  • 2019年10月…原則7.8%、軽減税率6.24%(※それぞれ10%、8%ではない!)

という、まことにややこしいことになっているのです。

ちなみに、決算期が9月以外の企業の場合、消費税の課税事業者となっている企業は、少なくとも

  • 税率6.3%の区分(旧税率)
  • 税率6.24%の区分(税率)
  • 税率7.8%の区分(軽減税率)

という具合に、3つの区分に分けて消費税額を計算する必要があります。企業によってはさらに「旧税率」として、3%や4%の区分を保持しているケースもあるでしょう。

つまり、税率を変更すればするほど、また、税率の区分を増やせば増やすほど、消費税の申告書がどんどんと複雑怪奇になっていく、ということです。

消費税の負担自体が日本経済に大きな打撃を与えているというのも事実ですが、それと同時に、消費税の申告負担自体が企業に多大な事務負担を強いているのです。その意味で、財務省という組織こそ、日本経済にとって一番不要なものではないでしょうか?

例の「ニンジン新聞」のプロパガンダ

さて、消費税の増税理由を巡っては、消費税法を導入した当初は「直間比率の是正」(つまり、税収における直接税の比率を減らし、間接税の比率を増やすこと)だったのですが、それが途中からは

日本は「国の借金」が多すぎるから、財政再建が必要だ→増税が必要だ

に変わり、さらにインターネットの大衆化に伴い、「国の借金論」「財政破綻論」を論破する人が同時多発的に出現して来るやいなや、今度は

「社会保障財源」として消費税が必要だ

といった具合に、どんどんと「増税しなければならない理由」というものが増えて行ったように思えます。

当ウェブサイトが『財務省「消費増税で日本経済をぶっ壊す!」』などで報告しているとおり、そもそも論として日本経済を資金循環統計や国債市場金利などの「数字」で見ると、消費税の増税は「不要であるどころか有害である」、という結論になりそうなものですが、大手メディアはこのことをほとんど指摘しません。

財務省「消費増税で日本経済をぶっ壊す!」

そして、増税をすれば国民生活は窮乏化しますが、これに対して「あの大手新聞」は、「ニンジンの皮でも喰って消費増税を我慢しろ」、などと国民に御高説を垂れているのです(『日経「国民よ、ニンジンの皮食べて増税を我慢しろ」』参照)。

日経「国民よ、ニンジンの皮食べて増税を我慢しろ」

そんな日経のことですから、消費税を巡って主張する内容は、普段から支離滅裂です。というのも、次の記事を読むと、とうの昔に論破されたはずの「国の借金論」をわざわざ持ち出してきたからです。

10%が問う日本(2)止まらぬ借金の誘惑 増税しても緩む財政規律(2019/10/2付 日本経済新聞電子版より)

国債は「国の借金」ではありません!

「国の借金」、という単語を、久しぶりに見ました。

日経電子版は記事のタイトルに「止まらぬ借金の誘惑」「増税しても緩む財政規律」などと記載したうえで、地方を含め「全国16区間の高速道路で4車線化の計画が動き出した」などとしています。ひと昔前の朝日新聞並みの「公共事業悪玉論」を思わせます。

これらの道路事業は財政融資資金から融資されるものですが、日経の記事はこれを

国の借金で資金を集める財政融資資金

と述べているのです。

何と盛大な勘違いでしょうか。

財政融資資金であろうが、政府勘定であろうが、市場で調達される金融商品は「国債」です。

世の中のありとあらゆる金融商品には、「金融資産」と「金融負債」という側面があります。国債は政府から見れば「金融負債」ですが、それを保有している人たち(預金取扱機関、保険・年金基金、日本銀行等)から見れば「金融資産」です。

そして、日本銀行は預金取扱機関から、預金取扱機関と保険・年金基金は日本国民(あるいは日本企業)から、それぞれおカネを預かっている(=借りている)立場ですので、国債は間接的には「日本国民の資産」のようなものでもあるのです。

ちなみに2019年6月末時点の資金循環統計から判明する国債(財投債を含む)の発行総額は約1137兆円(※時価ベース)ですが、そのうち4割以上を日銀が保有しており、海外の保有比率は13%弱に過ぎません(図表)。

図表 国債の保有主体(2019年6月末)
主体金額(億円)比率
中央銀行4,940,91843.46%
預金取扱機関1,506,50813.25%
保険・年金基金2,547,65222.41%
海外1,453,16112.78%
その他920,9078.10%
合計11,369,146100.00%

(【出所】日銀『データの一括ダウンロード』のページより『資金循環統計』データを入手して加工)

「異常」とはニンジン新聞のことでは?

さて、日経の記事は「異常な構図定着」と小見出しを付したうえで、次のように述べます。

消費税が税率3%で導入されたのはバブル最盛期の1989年。翌90年の予算では歳出削減努力もあり、『赤字国債ゼロ』を達成した。それから約30年。税率は10%に上がったが、財政は転がるように悪化した。

普通に考えたら、「消費税の導入によって経済が冷え込み、税収が予想以上に落ち込んだ」ことが公的債務残高の増加につながっていると見るべきでしょう。税率を何パーセントに上げようが、この構図は続きます。そのことを指摘しないで、日経は

高齢化で社会保障費が膨らむ中、景気が復調しても補正予算などで経済対策を重ね、歳入の3割超を借金でまかなう異常な構図が定着した

と述べているのですが、このような文章をさらっと書いてしまう新聞社の方が「異常」です。

というよりも、わが国の「歳入」には「国債発行による収入」、「歳出」には「国債償還による支出」が計上されてしまっています。企業会計的な「損益計算書」の議論からすれば、借金の増減は企業業績に関係ありません。

このように、国債発行残高の議論(つまりバランスの議論)と、歳入、歳出の議論(つまりフローの議論)を混ぜこぜにするというのは、読者をたぶらかすものであり、議論の良いところ取りです。

「外国人が国債売りに転じれば金利急騰」、ねーよ!

ところで、日経は「まずはバラマキをやめるべきだ」と述べたうえで、「緩んだ規律をただす仕掛けが要る」などと述べ、緊縮財政を提唱しているのですが、その理由がまたしてもぶっ飛んでいます。

某外資系投資顧問会社の「シニア・フェロー」なる人物による

世界経済の変化などで外国人が国債売りに転じれば、金利急騰の引き金になりうる

という発言が紹介されているのですが、もうひたすら乾いた笑いしか出て来ません。

実際、先ほどの図表でも紹介した「海外が保有する国債」は145兆3161億円(全体の約12.8%)ですが、そのうちの68兆6640億円は短期国債(TDB)です。そして、海外勢がこれを一斉に売りに転じれば、投資利回りに飢えた日本国内の機関投資家が一斉に買いに転じます。

この「シニア・フェロー」氏は、日本国債市場において10年債前後までマイナス利回りが常態化しているという事実と、「市場のイールドカーブ」という議論を、もしかしてまったくご存知ではないのでしょうか?

いずれにせよ、この手の「外国人が売りに転じれば金利が急騰する」なる奇妙な理論は、古くはリーマン・ショック以前から金融市場参加者のあいだで聞かれていた内容ですし、外国のヘッジファンドが日本国債市場を売り崩すために数百億円を調達した、といったうわさはときどき流れて来ます。

しかし、数百億円、いや、数千億円を調達したとしても、日本国内には数百兆円という資金を持てあました機関投資家がデン!と構えているため、ヘッジファンドが日本国債売りを仕掛けたところで、そうした売り圧力は焼けただれた鉄板の上に落ちる1粒の水滴がごとく、ジュッと音を立てて消えてお終いでしょう。

実際、頭の悪いヘッジファンドの皆さんが「日本国債市場を売り崩す!」とばかりに勇み足でカラ売りを仕掛けてくれているため、これは日本国内の投資家にとっては「絶好の投資機会」なのです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

もちろん、当ウェブサイトとしても「効率の悪い公共投資」をガンガンやるべきだ、などと申し上げるつもりはありません。しかし、ひと昔前の「公共事業悪玉論」を堂々と掲げ、どこかの業者の「外国人が売れば日本国債は暴落する!」という与太話を紹介する日経「ニンジンの皮」新聞の言説は、信頼できません。

というよりも、『本日、日本が財務省に敗北?本当の戦いはこれからだ!』でも申し上げたとおり、消費税の合計税率10%という目標を達成した財務省としては、今後、さらに「増税プロパガンダ」を活発化させてくる可能性が高いと思います。

本日、日本が財務省に敗北?本当の戦いはこれからだ!

むしろ、「日本国民vs財務省」、あるいは「日本国vs財務省」の戦いは、これからが本番なのではないでしょうか。

読者コメント一覧

  1. だんな より:

    「外国人が国債売りに転じれば金利急騰」、ねーよ!
    昔(リーマンショックの前かな)は、そんなもんかなと思ってました。
    嘘だと確信したのは、東日本大震災の時に円高に振れた時ですね。
    日本国債のマイナス金利の実態をみて、よくもこんな話が、専門家から出て来るなと思います。
    普通に考えれば、日本経済が潰れる前に、他の国が潰れますよね。潰れれば円と日本国債買いになるはず。
    日本が潰れる時には、潰れてない国はアメリカくらいしか残ってないと思いますけどね。

  2. 茶筒 より:

    ネット上で「軽減税率対象」の商品に対して、「価格を維持します」とか、あるいは「値上げしました」と言う記載があると「軽減税率対象の癖に何言ってるんだ」という意見が散見されるのがとても気になっています。
    (某新聞や、某給食費のことです)

    軽減税率対象であっても、材料費や配送費、人件費に支払う消費税は増えているわけで、これがどの程度利益率に対するインパクトがあるのかがわかりません。

    消費税の相殺仕分けがあることは理解しているのですが、「軽減税率対象商品であれば、本当に値上げするのがおかしいこと」なんでしょうか?

    どなたか、具体的な数字で示しているような参考資料を教えて頂けるとうれしいです…
    (クレクレでお恥ずかしいのですが、うまく探すことが出来なくて…)

    1. 牛人 より:

      https://www.yamada-partners.gr.jp/wp-content/uploads/2018/04/037.pdf
      上記は、山田&パートナーズという大手税理士法人の、簡易課税制度において農業のみなし仕入れ税率が改正されることについて書かれたページです。図がわかりやすいと思い、貼付しました。

      軽減税率により、農業売上の税率8%に対し、農業仕入の税率が10%であることになりました。これにより、簡易課税適用時の税額が、原則課税適用時の税額を上回る(損税が発生する)可能性が高まり、改正が行われたようです。

      上記の図からわかる通り、簡易課税適用事業者(軽減売上が主要な者で農業以外)、免税事業者、非課税売上が主要な事業者であれば、値上げしなければ仕入れの増税分を負担しなければなりません。

      しかしながら、これが原則課税適用であれば、消費税は建前上、預り金ですので、“仕入れの増税分は納税額から控除できる”のです。納税額がマイナスになれば還付を受けられます。

      以上の事と、大手新聞社が中小事業者の特例を受けているとは考えにくいので、「『軽減税率対象の癖に何言ってるんだ』という意見」、になっているのではと思われます。

      1. 茶筒 より:

        牛人様

        コメントありがとうございます。
        参考リンクについて、後ほどゆっくり見させて頂きます。
        基本的には「税率が上がらないのであれば、消費増税を理由とした値上げはおかしい」
        という認識で問題なさそうですね。
        (人件費高騰など、別の要因による値上げ圧力はもちろんあるでしょうが)

        ありがとうございました!

  3. カズ より:

    外国人投資家による日本国債売りがあっても、自国通貨建なのだから日銀が通貨発行権の行使により市場で買い戻せばいいだけのこと。
    むしろ国債安は望むところなのでは?

    10月からの店頭売価。
    ソフトドリンクコーナーのフンケル肯定液・アリエナミン7は税率10%、オレノメンCは税率8%、雑貨コーナーのブレスケアは税率8%、モンタミンは税率10%

    わかりにくいのです。

    9月まで税額一括計算で良かったものが、売上・仕入れ共に税率区分が必要になり非常に面倒です。

  4. ビトウ より:

     コメント失礼します。

     消費税増税は、従軍慰安婦強制連行に似ている気がします。

    ・軍は慰安婦(売春婦)に高い金払って腰振っていた。
    ・従軍と強制連行は嘘。(親に売り飛ばされた人は御愁傷様です)朝鮮人業者の強引な身売りを軍は戒めていた。
    ・嘘がばれたら「強制性や軍の関与が悪い」とか言い出した。(でも軍の悪行は立証出来ず)
    ・河野談話~日韓合意で慰安婦は性奴隷と認められ政治的決着がつく。
    ・でも未だに謝罪と賠償を求められる。

     カード払いとインボイスで脱税をし辛くしたのはいいのですが、やっぱりデフレで増税はしないで欲しかったです。
     軽減税率然り、ルールをやたら曖昧、又は複雑怪奇にしたがるのは、騙したり権力を振るいたいからだと思います。でも極一部の人間の幸せを優先されても迷惑なので、可能な限り大多数の自国民を幸せにする努力をして頂きたいものです。年寄り連中が謳歌した経済成長を、今の若人にも味わわせたいです。

  5. 泣ける より:

    運営主様は財務省・マスコミのプロパンダ力を過少評価されているご様子

    MMT理論を伝えてさえも「増税をしなければ日本は財政破綻する」
    逆にMMTを実践すれば「外国人の売りで日本国債と円は暴落する
    ひいてはハイパワーインフレを招く」と主張する友が複数

    国民の多数は消費増税は必要でやむを得ないと考えているようです

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