上の子は中学生なのに…無理して家買う必要はあるのか

手取りと年収の関係をしっかりと把握しておかないと、人生で過大な投資をすることにもなりかねません。とある記事では年収800万円弱の42歳経理マンの方が5000万円のローンを借りて自宅を買おうとしている、とする事例が取り上げられていたのですが、冷静に考えるとこれは発想を転換した方が良いのではないでしょうか。物件にもよりますが、資産価値が大きく落ちない家の購入方法というものもあるからです。

年収1200万円は思ったほど豊かではない

「年収1200万円」などと聞くと、「おカネ持ちだね!」「豊かな暮らしができているんだね!!」、といった反応が返ってくるかもしれません。なにせ年収1200万円、単純に12ヵ月で割ったら毎月100万円ですから、これはかなり豊かな暮らしができるに違いない、などと思うのも当然です。

しかし、現実問題として、わが国では税や社保の負担が少々高すぎます。

単純化のために、この年収1200万円の人はボーナスも扶養親族もなく、ひとり暮らし(あるいは夫婦共働きで配偶者控除が受けられず、子供もまだ幼くて年少扶養控除も受けられない)、といった事例で考えてみると、どうなるでしょうか(※なお、40歳以上で介護保険に加入させられているものとします)。

このとき、東京都政管健保・令和7年3月分以降の社保料率を使用するとして、年収1200万円ならば天引き額は3,542,467円(うち社保が1,469,700円、所得・復興・住民税が2,072,767円)と計算されますので、年手取り額は8,457,533円、毎月の手取り額は704,794円に過ぎません。

会社負担分も含めれば4割近く負担

しかも、この年収1200万円の人が会社員ならば、会社がこの人を雇うために支払った金額は、これをさらに上回ります。社保は会社が同額以上を負担させられているからであり、年収1200万円の場合だと、その金額は1,539,780円です。

すなわち会社が負担させられている人件費は13,539,780円、この人の額面年収は12,000,000円、この人の手取りは8,457,533円で、実質的に4割近く天引きされ、労働者の手元には62%少々しか残らない、という計算です。

年収1200万円の実態
  • 人件費トータル…13,539,780円(100.00%)
  • 社保会社負担分…*1,539,780円(11.37%)
  • 社保本人負担分…*1,469,700円(10.85%)
  • 所得復興住民税…*2,072,767円(15.31%)
  • 労働者の取り分…*8,457,533円(62.46%)

なかなかに、強烈ですね。

以上を踏まえて、少し整理しておきたい論点があるとしたら、私たち個人レベルの生活水準をどう調節するか、というものでしょう。

正直、稼いでも稼いでも半額近く(場合によっては半額以上)を税金に持っていかれるというわが国では、高年収の人ほど割を食う仕組みだといえます。

世帯年収1000万超えならば?

それはさておき、当ウェブサイトはどちらかといえば政治経済を評論するサイトではあるのですが、たまには個人の生活設計についても議論してみたいと思っており、そのちょうどよい材料がありましたので紹介しておきたいと思います。

【住宅ローンの現実】42歳、世帯年収780万。ローン5,000万は高すぎますか?【FPが解説】

―――2025/04/08 06:30付 Yahoo!ニュースより【4yuuu配信】

『4yuuu』というウェブサイト(どう読むのでしょうか?「フォーユー」でしょうか?)が8日付で配信した記事によると、相談者は42歳経理職で年収780万円の男性であり、家族構成は年収350万円の奥様とお子様2人(小中学生)だそうですが、これから5000万円の住宅ローンを借りるのだそうです。

これからマイホームを購入予定です。世帯年収780万円で5000万円のローンは高すぎますか?住宅資金を貯めたいのですが、付き合いでなかなか飲み代を削れません」。

ご本人の年収が780万円で奥様が350万円なら、「世帯年収780万円」は事実誤認ではないかと思いますが、とりあえず細かい点は気にしないことにします。記事なりの解釈についてはリンク先を読んでいただきたいのですが、本稿では当ウェブサイトなりの分析をしてみたいと思います。

ギリギリ許容範囲だが、生活は苦しくなる

まず、著者自身が試算すると、この人の年俸780万円に対応する手取り額は年間でざっと5,733,701円であり、これに奥様の年収350万円に対応する手取り2,745,945円を加えると、世帯全体の手取り額は、8,479,646円。

すなわち、ひとりで年間1200万円稼いでいるのとほぼ同じ手取りが実現できている格好です。

しかも、昨年10月以降は児童手当が年収制限なしに給付されるようになったこと(このご家族だと毎月2万円、年間合計24万円)、上のお子さんがもうすぐ高校生になり、児童手当がなくなる代わりに扶養控除が使えるようになること―――などを踏まえると、現実には生活にはもう少し余裕が出てきます。

もちろん、ご本人と奥様がいつまで働けるのか、という問題はあるのですが、とりあえずこの手取り水準が続くならば、5000万円のローンを20年程度で借りるのは、ぎりぎり可能な水準です。

一般に住宅ローンは元利金の返済額が額面年収のざっと3分の1以下に収まるように組む必要があるとされており、共働きが続くのであれば、この家庭の年収1130万円(=780万円+350万円)に対し毎年のローン元利金支払い額は377万円まで許容されます。

ローン金利が2.25%だったとし、頭金やボーナス返済などを考慮しなければ、ローン返済額は毎月約25.9万円、年間で約311万円ですので、元利払い許容額377万円の範囲内です。

ただし、手取りが850万円ほどであることを踏まえると、その手取りの40%弱がローン返済に取られることについてはりゅウイする必要がありそうです。生活はかなり苦しくなりますし、経理マンの男性も飲み会におちおち行ってられなくなります。

無理して家を買う必要はあるのか?

ただ、この記事を読んでいて覚える違和感がひとつあるとすれば、「このご家族が家を買う必要はあるのか?」、です。

そもそも論ですが、お子様は上が中学生であり、ということは、年齢でいえば12~15歳程度です。遅くともあと6年以内には高校を卒業します。その後、お子様が大学や専門学校に進学するのか、就職するのかはわかりませんが、少なくとも子供部屋自体があと10年以上も必要だとは考えづらいところです。

また、下のお子様が小学校低学年なのか、高学年なのかはわかりませんが、もし現在5、6年生くらい(つまり年齢が11~12歳くらい)だったとしたら、やはりあと10年もしないうちに、お子様が家を出ていく可能性がありそうです。

もちろん、親御さんとしては子供さんにはいつまでも家にいてもらいたいと思っているのかもしれませんが、(お子様の性別や年齢にもよるものの)さすがに40代に突入してお子様も大きいのに家を買うというのは、やや過大投資、という気がしてなりません。

この点、著者自身、家というものはライフスタイルに合わせて住み替えていくものだと考えていますし、また、どうしても家を買いたいと思うならば、子供が小さいうちに思い切って買ってしまうか、いっそのこと流動性の高い都心部の便利な場所にある中古マンションのリノベーション物件を購入するのが良いのではないかと考えています。

資産価値が落ちない家の買い方

もちろん、こんな考え方をするのは著者だけなのかもしれませんが、それでもそう考えるのには、それなりの根拠もあります。

たとえば、東京都心に勤めている人が、東京のベッドタウンの駅から離れた場所に一戸建ての家を購入するというのは、将来自分自身が要介護状態になってしまったときなどを考えると、資産価値の観点からはどうももったいないという気がしてなりません。

都心から離れた、しかも駅からも離れた物件だと、自動車所有が前提となりますし、高齢化して自分自身が運転できなくなったあかつきには、自宅から出られなくなってしまうという事態にも陥りかねないからです(著者自身の親戚にそういう事例が数件あります)。

これに対し、近年でいえば、東京や大阪などの大都会の中心部にある中古の低・中層マンション物件の場合、築年数が経過していくと、ある程度で値段が落ちなくなります(※ただしマンションの管理状態などにも依存しますが…)。

記事に出ていたご家族が買おうとしている物件の条件はよくわかりませんが、もしも相談者の方が典型的な「東京都心部に勤め、郊外の駅からも遠い一戸建て物件」をご検討になられているのだとしたら、冷静に数年先を見通した方が良いのではないか、という気がしてなりません。

記事だけだと前提条件が良くわからない部分もありますが、一般論として申し上げるならば、むしろいまは賃貸物件に暮らし、おカネを貯めて一部を株式などで運用するなどし、お子様の学費を準備する方が賢明かもしれないのではないか、などと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 引きこもり中年 より:

    これは日本の話ですか、中国の話ですか。それとも韓国の話ですか。

  2. 匿名 より:

    同意ですね。
    やはり家は買った方が良いですが資産としても流動性の高いのがベストなのは間違いないですね。
    先祖代々の土地とか今時は関係無いですしね。
    先々、老後も子供が面倒見てくれるのかとかライフサイクルで変わりますしね

    1. 匿名 より:

      義理の親も無理してタワマンを買いましたが、今や管理費や修繕費でお金がどんどん出ていき贅沢なんて何もできません。しかも身体が動かなくなるにつれ外出が難しくなりました。
      先日も火災(警報機の誤作動)で非難指示が出ましたが、21階から足の悪いお年寄りが逃げるには困難でした。

      なので10年後、20年後を見据えて買った方が良いですよね。仮に家を残しても後々、兄弟で揉める原因になったり、最悪、子供たちが家を買っていれば親の家は廃墟決定です

  3. 匿名 より:

    前振りで可処分所得の話が来てしまうと、頭に血が上り本題を読む気が失せる。
    そして相互関税で株価が暴落。益々気が滅入る。
    減税をつぶした政党。夏の参院選、楽しみに待ってろよ。

  4. 丸の内会計士 より:

    トランプ関税で日本は、減税と規制緩和がMustでしょう。建築基準法等の改正でスマートシティを作りやすくし、居住を進める必要があり、もしかすると住宅は、かなり安くなる可能性があります。
    これに加え、相続税でかなり売りが出ると思います。

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