米ドル為替スワップ、残高は2263億ドルにまで減少

本稿は毎週の「資料集」です。以前から『速報:米FRBが9つの中央銀行と為替スワップを締結』などで報告してきたとおり、米連邦準備制度理事会(FRB)は現在、日英欧瑞加5ヵ国・中央銀行に加え、外国の9つの中央銀行・通貨当局(FIMA)と為替スワップを締結しています。当ウェブサイトではこの「FRB-FIMA為替スワップ」に関して、その実行残高を定期的に報告しているのですが、今週、ついに残高が2263.89億ドルにまで減少しました。

FIMA為替スワップ

速報:米FRBが9つの中央銀行と為替スワップを締結』などでも報告したとおり、米連邦準備制度理事会(FRB)は外国の14の中央銀行・通貨当局(FIMA)と為替スワップ協定を締結しています。

この為替スワップは、通貨スワップと異なり、「通貨当局同士」が通貨を交換する協定ではありません。あくまでも相手国・地域の通貨当局を通じ、相手国の金融機関に対して外貨を供給するための契約であり、一般に “Bilateral Liquidity Swap Agreement” などと呼ばれます。

なお、国際金融協力の世界における通貨スワップや為替スワップと、デリバティブの世界における通貨スワップや為替スワップについては意味合いが異なりますので、これについては『【総論】4種類のスワップと為替スワップの威力・限界』あたりをご参照くださると幸いです。

なお、一般には「為替スワップ」ないし「流動性スワップ」でも通用するのですが、いわゆるデリバティブの「為替スワップ」(Buy-Sellあるいは “FX swap” )と区別するため、本稿では敢えて、「FIMA為替スワップ」と呼称したいと思います(※ただし、この表現は一般的なものではありません)。

最新残高は2770億ドル、うち日欧韓で8割超

現時点における米FRBとのFIMA為替スワップは、日英欧瑞加5ヵ国の中銀が常設型で金額上限を設けていないタイプのものを保有しており、それ以外の9つの中銀・通貨当局は、期間6ヵ月以上、上限600億ドルないしは300億ドルの為替スワップを3月に締結しています。

米FRBとのFIMA為替スワップ

常設・金額上限なし…日本、英国、欧州、スイス、カナダ

期間6ヵ月~・金額上限600億ドル…豪州、ブラジル、韓国、メキシコ、シンガポール、スウェーデン

期間6ヵ月~・金額上限300億ドル…デンマーク、ノルウェー、ニュージーランド

また、ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” に、3月2日以降の入札実績がすべて公表されています。

見たところ、このエクセルファイルはおおむね週1回、現地時間の木曜日に更新されているようであり、現時点で公表されているデータは6月25日(木)入札実施・6月29日(月)貸付実行分までのもので、これをまとめたものが図表1です。

図表1 6月29日(月)時点の各中央銀行のFIMA為替スワップ借入残高
相手先元本と構成比平均金利・日数
日本銀行1561.49億ドル(68.97%)0.33%/73.33日
欧州中央銀行299.67億ドル(13.24%)0.32%/83.48日
韓国銀行108.67億ドル(4.80%)0.41%/83.81日
スイス国民銀行100.12億ドル(4.42%)0.33%/65.52日
シンガポール通貨庁74.79億ドル(3.30%)0.33%/84.00日
メキシコ銀行51.10億ドル(2.26%)0.36%/84.00日
ノルウェー銀行38.25億ドル(1.69%)0.33%/84.00日
デンマーク国民銀行17.65億ドル(0.78%)0.33%/84.81日
イングランド銀行6.95億ドル(0.31%)0.32%/84.00日
豪州準備銀行5.20億ドル(0.23%)0.33%/84.00日
カナダ銀行なし
スウェーデンリクスバンクなし
NZ準備銀行なし
ブラジル銀行なし
合計・平均2263.89億ドル(100.00%)0.33%/75.75日

(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)

トータルの金額は先週・19日時点の2769.17億ドルからさらに505.28億ドル減って2263.89億ドルになりました。そのおもな要因は、だいたい次の3つで説明が付くと思います。

  • 日銀の借入残高が1713.80億ドルから1561.49億ドルへと152.31億ドル減ったこと
  • ECBの借入残高が449.37億ドルから299.67億ドルへと149.70億ドル減ったこと
  • 韓国銀行の借入残高が187.87億ドルから108.67億ドルへと79.20億ドル減ったこと

なお、順位については、上位3位(日銀、ECB、韓国銀行)については不変ですが、4位以降に細かい変化は生じています。

非常設型スワップの返済予定表

さて、以下では個別の中央銀行・通貨当局の借入額についてチェックしていきましょう。

非常設型のスワップ締結国に関していえば、最も多額の借入を行っているのが韓国銀行で108.67億ドル(全体の4.80%)、2番目に多くの借入を行っているのがシンガポール通貨庁で74.79億ドル(全体の3.30%)です。

また、常設型スワップ締結国のなかではカナダ銀行、非常設型スワップ締結国のなかではNZ準備銀行、リクスバンク(スウェーデン)、ブラジル銀行の借入残高が引き続きゼロです。

以下では、「非常設型スワップ」締結国9ヵ国のうち、6月29日時点で借入残高が存在していると見込まれる韓国、シンガポール、デンマーク、メキシコ、ノルウェー、豪州の各国について、今後の「返済予定」を確認してみましょう。

まずは韓国銀行です。韓国銀行の借入残高は6月29日時点で108.67億ドルを予定しており、加重平均金利と日数はそれぞれ0.62%と83.89日ですが、その返済予定表は図表2のとおりです。

図表2 韓国銀行の返済予定表
借入日/返済日金額金利/期間
4/9(木)借入→7/2(木)返済41.40億ドル0.53%/84.00日
4/17(金)借入→7/9(木)返済20.15億ドル0.36%/83.00日
4/23(木)借入→7/16(木)返済21.19億ドル0.34%/84.00日
4/29(水)借入→7/23(木)返済12.64億ドル0.33%/85.00日
5/8(金)借入→7/30(木)返済13.29億ドル0.29%/83.00日
合計/平均108.67億ドル0.41%/83.81日

(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)

次に、シンガポール通貨庁(MAS)です。MASは6月29日時点で95.71億ドルを借り入れており、加重平均金利と日数はそれぞれ0.50%と82.55日で、その返済予定表は図表3のとおりです。

図表3 シンガポール通貨庁(MAS)の返済予定表
借入日/返済日金額金利/期間
4/15(水)借入→7/8(水)返済31.49億ドル0.34%/84.00日
4/29(水)借入→7/22(水)返済25.06億ドル0.33%/84.00日
5/13(水)借入→8/5(水)返済14.43億ドル0.30%/84.00日
5/27(水)借入→8/19(水)返済0.50億ドル0.30%/84.00日
6/10(水)借入→9/2(水)返済0.50億ドル0.32%/84.00日
6/24(水)借入→9/16(水)返済2.81億ドル0.33%/84.00日
合計/平均74.79億ドル0.33%/84.00日

(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)

同様に、デンマーク国民銀行、メキシコ銀行、ノルウェー銀行、豪州準備銀行についても残高をまとめておきましょう(図表4)。

図表4 その他の中央銀行
借入日/返済日金額金利/期間
デンマーク国民銀行
4月8日(水)借入/7月2日(木)返済14.25億ドル0.33%/85.00日
4月17日(金)借入/7月10日(金)返済0.40億ドル0.45%/84.00日
6月19日(金)借入/9月11日(金)返済3.00億ドル0.34%/84.00日
デンマーク国民銀行 合計17.65億ドル0.33%/84.81日
メキシコ銀行
4月8日(水)借入/7月1日(水)返済15.90億ドル0.36%/84.00日
6/26(金)借入→9/18(金)返済35.20億ドル0.36%/84.00日
メキシコ銀行 合計51.10億ドル0.36%/84.00日
ノルウェー銀行
4月20日(月)借入/7月13日(月)返済2.75億ドル0.33%/84.00日
4月27日(月)借入/7月20日(月)返済35.50億ドル0.33%/84.00日
ノルウェー銀行 合計38.25億ドル0.33%/84.00日
豪州準備銀行
4月14日(火)借入/7月7日(火)返済5.00億ドル0.33%/84.00日
5月1日(金)借入/7月24日(金)返済0.20億ドル0.30%/84.00日
豪州準備銀行 合計5.20億ドル0.33%/84.00日

(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)

金融不安は去ったかに見えるが…

FIMA為替スワップの残高については毎週、定点観測的に眺めているのですが、6月22日の週にFIMA為替スワップを引き出した中央銀行はECB、SNB、日銀の3行に加え、非常設型スワップ締結国(9ヵ国)は次の2つに過ぎません。

  • シンガポール通貨庁(MAS): 6/24(水)借入→9/16(水)返済の2.81億ドル(0.33%/84.00日)
  • メキシコ銀行:6/26(金)借入→9/18(金)返済の35.20億ドル(0.36%/84.00日)

おそらくメキシコ銀行のものは、既存4/3(金)借入・6/26(金)返済の50億ドルについて、その一部を借り換え(ロール)したものと考えられますが、借入額も減っています。

FIMA為替スワップについては3月中旬の「金融市場の緊急避難」としての役割を果たしたものの、現時点ではその役割は薄れており、実際、9つの中央銀行・通貨当局はこのFIMA為替スワップをさほど使っている様子もありません。

先週以前からの繰り返しで恐縮ですが、結局、このFIMA為替スワップについては、邦銀勢が「安い資金調達手段」として使っているのを除けば、現状では「危機対応」としての意義は薄れていると考えられます。

また、韓国銀行が昨日、79.2億ドルという比較的巨額の資金をロール(借換)なしに償還することができたことで、「非常設型FIMA為替スワップ」については予定どおり9月でアンワインドされる可能性が現時点では強まっていると考えて良いでしょう。

もっとも、「ポストコロナ」の経済危機が各国で本格化する可能性もあるため、9つの中央銀行・通貨当局の非常設型FIMA為替スワップが継続するという可能性もないわけではありませんが…。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 酒が弱い九州男児 より:

    資料ありがとうございます。

    韓国は、1210w/$以下なら借り換えると思ってましたが、予想がはずれました…orz

    これから毎週返済があるんですね。それはそれで、エンタメとして楽しめそうです♪

    返すのか?
    返せるのか?
    はたまた借り換えるのか?
    もしかして返せないなんてことは・・・

    って感じのエンタメです。

    失礼しました。

  2. ちょろんぼ より:

     いつもお世話になっております。
     みんな大好きな韓国の借り入れ残高の件もありますが、
    それよりカナダ・スウェーデン・ニュージーランド
    ブラジルの借り入れ残高が無い方に興味があります。
     借りれるなら借りようとする一方、借りなくても何とか
    なるといった国で何が起きているのかも、又興味が
    そそられるのです。
     それによって、それぞれの国の強み弱みがわかるのだと
    思います。

  3. 団塊 より:

     アメリカからdollarを借りに借りまくった大韓民国、借金し過ぎて溢れかえったドルで米国債買って、四月の米国債が3月より90億ドル増えた。
     今現在、大韓民国名義の米国債が72億ドル減ってるかどうか、アメリカの発表が楽しみですね。
     5日後、次のドル借金返済、約42億ドルは返せるだろう、多分。無理かな~~~

     楽しみは更に一週間後、約21億ドル借金返済、できるかな???ムリだろな!


    7月は、楽しい月になりそうですね。
     

  4. イーシャ より:

    6月末が期限の、社債など韓国の債務がそこそこあったと思うのですが。
    違いましたっけ ?

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告