「日韓友好」を目的としてはならない

日韓通貨スワップ協定をはじめとする日韓関係を巡っては、これまで当ウェブサイトでも、何度か触れてきました。本日は、日韓通貨スワップ協定など「韓国を助けるための協定」に関し、「評論家の一人として日本側から見た政治的な意味」についての考え方を一応まとめておくとともに、日本国民の一人としての「正直な気持ち」についても述べておきたいと思います。特に、日本には過去に、何度も何度も韓国に裏切られてきた歴史があります。私自身、現在の安倍政権による対韓融和的な外交は「中国封じ込め戦略の一環であって、日韓友好自体を目的としたものではない」と信頼しているものの、くれぐれも「日韓友好そのもの」を外交目的にするという歴代日本政府の愚を繰り返さないようにしてほしいと思っています。

私と韓国とのつながり~個人的体験~

私は母親(故人)が在日韓国人であった(ただし生前に日本に帰化済み)という事情もあり、日韓問題を議論することは、一種の「ライフワーク」のようになっています。インターネットが普及する以前であれば、韓国といえば、「情に厚い国だ」、「人間的な温かみがある国だ」といったイメージを抱いている人が多かったように記憶しています(あくまでも私の主観です)。ただ、私自身は子供のころから在日韓国人社会を身近で見てきたため、「韓国」と聞けば、「感情のまますぐに行動する」「分別がない」「何事もいい加減」と連想してしまいます。やはり、これも経験の違いでしょうか?また、父方の祖母(今世紀初頭に百歳で他界)は常々、

「朝鮮人は戦争の前後で悪いことをたくさんした」

と証言していました。具体的にどんなことをしたのか、祖母は詳しく教えてくれませんでしたが、港町・神戸には戦後、多数の在日朝鮮人が住み着いていたことも事実です。祖母は生まれも育ちも神戸であり、阪神大水害や阪神大空襲も経験しています。その祖母にとって、「在日朝鮮人による集団的な暴行」は、間近に目撃した恐ろしい記憶の一つであったに違いありません。

ただ、私自身、反日史観の強い神戸市内の公立学校に通い、学生時代に朝日新聞を読んでいたという事情もあり、「日本は過去にアジア諸国に対して悪いことをした」と刷り込まれ、「日本はアジア諸国に向けてきちんと反省しなければならない」と強く感じていたことも事実です。こうした発想が変わっていくきっかけは、大学生時代に格安航空券で外国に頻繁に出掛けるようになったことと、インターネットが普及し始め、情報が限定ながらインターネットから入手できるようになったことです。

「百聞は一見にしかず」といいます。ちょうど私くらいの年齢の人であれば、HISなどの旅行代理店が格安航空券会社を大々的に発売し始めていた時期でもあり、学生時代に世界各地を旅行したという経験を持っている人も多いでしょう。あるいは、海外に留学に出かけるとか、海外青年協力隊に参加するとか、就職した会社で海外勤務を経験するとかのかたちで、比較的長期間、海外に滞在している人もいます。日本は島国ですが、海外経験者は意外と多いのです。

日本国内で「日本は世界中から嫌われている」と教え込まれ、それを信じ込んでいた人が海外に出ると、日本が実は海外からとても愛されているという事実に、大きな落差を感じます。それと同時に、海外で韓国人が日本人のふりをして大々的に日本料理店を営んでいるのをみると、普通の日本人であれば「腹が立つ」のではないでしょうか?実際、私の友人にも、ロンドンやニューヨーク、シドニーなどの海外駐在を経験し、「韓国が嫌いになった」と公言している人が何人かいますが、政治的な話題など一切口にしなかったはずの彼らがそのように公言するようになったことに驚きました。

インターネットの普及

日本人の対韓感情を考えるうえで、もう一つ、無視しえない影響を与えているのがインターネットです。インターネットといえば、私が大学生だった時代(ということはもう20年以上前のことですが)、大学に数台のUNIXマシンが設置されていて、先進的な学生の中には「電子メール」を使う人が出現し始めました。私が大学を卒業した後で、西村博之氏が「2ちゃんねる」を創設すると、そこから瞬く間にネット掲示板を通じた情報交換が普及。たとえば、朝日新聞社が報道した、植村隆の執筆した「吉田清治の証言記事」が虚偽だと暴いたことも、インターネットを通じて多くの無名の人々が協力したことで実現できたものです。

それだけではありません。韓国国民と韓国政府の反日的な所業が明らかになり、それらの所業が日本国民に共有され始めています。新聞・テレビを含めたマス・メディアがそれらを報じなくても、我々は事実を知り、議論を深めることができるようになりました。考えてみれば、インターネットでは韓国の情報に限らず、マス・メディアが報じない様々な情報を得ることができます。余談ですが、インターネットが出現したことで、日本の民主主義も、これから急激に進化していくことになるでしょう。

日本にとっての対韓外交

日経ビジネスオンラインに、私が以前から注目している、日本経済新聞社の鈴置高史編集委員の手による「韓国論」が、昨日と一昨日、連続して掲載されています。

5年前、韓国は通貨スワップを「食い逃げ」した(2016年9月9日付 日経ビジネスオンラインより)
「中国のスワップ」を信じられなくなった韓国(2016年9月8日付 日経ビジネスオンラインより)

リンク先を閲覧する場合には日経IDへの読者登録が必要となることがありますが、私が知る限り、現時点では同社ID取得は無料です。鈴置編集委員やジャーナリストの福島香織氏の記事を読むためだけであっても、わざわざIDを取得する価値は十分にあります。

両記事をベースに、本日、私が議論したい内容に関連する箇所を要約しておきましょう(記事の正確な内容については、直接、上記リンクをご参照ください)。

「◆8月27日の日韓財相会談で日韓通貨スワップ協定の再開に向け協議することで合意した理由の一つは、韓国側がTHAAD配備で中国を怒らせ、中韓スワップがいざというときに機能しないことを恐れたからだ、◆これに加えて韓国の朴槿恵(ぼく・きんけい)大統領は中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席との会談で、北朝鮮の脅威がなくなればTHAAD配備の必要がないとの意向を伺わせた、◆昨年冬の慰安婦合意も、事実上、米国のバイデン副大統領らによる強い圧力によるものであり、韓国の対中傾斜が進めば簡単にひっくり返ってしまうだろう、◆慰安婦合意に基づく10億円も、韓国は『食い逃げ』するつもりだ、◆韓国はいわば、5年に1回『王朝交代』が生じる国だから、前任政権が交わした対外的な約束も簡単に反故にしてしまう、◆こうした『食い逃げ』を許さないためにも、韓国と通貨スワップ協定を締結するにしても、3か月更改方式にするなどして、韓国の『卑日』を封じる必要がある」。

  • ※THAAD:高高度ミサイル防衛システム。今年7月8日に、在韓米軍への配備が急遽発表されたもの。中国はこれに強く反発している
  • ※日韓通貨スワップ協定:日韓両国間で締結された、日韓の財務省(または中央銀行)同士で、緊急時に韓国の通貨を担保に、日本が日本円か米ドルを提供する協定。前回は総額100億ドルの通貨スワップ協定が昨年2月時点で失効している

さすが、鈴置編集委員の見解はいつもながらシャープです。非常に意地悪な言い方をするならば、昨年暮れの「慰安婦問題に関する日韓合意」も、「日本がお金を払ったらそれでおしまい」であり、次の政権(かさらにその次の政権)で再び蒸し返されるのは目に見えています。私自身は、「いかに愚かな国際合意であっても、合意してしまった以上はそれを守らなければならない」と考えており、さっさと10億円を支払い、あとは韓国に対して「韓国が約束を守らないことを糾弾し続ける」のがよい、と考えていました。ただ、日本政府(特に外務省)には、「日韓間の争いはできるだけ穏便に済ませたい」という事なかれ主義が蔓延しています。せっかく国民の税金から拠出したこの10億円が、「ムダ金」になるかどうかは、これからの日本外交に係っています。

※なお、鈴置編集委員は、昨年の慰安婦合意が、いわばバイデン副大統領を中心とした米国の政権関係者らが、日韓両国に対して半ば強引に圧力をかけて実現したものであると明らかにしていますが、この辺りは半ば公知の事実でしょう。

毒を食らわば何とやら

さて、現在の日韓関係については、長年の「懸案」であった「慰安婦問題」が「将来に向けて完全に解決」しました(※早ければ韓国の次の政権で蒸し返されるのは目に見えていますが…)。ところで、その韓国では、経済的にも外交的にも、さまざまな危機が訪れています。一例を挙げれば、「ナッツ・リターン事件」で世界の嘲笑を買った大韓航空と同一の財閥グループに属する「韓進海運」が経営破綻しました。また、38度線を挟んで敵対する北朝鮮は、ここ数日、何度も核実験・ミサイル実験を繰り返しています。

韓国が現在、経済的にも軍事的にも、相当な苦境に陥っていることはほぼ間違いありません。しかし、韓国は現在、軍事的には米国に、経済的には中国に、深く依存しています。そして、米中両国の仲が悪くなれば、必然的に韓国の立場は悪くなります。これらに対し、日韓通貨スワップ協定や日韓軍事情報包括協定(GSOMIA)の締結、という話が韓国側の希望として出てくるのは、当然の話なのです(図表)。

図表 韓国が日本に何を求めているか?
問題点具体的な事例韓国にとっての希望
経済的苦境●中国経済の減速
●韓進グループの経営破綻
日韓通貨スワップ協定
軍事的苦境●THAAD配備巡る迷走
●北朝鮮の脅威
日韓軍事情報包括協定(GSOMIA)

つまり、経済的苦境に対して日韓通貨スワップ協定、軍事的苦境に対してGSOMIA、というわけです。

こうした中、「長年の友好国である韓国が苦境に陥っているなら、今こそ韓国を救済するために日韓通貨スワップ協定やGSOMIAに応じるべきだ」といった意見を見かけることもありますが、私はこうした意見にはくみしません。その理由は簡単です。「日韓友好」も、「それ自体を目的にしてはならない」からです。

現在の日韓関係を巡って、唯一の救いがあるとしたら、安倍政権が外交の優先順位を「中国の封じ込め」に置いている、という点でしょう。つまり、歴代政権と異なり、安倍政権が韓国を追い込まないばかりか、韓国を助けるような政策に手を出している理由は、それをすることで中国を封じ込めることに寄与するからです。私自身、安倍総理の意向を代弁する権限もありませんが、敢えて安倍総理の気持ちを忖度(そんたく)するならば、慰安婦合意も日韓通貨スワップもGSOMIAも、いずれも「韓国を日本に友好的にする」(もしくは、少なくとも「韓国に後ろから刺されないようにする」)ためのものであり、既に本心では韓国のことは一切信頼していないと思います。

もしこの私の見立てが正しいのだとすれば、「毒を食らわば皿まで」ではありませんが、韓国の現政権の動きを一切封じ込める目的で、朴槿恵大統領の任期満了前後を失効期限とした通貨スワップ協定を締結してやるのも一つの手でしょう。

日本国民の我慢も限界

老獪(ろうかい)な安倍政権のことですから、きっと日韓通貨スワップ協定も、「対中牽制」に役立つならば、近い将来、これを締結することはあり得るでしょう。そして、その目的は、韓国を助けるというよりはむしろ、「米中二股」の韓国外交の身動きを封じることにあると見るべきです。

ただ、私自身は評論家の一人として、安倍政権が日韓通貨スワップ協定を再締結する可能性が高いと考えていますし、その必要性も理解しているつもりですが、日本国民の一人としては、腹立たしい気持ちを抑えることができません。そして、そのように感じている日本国民は、私一人ではないはずです。

繰り返しになりますが、歴代の日本政府は「日韓友好の維持」を目的に置いていたため、日本国民が一方的な我慢を強いられて来ました。歴代外務省の事なかれ主義や無能さには腹が立つ限りですし、「慰安婦問題」を捏造した朝日新聞社や植村隆には強い怒りを感じています。

安倍政権が行っている対韓外交が、日本全体の先行きをきちんと踏まえた大戦略の一環に位置付けられていることは、頭では理解しているつもりですが、だからといって昨年冬の「慰安婦合意」では、岸田外相は「慰安婦の強制連行」に、あたかも日本軍が関与したかのような表現をしています。そのせいで、「慰安婦問題は捏造だった」と主張するだけで、世界では「とんでもない主張」と受け取られてしまっているのです。

私の願いが安倍政権に届くかどうかわかりませんが、敢えて申し上げます。

対韓融和的な外交をするのは、あくまでも「対中封じ込め戦略」の一環であって、「日韓友好」自体を外交目標にしないでほしい、ということです。言い換えれば、日中関係が改善した場合や、中国の現行政権が崩壊した場合、あるいは米韓関係が崩壊するなどした場合には、もはや韓国を甘やかす必要などありません。また、「慰安婦合意」に基づく10億円の拠出が終わったわけですから、外務省をはじめとする日本政府関係者には、「慰安婦像の撤去」を韓国政府に要求し続けてほしいと思います。

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