インバウンド観光目当ての中国語人材の育成は必要か?

「中国語人材がまったく足りていない」とする記事を見かけましたが、それは正しいのでしょうか。そもそも論として最新データでは、訪日外国人がコロナ前の8割程度にまで戻って来ていることを忘れてはなりません。中国人入国者数がコロナ前と比べほとんど戻って来ていないものの、中国人以外の入国者が急増しているからです。こうしたなかで、中国語人材を日本全体として育成する必要があるものなのでしょうか。

2023年7月だけで232万人の外国人が訪日

当ウェブサイトでこれまでしばしば取り上げてきたとおり、昨年10月に日本政府が外国人観光客の受入を再開して以降、訪日外国人は増加を続けています。日本政府観光局(JNTO)のデータによれば、2023年7月だけで232万人もの外国人が日本を訪れた格好です。

ただ、コロナ前と比べて顕著な違いが生じていることも事実です。

図表1は2023年7月時点に訪日外国人を上位順に並べ替えたものです。

図表1 訪日外国人(2023年7月、速報値)
人数割合
1位:韓国626,80027.01%
2位:台湾422,30018.20%
3位:中国313,30013.50%
4位:香港216,4009.33%
5位:米国198,8008.57%
6位:フィリピン51,7002.23%
7位:タイ49,6002.14%
8位:ベトナム44,8001.93%
9位:カナダ38,8001.67%
10位:豪州35,6001.53%
その他322,50013.90%
総数2,320,600100.00%

(【出所】JNTOデータをもとに著者作成)

すでにコロナ前の8割水準に!

同じ形式で2019年7月分についてもランキングを作成してみると、図表2のとおりです。

図表2 訪日外国人(2019年7月)
人数割合
1位:中国1,050,42035.12%
2位:韓国561,67518.78%
3位:台湾459,21615.35%
4位:香港216,8107.25%
5位:米国156,8655.24%
6位:タイ73,2022.45%
7位:ベトナム40,7621.36%
8位:フィリピン37,7711.26%
9位:豪州34,8731.17%
10位:フランス34,6341.16%
その他324,96110.86%
総数2,991,189100.00%

(【出所】JNTOデータをもとに著者作成)

図表1と図表2を見比べてみれば、訪日者数はすでにコロナ前の8割水準に戻って来ていることがわかりますが、それだけではありません。訪日者の国籍にも、順序に大きな変動が生じています。2019年7月時点で100万人を超えてトップだった中国は、23年7月時点で30万人少々と、7割も減ったままです(図表3)。

図表3 訪日外国人数比較(2019年7月vs2023年7月)
2019年7月2023年7月増減
中国1,050,420313,300▲737,120
韓国561,675626,800+65,125
台湾459,216422,300▲36,916
香港216,810216,400▲410
米国156,865198,800+41,935
タイ73,20249,600▲23,602
ベトナム40,76244,800+4,038
フィリピン37,77151,700+13,929
豪州34,87335,600+727
フランス34,63431,100▲3,534
その他324,961285,062▲39,899
総数2,991,1892,320,600▲670,589

(【出所】JNTOデータをもとに著者作成。なお、2023年7月のデータは速報値であるため、比較は正確なものとは限らない)

中国人に依存しない観光産業

入国者の内訳をみてみると、コロナ前の2019年7月と比べ、入国者の総数は約67万人減っていますが、中国人が約74万人減っていることに注意が必要です。ということは、「中国人以外」に限定して言えば、すでに入国者数はコロナ前の水準を回復している、というわけです。

しかも、『「中国頼み」でなくなる日本のインバウンド観光の課題』などでも指摘したとおり、中国人以外の入国者は増加傾向にあります。

というよりも、むしろ現在の日本は「オーバーツーリズム(観光公害)」にさいなまされ始めている状況であり、観光庁主導でオーバーツーリズム対策会議などが開かれるほどです(『ベネチア「入市料」参考に、日本も「入国料」検討は?』等参照)。

こうしたなかで、中国政府が自国民に対する日本向けの団体旅行を解禁したことで、中国人観光客が急増すれば、日本各地で観光客が急増し、交通網や宿泊施設などの社会的機能がマヒする可能性すら出て来ています。

さらには福島第一原発の処理水海洋放出を受け、中国人の団体観光客が急減している、といった報道も出て来ていますが、じつは「結果論として」、オーバーツーリズム対策になるのかもしれません(『中国「日本旅行キャンセル」の動きが観光公害対策に?』等参照)。

中国語人材の不足、問題なのでしょうか?

こうしたなかで、『日刊SPA!』というウェブサイトに、こんな記事が掲載されていました。

「中国語ができる人材」が争奪戦に。“団体旅行解禁”で急速に高まる需要

―――2023/09/09付 日刊SPA!より

『日刊SPA!』にライターの方が寄稿した記事ですが、これによると「中国からの団体旅行客が急増する」と見込まれるなかで、「日本全体で中国語人材が不足している」、などと述べています。

たとえば中国人観光客が多数訪れる店では、中国人向けの決済ツール(WeChat PayやAlipay、銀聯カード)などに対応している店舗や施設はあれど、「決済はできても中国語で応対ができる人材を抱えている店舗や施設は、まだ少ない」、としています。

はて。

そもそもそんな必要性、あるのでしょうか?

正直、いろいろと議論が飛躍しています。

そもそも現状、中国人観光客がコロナ前と比べて本調子ではないなかで、中国人観光客を当て込んでわざわざ中国語人材を育成する必要性があるのか、という疑問があります。

もちろん、中国語が通用する相手国は中国だけに限りません。とくに図表1などでもわかるとおり、台湾人や香港人の入国者などが増えていることを踏まえると、インバウンド産業において、中国語の需要がなくなるということは考え辛いところです。

(※ただし、香港人の場合、多くは中国語=マンダリンだけでなく、英語も解しますし、そもそも香港の公用語は広東語です。)

また、中国人観光客を当て込んで中国語人材を育成したところで、またなにかあったときには容赦なく観光客が急減する可能性はありますし、なにより中国は観光需要などを平気で政治利用する国でもあります(韓国が2017年頃に中国から「THAAD制裁」を受けた事例もその典型例でしょう)。

『日刊SPA!』の記事では、「中国人観光客の再びの増加は、インバウンド需要だけでなく両国間の理解を深める好機でもある」などとして、「これからも日中間での渡航が盛んになることを考えると、人材不足が叫ばれる今から中国語を習得してスキルアップを狙えそうだ」、と結論付けています。

しかし、正直、中国語人材の育成は経済合理性に照らして各業者が適切に判断すれば済む話ですが、「中国語人材がまったく足りていない」からといって、それに何か具体的な問題が生じるというはなしでもないでしょう。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. たろうちゃん より:

    久しぶりに街に行った。杖をついてのヨタヨタ歩きだが、確かに街の様相が違う。外国人が多いのだ。オレの住む小田原は箱根に行く門前町なんだが明らかに外国人が増えた。中国語をできる人材を増やせという。日本に来るのは中国人だけではない。人数の違いはあるが様々な国の人が日本に来るのだ。旅館法が改正されて非常識な振る舞いをする人間を排除できるようになった。通訳がいれば役には立つだろうが一番グローバルなのは英語じゃなかろうか。おれは中国なら(上海、北京、紹興、黄果樹、蘇州、杭州、貴州省)に行ったけど身振り、手振りでなんとかなった。フィリピンなら(マニラとダバオ)に行ったけどなんとかなった。日本に来るなら日本語や英語は理解してくるべきで中国語をはなす人材の育成か主ではない。あぁ、、一番日本語が通じたのはタイのバンコクのクラブの女だったなぁ。

  2. 普通の日本人 より:

    APAホテルでは中国人の宿泊を制限してる。との記事
    偏りは良くない。
    一国にした場合トラブルがあれば業務の継続に支障がでru.
    北海道ホタテ御殿に住む方々はホタテの価格は下げない。
    東電・国が何とかしろ。とのこと
    税金チューチューシステムがここにも
    これの対応に現状で1000億円を超える税金が投入されるとか
    最終は一体いくらまで膨らむことやら

  3. カズ  より:

    >「中国語人材がまったく足りていない」

    きっと、マナー違反を指摘できる人材のことなんですよね。
    言葉が通じても話が通じるのか?は別の話なんですけどね。

  4. 七味 より:

    記事自体は、個人が中国語を学ぶメリットを紹介してるだけで、国を上げて中国語学習を支援すべきみたいな内容じゃないから、まぁそういう考えもあるだろうなって思うのです♪

    競争の少ないとこを狙うのは、作戦のひとつとしてありだと思うのです♪

    気になるのは新宿会計士様も引用してる
    >「中国人観光客の再びの増加は、インバウンド需要だけでなく両国間の理解を深める好機でもある」などとして、
    という部分なのです♪

    正直なところ観光客の増加って、両国間の理解を深めるのに役に立つものなのかな?
    理解を深めたからといって、旅行者とそれに接した人が、個人的に理解を深めたからと言って、国同士の関係におっきな影響があるのかな?
    って思うのです♪

    コロナ前の訪日外国人の半数が中韓からだったみたいだけど、それで両国が日本に対して好意的な行動をしてたのかな?
    って思うのです♪

    ぶっちゃけ、両国よりも訪日者数の少ない米国の方が、関係が良かったし、今も良いように思うのです♪

  5. たろうちゃん より:

    理解出来ないのは、現在進行形で「汚染水、汚染水」と叫ぶ中国や韓国人がピーク時まではいかぬとも、訪日数が上位を占めていることだ。なんで来るのよ、、と言いたいぐらいの反日暴挙なのだ。ま、日本人の場合暴動は起こさずとも、静かなる仕返しは徹底する。岸田がアホなだけで赦したわけじゃない。浜田防衛大臣が反社会的な輩との写真撮影がすっぱぬかれた。改造内閣での留任はないだろな。臭いものには蓋をするごとくスルーするんだろうが親父の浜田幸一ほどの愛嬌と度胸があるとはおもえない。岸田は運がいいだけの政治家かもしれない。なにせ改造とスキャンダルが鉢合わせするんだからな。岸田もすこしは度胸みせてこっちから禁輸して新規開拓できないか?あのバカ総理補助金ばかりくばりやがって。

  6. 迷王星 より:

    「日本に観光旅行で来たければ日本語か英語でコミュニケーション出来るようになれ」で良いと思いますね.

    鉄道の駅・車内や道路標識での繁体字・簡体字やハングルの表示(一部地方でのロシア語)も速やかに廃止して,日本語(漢字&かな)・ローマ字・英語の表示だけにすべきですね.

    特にハングル表示は全くの無駄.というか日本人や殆どの旅行者が頼りにする日本語・ローマ字・英語による表示の時間比率を減らして意味不明な表示をする効果しかなく迷惑です.

    つまりハングル表示は南北朝鮮系の旅行者・在日居住者以外には全く役に立たないだけでなく,他の者にとっては迷惑以外の何物でもありません

    ローマ字で表示された駅名・地名などの読みが出来ない人は日本に旅行に来てもらわなくて良いし,それが読めなくて日常生活に支障を来す者は日本に居住せず故国に帰れば良い.

    1. ぬい より:

      迷王星様

      >鉄道の駅・車内や道路標識
      まさにこれです。
      私は時々耳が聞こえ辛いこともあり、使い慣れない路線のときは特に車内の画面表示を確認したいのですが、これが意外と時間がかかります。もうすぐ停まりそうなどタイミングによってはハラハラします。バスは事前に降車ボタンも押さねばなりませんし。

      ローマ字は読めます、繁体字も漢字としてなんとか読む、簡体字は読む読めない五分五分、ハングルに至っては暗号です。
      大きな構内表示などは多言語もいいと思うのですが、限られた時間で確認する車内表示はもう少し絞っていただけると有難いなと思います。

  7. 一之介 より:

    アメリカに駐在した矢先に米人から英語くらい話せてから来いと言われた事を思い出しました。で、日本語くらい話せるようになって来いと言ったらあきませんかね?日本人はありがたいことに外国人を本当に過保護にしますね。特別永住権?なるものもその証左の一つ?犯罪者も強制送還されないからやりたい放題?直接関係ない話しかもしれませんけれども。

  8. ねこ大好き より:

    まずは英語。戦後78年どころか、おそらく明治維新から100年以上、熱心に英語教育をしているのに、一向に日本人の英語力は高まらない。
    個人的な努力や能力、環境に依存している、気がします。もっともどんな学問やスポーツも同じ事かもしれませんが、もう少し通じる英語が中高で身につかないものでしょうか。
    中国人韓国人は高い英語力が自慢のようですので、英語が通じれば問題ありません。

    1. はるちゃん より:

      故渡部昇一氏によると、日本は歴史的に外国の文献を読んで理解する事を外国語教育の目的としてきたとのことです。
      文献の理解を目的としていますので、漢文などは、送り仮名や返り点をつけて訓読文として日本人なら誰でもが読めるような形にしてきました。
      英語教育も、外国の知識を習得することが目的となっていますので、日本人は大変難しい文献も読みこなすことが出来ます。辞書を片手にという形かも知れませんが。
      会話は外国語教育の目的外でしたので、会話は別途教育が必要かと思いますが、会話は日常的に使わないと忘れてしまうという欠点もあるようです。

    2. 匿名 より:

      日本人が外国語が苦手な理由で、多くの人が見落としているのが 「発音」 です。日本語の発音は、世界の言語の中ではかなり単純な方で、区別しなければならない音の種類が少ないんですよ。(日本語に同音異義語が多いのは、そのため。)

      人間はある程度の年齢になって、母語が固まると、母語で使わない発音や区別しない発音は、外国語でも聞き取るのが難しくなります。よく言われるのが 「日本人は『L』と『R』の区別ができない」 ですね。

      英語は、文法はインド・ヨーロッパ語族の中で一番単純 (世界中で使われるうちに単純化していった) けど、発音はそれほど単純ではありません。アクセントがある時とない時で、音自体が変化するという珍しい特徴もありますし。(例:「Real」 の 「a」 と 「Reality」 の 「a」 は異なる音。)

      余談ですが、映画 「タイタニック」 のテーマで世界的スターになった歌手のセリーヌ・ディオンは、カナダのフランス語圏 (ケベック州) の出身で、当時はまだ、英語があまり上手ではありませんでした。(フランス語圏では、すでに絶大な人気でしたが。)

      Celine Dion – My Heart Will Go On (Official Music Video) – YouTube
      https://www.youtube.com/watch?v=CUmOFqQRkco

      この歌も、じつは英語の発音が少しおかしいんです。具体的には 「アクセントのない母音が、あいまい母音になっていない」。そのことを英語のネイティブ・スピーカーに尋ねてみたら、やはり発音が 「Too Clear」 だと言ってました。

  9. より:

    まあ、少なくとも、韓国語を学ぶよりは、中国語を学んだ方が、いろいろな意味で有益だろうとは思います。有用度で言えば、英語とスペイン語の次くらいかな?
    実は、中国語はちょっとだけ勉強したことがありますが、ある程度読み書きできるようになるのはそれほど難しくありませんでしたけど、発音がねぇ……(-.-;

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告