印メディア「米国はBRICSとスワップを締ぶべき」

今度は「BRICSスワップ」ですって。「米FRBがアジア・アフリカに冷たい姿勢を示しているならば、米ドルに代替する仕組みを我々は採用するぞ」、という脅しがインドのメディアに掲載されました。そのような仕組み、作れるものなら作れば良いではないかと思ってしまいますが…。ちなみにインドは日本から総額750億ドルという破格の通貨スワップを提供されている国でもあります。

通貨スワップ待望論

通貨スワップ待望論:トルコのケース

ここ数日、米ドル高が生じるたびに、その反動で新興市場諸国の通貨に不安が生じているようであり、とくに外貨不足の国からは「通貨スワップ待望論」が聞こえてくるようになりました。

その典型例が、トルコでしょう。

昨日の『日本の「スワップ外交」と外貨不足に悩むトルコの関係』では、トルコが「インフレ下の低金利政策」という、なかなかに理解に苦しむ政策で自縄自縛状態に陥っているとする話題を取り上げました。

そのトルコでは外貨準備の不足が生じており、とくに公称1000億ドル少々の外貨準備のうち、すぐに使い物になる現金預金・有価証券の合計残高は500億ドルあまりに過ぎません。

そして、一部メディアは、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、同国を訪れたサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子に対して通貨スワップの創設を要望した模様だとしつつも、具体的な進展は何もなかったとも伝えられています。

この点、トルコが外国と保有している通貨スワップは、中東のUAEとカタールに加え、中国との人民元建てのスワップ、韓国とのウォン建てスワップであり、いずれも米ドルなどの国際的なハード・カレンシーではなく、相手国の通貨でしか引き出すことができません。

やはり、世界の基軸通貨である米ドルで引き出せるタイプのスワップを提供することができる国といえば、米ドル紙幣を印刷する能力を持っている国(米国、北朝鮮、カリオストロ公国)を除けば、1.3兆ドルという豊富な外貨準備を持っている日本など、ごく一部に限られるのではないでしょうか。

正直、日本がトルコとの通貨スワップを創設する可能性は高くないと思いますが、「仮に」という議論で申し上げるならば、ロシアのウクライナ侵略の試みが失敗に終わるよう、トルコが対ロシアで重大な役割を果たすことを約束してくれるなら、トルコに対しごく少額のスワップを提供することは「アリ」かもしれません。

G20スワップという非現実的な構想

ただ、こうした議論以外にも個人的に気になっている論点があるとしたら、「G20スワップ」でしょう。

ちなみにこの「G20スワップ」とは、G20諸国が相互に通貨スワップ(ないし為替スワップ)協定を締結するというのこと構想だそうですが、『SWIFTデータで見る「G20スワップ」の非現実性』などでも議論したとおり、その構想自体極めて非現実的です。

そもそもG20とは、G7、すなわち日米英仏独伊加の7ヵ国に欧州連合(EU)を加えた協議体に、アルゼンチン、豪州、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、ロシア、南アフリカ、サウジアラビア、トルコの12ヵ国を加えた20ヵ国・地域の協議体のことです。

経済発展のレベルも異なれば、基本的な価値(自由・民主主義・法の支配・人権など)を共有していない国も多く、言語も宗教も国土の面積も人口もバラバラなこの協議体が、そううまく機能するというものでもないのも当然のことでしょう。

G7以外のG20諸国で、G7諸国と基本的価値を共有している国といえば豪州くらいなものであり、これにせいぜい、日米豪とともに「クアッド」を構成しているインドが加わるかどうかでしょう。

G7諸国+スイスの常設型為替スワップ

また、G7諸国にスイスを足した6つの通貨圏(日米英欧瑞加)は、常設型の金額無制限の「外国為替流動性スワップ協定」(いわゆる為替スワップ)を、お互いに締結しています。

これは、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、スイスフラン、加ドルという、国際的な6つのハード・カレンシー発行銀行が、流動性不安に際しては、お互いの通貨を相手国・地域の金融機関に対して無制限で供給しようという協定のことです。

米FRBはこの為替スワップ協定を2007年以降、順次他の中央銀行と結び始めたのですが、2008年には14ヵ国・地域の中央銀行・通貨当局と結んだにも関わらず、結局、これらのスワップの常設化は、日米英欧瑞加の6ヵ国・地域に限定されています。

また、のこり9つの中央銀行・通貨当局とのスワップについては、コロナ禍が深刻化した2020年3月に時限的に復活しているのですが、これらは2021年12月末で終了しています。

米FRBが2020年3月から2021年12月まで為替スワップを締結していた相手
  • 時限的・上限600億ドル…豪州準備銀行、ブラジル中央銀行、韓国銀行、メキシコ銀行、シンガポール通貨庁、スウェーデンリクスバンク
  • 時限的・上限300億ドル…デンマーク国立銀行、ノルウェー銀行、ニュージーランド準備銀行

(【出所】著者調べ)

しかも、G20のうち、アルゼンチン、中国、インド、インドネシア、ロシア、南アフリカ、サウジアラビア、トルコの8ヵ国については、こうした時限的な為替スワップすら締結されたことがありません。

インドメディアの不満

印メディア「米FRBは新興市場諸国に冷たい」

これに関連し、意外な国のメディアが、米FRBはもっと多くの国と為替スワップを結ぶべきだと主張し始めたようです。インドの英字メディア『money control』に昨日、こんな記事が掲載されていたのです。

Why US Fed must extend dollar swap lines to BRICS central banks

With a capital of $100 billion, the BRICS Contingency Reserve Agreement is touted to be a possible alternative to the US Fed’s Foreign Currency Liquidity Swap Lines, acting as a liquidity manager for BRICS nations<<…続きを読む>>
―――2022/06/23 17:00 IST付 money controlより

『money control』によると、米国が現在、日英欧瑞加の5ヵ国・地域を特別扱いしていることを批判したうえで、「米国がドル覇権を守りたいと思うのならば、外国為替流動性スワップをBRICS諸国にも拡大すべきだ」、と述べています。

ちなみにリード文にある「1000億ドル規模のBRICS緊急準備協定」とは、BRICS諸国(つまりブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が相互に支援するために2014年に創設した仕組みのことだそうで、これについては次のように述べられています。

“Nevertheless, given its small capital size and the mutual discontent among members, the fund doesn’t yet have enough fire power. Things, however, can change rapidly, as dissatisfaction with the Fed is imminent”.

つまり、現時点におけるBRICS相互間の協定については、金額の規模が不十分であるという不満が加盟国間で漏れているが、もしもFRBがBRICSとのスワップを結ばなかったとすれば、米国に代わって同協定がFRBの代わりを果たすかもしれない、などと述べているものです。

大変に噴飯ものと言わざるを得ません。「FRBに不満がある」、「BRICS協定がFRBの代役を果たす」などというのならば、さっさとそのような仕組みが機能するよう、BRICS間で金額規模を拡大すれば済む話ではないでしょうか。

日米英欧瑞加6ヵ国・地域にはちゃんとした理由がある

ちなみにこの記事、為替スワップに関する記述としてはかなりの程度、正確なものではあるのですが(為替スワップのことをかたくなに「通貨スワップ」と言い張る某国のメディアとは大違いです)、ただし、専門家の目から見れば、やはりおかしな記述が含まれています。

それが、日米英欧瑞加6ヵ国・地域の常設型為替スワップについて触れた、次の部分でしょう。

What made the Fed identify these banks as systemically important is still nebulous; nevertheless, this lack of empathy towards vulnerable emerging markets may accelerate attempts of de-dollarisation of the global economy, and a search for an alternative reserve currency or a rather basket of currencies.

つまり、「米FRBはなぜこれら5つの国・地域の中央銀行を金融システム上重要な銀行だと特定したのか、その理由はあいまいだ」、「FRBにはエマージング・マーケッツに対する共感が欠如している」、などと舌鋒鋭く批判しているのです。

この点、くどいようですが、米国が外国とスワップを締結するのは、基本的には次の3つの事例に限られます。

  • ①特別な協定が存在する場合(たとえばカナダ、メキシコとの「NAFAスワップ」)
  • ②米国にメリットが存在する場合(たとえば日本を含めた5ヵ国・地域との為替スワップ)
  • ③金融緩和の必要性がある場合(たとえば9ヵ国との時限的な為替スワップ)

このうち②に関しては、米国にとってはこの為替スワップを通じ、日英欧瑞加5ヵ国・地域の金融機関に対しドル資金を供給する義務を負う反面、米国の金融機関に対し、これら5ヵ国・地域から円、ポンド、ユーロ、スイスフラン、加ドルといった外国通貨の流動性供給を行うことができる、という利点があります。

この点、中国の通貨・人民元は国際化が中途半端に止まってしまっていますし、インドの通貨・ルピーは国際的に広く通用する通貨(いわゆる「ハード・カレンシー」)ではありませんし、ロシアの通貨・ルーブルに至っては西側の金融制裁の影響で、すっかり国際的な信用が地に堕ちてしまいました。

また、ブラジルの通貨・レアルや南アフリカの通貨・ランドについては、外為取引の世界ではときどき目にするものではありますが、これらに関しても使い勝手が良いとはとうてい言えません。

「米ドルに代替する仕組み」、作れば良いのでは?

『money control』の記事の問題点は、それだけではありません。

FRBがBRICSを無視し続けると、「ブレトンウッズ構造である米ドル」に対し「複数の並行システムが出現する」、などと述べるのですが、その「並行システム」のひとつになろうとした人民元自体、通貨の国際化が完全に停滞しているという現実を無視するのはいかがなものかと思います。

すなわち、中国は諸外国と旺盛に通貨スワップなどの協定を締結するなどの攻勢をかけていますが(『【資料】中国が外国と締結しているスワップ協定の一覧』等参照)、せいぜい、中国がスワップで脅せる国は韓国くらいなものでしょう。

いずれにせよ、こうした事情を踏まえずに、「FRBがBRICSに対して現在のような冷たい態度を維持していると、アジアやアフリカなどの脆弱な経済圏は、米ドルに代わるものを採用しようとするだろう」、などといわれても、少々困ってしまいます。

日印スワップに言及すべきでしたね

ちなみにインドは日本との間で総額750億ドル相当の(※「為替スワップ」、ではなく)「通貨スワップ協定」を保有していますが、それでも足りないのでしょうか?(※日印通貨スワップは今年2月28日に更新されたばかりです)。

せっかく日本からの通貨スワップが提供されているのだから、通貨スワップや為替スワップに言及するインドのメディアがそれに言及しないのはいかがなものかと思う次第です。

読者コメント一覧

  1. sqsq より:

    BRICSのメンバーを見てインドにアドバイスしたい「早く不良仲間から離れた方がいいよ」

    1. りょうちん より:

      BRICSって勝手に外野が括ってるだけなので、言われてもなあってところが。

      G7/20って結局のところ、cut off値の問題なんでしょうけど、こちらも誰が決めるか。

  2. ちょろんぼ より:

    印が言っているのは、米国と対等になりたいと言っているだけです。
    日本と巨額のドル円SWAP契約を結んでも、米国の子分の日本とはね~。
    いくら巨額とはいえ、箔が違うんですよね~。

    そう言えば、どっかの論考で、対露の制裁をしている国より
    していない又は保留の国々を集めれば、スゴイ経済圏ができるという
    なんか南国思想的な論考がありました。
    その国々で新たなる光暉く通貨「ウォ~ン」「エ~ン」「ワ~ン」
    を作るというのも面白いですね。(注;泣いているのではありません) 
    私が思うに貧乏人は何人集まっても貧乏人の集まりでしかならないと
    思うのです。 いや、金額の大小とかは関係無い、集まって行う事が
    重要だという夢見がちな意見がある事は十分承知しております。

    1. 匿名 より:

      スワップを物乞いしておいて対等な関係は無いでしょう。

  3. 引っ掛かったオタク より:

    印メディアといってもひとくくりというわけにもイカンでせうし、
    当該印メディアが何色の媒体なのか、興味深いですね

  4. sqsq より:

    スワップって便利な言葉ですね。

    「カネがないから貸してくれ」と言うかわりに「スワップを結ぼう」

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