AIIBの総裁来日と債券発行 いったい何に使うのですか?

AIIBとは「アジア・インチキ・イカサマ銀行」の略ではありません。「アジアインフラ投資銀行」の略です。この金融機関は設立から4年近く経過し、70ヵ国が参加するなど、資金集めは順調ですが、その割に本業であるはずの融資が伸びている形跡は見られません。とくに2019年3月末において、200億ドル近い総資産を抱えていますが、そのわりに、実行されている融資の額は16億ドル弱に過ぎません。こうしたなか、AIIBを巡って気になるニュースが2つありました。1つはAIIB債、もう1つは日中金融協力という名の「罠」です。

鳴かず飛ばずのAIIB、直近B/S

AIIBとは、中国が主導する国際開発銀行のことで、「アジアインフラ投資銀行」の略です。

ただ、当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』のなかで、「実態は『アジア・インチキ・イカサマ銀行』ではないか」と申し上げて来たとおり、現実には「鳴かず飛ばず」の状況が続いているようです。

2019/05/09 05:00 『AIIBの現状と人民元 日本が「バスに乗らなかった」結果』

AIIBの現状と人民元 日本が「バスに乗らなかった」結果

2019/05/17 05:00 『朝鮮半島統一費用は1兆ドル?AIIBさん、出番ですよ!』

朝鮮半島統一費用は1兆ドル?AIIBさん、出番ですよ!

ここで、AIIBの最新の貸借対照表をチェックしておきましょう。

図表 AIIB要約貸借対照表・資産の部(非監査ベース)
勘定科目2019年3月(千ドル)構成比率
現金及び現金同等物3,379,63217.18%
定期預金10,494,93953.34%
売買目的投資35,1640.18%
預託金10,3220.05%
償却原価区分貸出金1,559,7057.93%
払込資本債権4,193,11821.31%
無形固定資産7770.00%
その他資産3,3260.02%
合計総資産19,676,983100.00%

(【出所】AIIB2018年第3四半期要約財務諸表より著者作成)

※なお、AIIBのメンバーのページによれば、予定されている出資総額は964億ドルだそうですが、現時点で払い込まれているのはその20%(200億ドル弱)です。

合計総資産200億ドル弱このなかで、本業である貸出金は「償却原価区分貸出金」 “Loan Investments, at amortized cost” に含まれている金額(1,559,705千ドル、つまり約16億ドル)であろうと推察されます。

しかし、AIIBの設立から3年半が経過するなかで、出資総額は1000億ドルにも達しようかという状況であるにも関わらず、2019年3月末時点の財務諸表(未監査ベース)によると、実際に融資が実行されている金額は16億ドル弱に過ぎないのです。

残りは現金や預金、定期預金などで運営されているのですが(合計約139億ドル)、裏を返して言えば、融資が出来なくて困っている状況にある、ということです。

いったい何に使うのですか?

こうしたなか、もう1つ、なかなか意味がよく分からないニュースもありました。

AIIB reaches new milestone by pricing debut global bond to unlock financing for infrastructure(2019/05/09付 AIIBウェブサイトより)

AIIBは25億ドル相当の5年債をロンドンで発行したそうです。

AIIB債券発行条件
  • 格付:Aaa / AAA / AAA (stable / stable / stable)
  • 額面:25億米ドル
  • 償還:2024年5月16日(5年債)
  • 利率:固定2.25%(年2回利払、利息計算は30/360方式)
  • 発行利回り:2.31%

中国が主導する国際開発銀行でありながら、結局は北京・上海などの金融市場で発行したのではなく、発行地はロンドンであり、かつ、通貨は米ドルです。このあたりにAIIBとしての限界があることは間違いありません。

また、200億ドル弱の総資産が有り余っていて、うち140億ドル近くが現金などで運用されている状況にあるにも関わらず、2.31%の金利を負担して25億ドルも借金を負う(つまり年間5775万ドルの金利を負担する)というのも、なかなか意味不明です。

もちろん、国際開発銀行であれば、ベンチマーク金利を作るために債券を発行すべきだという議論はあるのですが、それにしても債券を発行してしまった以上、AIIBの融資実績が乏しいことは、今まで以上に投資家から強く意識されることは間違いなさそうです。

金立群総裁の来日の目的

こうしたなか、AIIBの総裁が昨日、来日したそうです。

「日本はインフラ投資で幅広い経験」 来日中のAIIB総裁が提携に意欲(2019.5.20 20:16付 産経ニュースより)

産経ニュースによると、AIIBの金立群(きん・りつぐん)総裁は20日、東京・内幸町にある日本記者クラブで記者会見し、

日本の金融機関などについて「アジアのインフラ整備に関する投資で幅広い経験を持っている」と述べ、提携に意欲を示した

のだそうです。産経ニュースはまた、金氏は

地域のプレーヤーと一緒に協調融資をもっと伸ばしていきたい

と述べたうえで、日本の商業銀行のほか、アジア開発銀行(ADB)や国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)といった具体名を挙げたとしており、かつ、「一部の金融機関とは21日に会談する」方針だと述べています。

中国がいう「日中協力」とは、日本が一方的に中国に対して譲歩することを意味しているのではないかという気もしますが、それはともかくとして、先ほどのAIIBの貸借対照表を眺めてみても、融資が鳴かず飛ばずで困っていることは間違いなさそうです。

ただ、日本の金融機関には「パンダ債」を発行している某銀行を含め、中国大好きな人たちが多数いるようですので、「協力」という名目で日本の金融機関から巨額の支援がAIIBに施されるという可能性には十分な注意が必要でしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    気をつけよう!中国人と朝鮮人。

    ゼニに悪辣なのは中国人、情け知らず、共産主義に毒されているのが中国人。

    日本人に対し敵対視が朝鮮人。嘘ついてでも日本人を上回ろうとするのが朝鮮人。

    銀行作ったら愛想ぐらいしても良いのはAIIB、但し本心は見せるな!米国と共同歩調で。徴用工・慰安婦・哨戒機照射・竹島不法占拠等、絶対許せないのが朝鮮民族!なんだあの上から目線はッ!

  2. 月光 より:

    ADBから巨額の低利融資を受けながらAIIBで融資する側に立つ中国の厚顔無恥さ加減。こんなのを許してるADBも悪い。中尾総裁よ、中国向け融資金利を引き上げるか融資を回収するか、直ちに行動してください。

    1. 匿名 より:

      ADBの中尾さんって・・・チャイナ大好き人間のようですよ。早いとこ替えた方がいい。

  3. マイナンバー より:

    日本の財界人、政治家、官僚がChina共産党の『ハニートラップ』にかかっているのではないか、との疑いに関し、私はかなり濃厚だと考えており、今回のAIIBに係る邦銀幹部の言動をみるに、彼らもトラップにやられているのではないかと危惧しています。例えば元大蔵省(現財務省)のキャリア官僚だった高橋洋一氏がご自身の体験談を元にハッキリと『Chinaはハニートラップをしかけてくる。』とネット番組で何回も明言されています。私自身は裏付けとなる証拠等を持っているわけではありませんので、風聞の域をでませんが、Chinaと親密なわが国大手商社で働く友人から聞いた話によると、その商社ではChinaに赴任する社員に対し『既婚者はできるだけ配偶者も一緒に赴任するように。不貞(いわゆる不倫)はChinaでは犯罪行為となるし、業務に支障を来す様々な「誘惑」もあるので気を付けるように。』との注意があるそうです。特に、執行役員級の社員は格好の餌食になるのだそうだそうです。単なる不貞ならば古今東西何処にでもある話なのでしょうが、諜報活動の手段としてハニートラップを国家が駆使しているのではないかと疑われるChinaにはわが国の政財官学メディア全てが注意を要すると強く思います。

  4. 心配性のおばさん より:

    過日、この記事で、米中経済戦争の本格化をお報せしましたけど、今現在、中国と取引をするということのリスクと企業トップはどう考えているのでしょうね。

    <ファーウェイが「米禁輸措置」で迎える正念場>
    https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190517-00281878-toyo-bus_all

    三菱電機社長のコメント記事を読んで心底あきれました。これが日本の経済界なのですね。

    >政府が規制などをしない限り、取引を続ける意向を示した。

    本当にリスクがあるなら、政府が規制してってことですか?
    米中貿易戦争本格化に際して、企業トップとしての判断がつかず、国の規制があれば・・とか言っている。
    これは、企業判断でしょう。三菱電機の社員の皆様、株主の皆様。本当にご愁傷様です。

    <米国のファーウェイ排除、様子を見守るしかない=三菱電機社長>
    https://jp.reuters.com/article/mitsubishi-electric-huawei-idJPKCN1SQ0PV

    逆に、政府を当てにせず、我々はアメリカの安全保障の脅威ではない。とアメリカに反論しているトヨタ社長が企業人として、まともに見えます。三菱電機社長さん、これぐらいなことができませんか?

    1. みったぁ より:

      今回の件はEARのentry listにファーウェイと関係会社を指定しています。
      指定された品目・企業についてアメリカの部品・技術を使用している製品・役務を取引する場合はアメリカ商務省の許可を得る必要があります。(許可されることはないけど)

      三菱電機は日本企業ですので、ITARは輸出管理レジームに基づき外為法で同等の規制がされているので従わなければなりません。でもEARはアメリカ独特の規制ですので義務はありません、形式上。
      実際はアメリカ企業との取引やアメリカ国内での活動(だけでないけど)に影響するので従いますけど。それは暗黙の前提です。
      なので補完して読むと、

      (EARに基づく)規制が(日本)政府で為されれば従いますよ。
      (EARに抵触しない)取引を(私企業独自の規制で)取り止めることはしません。(通信関係でアメリカの技術が入っていないのはほぼないけど)

      です。社長の発言も、現在の取引品目は汎用品なので取引中止の業績への影響はなさそう、もし代替取引の話が来たら話は聞いときまっせ~、としか言ってませんね。

    2. 匿名 より:

      責任を取りたくないケイエイシャですね。ところで 経営者って何やってるの? いざという時経営責任取って金を受け取らずに辞める人って誰もいませんよね。お楽なお仕事。だからみんな なりたがる。

  5. りょうちん より:

    AIIBって現状では「開発銀行」というより「怪しい投資ファンド」というのが実情ですよね。
    ふつうの銀行ならともかく「開発銀行」なら「融資」で金を稼ぐというか資本金を増やすのが本来的なあり様なのに、「現金で運用」ではやっぱりファンドです。
    開発銀行の場合、性格上、出資金に利子を付けて返済する必要が無いと理解していますが違うのでしょうか。

    って書いてて思ったんですが、銀行は預金の運用をどうやってやっているのか、その内容は公開されているも
    のなのでしょうか?
    素人の疑問です。
    ちょっと調べてみてAUMだのちょっと手が出ない分野でした。

    バブル崩壊後の貸し渋りなんかやっていた時期の銀行とか、どうやって運用していたのか。
    最近の銀行はどうやって預金を減らすか苦心しているなんて記事も見つけてへーと感心しました。
    (運用先のない預金は銀行にとって実質的に負債)
    預金より熱心に投信商品を勧めてくるわけですねw

    1. りょうちん より:

      ああ御免なさい。AIIBの大まかな運用の内訳の図表も記事中にあったのですね。

      しかし、

      >定期預金 10,494,939 53.34%

      ってなんじゃそれと思いましたw
      高収入なんだけどまったく投資に興味が無くて給与振り込みの普通口座がちょっと油断すると500万円越えて銀行から電話が掛かってくる無頓着な人みたいに漫然と他の銀行に定期預金しているんでしょうかw

  6. 名無Uさん より:

    AIIBの職員数が100名ほど。
    日本の地方銀行にも及ばない規模となっています。この点も扱っていただけたら、と思います。

    https://www.sankeibiz.jp/macro/news/170617/mcb1706172205020-n1.htm

    5年債権の発行地がロンドンですか…
    やはりというか、なんと言うのか…

  7. 関西なまこを支援する貝ニダ より:

    皆でエサ(振り込むけど借りないだろう国)が掛かるのを待っている状態ですね(笑)。

  8. みったぁ より:

    今回の件はEARのentry listにファーウェイと関係会社を指定しています。
    指定された品目・企業についてアメリカの部品・技術を使用している製品・役務を取引する場合はアメリカ商務省の許可を得る必要があります。(許可されることはないけど)

    三菱電機は日本企業ですので、ITARは輸出管理レジームに基づき外為法で同等の規制がされているので従わなければなりません。でもEARはアメリカ独特の規制ですので義務はありません、形式上。
    実際はアメリカ企業との取引やアメリカ国内での活動(だけでないけど)に影響するので従いますけど。それは暗黙の前提です。
    なので補完して読むと、

    (EARに基づく)規制が(日本)政府で為されれば従いますよ。
    (EARに抵触しない)取引を(私企業独自の規制で)取り止めることはしません。(通信関係でアメリカの技術が入っていないのはほぼないけど)

    です。社長の発言も、現在の取引品目は汎用品なので取引中止の業績への影響はなさそう、もし代替取引の話が来たら話は聞いときまっせ~、としか言ってませんね。

  9. 関西なまこを支援する貝ニダ より:

    妄想。
    ・習近平「AIIB言う金貸しやりますんで、世界の皆さん米ドル持って一口乗りなはれ。」
    ・某国「借りたいんやけどカネ無いし、20%だけ払っとこか。」
    ・習近平「某国さん、港湾整備すると儲かりまっせ。」
    ・某国「ほな、港湾整備事業やりますわ。」
    ・習近平「入札はダンピングで中国企業に必ず落とさせるんや。ええか、現場には中国人労働者を送り込んで人民元決済や。人民元なんぞ、なんぼも刷ればええ。今回の貸付総額分の米ドルは、ワシの秘密口座に移しとくんや。某国さん、利子と元金の返済は米ドルでお願いしまっさ。」

  10. カズ より:

    ロンドンで25億ドルの資金調達ですか?

    使用用途の確定してない資金調達なんて金利負担のタネでしかないと思うんですけどね。

    ファーウェイの英国進出資金なのかな?
    〔邪推してみました。〕

    自国でのインフラ投資計画
    ↓調達資金で代替
    25億ドル
    ↓当初予算を流用
    ファーウェイ英国進出達成

    ファーウェイは工場の建設目的で、「英国内で200万平米の土地を買収」との報道がありました。
    解りやすく表すと、5㎞×4㎞相当の広さです。

    土地代金と初年度投資額を合わせると25億ドルくらいになるのかな?って気がしています。

    *単に米国以外の場所で外貨調達したかっただけなのかもしれないんですけどね。

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