対中輸出に急ブレーキ それでも増税を強行するつもりですか?
本日、財務省・税関が発表した4月の貿易統計(速報値)によれば、対米輸出が大きく伸びる一方で、対中輸出を含めたアジア向けの輸出高が大きく減少するなど、明らかに「米中貿易戦争の余波」と見られる現象が生じ始めているようです。ところで、現在のところ、安倍政権は今年10月1日以降の消費税率の引き上げを「既定路線」としているようですが、そもそも論として、直間比率の是正や特殊法人改革などに加えて、消費税法そのものの問題点(逆累進性、益税など)を放置したまま、今、消費増税を強行することは適切ではありません。
消費税の問題点
日本は、消費税の増税を必要としていないし、それどころか、消費税の増税は、日本経済を破壊することにつながりかねない
――。これは、当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』で、かなり以前から主張している内容です。
これは、「好き」「嫌い」で議論しているものではありません。きちんとした数値的な根拠をもって申し上げている内容です。
もちろん、税金が上がるのは誰だって嫌ですし、私自身も納税者の1人としての本音でいえば、所得税だって、法人税だって、社会保険料だって、払わなくて済むならばそれに越したことがないと思うのは事実でしょう。
しかし、この社会を支えるためには税金は必要ですし、租税負担力に応じて適正な水準の税金を負担するのは、国民としての義務でもあります(※ちなみに社会保険料は厳密には税金ではありませんが、ここでは便宜上、税金に含めます)。
この点については、異論はありません。
問題は、先日、『「日本国債はデフォルトしない」論はMMT使わずに説明可能』のなかでも紹介したとおり、消費税という税金そのものの設計にあります。
というのも、消費税法には、負担する側はエンゲル係数が高い人・所得が低い人ほど重税感が強く(逆累進課税)、しかも消費税額として支払われた金額のすべてが国庫に納税されるわけではない(益税)という、2つの問題点が存在しているのです(詳しくは上記記事をご参照ください)。
消費税の2つの問題点
- 逆累進課税…所得が低い人ほど税負担が重く、所得が高い人ほど税負担が軽い負担が軽い
- 益税…消費者が負担した消費税の全額が国庫に納税されるわけではない
つまり、制度設計そのものとして、消費税法には深刻な不備が存在しているのであり、このことは消費税法を論じるうえで、当然に踏まえておかねばならない前提です。
税率だけで議論することの間違い
さて、消費税の税率を引き上げるならば、その前提として、現在の税率が「適正なのか」という議論を避けることはできません。
この点、先月はOECDという組織が、「消費税を26%にまで引き上げるべし」という、何とも恥知らずで頭の悪い勧告を出したようですが(『恥を知れ、OECD!嘲笑に値する「消費税26%」勧告』参照)、果たしてこれは正しいのでしょうか?
まず、日本場合、消費税の合計税率は8%(国税6.3%、地方税1.7%)であり、これを合計10%(国税7.8%、地方税2.2%)に引き上げたとしても、欧州諸国と比べれば、まだ低い、という議論があります。
実際、駐日欧州代表部の公式ウェブマガジン『EU MAG』によれば、欧州連合(EU)で導入されているVAT(日本の消費税と類似する、付加価値税と呼ばれる税金)の税率は、加盟国間でかなりの違いはあるものの、ハンガリー(27%)、スウェーデン(25%)など、20%を超えている国もあります。
これだけを見ると、欧州諸国(とくに北欧諸国)などと比べると、確かに日本の消費税率はまだまだ低いのが実情でしょう。
しかし、こうした「表面上の議論」だけで税率を議論することは不適切です。というのも、EUのVATは軽減税率、超軽減税率などの区分が設けられており、また、食品や医薬品に対しては0%の税率が適用されている国もあるからです。
これに対し、わが国の消費税法では、消費税は食品、衣料品、その他生活必需品、一部の医療サービスなどを含めた日用品に対し、幅広く課せられています。このため、合計8%という税率だけで、「欧州よりも負担が軽い」と述べるのは不正確なのです。
なぜ「今」なのか?
さて、現在のところ、安倍晋三総理大臣や、安倍政権下で副総理・財相を務めている麻生太郎総理は、消費税については今年10月1日より合計税率を10%に引き上げると述べています。
ただ、なぜ今、これを強行するのかといえば、安倍政権下での2度に及ぶ消費増税の延期に対し、いい加減、財務省がかなり強いフラストレーションを感じていて、何が何でもこれを強行しようとしている、というのが実情に近いのではないでしょうか。
財務省にとっては、当然、自分たちが支配する国税庁の管轄下にある徴税権が拡大すること自体、「大歓迎」であり、徴税権が拡大すればその分、財務省にとっての「カネを通じた霞ヶ関支配」という利権も拡大します。
財務省にとっては、経済成長が腰折れすることよりも、国民生活が破壊されることよりも、とにもかくにも自分たちの利権を拡大することの方が重要なのかもしれません。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ただし、逆に「今、税率を上げてはならない理由」というものもあります。
その1つが、本日、財務省(ただし財務省本省ではなく税関)が発表した、『平成31年4月分貿易統計(速報)の概要』です。
報道発表 平成31年4月分貿易統計(速報)の概要(令和元年5月22日付 財務省税関HPより【※PDFファイル】)
これによると、2019年(平成31年)4月における貿易統計(速報値)は、前年同月比で輸出が▲2.4%、輸入が+6.4%で、差引貿易黒字は▲90.3%と大幅に減少しました。
- 輸出…6兆6588億円(▲2.4%)
- 輸入…6兆5983億円(+6.4%)
- 差引…604億円(▲90.3%)
もちろん、貿易統計をはじめとする経済指標は、トレンドや他指数との関連を総合的に見る必要がありますし、単月の動きを見たところで景気その他について正確なところを判断することはできません。
ただ、輸出高を地域別にみると、米国向けについては+9.6%と大きく伸びているのに対し、EU向けが▲2.6%、中国向けは▲6.3%と急減速していることを無視してはなりません。
図表 2019年4月における輸出額
主要輸出先 | 金額 | 前年同月比 |
---|---|---|
全体 | 6兆6588億円 | ▲2.4% |
うち米国 | 1兆4102億円 | +9.6% |
うちEU | 7979億円 | ▲2.6% |
うちアジア | 3兆5331億円 | ▲3.3% |
アジアのうち中国 | 1兆2329億円 | ▲6.3% |
(【出所】財務省税関)
日本経済の輸出依存度は世間で思われているほどは高くないものの、それでも「米中貿易戦争」の余波を受けて中国・アジア向け輸出が低迷すれば、日本経済にも間違いなく悪影響が生じます。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
いずれにせよ、もし消費税率を引き上げたいのならば、
- 税収全体における直間比率の是正(法人税、所得税の減税)
- NHKを含めた多数の特殊法人の廃止・財産の国庫返納
- 消費税法に内在する益税、逆累進性の是正(食品非課税等)
など、検討すべき課題がいくらでもあります。
これから6月末にかけて、衆院の解散風が吹くかどうかはわかりませんが、いずれにせよ、消費増税は「既定路線」ではないということを、私たち国民はくれぐれも強く意識する必要があります。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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更新ありがとうございます
今週末から、予測が付かない
色々が期待できるので、楽しみです
消費税増税延期になる事態の発生の公算大です
新宿会計士 様
いつも更新有難うございます。
私の勝手な持論ですが、消費税の導入を可能にした大きな理由は所謂“益税”にあります。
導入しようとした当時かなり反発が強く一旦導入されたらいつの間にか 5%-10%と
増えてゆくので危険だと多くの人が反発していたのを覚えております。 しかし大蔵省の
悪魔の囁きで多くの中小企業の人達が騙されました。 騙されたというか、その御目溢しに
便乗したのです。
日本には従業員が5人以下の会社が約300万社あります。会社組織でもないパパママ商店、
個人商店は同数以上あるでしょう。
更に個人でも土地持ちの場合、企業向けに工場用の建物を建てればその家賃は一定額以下
であれば全て益税として残ります。駐車場も同様です。
その当時は今よりも納税免除限度額が高かったと(多分3倍くらい)記憶しております。
特に個人の場合には仕入れがありませんので丸々益税になります。
この益税は抜群の効果を生んだと思います。
もしこの益税がなければまず消費税は廃案になったと今でも思います。
基本的に消費税というのは日本にはむかないと思います。日本のように徴税システムが
確立されている場合には以前のように物品税のような源泉徴収のほうが漏れもなく
不公平感が少ないと思います。軽減税率のような煩雑さや抜け駆け(マスコミ対策)
もありません。 まあ、こんなことをいまさら言っても消費税は、財務省を解体しない
限り存続するでしょうけど。
新宿会計士 様
少し訂正があります。
” 特に個人の場合には仕入れがありませんので丸々益税になります”
個人が企業向けに 倉庫や工場を建てたり、駐車場を賃貸したりした場合には仕入れがないので
賃料に掛かる消費税は 丸々益税になります。
個人の方でも、倉庫や工場を建てたり駐車場を整備した時には工事代金とともに消費税が発生しています。それらの維持管理費にも消費税は発生します。
その後の単年度計算のときに減価償却費が課税仕入れ扱いされないだけのことであり、不動産の取得費用が非課税だった訳ではないので「個人の方は丸々益税」と言い切ってしまうのはどうかと思います。
毎々の執筆、ありがとうございます。
年始から国内政治を眺めてきましたが、予想通り衆院解散して選挙するしかなさそうですね。
(憲法改正、経済減速に伴う税率10%の延期等)
但し、衆参同日選挙にはならないと思います。
(公明党の反対が強そう)
現在の世論なら自民党が議席を減らす事はないと思われるし、野党にとって不利な選挙になると思われるためです。(候補人数等)
気になるのは自民党内の動きで、以前、2Fを呼ばずに密室会談した後の流れがどうなっているのか…
見えないところで口裏合わせを行っているのが常の世界だけに、断定はできませんがしばらく眼が離せなくなりそうです。
さて、仕事に戻ります(泣)
失礼致しました。
消費増税して喜ぶのは財務省だけではなさそうです、輸出売上がある会社は消費税が還付されるので輸出割合が多い会社は税率が上がるほど利益が膨らむと言う仕組みに成って居ます(会計士さんの専門)。
https://orquestax.com/archives/348
何時も割を食うのは庶民と零細企業なのです、どの方向を見て仕事しているのか?多分自分の方向だと思います。
一会計士として申し上げるなら、税制などが複雑怪奇になればなるほど、会計士や税理士にとってはメシのタネになりますね。
実際、監査法人勤務ではない個人会計士の多くは税理士登録をしていて、税理士的には税制改革は儲けの源泉でもあります。
あと、会社を複数設立して課税売上高を抑えれば、合法的脱税も可能ですね。
そうなると新宿会計士様は会計士業界の中で異端で、下手をすれば業界からの圧力で干されたりしないか心配なんですが大丈夫ですか?
一応身バレしない程度で取り合えず消費税撤廃を主張されるだけで抑えたほうがいいかもしれないと思うのですが・・・
レス有り難うございます
ご高説頂きました。
矢張り消費税は欠陥税制です、私は見送ると思いますがもし上げるなら消費税10%消費減税10%で解消して頂きたいです。
非野阿礼 様
私は以前会社を経営しておりましたが、基本的には申告している会社の場合には消費税の
損得は発生しません。 輸出の場合には仕入れの際に消費税の支払いがあり、売り上げが
海外の場合には相手から消費税がもらえないので、還付があります。 しかし飽くまでも
その会社の払った全ての消費税額と受け取った消費税額の差額によって最終的に戻って
くる場合もありますし支払うこともあります。 ですから消費税での損得はありません。
寧ろ私の会社は輸出が多いときには2-3億円もあったときがあり、そんなときには
却って輸出が多い時は資金繰りが大変でした。
なぜなら仕入れの際に5%の消費税を先払いして、還付は通常6ヶ月先でした。
途中から3ヶ月単位で還付をお願いして許可されましたが、多いときには6000万くらい
の消費税が先払いになっておりました。私の会社の場合は取引は全て現金 ( cash
on delivery )でしたので特殊かもしれませんが、少なくとも税務申告をしている
会社の場合には消費税での損得は全くありません。 寧ろ年商1000万円以下の零細企業の
場合には益税が発生します。又個人でも自分の土地に倉庫や建物を建てて法人に貸し出し
をすれば最大100万程度まで(現在の限度額は当時より低いかと思いますが)全て益税となります。
unagimo3 様
成るほどです、矢張り私はド素人でした。
非野阿礼 様
私が偶々会社を経営していただけでの経験ですので、ひょっとして何かずるい抜け道が
あるのかもしれませんので偉そうなことはいえません。
但し、その当時こんな悪いことをしていた会社があったそうです。
その例は、輸入商社でした。 その会社は当時プリンターのトナーを米国から輸入して
国内の他の商社に売ることです。当時は中古のトナーと純正のトナー(キャノンやエプソン)
の差額がかなりあってうまみのある商品のようでした。確か3割以上安かったらしいです。
無論この中古のトナーは使用済みの純正のトナーだけを集めて独自にインクを充填した
ものですが品質的には殆ど純正と変わらないようでした。
輸入する際には消費税なしで購入できますし、国内の客先からは消費税を5%
もらえるので殆ど儲けなしで売っても成り立ちました。半年か或いは1年ほど
売り上げをして(多分10億程度との事でしたが消費税だけでも5000万円の儲けです。)
あとは偽装倒産です。一度しか出来ない卑怯な手口ですが、こういう法律の抜け穴を
利用して金儲けをたくらむ奴は居るものです。
但しこの話は友人から聞いただけですのどれほどの信憑性があるかは定かでは
ないですが、充分ありそうな話だと当時は(2002年ごろ)思いました。
更新ありがとうございます。
そう言えば友人の税理士さん、『2月、3月は無茶苦茶に忙しいから、飲み会とかは辞めて欲しいし幹事もしない』と一人で言ってます(笑)。掻き入れどきなんでしょうね。
新宿会計士さんは業界の中でかなり異端でしょうが、大丈夫ですか?身元バレとかの心配です。ちなみに上で友人と言った方は同じ学校の方と推測しますが(歳は遥かに爺です)、彼には一言も新宿会計士さんのことは言いません。いえ、子供の頃から抜群に勉強出来て、鼻につくタイプなので嫌いでしたから(爆笑)。今は違いますよ。
消費税増税をすると、景気は悪くなる。やっとマシになりだしたかな、というタイミングで、また米中貿易戦争の火も飛んで来て日本にダメージ出るのに、増税は絶対延期、棚上げです。心の中では、米中がやり合ってくれて、良い増税中止の口実になったわい、とも思っています。
増税至上主義者は財務省以外にも居るんですね。でも国民の多くは中以下の生活を強いられてます。本当に富の配分が両極端になりだしたと感じる。低所得層に負担のかかる日本の消費税は、一律徴収とか公平性が無い。
以前、会計士さんが『消費税を0%にしても日本はやっていける』とおっしゃってました。でも財務省がある限り、既得権益を持つ役人は絶対反対でしょう。
でもいろいろな国内海外情勢、風向きは安倍総理にとって、フォローだと思う。今年、衆議院議員選挙もあるだろうし、消費税の増税延期と改憲は、是非とも成立して頂きたいと存じます。来年は出来ればNHKもカイタイで、、。
>・NHKを含めた多数の特殊法人の廃止・財産の国庫返納
財務官僚の天下り先に国民の財産が隠してありますよ~って事ですね(笑)。
ちょっとムチャですが
消費税ではなく国債を500兆円すって年金基金に回してみて
どれだけデフレが抑えられるか見てみて、まだ行けるならインフレ率が2%になるまで
国債を出してゆき、団塊の世代の老後をある程度フォローして
将来の不安を無くしてお金を使うような政策にしていかないと
朝日新聞のように100歳まで生きる時代でどれだけ貯蓄を必要かと言ってしまうと
一番お金を持っている世代がお金を使わなくなります
国債で極端な人口減に対する穴埋めをして若い人の年金などをもう少し抑えて
経済を回してインフレにしていく
日銀に買い取らせていって円安に誘導して輸出を伸ばす
先にしていかないと、韓国のウォンが暴落して中国の元が暴落する中で
円だけが高くなると輸出がダメになり
少ない年金の将来不安な年寄りと多くの年寄りのために年金を払う少数の若い人間で
内需が伸びるわけもなくGDPが下がるとプライマリバランスがといって税金を上げるでは
楽しい未来が見えないです。