ウォンが金融危機以来の最安値を更新:懸念深まる韓国

昨日は米国のCPIデータを受け、外為市場では全面的なドル高の様相を呈しています。こうしたなかで隣国の通貨・ウォンも、今朝の寄り付きで1ドル=1390ウォンの大台をあっけなく突破しました。当局による為替介入が入れば1ドル=1390ウォンの大台割れもあり得ますが、それよりも気になるのは、韓国銀行が現在直面しているであろう「利上げをすれば金融危機、利上げを見送れば通貨危機」というジレンマです。

CPIが予想上回り全面的なドル高に

昨日は米国で公表された消費者物価指数(CPI)のデータが市場予測を上回ったことで、為替相場ではいっせいに「ドル高」に動きました。

日本では1ドル=144円台半ばから145円台をうかがう勢いであることなどが注目されていますが、それだけではありません。たとえばユーロは再び1ユーロ=0.9979ドルと、「パリティ(等価)」を割り込む水準に急落する一方、ポンドも1ポンド=1.1495ドルと、前日と比べて2セント以上動いています。

ほかにもスイスフランやカナダドル、豪ドル、NZドル、さらには北欧通貨(デンマーククローネ、スウェーデンクローナ、ノルウェークローネ)、アジア通貨(タイバーツ、シンガポールドルなど)も米ドルに対して下落しているため、今回の現象は「円安」というよりは「ドル高」と述べるのが正解でしょう。

このあたり、行き過ぎた為替変動は世界のサプライチェーンにも影響を生じるため、望ましいものではありません。

ただ、日本の場合に限定していえば、日本自身が世界最大の債権国であるという事情に加え、(海外移転がずいぶんと進んでしまったとはいえ)依然として製造立国としてのポテンシャルも有しており、電力の安定供給という課題さえ何とかなれば、円安をてこに日本経済が大きく躍進するだけの条件が整っています。

しかし、これはあくまでも日本の事情であり、外国に対してはこのような条件が適合するとは限りません。

とくに、外国からカネを借りて生産活動を行っている企業の場合、自国通貨の価値が急落すれば、資本コスト(この場合は外国からおカネを借りるための潜在的なコスト)が上昇するほか、その企業の財務内容が悪化するなどして、債務の借り換え(ロール)ができなくなるという事態にも直面しかねません。

とくに、企業にとって「ロールができなくなる」という事態は、悪夢以外の何物でもありません。最悪の場合、ハンドリングを間違えたら、資金繰りが詰まって即倒産、といった憂き目にも遭うからです。

13年5か月ぶりに1ドル=1390ウォンの大台を突破

こうしたなか、自国通貨高にも自国通貨安にも極端に弱い国があるとしたら、典型的には私たちの隣国でしょう。

韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)の今朝の記事によれば、韓国ウォンの対米ドル相場(USDKRW)は寄り付きが1ドル=1393.0ウォンで前日比19.4ウォンの下落です。1390ウォンの大台、あっけなく突破してしまいました。

韓国銀行のデータベースに基づけば、1ドル=1390ウォンの大台を突破するのは、日中最安値ベースで1ドル=1392.0ウォンを記録した2009年4月1日以来13年5ヵ月ぶりのことです。1997年のアジア通貨危機時や2008~09年の金融危機時を除けば、これほどのウォン安は過去に例がありません。

これ以上の水準は、1ドル=1400ウォン台や1500ウォン台など、正直、為替相場も「飛び飛び」であり、いよいよ本格的に金融危機ないしは通貨危機時の水準に突入したかの感があります。

韓国の外貨準備の怪しさ

この点、もちろん、形の上では現在の韓国が直ちに通貨危機に陥るというものではありません。同国の外貨準備は(公式データに基づけば)2022年8月時点で4364億ドルであり、通貨危機発生直前の1997年1月の302億ドル、金融危機直前の2008年1月時点の2614億ドルと比べて余裕があります。

ただ、それと同時に韓国は外貨準備を「積極運用」していることでも知られており、『韓国が外貨準備高のうち1573億ドルを「積極投資」』などでも述べたとおり、どうも韓国銀行自身が本来ならば外貨準備にカウントすべきではない「積極投資」している資産を外貨準備にカウントしている疑いもあるのです。

実際、米財務省の統計データ上も、韓国が国を挙げて保有している米国債などの残高は1000億ドル前後しかありません(『韓国外貨準備データと米財務省データの「大きな差額」』等参照)が、こうした状況も、韓国が公表している外貨準備高が実態よりも水膨れしている可能性を示唆するものでもあります。

さらには、韓国の場合は外貨預金の割合がもともと日本よりも高いことで知られていますが、『「個人のウォン売り」はらむ問題点を指摘する鈴置論考』でも紹介したとおり、韓国観察者の鈴置高史氏は「個人のウォン売りの圧力」の危険性を指摘しています。

こうした状況を踏まえるならば、「アジア通貨危機やリーマン・ショック時と比べて外貨準備が多いから韓国経済は絶対に大丈夫」、などと結論付けるには、少し早すぎます。

為替相場を気にした金融政策運営の限界

これに加えて韓国ウォンの場合、ウォン安になれば場中で不自然な買戻が見られるのですが、これなどは「行き過ぎたウォン安を是正するスムージング・オペレーション」と題した事実上の為替介入でしょう。

あくまでも個人的な予想ですが、韓国銀行当局としては、これから1ドル=1390ウォン台以下に為替相場を押し下げようとするのか、それとも1ドル=1390ウォンの大台は諦めて、1ドル=1400ウォンの死守に回るのかはわかりません。

ただ、韓国が2020年3月のコロナ禍以降に溜め込んだ外貨準備をすべて吐き出すくらいでウォン安が収まるのかどうか、あるいは今月のFOMCで米国が利上げに踏み切った場合、韓国銀行が追随して利上げに踏み切るのかどうかについては、ある意味では見ものです。

韓国でノンバンク中心に不動産関連融資延滞率が上昇か』を含め、普段から当ウェブサイトでお伝えしているとおり、データで見ると韓国で不動産関連融資の焦げ付きが始まる気配が見られ、多重債務が韓国で社会問題化し始めているからです。

韓国銀行が利上げをすれば、多重債務者の家計が破綻するという事態が相次ぐ可能性もありますし、かといって利上げをしなければ(あるいは利上げ幅が中途半端なら)、米ドルに対する通貨安がさらに続き、どこかのポイントで通貨危機に発展するという可能性もあります。

もちろん、日本を含めた先進国の場合だと、中央銀行の金融政策は為替相場とは無関係に決定されます(これについては「国際収支のトリレンマ」という命題とも密接に関わってくるのですが、この点の説明は本稿では割愛します)。

しかし、韓国の場合は「開放経済」でありながら、金融政策の独立と為替相場の安定という2つの矛盾する目標を追いかけているフシがあるため、正直、どこかで破綻を来す可能性が高いように思えてならないのです。

通貨危機?金融危機?その両方?

こうした韓国銀行の金融政策運営がもたらす結果は、いったい何でしょうか。

「国内家計債務者の破綻を通じて金融機関が資本不足に陥る」という意味での金融危機でしょうか?それとも「利上げが不十分でウォン安ドル高が無制限に続き、韓国から外貨が流出する」という意味での通貨危機でしょうか?あるいはその両方なのでしょうか?

この点、前回の危機の際には日本や米国が支援をしたという実績があります。とくに1997年のアジア通貨危機後に日本が主導して成立した「チェンマイ・イニシアティブ」(CMI)の枠組みなどに従い、日本が韓国と通貨スワップを締結するなどしたのに加え、2008年の金融危機の際には日韓通貨スワップの増額、米韓時限為替スワップなどの措置もありました。

しかし、現在の韓国は米韓為替スワップ、日韓通貨スワップのいずれも期待できない状況にあります。また、韓国は中国と4000億元の通貨スワップ協定を締結していますが、米ドルとの自由交換に制約がある人民元を入手したところで、通貨危機を防ぐのに役立つものなのかは微妙でしょう。

いずれにせよ、隣国の為替相場の動きについては、それが通貨危機に発展しかねないという点、さらには国際金融市場への混乱を引き起こす可能性の有無、といった観点からも、引き続き注意を払う必要がありそうです。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    今日NHKが「日韓逆転」というテーマで解説委員のお話を流していました
    逆転したのに為替にしろ何にしろあっちが必死のような気がするのは、気のせいなんでしょうね

  2. とくめい係 より:

    個人的な謎なのですが、前回通貨危機で

    >韓国がアジア経済危機の直撃を受けた時のこと。とにかく外貨(ドル)が足りない。そこで金製品の供出を国民の愛国心に訴えたところ、なんと200トン以上も集まり、それをマーケットで売却。当座の外貨不足を凌ぎました。

    との俗説が伝えられていますが、これは初めてのIMFだったので皆ビビッてこの行動に出たのか、何か裏があるのか分からずもやもやしています。次回の危機で何か分かればスッキリすればと期待していますが。

  3. コジna より:

    9月のFOMCが100bpの利上げになると言う見方が47%を超えたようです。
    個人的にはこの状況は長くは続かないと思います。
    現在のような状況ではどこか大きい経済圏が破綻します、確信を持って言えます、中国でしょう。
    その時、欧米は金利を下げて対応し、日本は通貨高で対応すると予想します。
    自分はいまの状況が怖いです。
    日本が壊れるとか言う陰謀論やトンデモ論ではなく、何と言うか弓の弦を引っ張られてるような・・・
    どーんと打ち出されオーバーシュートの円高になる危機感を感じています。
    通貨安についても心配事が南朝鮮とは全く異なります。

  4. サムライアベンジャー(「匿名」というHNを使っている方は在日コリアンと同じという認識を持っています) より:

    1ドル1400ウォン台目前だというのに、思いのほか最近の韓国紙ではあまり記事になってないような気がしますね。まあ、これと言ってウォン安を止める手立てがありませんからね、「スワップ待望論」の記事がガンガン出てくるかと思いきや、なぜか最近、少ない・・・

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告