豪ドル・スワップは「焼け石に水」
昨日配信した『【速報】韓国、オーストラリアとのスワップを倍増』について、世間的にも誤解があるようですので、少し補足しておきます。
豪ドル・スワップ「倍増」の捕捉
韓国、豪ドルとのスワップを「倍増」
昨日、豪州と韓国は、「通貨スワップ」を「倍増」することで合意しました。
Bilateral Local Currency Swap Agreement with Bank of Korea(2017/02/08付 RBAウェブサイトより)
豪州準備銀行(Reserve Bank of Australia, RBA)のウェブサイトによると、3年前の2014年に韓国との間で締結された「二カ国間自国通貨スワップ協定(Bilateral Local Currency Swap Agreement, BLCSA)」を3年延長するとともに、韓国に提供する豪ドルの額を2倍の100億豪ドルに増額することで、韓国側と合意したとのことです(図表1)。
図表1 RBAとのBLCSAの更改
更改前 | 更改後 | |
---|---|---|
期間 | 2014年2月23日~2017年2月22日 | 2017年2月23日~2020年2月22日 |
豪ドル | 50億ドル | 100億ドル |
韓国ウォン | 5兆ウォン | 9兆ウォン |
この合意を受けて、「日本とのスワップ協議中断」で衝撃を受けていた韓国メディアは、久しぶりの「明るいニュース」として紹介しているようです。
韓・豪、77億ドル規模の通貨スワップを締結(2017.02.09 05:37付 ハンギョレ新聞日本語版より)
日本と通貨スワップ中断の韓国、豪州と2倍に拡大(2017年02月08日14時41分付 中央日報日本語版より)
韓国とオーストラリアの通貨スワップ 3年延長=融通枠も拡大(2017/02/08 15:06付 聯合ニュース日本語版より)
このうち、聯合ニュースは
「融通枠は従来の5兆ウォン(約4900億円)・50億オーストラリアドル(約4300億円)から9兆ウォン・100億オーストラリアドルと2倍水準に拡大した。また、両国は相手国に融通してもらった資金を貿易決済だけでなく新たに金融安定の目的でも使えるようにした。」
と報道。さらにハンギョレ日本語版は
「オーストラリアドルは国際金融市場で取引量が世界5位だ。その地位はドルや円にははるかに及ばないが、ウォンよりは国際通貨としての地位が高い。2015年2月に日本と通貨スワップ契約が終了して以来、韓国がウォンより強い通貨を保有する国家とスワップ契約を締結したのは今回が初めてだ。」
と述べるなど、いずれのメディアも「強い国とのスワップ」を歓迎する姿勢で一色です。
「倍増」の実態
ただ、「倍増」という報道に注目が集まっていますが、果たして本当に「倍増」なのでしょうか?
WSJから豪ドル・米ドルのヒストリカル為替相場(終値)を取得すると、2013年2月22日時点で1豪ドル=1.032米ドル、2017年2月8日時点で1豪ドル=0.7643ドルです。これを踏まえて、スワップ開始時点における米ドル換算のスワップの金額を比べてみましょう(図表2)。
図表2 「倍増」の実態
時点 | 豪ドル | 米ドル |
---|---|---|
2014年2月22日 | 50億豪ドル | 51.6億米ドル |
2017年2月8日 | 100億豪ドル | 76.43億米ドル |
つまり、「豪ドル建てでは倍増」していることは間違いありませんが、米ドル建てでは1.5倍程度に過ぎません。
韓国が締結したBSAが「米ドル建て」ではなく「豪ドル建て」である以上、為替変動の影響に晒されるのは当然です。そして、豪ドルの価値は米ドルに対して上昇するかもしれませんし、下落するかもしれません。「イザというときのため」に通貨を安定させるためには、やはりきちんとした外貨準備か、それとも米ドル(かそれに準じるハード・カレンシー)との通貨スワップが必要なのです。
韓国の外貨ポジション
では、ここで韓国の外貨ポジションを振り返っておきましょう(図表3、図表4)。
図表3 韓国の「外貨ポジション」(2016年9月末時点)
項目 | 金額 | 備考 |
---|---|---|
①外貨準備高 | 3,729億ドル | 出所:国際通貨基金(IMF) |
②韓国政府が保有する米国債の最大値 | 726億ドル | 出所:米財務省統計(TIC) |
③外貨準備高のうち、内訳不明部分 | 3,003億ドル | ①-② |
④外国との通貨スワップ | 735億ドル | 出所:スワップ協定全般アップデート図表6 |
⑤CMIM | 384億ドル | 出所:スワップ協定全般アップデート図表3 |
図表4 韓国と韓国以外の国との通貨スワップ協定(2017年2月9日時点)
締結日 | 失効日 | 相手国 | 韓国ウォン | 相手国通貨 | 米ドル換算 |
---|---|---|---|---|---|
2014/2/8 | 2020/2/22 | オーストラリア | 9兆ウォン | 100億豪ドル | 約76億ドル |
2017/1/25 | 2020/1/24 | マレーシア | 5兆ウォン | 150億リンギット | 約34億ドル |
2014/3/6 | 2017/3/5 | インドネシア | 10.7兆ウォン | 115兆ルピア | 約86億ドル |
2011/10/10 | 2017/10/10 | 中国 | 64兆ウォン | 3600億元 | 約524億ドル |
(合計) | 88.7兆ウォン | ― | 約721億ドル |
(【出所】韓国銀行ウェブサイト、各国中央銀行ウェブサイト等より著者作成。ただし、「失効日」について明文記載がないものについては応当日の前日を「失効日」とみなしている。また、「相手国通貨」の米ドル換算額については、各通貨を2017年2月8日付為替相場終値で試算。)
まず、韓国が発表する外貨準備高は、2016年9月末基準で、3729億ドル(約44兆円、上記①)です。しかし、一般的に「外貨準備の大部分を占める」と考えられる米国債の保有残高は、最大でも726億ドル(9兆円弱、上記②)に過ぎず、「通貨の売り浴びせ」には非常に脆弱です(※ただし、TICの統計は常に変動します)。
一方、韓国は「チェンマイ・イニシアティブのマルチ化協定(CMIM)」にも加盟しており、緊急時には384億ドルのドル資金を引き出すことができるとされています。ただ、以前『CMIMスワップは「使えない」』でも指摘したとおり、CMIMは日本、中国だけでなく、ASEAN諸国も加盟する協定です。このため、韓国がCMIMからお金を引き出すことは、事実上、困難です。
さらに、韓国が「イザというときに頼みにする」はずの諸外国との通貨スワップ協定については、米ドルに換算すれば721億ドル程度ですが、豪州との100億豪ドルのスワップを除けば、いずれも「ソフト・カレンシー」(国際的に通用しない通貨)とのスワップばかりであり、役に立ちません。
通貨危機への備え
ここで、「通貨危機」の多くは、ヘッジファンドなどの投機筋が、ある国の通貨を売り浴びせることなどで発生します。また、過去にはドル建てのアルゼンチン国債やロシア国債やユーロ建てのギリシャ国債がデフォルト(債務不履行状態)になったことがありますが、危機時には「一国の政府」であっても市場に逆らうことはできません。
例外は、「自国通貨建てでしかお金を借りていないケース」です。日本政府が「1000兆円も借金をしている」と報じられることもありますが、日本政府は一銭も外貨建てでお金を借りていません(もっとも、某政府系金融機関が外貨調達をしているようですが…)。どんな酷い通貨危機が発生したとしても、そもそも日本は国全体として「外貨建で借りているお金」が少ないので(※為替スワップ等は除く)、日本が国際的な通貨危機に巻き込まれる可能性は極めて低いでしょう。
しかし、韓国の場合は「韓国ウォン」自体が国際的に通用する通貨ではないという事情もあり、外貨建で巨額のお金を借りている「模様」です。もちろん、韓国の資金循環統計は、かなりのウソをついているようですが(詳しくは『資金循環統計でウソをつく国』をご参照ください)、私の試算では、韓国は常に、日本円に換算して約30~40兆円程度の「資金流出リスク」に晒されています。
私たち日本に求められることは、見た目は平静を装っている韓国で、いつ通貨危機が起きても不思議ではないことを認識し、韓国の企業や銀行が発行する債券に投資する時にはリスク管理には最大限に配慮することではないかと考えています。
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