ロシア側に70兆円以上の賠償義務=ウクライナ経済相

ウクライナのユリア・スビリデンコ経済相はロシアの侵攻により5649億ドルもの損害が生じており、その金額を賠償する義務がある、とする見解を公表しました。1ドル=125円で計算すれば、70兆円にも相当する途方もない金額です。その一方で、ロシアの外相は「非友好国」に対し、入国ビザの制限措置を導入すると述べた、とする話題も出て来ました。

ロシア処分の行方

西側諸国の対ロシア制裁の影響は、日が経つごとに大きくなりつつあります。

今朝の『ロシアをさらに孤立させるフィンランド鉄道路線の停止』でも取り上げたとおり、フィンランド国鉄は28日からロシア行きの直通列車の運行を中断したほか、ロシアの航空会社が主要な国際路線の運航停止に追い込まれており、ヒト、モノの流れにもかなりの影響が出始めています。

こうしたなか、ロシアのメディア『タス通信』(英語版)の報道によると、セルゲイ・ラブロフ外相は月曜日、「非友好国」の国民に対する入国規制を柱とした大統領令を準備していると述べたしたそうです。

Russia works on tit-for-tat visa moves against unfriendly countries — Lavrov

―――2022/03/28 23:36付 タス通信英語版より

具体的には、この大統領令では「一部の外国の非友好的な動き」に対する「報復ビザ措置」について盛り込まれるとしており、これに加えて「ウクライナにいる第三国の市民、ロシア市民権のない人たち」については、「彼らの生命や健康を守る措置」として、ロシアへの入国手続が簡素化された、などとしています。

何だか、大変に気になる措置です。「ウクライナに侵攻したロシア軍が現地の人たちを強制的にロシア領に連行している」、などとするウクライナ側の発表もあるからです。

ただ、この手の発表が出て来る時点で、ロシアがかなり余裕をなくしているであろうことは、想像に難くありません。『ロシア「非友好国リスト」は金融制裁が効いている証拠』などでも指摘しましたが、ロシア側は自身が困っているときに「対抗措置」を講じることが多いからです。

ウクライナ経済相「ロシア侵攻の損失は70兆円以上」

その一方で、ロシアのウクライナ侵攻には、日本円換算で70兆円以上に達する、との話題も出て来ました。

ウクライナのユリア・スビリデンコ経済相は28日、自身のフェイスブックでロシアの軍事侵攻に伴う1ヵ月間の経済的損失が5649億ドルに達したとする試算を示したのです。

スビリデンコ氏によると、内訳は次のとおりだそうです。

  • 1190億ドル…インフラ損失(約8千㎞の道路、数十の駅、空港などの破壊)
  • 1120億ドル…2022年のGDP損失
  • 905億ドル…民間部門(1000万平方メートルの住宅、20万台の自動車、500万人への食糧)
  • 800億ドル…企業・組織の損失
  • 540億ドル…ウクライナ経済への直接投資の損失
  • 480億ドル…国家予算の損失
【参考】スビリデンコ氏の投稿画像

(【出所】スビリデンコ氏のフェイスブック投稿)

そのうえでスビリデンコ氏は、「これらの数値は戦争が長引けば増大していく」としたうえで、「ウクライナはこれらの損害の補償を侵略者に求めるであろう」と指摘。その具体的な手法として、「凍結されたロシアの資産のウクライナに対する譲渡」を挙げています。

ロシア制裁の行方

いずれにせよ、今回のウクライナ戦争、その「終わらせ方」を巡っては、本当に気になるところです。

戦争が続けば続くほど、西側の制裁とロシア側の「報復」(?)の泥仕合が続きそうですし、また、ロシア軍だけでなく、ウクライナ側にも多大な損失が発生し続けると想定されます。本当に、ウクライナの人々の無事を祈らざるを得ません。

しかし、ウクライナとロシアが停戦で合意したとしても、ロシアに対する制裁が解除される、あるいは「解除されるべきだ」、などと考えるのは、やや短絡的でしょう。現実にウクライナ側には多大な損害が生じているからです。

また、ロシア政府の公式見解に基づけば、西側各国が凍結しているロシアの外貨準備高は3000億ドル前後だそうですが、スビリデンコ氏の発表どおりなら、凍結されているロシアの外貨準備を丸ごとウクライナに譲渡したとしても、ウクライナに生じた損害を回復することはできません。

やはり、ロシアによるウクライナ侵略の違法性を巡っては、いずれ国際的な法廷の場で決着をつける必要が出てくるかもしれませんし、もしかしたら国際司法裁判所(ICJ)、国際刑事裁判所(ICC)などの既存の国際的枠組みだと、ロシアを裁くのに限度があるかもしれません。

というよりも、ロシアや中国などの無法な独裁国家を排除しないままで国際秩序を形成するというのにも、そもそも無理があります。

いずれにせよ、『国際社会はそろそろ「ロシア解体」を議論し始めるべき』でも指摘したとおり、今回のウクライナ戦争を契機に、もしかしたら「ロシア連邦共和国」自体の解体を視野に入れた新国際秩序こそが、現在求められている議論なのかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    ウクライナは勝っても負けても永久にお金を侵略者からむしる方法がありますよ。
    韓国みたいに謝罪が足りないと言い続ければ良い。
    何かしらの合意に至っても蒸し返すことが可能だよ。

  2. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

    ウクライナに謝罪と賠償を行い
    ロシアが再び侵略しない保証が確約されなければ(具体的にはロシアの分割と憲法九条)戦争は終わらない

    1. 世相マンボウ . より:

      バシラス・アンシラシスは土壌常在菌さんに賛成です。
      ぜひ、
      プーチンの肩を持つ鳩ポッポさんに
      憲法9条をお勧めしてもらいましょう。

  3. sey g より:

    ウクライナが東部地域割譲で停戦という噂があります。
    が、世界はロシアの不法占拠が無くなるまで経済制裁をやめるべきではありません。
    というか、ロシアの停戦は次の侵略までの小休止でしかないのです。
    日本は、これを機に北方領土(サハリンを含む)を今回いかにして取り返すか?今のうちに準備するべきです。
    共同で人的資源も出せる様に法整備しなければならない。

  4. 引っ掛かったオタク より:

    とりあえずは相互主義つーコトでロシア人へのビザ発給に制限スかねぇ

  5. 世相マンボウ 。 より:

    私は プーチンの侵略蛮行以降は
    国際社会とともに
    Stand with Ukraineですので
    今回のウクライナの要求も
    プーチンとその思い上がりを支持して
    のうのうとしているロシア国民には
    必要かもとは思います。

    一方で、旧ソビエト連邦というものは
    ロシアだけでなくウクライナも加担していたわけで
    プーチンの思い上がりの狂気の侵攻なかったならば
    今の状況は 実は
    旧ソビエト共産党の いわゆるよくある
    内ゲバにすぎない問題だったとも思います。

    今回のプーチンの思い上がりの失敗で
    そもそも歴史上もともとはたいしたことないロシアは
    帝政ロシア以前の本来の
    未開の弱小国家に回帰する道を
    たどってもらうこととなるのですが
    一方で旧ソビエト連邦構成国であるウクライナには
    その貧して鈍するであろうロシアに
    請求する権利まではあるのだろうか?
    とも思います。

  6. 普通の日本人 より:

    人名の損失が入っていないようですが。
    それから原油天然ガスの20年間無償提供も有りかな
    独裁体質を文化として持っている国は大きいままでは必ず侵略を起こします。
    だって自由民主主義は魅力的ですもの。
    圧政より自由がいいから独裁者は恐れるのです。
    なら小さい国にすれば世界への影響は小さい。
    おとなり中国共産党も何とかしましょうね

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