韓国など「脆弱ファイブ」に金融危機第2波は来るのか

米FRBが諸外国の中央銀行・通貨当局(FIMA)と締結している「FIMA為替スワップ」を巡っては、当ウェブサイトでもずいぶんと取り上げて来ました。結論から言えば、3月頃と比べ、現時点における金融市場の状況は「危機的」というものではありません。コロナショックによる混乱も一巡したからです。ただ、それと同時に先週中旬ごろから「脆弱ファイブ」を中心に、なにやらキナ臭い動きも出ています。これをどう考えれば良いでしょうか。

FIMA為替スワップ最新残高

当ウェブサイトで3月中旬以降、深い関心を持って追いかけて来ているテーマのひとつが、米国の中央銀行に相当する連邦準備制度理事会(FRB)から諸外国の中央銀行・通貨当局(FIMA)が借り入れている為替スワップに基づく流動性供給残高です。

基本的にこのFIMA為替スワップの相手先別引出額はニューヨーク連銀のウェブサイトに公表される仕組みなのですが、最近、このデータの公表タイミングが週1回であるらしく、現時点で入手できるデータは5月20日(水)入札実行分・5月22日(金)以降の取引実行分です。

(※「為替スワップ」という用語を使うと、ときどき「これはデリバティブの用語だ」などと指摘する人が出て来るので、少し面倒臭いのですが、本稿限定で「FIMA為替スワップ」という用語を使ってみたいと思います。なお、通貨スワップなどの用語はFAQのページをご参照ください。)

あらためて、これを集計しておきましょう(図表1)。

図表1 米ドル建てFIMA為替スワップ実行額(5月22日(金)時点)
相手先金額平均金利/平均日数
日本銀行2257.93億ドル0.34%/80.76日
欧州中央銀行1433.88億ドル0.36%/83.70日
イングランド銀行231.25億ドル0.35%/75.68日
韓国銀行187.87億ドル0.62%/83.89日
スイス国民銀行102.48億ドル0.33%/83.61日
シンガポール通貨庁99.88億ドル0.49%/79.97日
メキシコ銀行65.90億ドル0.77%/84.00日
ノルウェー銀行54.00億ドル0.34%/84.00日
デンマーク国民銀行42.90億ドル0.34%/82.36日
豪州準備銀行11.70億ドル0.32%/84.00日
カナダ銀行なし
NZ準備銀行なし
リクスバンク(スウェーデン)なし
ブラジル銀行なし
合計4487.79億ドル0.37%/81.73日

(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)

日本銀行が相変わらず最大

これで見てみると、日本銀行の引出額がトータル2257.93億ドルでトップであり、これに欧州中央銀行(ECB)の1433.88億ドル、イングランド銀行(BOE)の231.25億ドルが続きます。

ちなみに図表1に示した14の中銀・通貨当局のうち、この3行に加え、スイス国民銀行(SNB)、カナダ銀行(BOC)の5つの中央銀行は、米FRBと常設型(つまり無期限)・金額上限無制限の為替スワップ協定を相互に締結しています。

そして、日本銀行の借入残高が圧倒的に多い理由については、『日米為替スワップは「日本が米国を助ける手段」なのか』でも述べたとおり、おそらく「日銀が間接的に米国債などのファイナンスをする」という意味があるのだと思いますが、詳細は該当記事をご参照ください。

日米為替スワップは「日本が米国を助ける手段」なのか

一方、日英欧瑞加以外の9つの中銀・通貨当局については、基本的にFIMA為替スワップは一時的なものであり、当面期間は9月までとされ(※延長の可能性あり)、金額上限はそれぞれの中銀・通貨当局について300億ドルないし600億ドルと定められています。

  • 期間6ヵ月~・金額上限600億ドル…豪州、ブラジル、韓国、メキシコ、シンガポール、スウェーデン
  • 期間6ヵ月~・金額上限300億ドル…デンマーク、ノルウェー、ニュージーランド

とくに韓国が上限(600億ドル)のうち3分の1近い187.87億ドルを借り入れているというのも、何やら違和感があります。というのも、韓国はべつに金融大国でもなく、また、同国は「4000億ドルを超える外貨準備」を保有していると自称しているからです。

しかし、あくまでも現時点においては、一時期ほどの「パニック」的なドル資金需要は落ち着いているようであり、このFIMA為替スワップを借り入れているメインの中央銀行は日銀くらいなものであって、そのほかのEM諸国などの借入額は限定的です。

G20の「脆弱ファイブ」

こうしたなか、先日から当ウェブサイトで「G20スワップ構想」などについて議論する機会が増えているのですが、G20とFIMA為替スワップには、少し気になる関係もあります。

あらためて、G20(※EUを除く)を当ウェブサイトなりに分類すると、だいたい次の4つに分けられるのではないでしょうか。

G20(EU以外)
  • ①基軸通貨国…米国
  • ②ハード・カレンシー国…ユーロ圏、日本、英国、カナダ、オーストラリア
  • ③BRICS諸国…ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ
  • ④上記以外…サウジアラビア、メキシコ、アルゼンチン、韓国、インドネシア、トルコ

この4つのうち、とくに④のカテゴリーには、サウジアラビアを除き、次のような共通点があります。

  • 通貨が国際的な金融市場で取引されているものではなく、為替変動に弱い
  • 「BIRCS」でくくられるカテゴリーには入っていない

そこで、メキシコ、アルゼンチン、韓国、インドネシア、トルコの5ヵ国を「G20脆弱ファイブ」とでも呼びましょうか。

(※もっとも、「BRICS」というカテゴリー自体も、ゴールドマン・サックスのアナリストが提唱しただけの考え方であり、なにか特別な意味があるとも思えませんし、BRICSが「脆弱ではない」という意味ではないのですが…)。

そして、この「脆弱ファイブ」のなかで、韓国メキシコとはちょっと特別です。

というのも、この5ヵ国の中で、メキシコと韓国については、米国とのFIMA為替スワップを保有しているからです。

では、この両国のFIMAスワップの借入額、金利、返済日などの条件はどうなっているのでしょうか。

メキシコの場合、現時点の借入残高は2本で、それぞれ6月26日と7月1日に返済期日を迎えます(図表2)。

図表2 メキシコの借入額、金利、返済日(5月22日時点で残高があるもの)
実行日/返済日金額日数/金利
4月3日実行/6月26日返済50.00億ドル84日/0.91%
4月8日実行/7月1日返済15.90億ドル84日/0.36%
合計額/平均65.90億ドル0.77%/84.00日

(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)

余談ですが、4月3日実行分の金利が0.91%とお高めですが、4月8日実行分は0.36%に低下しており、メキシコとしてもホンネではさっさと返してしまいたいと思っているのではないでしょうか。

一方、現時点の借入残高については、韓国はこれまでに合計6回入札を実施しており、1回目と2回目については金利は少々お高めですが、ほかの入札は諸外国並みに金利が低下しています(図表3)。

図表3 韓国の借入額、金利、返済日(5月22日時点で残高があるもの)
実行日/返済日金額日数/金利
4月2日実行/6月25日返済分79.20億ドル84日/0.91%
4月9日実行/7月2日返済分41.40億ドル84日/0.53%
4月17日実行/7月9日返済分20.15億ドル83日/0.36%
4月23日実行/7月16日返済分21.19億ドル84日/0.34%
4月29日実行/7月23日返済分12.64億ドル85日/0.33%
5月8日実行/7月30日返済分13.29億ドル83日/0.29%
合計額/平均187.87億ドル0.62%/83.89日

(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)

現時点の予定だと、6月25日に初回の79.2億ドル(金利0.91%)が返済期日を迎えるのですが、このまま金融市場に対した混乱が生じなければ、7月30日までにすんなりと全額を返済して終了、となるでしょう。

金融市場にも「第2波」は来るのか?

ただ、こうしたなか、先週中旬以降、なにやら金融市場にキナ臭い動きが見えて来たことも気になります。

たとえば、トルコが「日土通貨スワップ」をブラフとしてまんまと利下げに成功したという話題については、『「飛ばし報道」だけでトルコリラの暴落を防いだ日本円』で取り上げました。

また、アルゼンチンが9回目のデフォルトに落ちいったという話題については、『アルゼンチン9度目のデフォルトとTPPスワップ構想』で取り上げたところです。

さらには、少し古い情報ですが、インドネシアは米国とのあいだでの通貨スワップなどを要求していた、という話題もありましたが、これについては『インドネシア、米国に対しても通貨スワップ締結を要求』などで取り上げています。

そして、トルコ、アルゼンチン、インドネシアには、共通点があります。

それは、「G20の脆弱ファイブ」であるとともに、「米国とのFIMA為替スワップを保有していない」、という点です。

もちろん、アルゼンチンのデフォルトは史上9回目であり、正直、金融市場に与える質的なインパクトは大したことがないとの見方もあり得るのですが、怖いのはコロナショックの「金融第2波」が同時多発的に「脆弱ファイブ」(や産油国のロシア、武漢コロナ加害国の中国など)を襲うというシナリオでしょう。

そして、メキシコと韓国がすんなり6月以降、FIMA為替スワップの規模縮小に成功するか、それとも「金融第2波」の影響で再びスワップ借入残高が増大するかどうかは、個人的にはかなり気になる論点のひとつでもあるのです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. だんな より:

    脆弱ファイブですか(笑)。
    まだ第一波が引ききってませんので、どこから第二波になるのか分かりませんが、弱い国から倒れていくのは、続くと思います。

    1. 阿野煮鱒 より:

      脆弱レッド、脆弱ブルー、脆弱ピンク、などと色を付けたくなりますね。

  2. H より:

    反米ゴレンジャーも有りかと、

    香港の状況が心配ですね
    中共は金融センターを上海に
    集中させる気でしょうか

    1. 心配性のおばさん より:

      H様 経済オンチの私が申し上げられることではありませんが、香港を失った上海の金融センターは機能いたしますの?

      香港ドルがアメリカドルの後ろ盾で、欧米資本の信用を受けていたということはありませんの?
      たとえば、欧米が中国と取引したとして、対価が人民元でOKですの?

      まあ、香港の方々には本当にお気の毒ではありますが、香港の金融センターを潰すことで、一旦、中国経済を世界経済から切り離し、中国経済の不況から国内不満暴動から中共の瓦解というシナリオもあるにはあります。ただ、このシナリオ、欧米経済復興を待っておられません。一帯一路の中共経済復興とそれこそ競争かと。

  3. 愛読者 より:

    金融危機は韓国発じゃなくて,たぶん欧米発で全世界中に訪れ,日本も例外ではないとおもいますよ。リーマンショックとか山一證券自主廃業の時くらいのことは最低でも起きるでしょう。1927年の鈴木商店を引き合いに出そうかと思いまいたが,知ってる人が多くなさそうで,説明が面倒なのでやめました。

  4. ブルー より:

    状況によるマネー危機 イエイ イエイ イエイ フー
    “ア ニューステレオフォニック サウンド スペクタキュラー”

  5. 団塊 より:

     第2波の金融危機ということは、第1波の金融危機があったんだ。いつだ?
     日本もアメリカも金融危機には、ほど遠い。欧州も金融危機じゃない。
     アメリカが勝手に貧乏後進国へ為替スワップでドル貸すぞと言い出した頃か?

    いうことなら、我が国や欧米先進国には関係のないことであり、
     紙屑通貨の貧乏国がドル不足で投資してくれた白人にドルを返せなくて債務不履行が懸念された3月あたりかな?

     弱小国の大韓民国やトルコ等々が金融危機.金融破綻しても日欧米先進国には関係ない、影響があるとしても特ア等々に投資した企業の自己責任。
     元々大韓民国もアルゼンチンもトルコもインドネシアも経済破綻秒読み段階だったでしょ、共産支那生物兵器武漢ウィルス攻撃が始まる前から。

  6. ギター中高年 より:

    文さんが ムーンウォークで 弱損5

  7. ブルー より:

    政府も銀行も米ドルを ただひとつ願っているんだよ
    東アジアで一番のドル流動性を
    ASEAN すらもライバルさ
    ああ 命がけだよ イエイ イエイ イエイ
    ニッポンの 左翼様よ マスコミと タレントに 働きかけてウォ ウォ ウォ ウォ ウォ ウォ~

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