日本新聞協会がNHKに受信料引下げなどの改革を要求
異常に高額な人件費、有り余る資産――。NHKの異常性を示す財務指標の実態が、近年、徐々に知られ始めています。こうしたなか、新聞業界といえば、近年、部数減に歯止めがかかりませんが、日本新聞協会が先週金曜日、NHKの繰越金が2000億円近くに達することなどを踏まえ、その経営の在り方を(不十分ながらも)批判する声明を、今年も出しました。これは興味深い現象です。
NHKの高額人件費の衝撃
昨年の『NHK「1人あたり人件費1573万円」の衝撃的事実』などを含め、これまでに当ウェブサイトで何度も取り上げてきている問題のひとつが、NHKの「放漫経営問題」です。
たとえば、NHKの財務諸表をチェックしてみると、職員1人あたりの(広義の)人件費は、少なくとも1600万円近くに達しています(図表1)。
図表1 NHKの人件費(2021年3月期)
区分 | 金額 | 前期比増減 |
---|---|---|
職員給与(①) | 1090億4925万円 | ▲20億円(▲1.80%) |
役員報酬(②) | 3億8693万円 | ▲0億円(▲1.52%) |
退職手当(③) | 325億1377万円 | +38億円(+11.66%) |
厚生保健費(④) | 211億6687万円 | +3億円(+1.29%) |
①~④合計 | 1631億1681万円 | +21億円(+1.28%) |
①、③、④合計 | 1627億2989万円 | +21億円(+1.29%) |
NHKの職員数(⑤) | 10,343人 | ― |
(①+③+④)÷⑤ | 1573万3335円 | +187,797円(+1.21%) |
(【出所】NHK『令和2年度 財務諸表』P65より著者作成)
上記のうち②については役員報酬ですので、「職員に対する人件費」ではありません。したがって、厳密な意味での職員人件費は、①、③、④の合計です(※もう少し厳密にいえば、④には役員に対する法定福利費等が含まれてしまっているため、この点については多少、計算が不正確です)。
広い意味でも狭い意味でも異常な人件費
なお、一般に「人件費」といえば、「給与・賞与」といった狭い意味のものだけでなく、退職給付費用や法定福利費・福利厚生費などを含めるのですが、もしそうだとしたら、厳密には、職員1人あたり人件費は、図表1に示した「1573万3335円」よりも多くなるとの説もあります。
なぜなら、『NHKの「隠れ人件費」600万円のケースもあるのか』でも触れたとおり、週刊誌など複数のメディアが、「職員が格安の家賃で都心部などのとても豪奢な社宅に入居することができる制度が設けられている」、などと報じているからです。
いずれにせよ、NHK職職員に対する「広い意味での人件費」は、少なく見積もって1600万円を超えており、下手をすると2000万円前後に達している、などと考えておいて良いでしょう。
また、「狭い意味」での賃金についても、やはりNHK職員の待遇は、異常です。図表2のとおり、NHK職員の1人あたり給与は任天堂、トヨタ自動車のそれらを超えており、さらには民間平均給与の2.5倍にも達しているからです。
図表2 平均給与比較(2020年12月ないし2021年3月基準)
区分 | 平均給与 | 出所 |
---|---|---|
任天堂株式会社 | 9,710,405円 | 有報ベース |
トヨタ自動車株式会社 | 8,583,267円 | 有報ベース |
NHK | 10,543,290円 | 図表1①を職員数⑤で割る |
民間平均給与 | 4,331,278円 | 国税庁 |
(【出所】著者作成)
NHKが職員に対し、任天堂やトヨタ自動車のような「エクセレント・カンパニー」を超える賃金・給与を支払っていること自体、私たち国民はもっと強く認識しておく必要があるのではないでしょうか。
1兆円を超える金融資産
また、NHKの「放漫経営」の証拠は、ほかにもあります。
NHKの連結財務諸表を確認すると、真っ先に目につくのが、巨額の金融資産です(図表3)。
図表3 NHKが保有する金融資産(2021年3月末時点)
項目 | 2021年3月期 | 前期比増減 |
---|---|---|
現金及び預金 | 991億円 | ▲51億円(▲5.11%) |
有価証券 | 4184億円 | +813億円(+19.44%) |
長期保有有価証券 | 1204億円 | ▲99億円(▲8.24%) |
建設積立資産 | 1693億円 | ▲2億円(▲0.10%) |
年金資産 | 4430億円 | +532億円(+12.01%) |
合計 | 1兆2503億円 | +1194億円(+9.55%) |
(【出所】NHK『令和2年度 連結財務諸表』より著者作成)
ここで、図表3に記載している項目は、連結貸借対照表や退職給付注記などをもとに、あくまでも「換金可能性が高そうな項目のみ」を重点的に抽出したものに過ぎませんが、単純合計で前期比1000億円以上増えていますし、NHKが2021年3月期に徴収した7006億という受信料の約1.8年分に相当します。
なお、「年金資産は職員やOBらの退職給付に充てるための資金であり、NHKの資産ではない」とする意見もありますが、こうした意見も適切ではありません。年金資産自体、過去・現在のNHKの職員に支払われるための原資だからです。
さらには、NHKは渋谷の少なくとも渋谷の一等地にある、82,645平米の放送センター(※2016年8月30日付NHK『放送センター建替基本計画の概要』参照)を筆頭に、全国各地の一等地に莫大な不動産物件を所有していると考えられます。
このうち、土地に関しては帳簿価額は562億円ですが、時価に換算すれば、下手をすれば数兆円にも達するかもしれません。
果たして放送事業を営むのに、ここまで巨額の金融資産、ここまで莫大な不動産物件などは必要なものなのでしょうか。
オールドメディア業界の退潮
こうしたなか、個人的にもうひとつ興味深いと感じるのは、NHKを除く新聞、テレビなどのオールドメディア業界が、近年、収益確保に苦慮しているという点でしょう。
つい先日はフジテレビの希望退職に関する話題を取り上げましたが(『フジが特損90億円計上も業界の凋落は始まったばかり』等参照)、不動産業で潤っているTBSなどを例外とすれば、民放各局は近年、広告収入の低迷に苦悩している状況です。
また、実際、『新聞は「正確・信頼性高い・中立公平」=日本新聞協会』などでも触れましたが、テレビと並ぶオールドメディアの代表格である新聞は、近年、部数減に歯止めがかかりません。オールドメディアの退勢は、「コロナ禍での一過性の要因」とも言えないのです。
ついでに申し上げるなら、新聞社のなかには、かつては「大手全国紙」の一角を占めていたものの、実質的な債務超過状態に陥っている会社もあります(『「実質債務超過」も疑われる、某新聞社の決算公告画像』等参照)。
早ければ今年を含めたごく近い将来において、大手新聞社の経営破綻という「事件」が発生するかもしれません。
このように考えていくならば、「テレビを設置した世帯」から半強制的に受信料を徴収することができるNHKは、基本的には経営が安定していますので、民放各局や新聞各社にとっては、大変に羨ましい存在ではないでしょうか。
日本新聞協会がNHKの在り方を批判
こうしたなか、日本新聞協会は先週金曜日、こんな見解を発表しました。
NHK 2022 年度予算案・事業計画案に対する見解【※PDFファイル】
―――2022/02/04付 日本新聞協会HPより
これが大変に興味深いものです。
まず、日本新聞協会は、NHKが4日に国会に提出した2022年度NHK予算案・事業計画案について、「財政安定のための繰越金」の見込額が1980億円で「極めて高い水準」であると指摘。「計画以上に繰越金が積み上がってきた実態も踏まえ、早期に具体的な値下げ額を明らかにすべき」と要求します。
また、NHKのネット進出についても、ネット事業はあくまでも「放送の補完」であると指摘。NHKは「ネット業務の抑制的な運用に努めるとともに、番組配信以外の『理解増進情報』の再定義など、業務内容の見直しも進めるべき」と述べているのです。
このあたりは、全国的に新聞事業が傾くなかで、法律の規定で存続が保証されているNHKに対しては、日本新聞協会も(不十分ながらも)厳しい目を向け始めた、ということであれば、なかなか興味深い現象ではないかと思います。
もっとも、『衆院選での敗者は「立憲共産党」とオールドメディアだ』を含め、かねてより当ウェブサイトで指摘してきたとおり、現在の社会は、ネット化が進むなかで、新聞、テレビを中心とするオールドメディアの影響力が急速に低下しています。
そうなると、「官僚・メディア・野党議員」という「鉄の利権トライアングル」の真ん中が腐敗して抜け落ちる、ということであり、こうしたメディア利権の崩壊からは、NHKも無縁ではいられないでしょう。
おりしも、『利権団体は議論を嫌う:英BBC受信料廃止論とNHK』でも報告したとおり、英国では一歩先んじて、BBCの受信料廃止という議論が出て来ました。
「公共放送」という名称を隠れ蓑に、民間団体なのか、公的団体なのか、法的位置づけがよくわからないNHKの位置づけについても、そろそろ整理が必要ではないでしょうか。
いずれにせよ、受信料制度そのものを含めたNHKの在り方に関する社会的議論が深まることについては、悪いことではないと考えて良いでしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
NHKが大量に新聞広告を出して、解決しようとするのでは。
とうとうオールドメディアが内輪揉めを始めましたね。衰退する利権の末期症状というものでしょう。
なんで改革の要求が「受信料値下げ」でなくて「スクランブル化」ではないのでしょうか。
単なるアリバイづくりでしょうか。
50円下げます!!!
と又放送を始めるのかな。(2000万円貰っている人から言われたくないわ)
>全国各地の一等地に莫大な不動産物件を所有していると考えられます。
広島県でも一等地ですね。広島市中区大手町で立地的には広島県庁と広島市役所の中間位置にあたる。周囲には広島中央郵便局や中国電力の本店もあります。平和公園や原爆ドームにも近い。
改めて新宿会計士さまのこの記事は2022年の問題として世間的話題になって良い大事件だと思います。「Nなんとか党」だとか様々なノイズによって何かとわからなくさせられて居ますが「NHKが任天堂やトヨタのようなエクセレントカンパニーより更に飛び抜けて高給取り」である事や、他マスコミ、民放各局や新聞社との比較でも超絶飛び抜けて無風状態の我が世の春な事も「2022年の問題」で大ニュースとして広がるべき問題ですね。例えばNetflixやDisneyに比較(ウチらそれほど高給じゃないと主張)するならば、直ちに娯楽チャンネルと公共放送とは分離するべきです。
新聞協会の言いたいことは「民業圧迫」の一言に尽きると思いました。
解ります。 ”死なば諸共”の境地なんですよね・・。
>「公共放送」という名称を隠れ蓑に、民間団体なのか、公的団体なのか、法的位置づけがよくわからないNHKの位置づけについても、そろそろ”整理”が必要ではないでしょうか。
”整理”とは 不要なモノを 捨てること。
(五七調にしてみました)
ともかく一刻も早くスクランブル化して、金払ってない人には見せないようにしてください。払ってるこちらが馬鹿に思えてくるので。紙芝居屋だってアメ買わない奴は追い払うでしょうに。
紙芝居が見える範囲の通行人から見物料金を強制徴収するようなものかな
公園に人が寄りつかなくなったので、紙芝居を広げて町内くまなく練り歩くことにしたようです。