ロシアの石油産業苦境に?凍結資産没収も検討中=報道

ロシア経済は実際のところ、苦境にあるのでしょうか。これについてWSJが昨日、「ロシアの石油輸出に急ブレーキがかかった」と報じました。また、日経は今朝、カナダ政府がロシアの資産没収でウクライナ戦争の被害者の救済に充てることを検討していると報じています。西側諸国の一致した経済・金融制裁がロシアに対しどんな影響を与えるのか、注視する価値はあるでしょう。

制裁「だけ」でロシア経済を崩壊させるのは難しいかもしれないが…

ロシアのウクライナ侵攻を受けた西側諸国によるロシアに対する経済・金融制裁自体は、たしかに極めて厳格なものではありますが、当ウェブサイトでは『意外としぶとい?ルーブル「紙屑化」の可能性を考える』などでも述べてきたとおり、「これだけ」でロシア経済を崩壊させることは難しい、と考えてきました。

その理由はいくつかあります。

まず、北朝鮮やイランのように、すでに国際的な制裁を喰らっているにも関わらず、しぶとく生き残っているという実例がある、という点でしょう。ことに、資源もない世界の最貧国レベルの北朝鮮が、(中露による隠然たる支援はあるかもしれないにせよ)いまだに生き延びていることがその典型例でしょう。

次に、ロシアは北朝鮮などと異なり、穀物生産国かつ資源国であり、その気になれば「内に籠る」ことができてしまう、という点です。もちろん、産業のキーデバイスは西側諸国からの輸入に依存していますが、その気になれば、産業・軍事上必要な物資は、中国経由の迂回貿易で不正に入手できます。

さらに重要な点があるとしたら、ロシア自身が国連安保理常任理事国であり、国連から経済制裁を喰らうという可能性が極めて低く、中国、インドなどの有力な新興市場諸国がロシア制裁に同調していない、という事実があります。

このため、西側諸国による経済・金融制裁が長続きしたとしても、これらの制裁「だけ」でロシアの経済を破綻させることは難しい、というのが当ウェブサイトなりの暫定的な結論、というわけです。

参考:ロシアの通貨・ルーブル紙幣

(【出所】ロシア中央銀行)

ロシア産原油輸出に急ブレーキ=WSJ

ただ、それと同時に、ひとつの救いがあるとしたら、少なくとも西側諸国は現在までのところ、ロシア制裁で一致団結している、という点にあります。こうした証拠でしょうか、米メディア『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)に昨日、興味深い話題が出ていました。

ロシア原油輸出に急ブレーキ、買い手つかず 欧州はロシア産原油の全面禁止に向かうとの見方が背景

―――2022 年 4 月 27 日 10:34 JST付 WSJ日本版より

WSJによると、ロシアがこのほど大量の原油を入札にかけたものの、「国営石油大手に対して近く発動される制裁措置などが足かせとなり」、買い手がつかずに失敗に終わったのだそうです。こうした状況を受け、WSJは「ロシア経済の屋台骨であるエネルギー業界は苦境に追い込まれつつある」と指摘しています。

報じたのがWSJであるという時点で、こうした「ロシア経済の屋台骨が苦境に」云々の指摘については、若干のバイアスがかかっている可能性があるという点には注意が必要でしょう。

ただ、WSJによると、問題の件は、ロシア国営石油大手のロスネフチが「タンカー船を埋めるだけの十分な買い手を確保することができなかった」とするものだそうであり、これについては「トレーダーへの取材やWSJが確認した文書でわかった」、などとしています。

これが事実であるならば、その背景については少し気になるところです。「西側諸国が対露制裁に向け、足並みをそろえて一致団結していることが、ロシアの石油産業を追い込んでいる」ということであれば、これはこれで歓迎すべき兆候でしょう。

WSJによれば、今回の件は、欧州の対ロスネフチ制裁が5月15日に導入されることが、ロシアの石油販売に影響を与え始めている「初期の兆候」としていますが、実際に規制当局が強い意志を示すならば、民間企業もこれに従わざるを得ません。

カナダ当局がロシア資産の没収とウクライナ支援を検討=日経

その一方で、当ウェブサイトでは「西側諸国が凍結しているロシアの外貨準備などの資産をウクライナ復興支援のためにそのまま流用してはどうか」、などと提唱したことがあります(『S&Pがロシアの外貨建信用格付を「SD」に引き下げ』等参照)。

こうしたなか、日経新聞によると、実際にカナダ政府がロシア制裁で凍結した個人・団体の資産を没収し、ウクライナ侵攻の被害者補償に充てるための措置を検討していると報じました。

ロシア凍結資産を没収、ウクライナ被害者に カナダ検討

―――2022年4月28日 6:31付 日本経済新聞電子版より

具体的には、カナダのメラニー・ジョリー外相が27日に明らかにしたもので、日経は「侵攻に踏み切ったロシアの責任を明確にして制裁による圧力を高めると同時に、ウクライナ支援を強化する新たな手法を模索する」ものだと述べています。

カナダはこれについて、G7の各国にも同様の措置を取るように働きかけているそうですが、こうした動きがほかの国にも広がれば、ロシアに対する圧力となるだけでなく、被害国であるウクライナを勇気づけ、ロシアとの戦争を勝利に導く原動力にもなるかもしれません。

いずれにせよ、こうした各国による努力がロシア経済にいかなる影響を与えるかについては、もう少し注視する価値があるかもしれない、と思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. ちょろんぼ より:

    あれ~、中共・印・南国のタンカーが列を連ねて、原油買いにいかないの~。
    タンカーを急には回せないのかな~?
    おかしい~な~。
    北国も南国からタンカーを融通してもらったのだから
    行けばいいのに。
    困った時、助けに行かないと友人枠から外されるぞ~。

    1. りょうちん より:

      インドは、外貨に困っているロシアからS-400を購入するという支援をしていますw。

      1. ナニガシ より:

        ウクライナで使いたいので、売りたくないでしょうね。
        部品調達も出来なくなるでしょうし。
        でも外貨欲しいし、インドとは仲良くしたいし。

    2. はにわファクトリー より:

      Party Gate 事件で足元に火がついているジョンソン首相がインド訪問して。いかに英国がインドを大切にしているかを糸車を紡いでデモしてみせたり、フォンデルライエン欧州委員長がインド訪問して、安全保障をモディ首相と協議したりしてもいます。各方面勢力が「戦後体制」を構想しているような気がしますw。

  2. トシ より:

    最終的にはロシアによる欧州への原油、ガスの供給は米国に代わる。

    現在の米国はシェールオイル、ガスの稼働がピークの8割程度。
    リグの稼働を抑制して新規の開発も凍結している。

    これはバイデンの脱炭素グリーン政策のため。

    だがウクライナ侵攻とエネルギー価格上昇は政策変更の大義名分になりうる。

    もうじきシェールオイル、ガスの増産が発表されるだろう。
    併せて欧州各地にLNG設備の整備も発表される。
    米国から大西洋を渡って原油、ガスを輸出することになる。

    このように欧州の原油、ガスの供給先はロシアから米国になる。

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