韓国の経済危機と金融

韓国では世界的な海運企業である「韓進海運」が経営破綻し、これにより世界中の物流に混乱が生じるなど、影響が広がっています。一つの会社の経営破綻により世界中に迷惑を掛けるというのも、我々日本人には考え辛い話ですが、話はこれに留まりません。実は、韓国には少数の財閥が国内の重要な企業を握ってしまうという問題や、破綻処理一つまともに進められないという問題があります。さらに、国内企業の経営破綻が容易に金融危機に発展しかねないという国内の金融市場の脆弱さを抱えています。本日は、韓国経済の危機的状況について、金融という観点も織り交ぜながら議論してまいりたいと思います。

韓国の海運会社の経営破綻

韓国の大手海運会社「韓進(かんしん)海運」が経営破綻の影響で、貨物や乗客を乗せたまま海上を「漂流」する異例の状況となっています。しかし、漂流するのは同社だけでなく、韓国という国自体であるという懸念があります。この「韓進海運」の問題は、いかにも韓国らしいものです。というのも、私が調べた限りでは、

「◆『ナッツ・リターン事件』で有名になった大韓航空と同一の財閥に属している、◆負債総額は約55億ドル、◆海上をさまよう貨物船に積み込まれたコンテナ数は40万個、積み荷の価値は140億ドル、荷主は8000社を超える」…

という状況ですが、これがいかに異例であるかを確認してみましょう。

DIPファイナンスはどうした!?

まずは、「信じられない」報道からです。

乗員乗客も「下船できない」 韓進海運破綻で日本にも影響が…(2016/9/18 16:00付 J-CASTニュースより)

J-CASTニュースの報道によると、「寄港や荷下ろしに関する費用の不払いを恐れ、入港を拒否されている船は約70隻」(!)にも達し、これらの船舶が荷物や乗客、乗員などを「缶詰状態」にしたままで世界中の海を漂流しているのだとか。

このように、船舶が人や荷物を載せたままで「漂流」している最大の理由は、韓国の破産法制の運用に不備があるからです。たとえば、日本航空(JAL)が2010年に「経営破綻」した際には、「会社更生法」の仕組みが利用されました。また、経営破綻に際しては「民事再生法」が活用されることもあります。航空会社などのインフラ会社は、経営破綻して事業が止まってしまうと、私たち国民の生活に多大な影響が生じますから、「きちんと事業を継続しながら破綻処理をする」法的な仕組み(いわゆるDIPファイナンス)が不可欠なのです。

私が調べた限り、韓国にも類似する法制は存在するようです。しかし、現在、韓進海運に関して発生している状況は、まさに会社の経営破綻により、事業内容が混乱しているというものです。韓国経済の規模に比べると負債総額も比較的大きいのが特徴ですが、一握りの「財閥」がこのように巨大な企業を保有しているというのはいかにも不健全です。さらに、韓国政府や銀行団が同社を保有する財閥と対立関係にあるのも問題です。日本だと「会社更生法や民事再生法の仕組みを活用し、銀行団が協調融資」することで、いきなり事業が行き詰るという事態を避けます。さらに、同社のように韓国にとってだけでなく、世界中に影響を与える可能性のある会社であれば、なおさら、韓国内でDIPファイナンスをつけなければなりません。

「貨物や乗客が行先なしに漂流する」というのは、韓国ならではの異常事態でしょう。

破綻・清算処理か再生か?

一方で、米WSJは、先週金曜日(※日本時間土曜日深夜)付の記事で、同社が保有る船舶の半数を売却する方針だと報道。また、今週月曜日(=日本時間火曜日)付記事では、韓国の破産裁判所が同社に対して保有する船舶を売却することを命じたことなどを報じています。

Hanjin Aims to Sell More Than Half Its Ships(米国時間2016/09/16(金) 12:42付=日本時間2016/09/17(土) 01:42付 WSJオンラインより)
Korean Court Orders Hanjin to Cut Its Fleet(米国時間2016/09/19(月) 21:50付=日本時間2016/09/20(火) 10:50付 WSJオンラインより

WSJの報道通りであれば、同社が破綻・清算処理されるか、それとも「小規模な海運会社」として生き延びて行くのかの分岐点にあることは間違いありません。ただし、同社が仮に「小規模な海運会社」としての再スタートを切ったとしても、世界中の海運業界は一連の騒動を受けて、既に同社(と韓国そのもの)に対する信頼を失っていると想定されるため、事業継続のハードルは極めて高いのではないでしょうか?

また、清算するならするで、同社が保有する船舶が中古船舶市場で一時的に「値崩れ」が発生し、韓国の造船業にも連鎖破綻の可能性が生じます。

<韓進海運法定管理>船舶64隻が中古市場に出れば韓国造船業に発注減の可能性(1)(2016年09月19日10時28分付 中央日報日本語版より)

つまり、破綻・清算処理をするにせよ、事業再生を目指すにせよ、韓国政府は実に厄介な問題を抱え込んでしまった格好です。

巨額の不良債権問題

そして、韓国の金融システムにとって最大の不安といえば、不良債権問題です。国策銀行を含めた銀行団の同社向け債権が事実上不良債権化すれば、韓国の金融システムにも大きな打撃が生じるでしょう。

韓国の金融システムは極めて脆弱です。まず、韓国には「G-SIB」(グローバルにシステム上重要な金融機関)が存在しません。また、韓国は外需依存型の経済であるにもかかわらず、韓国の通貨「韓国ウォン」は、実質的にハード・カレンシーとは呼べません。したがって、運転資金・設備資金を外国から調達するニーズが強く、韓国で金融不安が生じれば、容易に通貨危機に発展します。

韓国の朴槿恵(ぼく・きんけい)政権は現在、非常に深刻な金融システム不安に直面しているのです。

韓国経済に危機

韓国経済が抱える危機はこれだけではありません。同社最大の「財閥」であるサムスン社が発売したスマートフォンが「爆発」し、世界的なリコールが生じています。これらは単なる企業の危機ですが、韓国の場合、「一つの企業の危機」に留まらなくなってしまっています。

リコール問題

まずは「リコール問題」から見ていきましょう。

サムスン「Galaxy Note 7」アメリカで100万台リコール バッテリー過熱・発火相次ぐ(2016年09月16日 16時10分 JST付 ハフィントンポストより)

サムスン社が韓国や米国で発売した「Galaxy Note 7」を巡り、「充電中にリチウムイオンバッテリーがオーバーヒートし、発火や爆発する」事故が相次いでいるそうです。様々な報道によれば、航空会社もこの「Galaxy Note 7」を名指しして機内持ち込みを制限しているという情報もあります。いずれにせよ、大規模なリコールは、巨額のリコール費用に加え、同社の「ブランド」が大きく失墜するなど、同社にとって非常に大きな経営上の負担になることは間違いありません。

どうして問題になるのか?

次に、韓進海運やサムスンなどの問題が、どうしてここまで大きくなるのか、という観点が重要です。韓国では財閥と呼ばれる集団の支配力がきわめて強く、日本と比べて、より少数の企業が経済の重要な部分を寡占している状況にあります。また、上場企業に占める特定企業の比率も高く、「Galaxy Note 7」の発火問題を受けて韓国の株価指数「KOSPI」が大きな影響を受けています。

ギャラクシーノート7ショック…KOSPI2000ライン崩れる(1)(2016年09月13日17時10分付 中央日報日本語版より)

日本だと、トヨタ自動車をはじめとする時価総額の大きな企業はたくさんありますが、一つの企業の売上高がGDPの20%を占めているというケースはありません。しかし、少し古い報道ですが、日本経済新聞によると、韓国の場合はサムスンの売上高が韓国のGDPの約20%に相当するのだそうです。

サムスン売上高22兆円、韓国GDPの2割(2014/1/25付 日本経済新聞電子版より)

つまり、韓国特有の問題とは、

  • 少数の企業が国内市場を実質的に独占している
  • 財閥が海運や航空などの重要なインフラ企業を保有している
  • 経営破綻等への危機対応が不十分

ということです。

日韓通貨スワップの意味

今年8月27日に行われた日韓財相会談で、韓国の財相は、いきなり、日本に対して「日韓通貨スワップ協定の再開」を申し出てきました。麻生太郎副総理兼財相は、従前より、韓国側から申し出があれば(再開に向けた)「議論をする」用意はある、と言い続けてきました。これについてどう考えるべきでしょうか?(なお、日韓通貨スワップ協定そのものについては以前のエントリー「専門知識解説:「日韓通貨スワップ協定」」や用語集「日韓通貨スワップ協定」あたりをご参照ください。)

韓国政府としては、現在、「ハード・カレンシーとの二国間通貨スワップ協定」がほとんど存在しません。いちおう、国際通貨基金(IMF)に特別引出権(SDR)を約23億単位(=約32.5億ドル相当)保有しており、チェンマイ・イニシアティブ・マルチ化協定(CMIM)に基づき384億ドル相当を引き出す権利があります。しかし、いずれもIMFが介入するなど、使い勝手が悪いのが実情です(ただしCMIMはIMFと無関係に30%相当額まで引き出し可能ですが)。

また、日本経済新聞社の鈴置高史編集委員のレポートによれば、韓国は2016年9月14日時点で、中国、UAE、マレーシア、豪州、インドネシアの各国と通貨スワップ協定を締結しているものの、「米ドルで」引き出すスワップは存在しません。このように考えていくと、韓国にとっては日本とのハード・カレンシーによる通貨スワップ協定の価値は極めて高いのが実情です。

朴槿恵政権成立以来、韓国は世界各国で「反日外交」を繰り広げるなど、日本に対して実に「好戦的」な姿勢を取ってきましたが、ここに来て、唐突に日本に擦り寄り始めたことの意味を考える必要があるでしょう。具体的には、韓国企業の経営危機と同国の姿勢の変化には密接なリンクがあると考えるべきであり、日本が日韓通貨スワップ協定の再開に応じるかどうかを判断する重要な前提でもある、というえるでしょう。

追記:関連記事・用語集等(2016/09/30追加)

私は「金融の専門家」の立場から、ハード・カレンシーに関連し、当ウェブサイトにおいて、「通貨スワップ」や「通貨」について、いくつかの記事を執筆しています。是非、ご参照ください。

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