【速報】カナダ・韓国間の為替スワップは通貨スワップではない!

本日2本目の記事は、「通貨スワップ」シリーズの最新号です。

通貨スワップ報道の虚実

韓国メディア、一斉に「通貨スワップ」と報じる

さきほど、複数の韓国メディアは、「韓国がカナダとの間で通貨スワップ協定を締結した」と、いっせいに報じました。

韓国、中国との延長に続きカナダと通貨スワップ締結…日本とはいつ頃?2017年11月16日10時55分付 中央日報日本語版より)
韓国とカナダが通貨スワップ締結 破格の融通枠・期限なし(2017/11/16 10:19付 朝鮮日報日本語版より)
韓国とカナダが通貨スワップ締結 破格の融通枠・期限なし(2017/11/16 10:08付 聯合ニュース日本語版より)

報道が事実ならば、韓国が外国と締結する二ヵ国間通貨スワップ(BSA)はさらに拡充した格好です。しかも、融通枠やスワップの期限も設けられていません。いわば、「破格の条件」です。

ためしに中央日報の報道を引用してみましょう。

韓国銀行は16日、同行の李柱烈(イ・ジュヨル)総裁とカナダ銀行のステファン・ポロッツ総裁が同日カナダ・オタワのカナダ中央銀行で韓加通貨スワップ協約書に署名したと明らかにした。協定は満期が設定されていない常設契約で、限度も決まっていない。規模と満期は両機関が協議して改めて決めることにした。

え?規模と満期は双方で協議する?なにか変ですね…。

締結したのは通貨スワップではなくて為替スワップ

これについては、正確な情報を取るために、カナダの中央銀行であるカナダ銀行(BoC)のウェブサイトの発表を見てみましょう。

Bank of Canada and Bank of Korea sign currency swap agreement(2017/11/15付 カナダ銀行ウェブサイトより)

カナダ銀行のウェブサイトによると、今回の協定は次の性質を有します。

The Bank of Canada and the Bank of Korea today announced a standing bilateral liquidity swap arrangement, effective immediately. The arrangement allows for the provision of liquidity in each jurisdiction to support domestic financial stability should market conditions warrant. This effectively enables the Bank of Canada to provide Canadian dollars to the Bank of Korea, and to provide liquidity in Korean Won to financial institutions in Canada, should the need arise. Likewise, the Bank of Korea can provide Korean Won to the Bank of Canada, as well as provide liquidity in Canadian dollars to financial institutions in Korea.

英文部分を解説すると、今回の為替スワップは、お互いの金融機関に対し、通貨を融通するというものであり、bilateral liquidity swapとは、日本語では「為替スワップ」と呼ばれる協定です。仕組みとしては

  • ①カナダ銀行(BOC)が韓国銀行(BOK)にカナダ・ドルを担保として提供する見返りに、韓国銀行(BOK)がカナダ国内の金融機関に韓国ウォンを貸し付ける
  • ②韓国銀行(BOK)がカナダ銀行(BOC)に韓国ウォンを担保として提供する見返りに、カナダ銀行(BOC)が韓国国内の金融機関にカナダ・ドルを貸し付ける

というものです。これは、「中央銀行同士が通貨を交換するというスワップ」(つまり通貨スワップ)とは異なる仕組みです。

これと似たようなスワップは、実は、米国、ユーロ圏、日本、英国、カナダ、スイスの6ヵ国の中央銀行にすでに存在しています。しかし、これらはあくまでも「為替スワップ」であって、「通貨スワップ」ではありません。発動する条件としては、お互いの国に金融機関の流動性危機が発生した場合に、中央銀行からの要請により国内の金融機関が入札を行うという形であり、しかも有利子での貸し付けです。

韓国が本当に欲しいのは「米ドル建ての通貨スワップ」

韓国の金融当局は「外貨準備高が4000億ドル近く存在する」と主張していますが、私の試算だと、韓国がいざというときに自由に使える外貨準備高は、せいぜい500~1000億ドル程度に過ぎません。それ以外の金額は、不良資産として溶けてしまっている可能性が高いと考えます。

こうした中、韓国が金融危機に陥る場合、必要となる通貨は、まず第一に「米ドル」、第二に「日本円」です。

たしかにカナダ・ドルは国際的に通用するハード・カレンシーではありますが、韓国が必要とする米ドルではありません。しかも、このスワップを使うことができるのは、韓国の中央銀行ではなく、民間金融機関です。

果たして韓国産業界に、どれほどのカナダ・ドル建ての「為替スワップ」(通貨スワップではなくて)があるのかはわかりませんが、韓国メディアのはしゃぎっぷりを見ていると、真実は伝えないでおいた方がよさそうです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    <毎日の更新ありがとうございます。
    < 中央日報を見て、韓国がカナダとスワップ締結。うそ?カナダよ、何で?更に破格の融通枠、期限なし。
    < え?信じられない。あ?規模と満期は双方で協議する。
    < さすがにここまで読んで、なんかおかしいなと思いました。やっぱり見出しとは違うんだ!新宿会計士様のコメントを見て納得。さすが、調べていただいてありがとうございます。やっぱりな〜そんなことだと思った。為替スワップかいな〜。記者は、まだ分かってないのかも(笑)。気の毒に。基軸通貨ではないけど、ハードカレンシーのカナダドルがそんなことするはずがない(でもないか)。にもかかわらず、誤報を流したまま。訂正、修正なしの中央日報。ヨタ記事ばかりだね。
    < ったく。ブン屋も勉強不足で赤っ恥だけど、それで最後には何の脈絡もなく、日本とはいつに?だって(アツカマシイ)。未来永劫日本とは無い。シッシッ。
    < 話変わって、加計獣医学部問題の件で、維新の足立康史議員が、朝日の偏向報道に対して「朝日死ね」とツィート。朝日新聞社が看過出来ないと反発してます。ところがなんと弟分というか、一族郎党の東京新聞社も朝日に加勢している。自分らの悪行棚に置いて、マトモな意見の議員を紙面で非難するとは何事か。本当に「朝日、東京死ね」ですわ。絶対生きてる間に潰す。失礼しました。

  2. ゆいな より:

    カナダがトチ狂ったと思っていましたが、こういう事だったのですね〜。
    教えて頂きありがとうございます(^^)

  3. 名無しさん より:

    本当に勉強になります
    いつもありがとうございます
    今回、カナダ?と思ってましたが、謎がとけました
    今後ともよろしくお願い申し上げます

  4. 匿名 より:

    他のまとめサイトのコメント欄で紹介されて読みに来ました
    詳しい解説ありがとうございます。
    まあ最近のカナダはかなり中共ついでに韓国にも汚染されてるので無くはないのかなと一瞬思ってみたり
    (それにしても無制限はありえないとは思っていましたが)
    記事を読んで納得
    まーねーよなーwと

  5. aa123 より:

    まとめサイトから来て一気に読んだ、てかこんなマニアなサイトがあったんだ、びっくり。

  6. もも より:

    「為替スワップ」と一般にマーケットで呼ばれるものは、FWDと言って、足元で通貨を交換し、満期日にそれぞれの通貨の「将来価値」の価格で再交換する取引です。
    (満期日で交換する元本金額を、現在価値に引き戻して手前で交換する、と言った方がわかりやすいか)

    会計上も実態上も、有利子のローンではありません。
    用語の使い方を間違っているか(カナダ政府の言ってるbilateral liquidity swapの誤訳)、なにか誤認されているのではないでしょうか。

    そもそも、「通貨スワップだからよくて」、「為替スワップではダメ」というものでもありません。
    マーケットでは、一般にボラティリティが大きい長期の取引には通貨スワップを、6ヶ月以内等の短期の取引を為替スワップで行うことが多い、というだけで、外貨運用調達手段、ポジションのヘッジ手段としては何らかわりありません。

    おそらくミソは、そもそも国家間の通貨スワップ(為替スワップ)はコミットメント取引ではない為に、表に出てこない発動条件、制限がある、ということ(枠を決めているだけで、いざ必要になっても、相手国は拒否できる。外交上の問題は生じるでしょうが)か、
    あるいは現在、「期限、金額を決めない」(=無制限)のような書きぶりになってますが、実際には「これから決める」(=有限)というオチなのか、そのあたりなのではないでしょうか。

    もし、期限、金額無制限の為替スワップ契約(発動にさほど高い要件はない)を、6中銀の1か国であるカナダと本当に締結したのであれば、事実上韓国もその6か国の1つに近い効果を得た、と言って間違いないと思います(だからこそ、私はどこかでにワナ、ミス、誤認があると思ってますが)

    逆に言えば、6中銀の参加国が、そのコミュニティ外の通貨と、そんな不用意なスワップ協定は結ぶはずがないとも言えるのですが。

    1. 新宿会計士 より:

      もも 様

      コメント大変ありがとうございます。ここの管理人の「新宿会計士」と申します。

      ただ、少し知識をお持ちの方で、当ウェブサイトの記事の誤りをご指摘いただいたようですが、肝心のご指摘自体にいろいろと問題が混入しています。普段であればスルーsるのですが、最近、多くの方が当ウェブサイトを訪れて下さっているという事情もあります。コメント自体は大変にありがたいものの、やや異例ながら、私自身がこちらのコメント欄を使って、コメント主様の認識について反論いたします。

      まず、本稿ではデリバティブの世界の「通貨スワップ」(cross currency swap, CCS)と「為替スワップ」(先物外為取引)の議論をしているわけではありません。日本語の用語としてはそっくりですが、「通貨スワップ」の場合はデリバティブのcross currensy swap(つまりCCS)、国際金融協力におけるbilateral swap agreement(BSA)は全くの別物です。

      ちなみに、bilateral liquidity swapを「為替スワップ」と訳したことについて「誤訳」と断言されていますが、誤訳ではございません。なぜこれが誤訳ではないかについては、日銀のウェブサイト『海外中銀との協力』(http://www.boj.or.jp/intl_finance/cooperate/index.htm/)やそれに相当するFedなどのウェブサイトあたりを読んで、しっかりと理解されることをお勧めいたします。

      なお、デリバティブの世界にいう「通貨スワップ」と「為替スワップ」にも大きな違いがあります。頂いたコメントの中に、

      >マーケットでは、一般にボラティリティが大きい長期の取引には通貨スワップを、6ヶ月以内等の短期の取引を為替スワップで行うことが多い、というだけで、外貨運用調達手段、ポジションのヘッジ手段としては何らかわりありません。

      という下りがありますが、こちらもマーケットの実務感覚とは、かなりのズレがあります。デリバティブの世界でいう「通貨スワップ」(BSAではなくCCSの方)と「為替スワップ」については、「期間の違い」だけでなく、法規制(金商法かどうか)、契約(とくにISDAベースかどうか)、契約条件(直先フラット型かどうか)、会計上の取り扱い(とくに債券に対するヘッジ会計上の取り扱いや銀行業に対するいわゆる第25号ヘッジの取り扱い)などに大きな違いが存在します。さらには為替スワップを利用した「ローリング・ヘッジ」なども機関投資家の世界では普通に行われているため、「短期=為替スワップ」、「長期=通貨スワップ」というご認識も適切ではないと思います。

      (もっとも、今年3月から適用されているマージン規制上は、先物外為取引(つまり為替スワップ)を通貨スワップと同様の取り扱いとすることが認められているため(金商業者府令第123条第7項ロ)、業者間のISDA/CSAの取り扱いとしては、「取引情報作成対象業者」間の変動証拠金(VM)規制上は、両者は同一とみなされ始めているようですが。)

      なお、この点について反論がございましたら遠慮なくなさってください。

      引き続き当ウェブサイトをご愛読賜りますよう、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

    2. 銀行員 より:

      久しぶりにコメントします。上の方で為替スワップと通貨スワップがヘッジ対象ポジションのボラティリティにより使い分けられているというコメントがあったのですが、違いますよ?多分この人はデリバティブのフォワードとBSA/BLAの議論をごっちゃにしてるんだと思いますが、デリバティブの話じゃないってことはブログ記事読んだらわかるのでは?ちなみにデリバの話をするんだったら、為替スワップはISDA不要なので通貨スワップよりやりやすいというだけの話で、ヘッジ対象ポジションのボラで決まるもんじゃないですよ。どっかの知ったかぶりの素人さんかな?ちなみに為替スワップ(デリバじゃないBLAの方)は通貨スワップと違って金融機関が担保を積んで中銀から金を借りる仕組みで、多くの場合は借りる通貨と同一の通貨の担保が必要らしいです。だから金額無制限でも実際に借りるためにはハードルが高いでしょう。あとBLAを為替スワップと訳すのは日銀の役だから正しいです。生半可な知識で反論するのは恥ずかしいから気をつけた方がいいですよ。

      1. 銀行員 より:

        おっと、コメントして気付きましたがブログ主さん直々に反論されたようですね。AIIBの記事以来かな?ブログ主さん、さすがデリバにもお詳しいようで^_^

      2. porter より:

        アホコメントがフルボッコ過ぎてワロタwwwこーゆーのを論破っつーんだなwwwwwめっちゃ爽快だよw

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