利権団体は議論を嫌う:英BBC受信料廃止論とNHK

BBCの受信料廃止議論に「続報」がありました。視聴状況に応じて課金するなどの案が浮上しているのだそうです。そして、英国における受信料制度の議論は、日本でも受信料制度そのものを議論するチャンスといえるかもしれません。ただ、NHKは受信料制度そのものを議論することを極端に嫌っているように見受けられます。なぜなら受信料制度は一種の利権だからです。

英国の受信料制度

先日の『英BBC「受信料廃止議論」がNHKに与える影響は?』では、英国で公共放送・BBCに関する受信料廃止議論が出ている、とする話題を取り上げました。

日本と英国ではそもそもの受信料制度、あるいは公共放送の在り方などが大きく異なっているため、単純に比較できるものではありませんが、やはりこれは大変に興味深いものと思わざるを得ません。

具体的には、BBCの現行の受信料制度を巡っては、少なくとも2027年12月31日まではその存続が保証されているものの、それ以降については何らかの変化が生じる可能性が出てきた、ということです。

ただ、こうした議論を眺めていると、日本との共通点も多々浮かび上がってきます。

たとえば、Netflixやアマゾンプライムといった有料動画配信サービスの台頭を受け、BBCがこれらの大手動画配信サービス業者と「競合できるようになる必要がある」、といった議論が出ているそうですが、たしかに視聴者から見て、動画サービスも公共放送も、コンテンツに対してカネを支払うという意味ではよく似ています。

このように考えていくと、極端な話、番組を1秒たりとも視聴していないにも関わらず、その放送局に決して安くはない受信料を支払わねばならないのだとすれば、経済合理性に照らし、大変に理不尽な制度だと思う人が増えても当然でしょう。

産経ニュースに続報

それはさておき、ボリス・ジョンソン政権が現在検討しているBBC受信料制度見直しに関する続報が、昨晩、産経ニュースに掲載されていました。

BBC受信料制度見直し 公共放送の在り方変わるか

―――2022/1/24 19:50付 産経ニュースより

産経によると、「視聴状況に応じ課金する制度を導入する案」が浮上しているのだとか。具体的には、「ジョンソン政権は2028年以降、視聴者からの徴収をやめ、課金制度に移行させる方針」としています。

このあたり、産経の記事には、次のとおり、ジョンソン政権に対してはやや批判的な記述もあります。

ジョンソン政権が受信料制度の見直しを進めようとする背景には、BBCの報道姿勢が与党・保守党の政策に厳しいとの不満がある」。

すなわち、人気取りのために受信料制度を廃止しようとしている、という側面がある、というのが産経の指摘でしょう。これに加え、産経は次のようにも指摘します。

受信料制度が廃止されれば、報道の質の高さや公共性が失われる恐れもある」。

現時点でBBCの報道の質が高いのかどうかは存じ上げませんが、産経によれば、「課金制度に移行した場合、動画配信サービスの競争にさらされ、BBCが資金を十分に得られるか不透明」としたうえで、BBC側の次のような主張を紹介しています。

(新たな制度では)普遍的な内容でなく、有料加入者向けの(主観的な)内容にせざるを得なくなる、と現行制度の擁護派は懸念している」。

このあたり、大変申し訳ないのですが、何が言いたいのかよくわかりません。そもそも「質が高い」だの、「公共性」だのといった用語自体が、大変に主観的なものだからです。

日英の大きな違いは定期的な見直しがあるかどうか

もっとも、ここでさらに重要な点があるとしたら、公共放送の制度に関する日英の違いです。

英国の場合は、BBCの受信料制度については定期的に見直されるという仕組みが設けられており、今回のように、政府ないし有権者の決定により、受信料制度自体を廃止することができます。

これに対し、日本の場合、NHKの受信料制度自体は法律に書きこまれてしまっており、かつ、「定期的に見直す」という仕組みが設けられていません。

これでいったいいかなる問題が生じるのかは、明白です。

たとえば、NHKが受信料制度を悪用し、職員1人あたり1600万円近い人件費を計上したり(『NHK「1人あたり人件費1573万円」の衝撃的事実』等参照)、総額数千億円ともいわれる豪奢な放送センターを新築したりするなど、明らかに放漫経営を行っています。

それに、NHKは職員の採用にあたり、とくに国籍条項の制限などが設けられている様子もなく、また、外国籍の職員の内訳については「資料がない」の一点張りで開示しようとしません(2014年3月12日付・NHK『NHK情報公開・個人情報保護審議委員会の諮問第389号に対する意見』等参照)。

自ら決めた公共性に矛盾しまくるNHK

さらに驚くのは、NHK自身が定義する「公共放送」の要件です。NHKが公表する『公共放送とは何か』というウェブページによると、次のような記述があります。

電波は国民の共有財産であるということからすると、広い意味では民放も公共性があるということになりますが、一般的には営利を目的として行う放送を民間放送、国家の強い管理下で行う放送を国営放送ということができます。これらに対して、公共放送とは営利を目的とせず、国家の統制からも自立して、公共の福祉のために行う放送といえるでしょう。NHKは、政府から独立して受信料によって運営され、公共の福祉と文化の向上に寄与することを目的に設立された公共放送事業体であり、今後とも公共放送としての責任と自覚を持って、その役割を果たしていきます」。

すなわち、NHK自身が考える公共放送には、①営利を目的としていないこと、②国家の統制からも自立していること、③公共の福祉のために行っていること、という3つの要件が含まれています。

「国家の統制から自立して」、などと自称するわりに、NHKの受信料制度自体、放送法という「国家の統制」によって保障されているわけですから、極めて大きな自己矛盾に陥っているといえます。

また、昨年末の『「公共放送の3要件」から明らかに逸脱する紅白歌合戦』などでも述べたとおり、『紅白歌合戦』なる番組自体、ポップ・ミュージックの歌手や、最近だとユーチューバーなどを出演させているという点では、どう考えても商業放送ではないか、といった疑念を払拭することができません。

実際、『紅白歌合戦』に出演したアーティストは、自身の商売に大変有利になるはずですし、たっぷりカネをかけたド派手な舞台でポップ・ミュージックを流すことに「公共性がある」と言われても、常識的なセンスからすれば、正直、かなり困ってしまう人も多いのではないでしょうか。

あるいは、NHKはかなり潤沢な予算で「大河ドラマ」なるものを作っていますが、それこそまさにNetflixなどの民間動画サイトと競合する分野そのものでしょう。

NHKが議論を嫌うのは当たり前

いずれにせよ、「理不尽さ」でいえば、受信料制度の見直しがなされるBBCと比べ、NHKの方がはるかに深刻ですし、英国で活発な受信料議論が巻き起こること自体、まさに日本にとっても歓迎すべき話です。

なぜなら、一般に利権を持っているものは議論を嫌うからであり、そして、NHKは「受信料利権」で潤っている利権団体そのものだからです。

先ほども引用したとおり、NHK自身が公表している「公共性の要件」については、突き詰めて考えると、おかしなものが多々ありますし、NHK自身は情報開示に極めて消極的です。

しかし、これらについては、やはり次のような議論の流れを作っていかねばなりません。

NHKを巡る諸論点の例
  • ①現代の日本社会に公共放送というものは必要なのか
  • ②公共放送が必要だったとしても、現在のNHKにそれを担う資格があるのか
  • ③「見ない人からも徴収する」などの受信料制度は妥当なのか
  • ④1兆円超の金融資産、莫大な不動産などは、NHKの経営に必要なのか
  • ⑤少なく見積もって職員1人あたり1550万円超という人件費水準は妥当なのか

(【出所】著者作成)

正直、議論の流れの①の部分で「公共放送は必要ない」という結論が下ってしまえば、以降の議論はすべて意味がなくなるのですが、百歩譲って「公共放送が必要だった」という結論が出たとしても、「現在のNHKに公共放送を名乗る資格があるのか」は、まったく別の論点でしょう。

その意味で、BBC受信料議論を受け、日本の国会でも、NHK問題については是非ともじっくりと話し合っていただきたいと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. レッドバロン より:

    NHK自体もそうですが、NHK以外のオールドメディアも、この産経新聞の記事のトーンをみてもわかる通り、NHKに関する議論を嫌うし、N国党が出現するまで目立った形でNHK論議をしようとする政治家がほとんどいなかった点も??です。

    当ブログやネットメディアには他のオールドメディアや与野党問わない政治家とNHKとの「腐れ縁」や「タブー」も是非暴いてほしいです。

  2. クロワッサン より:

    >(新たな制度では)普遍的な内容でなく、有料加入者向けの(主観的な)内容にせざるを得なくなる、と現行制度の擁護派は懸念している」。

    課金してくれる人を増やす為に、そして課金し続けて貰う為に、「自分が見せたいもの」ではなく「他人が見たいもの」を報道する、つまり視聴者本位の放送に変化せざるを得ない、と考えないところ、傲慢というか。

  3. 通りすがり より:

    NHKの公共放送としての是非も含め、TVラジオ業界をひっくるめて電波オークションで新体制に生まれ変わらせるべきだと思います。
    オールドメディアの腐敗が目に余る昨今、大鉈を振るう時期に来ていると思われます。

    1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      中国のマスコミが購入するかもしれないね

  4. 犬HK より:

    サイト主がこれまでも疑問を呈していたとおり、公共放送とは何か?については、法令その他に明確に定義づけられていません。(放送法でも「公共」という言葉は僅か4箇所出現するだけ)

    では、公共性とは?という視点にしても、一般的な解釈はあってもそれを放送とどう結びつけるのか難しく、結局、NHKや有識者等が各々勝手な?解釈をしているにすぎないのが現状です。
    答えがない(前提が曖昧である)にもかかわらず、公共放送法は必要か、公共放送を名乗る資格があるのか、等々を論じても先には進めません。

    政府(総務省)ですら、「公共放送の在り方に関する検討分科会」などをこれまで幾度も開催してきていますが、公共放送とは何かを論ずることはほぼなく、もっぱら受信料のあり方や公平負担などにスポットを当てたくだらん議論を延々とやっているだけです。
    (つまり、政府もNHKを解体してやろうなどと微塵も考えていないということ)

    せめて、タイトルに見合った「公共放送とはどうあるべきか」について徹底的に論じてほしいものですが…悔しいかなNHKの安泰を許しているのは国なんですよ。

  5. ちょっとした疑問 より:

    はじめてコメントします。主様が指摘しているNHKに対する問題点は、その通りだと思います。

    ついでに、以前からちょっと疑問だった受信料支払率について、ネットから数字だけ集めました。

    世帯数 5950万 (総務省R3.1.1)
    世帯あたりテレビ普及率 93.4% (内閣府R3.3.末)
    受信契約対象数 5959万×0.934=5557万
    受信料支払数 3703万(NHKR20年度決算)
    支払率 66.6%

    NHKの資料では、受信契約対象数が4610万になっているので、2015年の世帯数を使うことと、生活保護世帯等(外国人世帯も?)を母数から外すことによって支払率を上げているだけのようです。
    どうみても“隣の人が払えない分をこいつに払わそう”の状態なので、個人的にはグレーな犯罪に見えます。新聞の押紙と同じような感じですね。

    1. わんわん より:

      ちょっと面白い記事
      NHK受信料不払いランキング
      幻冬舎ゴールドオンライン
      https://gentosha-go.com/articles/-/40425

      1. ちょっとした疑問 より:

        NHKからいろいろ擁護されているのに、さすが沖縄。
        NHKが勝手に母数を減らしているので、沖縄35%~秋田80%が実質的な数値だと思ってます。(もっと低いかも)

    2. りょうちん より:

      固定電話の所有率が下がり続けていますが
      https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/210618_1.pdf
      もはや、この報告の話題にもならないwww。

      TVの所有率も下がっていくんじゃ無いですかねえ。
      NHKの受信料の金で光回線引いた方がいい。

  6. ちょろんぼ より:

    NHKが設立した当初の役割を終えた事とNHKがするべき任務を
    忘れた事から生じる問題ですね。
    NHLの当初の役割はニュース・政府広報を全国に広める事であり
    それだけだとテレビを見る人が少ない事が予想される事から
    娯楽番組も含めたのでしたが、既に民間放送が充実してきている事から
    NHKの存続意義は失われました。
    又、NHKの役割は露国のプラウダ・中共の新華社です
    他国の権益を日本に広め、日本を貶める事ではありません。

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