韓国など9本の「米ドル為替スワップ」は年末で終了か

「米国は豪州、韓国、ノルウェーなどとの為替スワップを予定どおり12月に終わらせる」。これが現時点における当ウェブサイトの予想です。その理由は、これらの為替スワップ自体に、コロナ禍における流動性供給という意味合いがあったからであり、肝心のFRBの金融緩和政策自体が「テーパリング」、つまり段階的縮小の流れに入った以上、これを延長する必要性も薄れているからです。

時限的な9つのFIMA為替スワップ

コロナ禍初期の2020年3月19日(※日本時間は翌日)、米国の中央銀行に相当する連邦準備制度理事会(FRB)は、9つの外国中央銀行・通貨当局(FIMA)との間で臨時の為替スワップを締結したと発表しました(『速報:米FRBが9つの中央銀行と為替スワップを締結』等参照)。

該当するプレスリリースは、これです。

Federal Reserve announces the establishment of temporary U.S. dollar liquidity arrangements with other central banks

―――2020/03/19 09:00付 FRBウェブサイトより

これによると、FRBが締結した為替スワップは、次のとおりです。

  • 上限600億ドル…豪州準備銀行、ブラジル中央銀行、韓国銀行、メキシコ銀行、シンガポール通貨庁、スウェーデンリクスバンク
  • 上限300億ドル…デンマーク国立銀行、ノルウェー銀行、ニュージーランド準備銀行

ここで、為替スワップとは、ある国の中央銀行が外国の中央銀行を通じてその国の市中の金融機関に短期資金を貸し付ける仕組みのことを指し、「流動性供給スワップ」などと呼ばれることもあります。

中央銀行同士が通貨を交換するという意味では「通貨スワップ」と似ていますが、為替スワップの場合は通貨スワップと異なり、外貨は民間金融機関などに直接貸し付けられる、という特徴があります。このため、「外貨不足に悩む中央銀行が為替介入の資金を得るために外国からおカネを借りる」、といった使い方はできません。

これが、通貨スワップと為替スワップの大きな違いです(※詳しくは『「発売記念」あらためてスワップについてまとめてみる』などでも議論していますので適宜ご参照ください)。

最大で4500億ドル近くに達したが…

もともと米FRBは日銀、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE)、カナダ銀行(BOC)、スイス国民銀行(SNB)という5つの中央銀行との間で常設型・金額無制限の為替スワップ協定を締結していました。

このため、米国が締結している為替スワップは合計14本に増えた格好です。

そして、これらの為替スワップ、最も多い時期で4500億ドル近く引き出され(2020年5月27日時点で4489.46億ドル)、全世界へのドル流動性供給に寄与した格好ですが、2020年6月中旬ごろには半減しています(『米ドル為替スワップ、残高は2263億ドルにまで減少』等参照)。

あとから振り返ったら、コロナ禍のドル資金不足が最も深刻化していたのが、ちょうど2020年4月から5月頃だった、というわけです。

ちなみにニューヨーク連銀 “Central Bank Liquidity Swap Operations” によると、現時点、つまり2021年12月時点における外国中央銀行等によるドル為替スワップ引出残高は2.78億ドルと、事実上、ほとんど使用されていません。

為替スワップの引出額(2021年12月14日時点)
  • メキシコ銀行…5000万ドル
  • イングランド銀行…500万ドル
  • 日本銀行…300万ドル
  • 欧州中央銀行…2.2億ドル

(【出所】ニューヨーク連銀 “Central Bank Liquidity Swap Operations” より著者作成)

少なくとも金融市場におけるコロナ対応での為替スワップ需要は一段落したと考えて良いでしょう。

為替スワップの目的は金融緩和の一環としての流動性供給

ではなぜ、FRBはこのようなスワップラインを準備したのでしょうか。

これについて、FRBウェブサイト “Central bank liquidity swaps” によれば、次のような記述があります。

The swap lines are designed to improve liquidity conditions in dollar funding markets in the United States and abroad by providing foreign central banks with the capacity to deliver U.S. dollar funding to institutions in their jurisdictions during times of market stress.

すなわち、コロナ禍の際のような金融市場のストレス時に、FRBだけでなく、外国の中央銀行等を通じて米国内外の金融市場でドルの流動性を供給する手段を増やすことで、金融市場のストレスを緩和させる、という役割がある、ということです。

FRBウェブサイトには、こんな記述もあります。

Likewise, the swap lines provide the Federal Reserve with the capacity to offer liquidity in foreign currencies to U.S. financial institutions should the Federal Reserve judge that such actions are appropriate.

つまり、この為替スワップ自体、米国にとっては「外国の金融機関に米ドルの短期資金を貸し付ける」という役割があるだけでなく、イザというときには、「米国の金融機関に外貨の短期資金を貸し付ける」という意味で、双方向で役に立つ、ということです。

テーパリングとともに9本の為替スワップも終了するか

ただ、為替スワップのうち、円、ユーロ、英ポンド、加ドル、スイスフランの5通貨については常設型、つまり一時的ではなく、期間、金額無制限のスワップですが、それ以外の9つの通貨については一時的なスワップに過ぎません。

もともとの期日は「2020年9月末まで」とされていましたが、これが「2021年3月末まで」、「2021年9月末まで」と延長され、現時点では「2021年12月末まで」とされています。

それでは、このスワップ協定、再度延長されるのでしょうか。

現時点での著者自身の観測に基づけば、延長される可能性はそれほど高くないと考えています。

その理由は、この為替スワップ自体がもともと、FRBによる金融緩和の一環として打ち出されたものであり、また、そのFRB自体、金融緩和政策の段階的な縮小(テーパリング)をすでに開始しているからです。

FRBの金融政策を決める会合である「FOMC」の先月の発表文を読むと、米国債やMBSなどの買入額を今後、月額でそれぞれ100億ドル、50億ドルずつ減らしていく方針である、としています。

Federal Reserve issues FOMC statement

―――2021/11/03 14:00 EDT付 FRBウェブサイトより

当然、テーパリングの議論が出てくる時点で、為替スワップについても同様に延長されずに終了すると考えるのが自然な流れでしょう。

したがって、現在の14本のFIMA為替スワップについては、日本、欧州、英国、カナダ、スイスとのものを除いて、いずれも12月末で終了する、というのが当ウェブサイトにおける現時点の予想です。

もちろん、メキシコやシンガポールなどの中央銀行・通貨当局がこのスワップラインを最近でも使用しているため、場合によってはFRBがこのスワップラインをあと3ヵ月だけ残す、といった可能性はゼロではありません。

しかし、FRBは金融市場の自律的な機能を重視することで知られていますので、FRB自身が「人為的に」、外国の民間金融機関等に対して直接、おカネを貸し付けるという為替スワップについては、常態化するのを嫌うのではないでしょうか(※著者私見)。

いずれにせよ、12月分のFOMCの発表が出て来るのは日本時間の16日早朝ですが、もしも著者自身の予想どおり、この為替スワップについても延長の発表がなければ、またひとつ、金融市場の正常化の象徴となることは間違いないと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. だんな より:

    「全ての国と一斉に終了すると、決まった訳では無いニダ」ってますけどね。
    「オリンピックの政治的ボイコットは、考えてもいない」ってますからね。

  2. サムライアベンジャー より:

    「為替スワップ」と「通貨スワップ」をごちゃまぜにする人が多いです、ブログにしてもユーチューバーにしても。
    ぜひその違いを雑誌とかで書きまくってください、会計士様。

  3. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

    世界が韓国から撤退している

  4. がみ より:

    韓国の識者なる人たちや経済学者の発言の数々が面白おかしい。

    「スワップを締結して行使するほど信用が増す」
    「その根拠にスワップ行使後格付けはいつも上がってきた」

    とか複数見かける。
    ふ〜んそうなんですか?

    中小企業上司に「ローンを組む度に社会的信用は上がる」とか言われる社員さんみたいな話だ。
    住宅ローン組めたらそもそも一定の信用があるわけで、更に抵当縛り出来るから金貸し取りっぱぐれない…ってのも信用と言えば信用ではありますが…

    建国70年ちょっとで二度も財政破綻してる国が自分たちを評して言う言葉なんですかね?

    格付けいつも気にしてますけど、他国で格付け会社の信用なんて風前の灯なんだって知らないのかな?
    大口顧客投資家逃がす為なら平気で格付けなんてあげてくれますよ?

    1. より:

      サブプライム騒動以降、格付け会社の言うことを鵜呑みにするのは、よほどおめでたい人だけではないかと。今でも、ある程度の参考にはなるとは思いますが。
      市場の評価という点では、CDSの値のほうがより実態を表しているのでは?

      http://www.worldgovernmentbonds.com/sovereign-cds/

      あれ?以前は韓国のCDSの値も掲載されてたと思ったんだけど……

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