日露関係巡る産経コラムへの反論

昨日の「産経ニュース」に、「国際法を守らないロシアと仲良くする安倍外交は危なっかしい」といった趣旨のコラムが掲載されています。国際法を守らない中国を糾弾しておきながら、同じく国際法を守らないロシアと仲良くするのは、日米同盟を危なくする危険性がある、という主張です。本日は「外交の本来的な目的」という観点から、一見すると「正論」であるこの主張に反論し、あわせて「目的と手段を明確に分けることの必要性」について考察します。

産経ニュース・湯浅博氏の主張への違和感

産経ニュースに「湯浅博の世界読解」と題するコラムがあります。昨日掲載されたコラムの最新記事は次のリンクです。

米を巡り、互いに利害が一致したときだけ手を結ぶ中露 一方で安倍首相の対露外交は危なっかしく…(2016.9.21 11:56付 産経ニュースより)

リンク先の記事はウェブページで3ページ分ですが、論旨はシンプルであり、すぐに読めると思います。私自身の文責で内容を要約しておきますと:

「◆米ソ連戦時代の中国は、米ソ両国にとって、お互いを封じるための外交カードだった、◆現在の中国は鄧小平路線(※平和的対等主義)から積極外交路線に転じたが、ロシアにとっては中国に対する伝統的な嫌悪感を差し置いても、軍事大国の中国が米国を牽制するカードに映る、◆中国にとってもロシアは伝統的な脅威だが、最大の対米カードはロシアである…」。

要するに、このコラムでは「潜在的な敵同士であっても、さらに大きな共通の敵と対面するなど、利害が一致したときに都合よく手を結ぶことがあり得る」という、とても当たり前のことを指摘しているのです。そして、コラムの著者・湯浅氏は、

「中露ともに米国を「共通の敵」とみなし、米国の影響力をそぐことを目標とする。ロシアは中東から米国を追い出したいと考え、中国はアジアから米国を追い出したい。互いに猜疑心(さいぎしん)を持ちながら、利害が一致したときに都合よく手を結ぶのは、兵家の常である。」

と主張したうえで、具体例としてロシアが「ジョージア侵略、クリミア半島併合、東ウクライナへの軍事介入、シリアのアサド政権の空爆による支援」、中国が「国際法に反した南シナ海支配の強化」で国際社会から批判されているという事実に言及します。この辺りのロジックには全く違和感がありません。

しかし、私として同意できないのは、安倍晋三総理大臣がロシアのプーチン大統領の訪日の約束を取り付けたことについて、湯浅氏が次のように懸念を示している点です。

「日本は、中国の南シナ海支配に対して国際法順守を要求しているのに、ロシアの国際法違反には目をつむるという矛盾は否定できない。安倍政権の対露外交は、日米同盟を揺るがしかねない懸念がある。日本が対米・対中カードとしてプーチン氏に利用されないことを祈るばかりだ。」

確かに、湯浅氏の指摘通り、中国に対しては国際法遵守を突きつけておきながら、同じく西側諸国から国際法違反で批判を受けているロシアに対しては、その国際法違反を強く咎めないのは、「理想論」からいえばおかしな話です。しかし、湯浅氏の指摘通り、確かにロシアとの関係改善が「日米関係」に与える影響については慎重に考える必要があることは事実ですが、それと同時に、国際関係は「理想論」だけで動きません。湯浅氏ご自身が記事の中で指摘されている通り、「利害が一致した時だけ手を結ぶ」のは、「国際関係ではよく見られること」だからです。

そこで、本日は改めて、「国際関係」の大原則を考察してみたいと思います。

外交とは?

よく勘違いする人がいるのですが、外交(国と国とのおつきあい)は、「家族関係」「友人関係」とは大きく異なる点があります。それは、「自分の国の軍事的安全と経済的利益を最大化する手段である」、という点です。たしかに個人同士の付き合いだと、「家族だから仲良くする」、「友人だから仲良くする」、という付き合い方が多く、「人間関係に目的を持ち込む」こと自体、違和感を持つ人が多いのも当然でしょう。

しかし、個人同士の付き合いであっても、たとえば個人事業主がビジネス関係を構築する時や、勤め人が職場の人間関係を構築する時などは、「好き嫌い」を越えて「損得勘定」で判断するはずです。さらに、企業同士の場合、その「おつきあい」をする目的は、企業の存立目的(=利益を獲得すること)に沿っているはずです。

実は、国同士のおつきあいも、国自体の安全と発展を確保するために行われるものであり、逆に言えば、「おつきあいしても全くメリットがない場合」には、外交関係を持つ必要などありません。このあたりの事情は、個人とのお付き合いの場合とは全く異なるものです。

軍事的安全の確保

外交の最大の目的は、まず、「軍事的安全の確保」、つまり安全保障です。特に日本の場合、憲法第9条第2項で、国同士の交戦権が完全に禁止されていますから、外国から攻め込まれたら「一巻の終わり」です。私はこれを「憲法守って国滅ぶ」と揶揄していますが、そうならないためにも、日本を侵略しようとする国を牽制するためにも、あるいは間接的に日本の安全保障に脅威を与える状況を除去するためにも、普段から各国と外交関係を構築しておくことは重要です。

経済的利益の最大化

外交のもう一つの目的は、「経済的利益の最大化」にあります。日本の場合、「自前資源に乏しい国だ」と言われていますが(※実際には海洋を中心に、天然資源が豊富らしいのですが)、現在の日本の繁栄は、石油、鉄鉱石などの天然資源、穀物をはじめとした食用資源等を安定的に供給してもらうことで成り立っています。2010年に中国が日本に対するレアメタル類の輸出の禁止措置を発動しましたが、政治的な理由で資源の輸入が止まると、日本の生産活動自体が停止しかねません。また、円借款等を通じたインフラ協力を行えば、相手国の対日感情を良くすることにもつながりますし、日本企業にとっても貴重な輸出先ができるということに繋がります。

国家間の「友人関係」

上記以外にも、欧州諸国、あるいは英国と米国のように、「共通の文化基盤」や「共通の価値観」がある国同士だと、「特別な関係」が成り立ちます。米国と英国の場合、「英語」という共通言語があるためでしょうか、伝統的に、米国の多くの大統領は任期中、英国の国王・女王を訪問します。ドイツとオーストリア(ドイツ語)、スペインと中南米諸国(スペイン語)、ポルトガルとブラジル(ポルトガル語)のように、言語を同じくする国同士は、こうした「特別な関係」が成立しやすいのかもしれません。

実は、日本は「世界で最も厳格な法治主義国」として知られています。このため、欧州連合(EU)や米国などの「法治主義国」からも一目置かれており、価値観を共有する国であるとみなされています。「非キリスト教国」でありながらも、日本が主だった国際会議(特にG7)に参加しているのは、「徹底した法治主義」が受け入れられているという側面も強いでしょう。

日本と外交関係が成立するのは?

ただし、あくまでも外交は「軍事的安全」と「経済的利益」の二本柱が重要であり、「国同士の友人関係」が成立するのは非常に特殊な例に限られると見るべきでしょう。

安倍外交が「危なっかしい」?

まず、冒頭に引用した湯浅博氏の記事に同意できない点を示しておきます。

確かに安倍晋三総理大臣は、中国に対しては南シナ海への侵略行為を「国際法違反だ」と主張しておきながら、ロシアに対しては「クリミアをウクライナに返せ」などと要求することはありません。これは、一種の「ダブル・スタンダード」であり、湯浅氏はこれを「危なっかしい」と表現しているのだと思いますが、私はそうは思いません。

ロシアによるクリミア半島併合などの行為が、西側諸国からは強く批判されていることは事実です。しかし、外交とはあくまでも「軍事的安全と経済的利益」の追求手段であり、「仲良しゲーム」ではありません。日本の「軍事的安全」か「経済的利益」に役立つのであれば、価値観が異なる国との間でも外交関係を成立させる必要があります。理想論では世界は動かないのです。そして、こうした「安倍外交」を「危なっかしい」と表現するのは、少々安倍総理の外交能力を見くびりすぎです。

日本にとって一番危険な国は中国

繰り返しですが、日本の安全保障にとって、最大の脅威となっているのは、現在のところ、中国です。この国は、日本固有の領土である尖閣諸島(※日本が実効支配中)に対する領有権の主張を撤回していませんし、それどころか、少しずつですが、「沖縄県は日本領土ではない」といった主張を提起。さらには日本という国自体を中国の自治区にする、といった遠大な野心を抱いている可能性すらあります。

もちろん、日本固有の領土である千島列島や南樺太を不法占領したままのロシアや、日本固有の領土である島根県竹島を不法占領している韓国、日本人を拉致したままの北朝鮮も、日本の安全を脅かした国であり、そのこと自体を許してはなりません。しかし、「現在、日本が実効支配する領土を軍事侵略する」と公式に表明していて、しかもその軍事的能力を有しているという危険な国は、日本の周囲には中国だけです。

したがって、安倍外交の目的を「日本にとって最大の脅威である中国の脅威を除去することにある」と考えるならば、一番「危険度の高い国」を「仮想敵国」に置いたうえで、その「仮想敵国」を全力で封じ込める戦略を取っている安倍政権の外交姿勢は、何一つとしておかしなものではありません。

目的と手段を混ぜるな

ただし、中国を最大の脅威と見るのは正しいとしても、外交の「手段」を間違えてはなりません。以前主張しましたが、ロシアに不法占拠されたままの領土は、千島列島、南樺太と広大です。しかし、戦後の日本外交は、これらの領土のうち、択捉、国後、色丹の三島と歯舞群島しか返還を求めてきませんでした。このため、最大限、ロシアから外交的勝利を得たとしても、千島列島のうち得撫(うるっぷ)島から占守(しゅむしゅ)島までの各島や、南樺太については日本に返還されません。

こうした過去の外交的失態の失地を挽回するのは極めて困難ではありますが、希望はあります。それは、日本が「永続する国」である、ということです。ロシアは広大な国土の割に人口が少なく、特に極東地域は人口減少に悩んでいると聞きます。プーチン政権が有能であることは事実ですが、だからといってロシアの有能な政権がいつまでも継続するとは考えられません。したがって、日本が永続していれば、いつか千島・樺太が返還されるチャンスも巡ってくるはずです。よって、以前も主張しましたが、安倍総理にはくれぐれも「日露友好」自体を目的とせず、北方領土問題でも妙な妥協をしないことを求めたいと思います。

日露友好を「目的」とするな
領土問題は時間が解決する

また、厄介な「コウモリ国家」・韓国についても、現在は対立している余裕がないということはよくわかります。しかし、韓国は日本の固有の領土である竹島を軍事占領していますし、長崎県対馬市の領有権も主張しています。さらに、日本人の名誉を侮辱する「従軍慰安婦問題」というウソを世界中にふりまき、日本を現在進行形で貶めていますが、こうした不法行為の数々についても、「中国という軍事的脅威」がされば、ただちに制裁を加えるべきでしょう。その意味で、韓国が現在、大規模な会社の経営破綻等で経済的苦境にあることは事実ですが、私は安易な「日韓通貨スワップ」の提供には反対です。

いずれにせよ、「日露友好」も「日韓友好」も、現在の日本にとって最大の脅威である中国リスクの最小化という観点から判断されるべきものであり、将来の日本に禍根を残すものであってはなりません。私は安倍総理の外交力を高く評価していますが、それであっても、くれぐれも安易な妥協をしないようにしてほしいと思うのです。

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