米国は金融面で韓国を締め上げることができる
週末、韓国のメディアに米国の財務省が韓国の主力銀行に対し、直接、北朝鮮金融制裁を巡って警告を発したとする記事が掲載されています。韓国が北朝鮮に対する経済制裁破りをするのは今に始まったことではありませんが、米国の忍耐がどこまで続くのかは見ものであり、その意味では今週公表される予定の米財務省の為替監視レポートを含め、米韓関係については「金融」という側面から注目する価値があることは間違いないでしょう。
目次
米財務省が韓国金融機関に警告
韓国メディア『中央日報』(日本語版)の報道によれば、米財務省は9月20日から21日にかけて、韓国の国策銀行や都市銀行に対してカンファレンスコールを行い、北朝鮮金融制裁を総括する関係者らが警告メッセージを送ったのだそうです。
【社説】尋常でない米財務省の対北制裁遵守警告(2018年10月13日13時13分付 中央日報日本語版より)
記事の中では情報源は明らかにされていませんが、報道が事実だとすれば、これは非常に深刻な話です。金融規制の世界では、基本的に金融機関に対する規制はその国の金融当局が実施するのが原則で、韓国の銀行にとって外国金融当局である米国の財務省が行政指導を行うのは極めて異例だからです。
中央日報によると、記事の書き出しは、こうです。
「韓米関係は本当に問題がないのだろうか。」
いえいえ。問題があるからこんなことになるのだと思いますよ、中央日報さん。
それはさておき、中央日報によれば、米財務省がカンファレンスコールを行った相手は、韓国産業銀行(IBK)、韓国国民銀行、韓国農協銀行などとされています。そして、米財務省はこれらの金融機関に対し、対北朝鮮制裁の遵守を要請したのだそうです。
9月20日といえば、文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領と北朝鮮の独裁者・金正恩(きん・しょうおん)の両名が「9・19平壌(へいじょう)共同宣言」を発した翌日です。中央日報は
「米国側は韓国の銀行が推進する対北朝鮮関連事業現況を問いただし、「対北朝鮮制裁を違反しないことを願う」という要請とともに「あまり先走ってはいけない」という趣旨の話を何度もした」
と報じていますが、これには少なくとも2つの意味があります。
1つ目は、「米国財務省は韓国政府をまったく信頼していない」、という点であり、2つ目は、「実際にこれらの銀行が対北朝鮮制裁を破ろうとしている(と米財務省が疑っている)」、という点でしょう。
韓国の「制裁破り」の実績
北朝鮮産石炭の不正輸入事件
韓国が「北朝鮮に対する経済・金融制裁」を破ろうとしている(あるいは実際に破った)のは、1度や2度ではありません。その典型的な事例が、「北朝鮮産石炭の不正輸入事件」です。
この事件については当ウェブサイトでも8月に『韓国の北朝鮮産石炭密輸事件、韓国メディアの苦し紛れの説明』などで詳報していますが、あらためて概要を振り返っておきましょう。
事件の概要は、2017年4月から10月にかけて、国内の3つの輸入業者が合計7回にわたり、北朝鮮産の石炭や銑鉄など約3.5万トン(約66億ウォン=6.5億円相当額)を違法に輸入していた、とされるものです。
これについては韓国関税庁が8月10日に「摘発」したことにされていますが、私自身は文在寅政権が事実上、国ぐるみで北朝鮮産の石炭を輸入していて、米国からの警告を受けて慌てて「摘発」したことにした、というほうが実態に近いと考えています。
なぜならば、輸入された石炭を購入していたのは、韓国政府の事実上の国策会社である韓国電力公社のグループ会社だったからです。韓国電力公社は韓国政府と韓国の国策銀行・韓国開発銀行が株式を保有しており、事実上、韓国政府の100%子会社のようなものです。
しかも、輸入した会社は「北朝鮮産だとは知らなかった」と言い張っているのだそうですが、通常、原材料を輸入する際に「産地を知らない」ということはあり得ません。なぜなら、産地は値段、品質などと並び、きわめて基本的な条件だからです。
したがって、状況証拠から見て、韓国電力公社のグループ会社が問題の石炭を「北朝鮮産である」とわかって買ったことは間違いありませんし、関税庁、いや、文在寅政権自体もグルになっていると考えるのが自然でしょう。摘発された「3業者」は、明らかに「トカゲのしっぽ切り」で切り捨てられただけなのです。
米国は韓国への金融制裁を見送った
いずれにせよ、北朝鮮産の石炭輸入に文在寅政権自体が関与していたとすれば、『北朝鮮石炭輸入問題受け、最悪、韓国の銀行への金融制裁も?』でも述べたとおり、韓国の銀行への金融制裁(セカンダリー・サンクション)もあり得る話です。
ところが、実際には米国は現時点で韓国への金融制裁の発動を見送っています。これについては『北朝鮮石炭輸入問題、米国は「とりあえず様子見」なのか?(※2訂版)』でも述べたとおり、トランプ政権のヘザー・ナウアート報道官は韓国政府を「信頼する」と断言しました。
このナウアート報道官の発言だけを見れば、米国政府は「北朝鮮産の石炭をうっかり輸入してしまったのは3業者の責任だ」とする韓国当局の説明を「信頼している」ということであり、「(今回は)韓国の金融機関に対する制裁を見送る」というメッセージでもあります。
米国にとってはいかに韓国が北朝鮮の制裁破りなど不快な動きを繰り返していたとしても、現時点で韓国を正面切って敵に回すほどの余力はありません。トランプ政権は、まずは11月の中間選挙を乗り切らねばなりませんし、東アジアにおいて「日米韓3ヵ国連携」という建前を崩すことは得策ではないからです。
ただ、昔から「仏の顔も三度まで」と言いますが、何度も何度も韓国が対北朝鮮制裁を破り続けていたとすれば、どこかのタイミングで米国の怒りも爆発するはずでしょう。
それがいつなのか、そしてどういう形で噴出するのかはわかりませんが、1つのヒントがあるとすれば、まずは経済、金融、貿易などの面で韓国を揺さぶるであろうことは、想像に難くないのです。
セカンダリー制裁
セカンダリー制裁には伏線あり
ここで、1つの重要な兆候があります。
米財務省は北朝鮮制裁関連の資料リンク集で、今年7月23日付けの『北朝鮮への制裁と執行措置に関する勧告:北朝鮮とのサプライ・チェーン上の関連に関するビジネスリスク』(※)と題する資料について、中国語、ロシア語などと並び、わざわざ韓国語版でもPDFファイルを作成し、公表しています。
(※英語の原題は “North Korea Sanctions and Enforcement Actions Advisory: Risks for Businesses with Supply Chain Links to North Korea” )
これについては『韓国に対する「セカンダリー制裁」が現実味を帯びてきた』でも説明したとおり、日本語版の資料はないのに、わざわざ韓国語版で資料を作成しているという点が見過ごせません。
そもそも日本版がない理由は、すでに日本政府が北朝鮮に対するかなり厳格な独自制裁を実行しており、米国は日本が国を挙げて制裁破りをするとは考えていない証拠であると言い換えても良いでしょう。そして、韓国語版があること自体、米国政府が韓国政府をどう考えているかを間接的に示しています。
先ほど紹介した北朝鮮産石炭の輸入事件は、この米財務省の警告の直後に発覚したものであり、また、同事件で米国が韓国への制裁を見送った理由は、「1度や2度ならばお目こぼししてやる」という米国政府なりの「優しさ」を示しているということかもしれません。
ポンペオ氏が康京和氏に「激怒」
さらに、今月に入り、もう1つ、「マイク・ポンペオ米国務長官が康京和(こう・きょうわ)韓国外交部長に対して激怒し、怒鳴りつけた」とする話題が出ています。
これについては当ウェブサイトでも『「ポンペオ氏が韓国に激怒」報道を読んでも驚かないわけ』、『「ポンペオ氏が韓国に激怒」報道の続報 知的格闘の楽しさ』で触れていますが、元ネタは、日本経済新聞のコメンテーターである秋田浩之氏の『南北共演、極まる核危機』という記事です。
秋田氏の文章では、ポンペオ氏が康京和氏に対し、南北首脳会談で交わされた軍事分野合意について、「米軍として到底、受け入れられない内容」「韓国側から事前に詳しい説明も協議もなかった」として、9月末の電話会談で怒鳴りつけたと記載されています。
この内容が事実なのかどうかはともかくとして、トランプ政権が韓国の文在寅政権に対して、さまざまな面で不信感を抱いていることは、おそらく事実でしょう。
金融制裁しかないと考えられる理由
すでに亀裂の段階ではないのだが…
さて、冒頭に紹介した中央日報の社説に戻りましょう。
中央日報は「米韓関係に亀裂があるのではないか」として、こう主張します。
「一部では「韓米間の亀裂」という声も出ている。韓米関係がこのように揺れることになった裏には、対北朝鮮制裁緩和をめぐる両国の視点の違いがある。韓国政府は南北関係を加速させようとしている。非核化を牽引する好循環の役割をするという考えからだ。こうした南北関係の解氷は制裁緩和の方向に流れる。ところが米国の考え方は違う。南北関係の早い春は非核化問題を解決するどころか、むしろこじれさせると見ている。こうした違いのため衝突を繰り返す姿を見せているのが最近の韓米関係だ。」
いえいえ。
ブルームバーグが「文在寅氏は北朝鮮のスポークスマンだ」と報じたという話題もありましたが、文在寅氏はいまや、完全に北朝鮮の側に立っています。すでに実質的な状況は「亀裂」という段階ではありません。おそらく、米国政府は完全に韓国政府への信頼を失っているのは間違いないでしょう。
ただ、それと同時に、現在の米国にとっては今すぐ韓国との関係を断絶させるだけの余力がないことも事実です。なぜなら、米国にとっては「朝鮮半島だけを見ていれば良い」というものではなく、中国との関係、イランとの関係など、総合的なバランスで外国との関係を議論する必要があるからです。
このため、このタイミングで米国が韓国に対し、本腰を入れて何らかの「制裁」に踏み出すのかといわれれば、それは非常に疑問です。
やはり金融制裁が現実的だろう
つまり、世界最大の軍事大国である米国にとっても、意外と選択肢は限られてしまっているのです。
こうしたなか、金融制裁は、米国にとって最も手軽に使える制裁手段です。なぜなら、韓国の企業や銀行は外国から多額のおカネ(とくに米ドル)を外貨で借り入れており、もし韓国の民間金融機関が外貨資金繰りに窮すれば、韓国経済は今すぐにでも崩壊してしまうからです。
今週は、米国財務省が半年に1度公表している「為替監視レポート」の公表が予定されています。
私は米国が今すぐ中国や韓国(や日本)を「為替操作国」として認定する可能性は高くないと見ていますが、それでも、為替操作国として認定されるかどうかを巡っては、毎年、日本を除く各国がピリピリしていることは間違いありません。
また、具体的に米国財務省が直接、韓国に対する金融制裁を発動しなくても、人為的に通貨危機を発生させる、という方法もあります。FRBが利上げを行えば、自然に新興市場諸国(EM)から資金が流出し、金融基盤が脆弱な国では通貨危機が発生しやすくなります。
こうしたときに、米財務省高官らが韓国を名指しして「金融不安だ」と発言するだけで、韓国の資金フローは非常に脆弱になるかもしれません。
いずれにせよ、米韓関係については「金融」という側面から注目する価値があることは間違いないでしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
< 更新ありがとうございます。
< 『米韓に亀裂が走る』(爆笑)。日報さんよ、ひだまりくんですか?アンタラ何百回、日米を騙して北に融通してるのかッ。仏の顔も、ん〜百回までやな。
< だいたい文キチが親北、いや北朝鮮の部下ですから、お話になりません。私は嫌韓ヘイト、韓国を馬鹿にしている訳ではありません。やる事なす事、日本を貶め、その割にすがって来るからです。貧民になるのは望まないが、いずれそうなるでしょう。
< 米国財務省は、名指しで『韓国は金融不安ダッ』と言ってくれれば、すべて片付きますよ(笑)。早急にお願い!
韓国の一般市民に貯金はUS$に分けておいたほうが良いと忠告しても「何故?」という返事のみ帰ってきます。そこで昨今の経済事情等を説明すると「貯金が無いから無理」で終わります。そう、ほとんどの韓国人は貯金しないのです。自転車操業もいいとこで、電話料金が振り込めないから、コンビニの前で無料wi-fiで連絡なんてことが普通にあります。小生などは小心者ですから、支払の督促なんてとんでもないことで、そんな状態でも自動車に乗って遊び歩く韓国人の考えは理解できません。
話は変わりますが、韓国のコンビニの前には必ずと言っていいほどイスとテーブルがあります。そこでは、人が集まって宴会をするんです。最初は「えー!」と思いましたが、最近は慣れてしまいました。だいたい韓国焼酎(1瓶130円程度)とアテ(多分乾物でしょうが、凝視するとなにか言われそうで、あまり見ないようにしてます)で、2~3時間は平気で飲んでます。夜の12時を過ぎても飲んでますので、結構煩かったりします。さすがに、この文化は未だに受け入れらないです。
駄文にて失礼します
韓国在住日本人様
いつも現場からのレポートありがとうございます。
>自転車操業もいいとこで、電話料金が振り込めないから、
>コンビニの前で無料wi-fiで連絡なんてことが普通にあります。
個人負債の激増ぶりからも、ケンチャナヨぶりが顕著のようですね。
そのうち徳政令でちゃらになると思っているのでしょうか?
ところで、本日最初の記事の、いわゆる”ろうそく革命”なのですが、
一般の人の受け止め方は、支持率からみるとやったーなのでしょうか?
年代や地域によって、受け止め方の差があるのでしょうか?
おいそがしいとは思いますが、
埼玉県民様
ろうそく革命の件ですが、約2年前と言うこともあり、今では誰も気にしていないように見えます。当時も小生の周りで参加した人はおりませんでした(小生の居住地がソウルから少し離れたところにあったこともあります)。ただ、週末になると家の前ではデモが始まり、うるさかったことは記憶しておりますが、その人数でさえ大した数ではなかったことを記憶しております。従って、現韓国政府がろうそく革命は民意との発言をしておりますが、実際のところ怪しいものです。ただし、朴前大統領の悪口は結構聞きますが、一般市民はそんなことより毎日の生活が大変で、政治どころではないといった感じです。
一般の方に朴前大統領はなんの罪で捕まったのかと聞いても、チェスンシルと悪いことをしたとしか返ってきません。具体的な罪状などはありません。要するに、ただ権力者に対する嫌がらせをしたかったとしか小生には思えないのです。ちなみに現大統領も悪口が増えてますね。
駄文にて失礼いたします
>>ろうそくデモに関しては現与党(ともに民主党)の関与が明らかになってましたね。確か報酬をもらったうえで扇動に加担したとかいう記事があったように思います。あとはその後ろ盾の北朝鮮の関与もあったのではとも。
>>そして後半の件ですが、これは韓国は結果のみが重視されやすい(所謂ノーベル症もこれ)、俗に言うパリパリ精神の傾向が強いが故の反応ではと。つまり例の占い師とともに罪に処されたという結果しか興味がないが故の無知なのではと感じました。もちろん最後におっしゃっている通り恨(ハン)のはけ口としていやがらせ等の気持ちもあるでしょうね(恐らく現大統領の悪口もこの恨(ハン)のはけ口となっているのではと思います)
早速のコメント誠にありがとうございました。