韓国紙、「双子の赤字に防波堤がない韓国経済」を懸念

韓国経済のリスクは、「双子の赤字」ではなく、「外貨資金流出リスク」である――。これが、現時点における著者自身の見解です。なぜこんなことを述べるのかといえば、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に本日、「双子の赤字」を懸念する記事があったからです。この点、同国の貿易赤字については一過性であり、韓国は外貨建てで国際をほとんど発行していないため、財政赤字についても本質的な問題点とは言い切れませんが、本当のリスクはそこではないのです。

双子の赤字

双子の赤字とは?

俗に、「双子の赤字」という表現があります。

この用語、論者によって微妙に意味合いが異なるようなのですが、一般的には「財政赤字と貿易赤字が同時に発生する状況」を指すことが多いようです。

経済学の原理に基づけば、一国の経済には大きく政府、家計、企業という経済主体が存在し、「閉鎖経済」(つまり「外国との貿易などをいっさい行っていない」)という仮定を置くと、この3者の収支尻は必ず一致します。

また、「開放経済」の場合だと、国内の3つの経済主体における資金過不足の合計額は、海外との資金過不足の額と、ぴたりと一致します。これについては便宜的に、一国の国内総生産(GDP)の定義から説明することが可能です。

GDPは生産面から見ると、次の計算式で定義されます。

  • GDP=C+I+G+X-M…①

ただし、Cは消費、Iは投資、Gは政府支出、Xは輸出、Mは輸入です。そして、一国で生み出された付加価値は、消費され、税金として回収され、残りは貯蓄されます。したがって、GDPを分配面から見ると、次の計算式で定義されます(Sが貯蓄、Tが税金)。

  • GDP=C+S+T…②

①と②をつなげ合わせると、次の恒等式が成り立つのです。

  • (I-S)+(G-T)+(X-M)≡0…③

国内の資金不足が続けば、外国から借りてくるしかない

ここで、「I-S」が民間の貯蓄・投資バランス、「G-T」が政府の財政収支、「X-M」が貿易収支です。

したがって、「双子の赤字」とは、左辺第2項、第3項がともに赤字マイナスになっている、という状態を指しており、そうなると、「I-S」がプラス(貯蓄に対し投資が過大な状況)にならざるを得ない、というわけです。

冷静に考えてみたら、これも当たり前の話でしょう。

国内で政府が財政赤字を計上しており、かつ、貿易収支も赤字となっているのであれば、国内の投資を国内の貯蓄だけで賄うことができない、という状況が、事後的に生じるからです。

したがって、「双子の赤字」という状況が継続し、政府部門と海外部門が同時に債務超過状態となれば、いわば、「国内でおカネが足りなくなる」、すなわち「外国からおカネを借りなければならない」、という状況が生じるのです。

ちなみにその典型例は、ギリシャでしょう。

ギリシャは長年の放漫財政に加え、(おもにドイツからの)貿易赤字を計上し続けていました。2008年のリーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する世界的な金融危機では、欧州ではソブリン債務危機に発展しましたが、「最も弱い国」であったギリシャに歪みが集中したのも、ある意味では当然でしょう。

貿易赤字と国債の関係

双子の赤字と国債のデフォルト

もっとも、著者自身、この「双子の赤字」を巡っては、「①その国が変動相場制を採用しており、かつ、②経済・産業がまともに運営されている」という場合には、基本的には為替変動で調整されると考えています。

その理由は簡単で、もしも「双子の赤字」という状況が続いた場合、その国の通貨の価値が下落し、輸出競争力が増えることを通じて輸出量が増大し、やがては貿易赤字という状況そのものが解消するからです。

もちろん、戦争や大災害などで国内の生産設備が破壊されたようなケースだと、その国の通貨が下落したとしても、「輸出増を通じて貿易赤字が縮小する」というメカニズムは働きませんが、こうしたケースは例外的でしょう。

また、ハード・カレンシー採用国、あるいは基軸通貨国のように、その国の通貨そのものが世界から信頼されているようなケースにおいては、長年、「双子の赤字」という状況を続けることが可能です。米国がその典型例ですが、その国の政府が発行する自国通貨建ての国債を、世界中の投資家が喜んで買ってくれるからです。

国債が事実上デフォルト状態に陥るなど、経済が破綻懸念状態に至ったギリシャのケースでは、自国通貨「ドラクマ」を廃止し、共通通貨「ユーロ」に移行したため、「為替相場の下落を通じて自国の輸出競争力が増える」というメカニズムが働かなかったことが、その大きな原因です。

それに、国債がデフォルトするためには、3つの要件を「同時に」満たすことが必要です。

国債デフォルトの3要件
  • 国内投資家が国債を買ってくれないこと
  • 海外投資家が国債を買ってくれないこと
  • 自国中央銀行が国債を買ってくれないこと

(【出所】著者作成)

日本で「ギリシャ的国債危機」は絶対に生じない

日本の場合だと、見た目の国債発行残高はGDPの2倍以上とたしかに大きいのですが、国債発行残高を大きく凌駕する家計金融資産が存在しており、預金取扱機関、保険・年金基金といった機関投資家が巨額の資金を持ち、日本国債を奪うように買い支えています。

(※というよりも、日本の場合はむしろ、資金循環構造上、国債の発行残高がまったく足りておらず、政府はもっと多額の国債を発行しなければならない、という状況にありますが、これについては『家計金融資産が2千兆円!巨額資金は国財増発で吸収を』あたりで議論していますので、本稿では繰り返しません。)

この点、ギリシャ国債の場合は自国通貨「ドラクマ」ではなく、共通通貨「ユーロ」で発行されていたため、最終的には国内投資家、外国投資家、自国中央銀行の3者によるギリシャ国債の買い支えに失敗し、あえなく事実上のデフォルトに陥ったと見るべきです。

同様に、アルゼンチンのように、外国通貨建てで国債を発行している国の国債がデフォルト状態に陥った例は、ほかにもいくらでもあります(もっとも、自国通貨建ての国債が事実上のデフォルト状態に陥った事例は、第二次世界大戦後のドイツ、日本などの特殊な事例を除けば、基本的には存在しません)。

すなわち、一口で「双子の赤字」と言っても、それが指す状況はさまざまであり、本当にケース・バイ・ケースと考えても良いのではないかと思います。

韓国の「双子の赤字」

こうしたなか、経済学の一種の「知的ゲーム」として興味深いのが、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に掲載されていた、こんな記事です。

双子の赤字まで起きるか…大統領選挙後の韓国経済、防波堤もない

―――2022.02.17 07:48付 中央日報日本語版より

中央日報によると、最近、韓国では貿易収支が2ヵ月連続で赤字を計上する一方、財政収支についても、今年まで4年連続での赤字を計上すると予想される、などとしています。これが、記事タイトルにある「双子の赤字」の意味です。

そのうえで、中央日報は次のとおり、韓国経済の先行きに対し、不安を示しているのです。

  • いわゆる『双子の赤字』が今年現実化する恐れもあるとの懸念が出ている。双子の赤字は内外の均衡が崩れた状況を意味するが、韓国では1997年の通貨危機当時に発生したことがある」。
  • ソウル大学経済学部のキム・インジュン名誉教授は<中略>危機克服に対する国民的合意なくポピュリズム政策が現実化すれば韓国経済は今後速いスピードで悪化したり、日本の『失われた30年』のような長期沈滞に陥りかねない<中略>と警告した」。

…。

なんだか、いろいろと大変な記事ですね。

韓国は「双子の赤字」を心配する状況にはない(今のところは)

ただ、この点については、冷静にチェックしておく必要があるでしょう。

じつは、韓国の貿易収支が赤字に陥ったのは、ごく最近のことであり、そして、韓国は(実態はともかくとして)少なくとも経済統計上は、長年の貿易黒字の影響か、対外純資産を計上しています。

韓国の資金循環統計上、2021年9月末時点における対外純資産は716兆ウォン(1ドル≒1200ウォンと仮定すれば、約6000億ドル相当)に達しており、多少、貿易赤字が続いたとしても、こうした対外純資産がただちにマイナスになるというものではありません。

それに、現在の貿易赤字に関しては、どちらかといえば地政学的な要因などを受けた世界的な原油高・至言高、という側面も強く、韓国の輸出については半導体などを中心に堅調であることなどを踏まえるならば、貿易赤字は一時的な要因、という可能性が高いと思います。

これに加えて、韓国において、アルゼンチンやギリシャのような「国債デフォルト」が生じるかといえば、そこも微妙でしょう。政府部門の財政赤字についても、韓国はアルゼンチンやロシアと異なり、外貨建ての国債を大量に発行しているわけではないからです。

たしかに資金循環統計上、外貨建ての債券が発行されていることは確認できますが、国債全体に対し、1%にも満たない水準です。

敢えて「双子の赤字」に関連するリスクを述べるならば、『韓国経済団体「ウォンには国際通貨となる資格が十分」』でも触れたとおり、韓国ウォン自体が世界で広く通用する「ハード・カレンシー」ではないことでしょう。

先ほど述べた「国内投資家、海外投資家、中央銀行」という3つの投資主体のうち、いざというときに買い支えてくれるバックストップとしては、中央銀行しか防波堤がない、という点については留意すべきかもしれません。

このあたりが、米ドル(=米国債)、英ポンド(=英国債)、日本円(=日本国債)などとの大きな違いですが、いずれにせよ、現在の韓国の資金循環状況に照らし、「双子の赤字」について、懸念すべき状況にはないと考えられます(※今のところは、ですが…)。

韓国の場合は「外貨流出リスク」

もっとも、韓国経済の場合、本質的な問題点は、「双子の赤字」にあるわけではありません。

どうも韓国の通貨当局は、為替介入を頻繁に行っているようなのですが(『米国財務省が「韓国は為替介入を行っている」と認める』等参照)、その「介入原資」が尽きたときに、韓国経済で一体何が生じるかについては、議論しておく必要はあるでしょう。

じつは、国際決済銀行(BIS)の『国際与信統計』のデータによれば、韓国は外国の金融機関から常に3000~4000億ドルほどのカネを借りており、とくに米国の金融機関からは1000億ドル以上、英国の金融機関からも1000億ドル近くの融資を受けています(図表)。

図表 民間金融機関の韓国に対する与信(最終リスクベース、2021年9月末時点)
相手国金額割合
合計3719億ドル100.00%
 うち米国1144億ドル30.77%
 うち英国980億ドル26.36%
 うち日本498億ドル13.39%
 うちフランス336億ドル9.04%
 うち台湾163億ドル4.39%
 うちドイツ146億ドル3.92%

(【出所】the Bank for Internatnional Settlements, Conslidated Banking Statistics より著者作成)

そして、このうち米国に関しては、短期(1年以内)の債務が562億ドルを占めているわけですが、万が一、2020年3月のコロナ禍のようなショックが再び発生し、韓国が500~1000億ドル程度の短期資金が逃げ出せば、韓国では再び通貨危機が発生するかもしれない、ということです。

とりわけ、韓国は2015年に日本との100億ドルの米ドル建て通貨スワップ協定を失効させているのに加え、昨年末で米国との600億ドルの為替スワップも失効した状況にあります。

もちろん、「双子の赤字」も長期化すれば韓国経済のリスクになってくる可能性はあるのですが、むしろ、韓国経済の本当のリスクは、「外貨流出リスク」、とりわけ「外貨建ての短期資金の借り換えができなくなってしまうこと」にあると考えた方が正確でしょう。

読者コメント一覧

  1. sey g より:

    防波堤がなく。

    もしかして 防波堤がて日本のこと?

    1. 都市和尚 より:

      佐渡金山の世界文化遺産登録の交換条件で、日韓通貨スワップの締結なんてことを考えていそうですね。岸田政権なら応じかねないと不安です。

  2. ちょろんぼ より:

    国内の資金不足が続けば、外国から借りてくるしかない!!
    これは通常の国家運営では当然の事と思いますが
    非常事態として外国から借金せず、自国内で資金不足にならないように
    <収入増>税金の増加・<支出減>諸費用の内で支払いする費用の繰り延べ・
    支払い額の減少等で縮小経済にした場合、国民に若干の苦しみを与えますが
    共産主義国家や福祉国家等の巨大予算国家から、警察国家という
    小予算国家として運営していく、早い話いわゆる識者が望んでいる
    プライマリー・バランス国家です。 皆様が非常に解りやすい家庭と
    国家運営の同一視化です。 収入が無ければ、支払いは無し。
    働かざる者喰うべからず。 いいッセリフでしょ?

  3. だんな より:

    津波が来るんじゃ無くて、断崖に向かって進んでるんだから、防波堤は関係無かろう。

    1. だんな より:

      と言っても、大統領選挙までは、ウォン、コスピ共に、徹底防衛するでしょう。

      1. より:

        今日のドルウォン・チャートの動きもなかなか愉快ですよ。
        とにかく1200ライン死守に全力を挙げている模様。きっと、世界のどこかで秘かに笑いが止まらん方々もおられるんでしょうな。しかもこの状況があと3週間も続くことがほぼ確定している、と。夏のバカンス費用かな。

  4. たか より:

    そういえば、ギリシャはその後どうなったのでしょう?国家破綻したという話は聞いていませんが。

  5. カズ より:

    (日本からの対韓与信額498億ドル)

    日本の対外債権の 1.02%
    韓国の対外債務の13.39%

    依存度の非対称を棚に上げ、対等な立場での経済協力とか通貨スワップなんてよく言えたものです。

    1. より:

      日韓通貨スワップが失効した頃、韓国のネットでは「日本が通貨危機になった時に助けてやれるのに、それを断るなんて日本は馬鹿だ」というご意見が散見されましたよ。思わず目が点になったもんです。
      韓国では「すでに韓国は日本と対等の経済大国になった、いや、むしろ凌駕しつつあるのだ」と少なからぬ人たちが信じ込んでいるようです。中にはそれを窘める人もいたりはしますが、多くは日韓の差を人口の問題で全部片づけようとしており、所詮は認識レベルで五十歩百歩でしかありません。まあ、内政・外交ともに、あれほど愚策を連発し続けてきた文大統領が、いまなお大きな支持を受けているあたり、そういう国民性なんでしょう。

      1. カズ より:

        >あれほど愚策を連発し続けてきた文大統領が、いまなお大きな支持を受けているあたり

        財政赤字なのは、岩盤支持(労組?)の維持コスト(所得主導成長失墜を糊塗するためのバラまき)を政府系金融機関に付け回せなかったせいもあると思っています。

        >そういう国民性なんでしょう。

        見たいものしか見えない国民性ですね。
        本稿に引用されてる中央日報の記事にしても、悪化要因を外部環境のせいにしてばかりなんですものね。

        *返信ありがとうございました。

      2. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

        本当に支持されているか疑問だけど
        マスコミの捏造では

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