日露友好を「目的」とするな
ロシアのプーチン大統領が年末に訪日し、安倍総理と山口県で会談します。日露関係が好転すること自体は、中国に対する牽制としても極めて有効であり、また、安倍総理が、経済的なセンスはともかくとして軍事的な才能は極めて高いプーチン大統領と仲良くなることは、日本の国益にも資することです。しかし、だからといって「日露友好」そのものを外交目的に置くのは間違いです。くれぐれも、北方領土問題で妙な譲歩をしてはなりませんし、高額すぎる経済援助を約束することも控えてほしいと思います。
作用反作用の法則
自分自身のウェブサイトを開始して良かったことが一つあるとすると、それは、無料ウェブサイトと異なり、図表を使った説明が容易であることや、原則として文章の長さに制限がないことなどです。当然、本格的なウェブサイトの運営はまだまだ始めたばかりであり、コンテンツや曜日によりPV数が全く異なっており、安定したアクセスを頂く状況には至っていませんが、それでも気長に続けていこうと思っています。
さて、改めて自分のウェブサイトを立ち上げて以降、さまざまなニュース・ソースを「オピニオン・サイトのネタ探し」という観点から見るようになったのですが、その中で気付いたことがあります。それは、この世には、「作用反作用の法則」というものがある、という点です。もともとは物理学の世界の法則ですが、最近、この法則は政治にも経済にも外交にも同様に当てはまるのではないか、と考えるようになりました。
日露首脳会談を例にとります。
安倍総理は今年の夏、8月のリオ五輪以降だけで見ても、それこそ「世界中を飛び回る忙しさ」です(図表1)。
図表1 2016年夏の安倍総理の大活躍
日付 | 概要 |
---|---|
8月21日 | リオ五輪の閉会式に参加。「マリオ」のコスチュームで会場の万雷の拍手を受ける |
8月25日 | アフリカ訪問の途中に立ち寄ったシンガポールでナザン前大統領の弔問を行う |
8月26日~28日 | アフリカ・ケニアの首都ナイロビを訪問し、TICAD Ⅵ(第6回アフリカ開発会議)に参加。3兆円相当の投資などを表明 |
9月2日~3日 | ロシア連邦・ウラジオストクを訪問し、プーチン大統領と3時間を超える会談を行い、プーチン大統領の年内訪日などで合意 |
9月4日~5日 | 中国・杭州で行われたG20首脳会談に参加 |
9月6日~8日 | ASEAN関連首脳会議等に出席するため、ラオスの首都・ビエンチャンを訪問 |
この中で、私が注目したいのは、9月2日から3日にかけてロシア・ウラジオストクで行われた「東方経済フォーラム」です。この会合では、安倍総理はプーチン・ロシア大統領の年内訪日で合意。また、日本からは「経済協力」を柱としたアジェンダを提示し、ロシアからは領土問題解決への意欲が示されるという状況です。一見すると、日ロ両国首脳会談は極めて友好的で和やかな雰囲気で行われたようですが、こうした「表面」だけを見ていると、物事の本質を謝る可能性があります。
冒頭に「作用・反作用の法則は政治・経済にも当てはまる」と申し上げましたが、日ロ関係に限定して言えば、「日本に国民感情があるのと同様、ロシアにも国民感情がある」、という点でしょう。つまり、このままでは領土問題は解決しない、ということです。これはなぜなのでしょうか?
日本国内では、「北方領土はソ連に占領された日本固有の領土だ」と学校で習いましたし、「北方領土返還運動」なども積極的に行われていますが、逆にロシア側は、「南クリール(※北方領土のこと)は第二次世界大戦で旧ソ連が合法的に獲得した領土だ」と教え込まれています。ロシア国民の「国民感情」を考えるうえで重要な点は、歴史的事実ではなく、ロシア人が「領土問題で譲るつもりがないと考えている」、という点です。
日本外交の稚拙さ
私が外交に関するオピニオンを執筆すると、いつも「日本の外務省の悪口」を書いてしまいますが、北方領土問題に関しても全く同じです。というのも、日本はサンフランシスコ平和条約で南樺太と千島列島の領有権を放棄したのは事実ですが、だからといってこれらの地域の「法的帰属先」がソ連(と後継国家のロシア)である、と認めたわけではありません。それなのに、「択捉、国後、色丹の三島と歯舞群島は千島列島に属さず、日本固有の領土である」と、自分で勝手に領有権の主張を狭くしたのです。
私が知る限り、千島列島と南樺太の全域が日本領だと主張している政党はありません(日本共産党が千島列島全体を日本領だと主張しているのは存じ上げています)。しかし、最初から「北方四島を返せ」などと主張してしまえば、「主張が100%通ったときに限って四島が返ってくる」、ということになります。だからダメなのです。最初からしっかり、「千島全島と樺太南部を返せ!」と、どうして主張できないのでしょうか?「外務省不要論」「外務省解体論」で一冊、本が書けるほどです。
北方領土が返ってくれば良いのか?
北方領土問題には、まだいくつもの問題があります。
日本の外務省は、ともすれば感情的に「北方領土を返せ」としか主張していませんが、それでは日本の外務省の希望通り、択捉、国後、色丹の三島と歯舞群島が返還されれば、問題は解決するのでしょうか?実は、そこから新たな問題が発生します(図表2)。
図表2 北方領土返還の問題点
問題点 | 概要 |
---|---|
インフラ整備の問題 | 日本国民がすぐに暮らせるだけのインフラ(道路、水道、電気、空港、バスなど)が一切整備されておらず、社会的設備(農協、信用金庫、郵便局、コンビニなど)も存在しない |
元島民の高齢化問題 | 元島民の多くは高齢化しており、北方領土が日本に返還されたとしても、そこに戻ることは事実上困難 |
ロシア人島民の問題 | 北方領土が仮に変換された場合、そこに居住するロシア人に引き続き居住権を認めるのかどうか、また、認めるのだとしたらその期間、言語教育、日本国内への移動の自由等をどうするのかが問題となる |
実際、政府・外務省の説明を聞いても、「どうやって北方領土を取り返すのか」という具体的な戦略も欠如していますし、さらに「仮に北方領土が返還された場合に発生する問題点にどのように対処するのか」という観点からの説明も一切ありません。
北方領土問題より憲法改正を!
私の持論ですが、北方領土問題には、日本側に、いくつもの問題があります。外務省が最初から「千島・南樺太全体を返せ!」と主張しなかったことも一例ですが、鳩山一郎首相が1956年に「日ソ共同宣言」を締結する際に、日本側から「二島返還論」が出てくるなど、戦後の日本の姿勢もブレまくっているのが大きな問題です。
私自身、日本国民が強硬に「北方領土返還」を要求すればするほど、その「反作用」として、ロシア国民の間で「南クリール返還不要論」が強まることは当然だと考えています。2014年にロシアがクリミア半島を併合して以来、ロシアは欧米諸国などから国際的な厳しい経済制裁を食らっています。しかし、今のところプーチン大統領のロシア国民からの支持率は高く、いわば、ロシア国民の大部分は、クリミア併合というプーチン大統領の政治手腕を高く評価し、経済的困窮を我慢している状況です。
ということは、「日本からの経済・技術援助」をエサに北方四島を返還させるということは、きわめて非現実的だ、ということがわかります。それでは、どうすれば良いのでしょうか?
私の主張は、シンプルです。日露関係・北方領土だけを見るのではなく、日本国民全体が、日本という国をどういうふうにしたいのか、意思を決める必要がある、ということです。第二次世界大戦に敗北した結果、GHQ(実態はアメリカ合衆国)から押し付けられた「日本国憲法」には、こう書かれています。
「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」
「平和を愛する諸国民」って、具体的に誰のことなのでしょうか?少なくとも、日本が武装解除した後で、絶対に反撃されないと分かっている状況で南樺太や千島に軍事侵攻した旧ソ連と、その後継国家であるロシアを意味する文言ではないことは明らかです。ついでに申し上げれば、日本固有の領土である島根県・竹島を不法に軍事選挙し、朝日新聞社と植村隆が捏造した「慰安婦問題」で日本を強請り続ける南朝鮮(韓国)や、無辜の日本の一般国民を不当に拉致して連れ去った北朝鮮、さらには沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺海域を公然と領海侵犯する中国も、日本国憲法前文の「平和を愛する諸国民」であるとは思えません。
さらに、憲法第9条第2項には、
「前項(※戦争放棄)の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」
とあります。「日本に対しては、攻め込んでも、相手が国家であれば絶対に反撃して来ない」とわかっているからこそ、日本は現段階で「領土返還交渉」をしてはならないのです。
「日露友好」自体を外交目的にするな!
北方領土問題を巡っては、「99年間のロシアへの租借権を認める」、「千島列島周辺海域の漁業権を日本に帰属させる」、といった具合に、実質棚上げに近い解決も考えられます。しかし、私が一番言いたいことは、
「『日露友好』そのものを外交目的にしないでほしい」
ということです(余談ですが、同じことは日韓関係についてもあてはまります。詳しくは過去記事「「日韓友好」を目的としてはならない」もご参照ください)。日露平和条約を締結すれば、いちおう、日本としても「戦後」に区切りがつきます。しかし、今の段階で領土問題を巡って下手な合意をしてしまえば、将来に禍根が残ります。
もちろん、現在の日本は、軍事大国化する中国という脅威にいかに対処するかという国家的課題を抱えており、優先順位としては、中国に対する牽制が一番大事です。「安倍外交」は中国が嫌がることばかりする外交であり、その意味では正しいものですが、あくまでも目的と手段は明確に分けてほしいと思います。
もちろん、北方領土問題を巡っては、四島返還が実現すればそれに越したことはありませんが、プーチン政権のクリミア半島問題への対処方法を見ている限り、外交交渉だけで北方領土がすべて戻ってくると考えるのは非現実的でしょう。あるいは、日本から莫大な経済協力がなされれば話は別かもしれませんが、それにしても北方領土の対価としては重すぎます。私は、ロシアとの関係については
- 中国を牽制する上で必要な最低限の日露協力(シベリアの資源の共同開発など)
- 北方領土問題の事実上の棚上げ
でとりあえず妥結し、ロシアにムダ金を払わないようにしてほしいと思っています。プーチン大統領は確かに「やり手」ですが、永遠にプーチン大統領がロシアの大統領であり続けるとは考えられません。そして、ロシアが経済的に困窮していることは事実ですし、極東・シベリアには大量の中国人移民が発生し、ロシア人を圧迫しているという事情もあります。日本は「最低でも北方四島を返さなければ、日露平和条約も日露経済交流もあり得ない」という立場を堅持すれば、もしかしたら将来的に、経済的に困窮したロシアが自主的に領土返還に応じる可能性だってあります。
外交とはあくまでも「国益の最大化のための手段」であって、「日露友好」自体が目的になるということがあってはなりません。安倍総理に私の思いが届くかどうかわかりませんが、そのことは改めて強調しておきたいと思います。
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