中国の通貨「人民元」は国際化が進み、いまや「世界で通用する準主要通貨」になった!―、という印象を抱いている方もいらっしゃるでしょう。しかし、こうした認識は大きく間違っています。本日は客観的なデータを基に、人民元の最新情報を概観してみましょう。

※本文はお知らせの後に続きます。

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「夜泣き」とたたかう会計士!

本日も当ウェブサイトをご訪問賜り、大変ありがとうございます。

当「独立系ビジネス評論サイト」の管理人「新宿会計士」は、現在、猛烈な(?)「夜泣き」とたたかっています(笑)。ゴールデンウィークのタイミングと重なったことは本当に良かったと思うものの、どうしてもウェブサイトに記事を更新する時間が限られてしまっています。

ただ、それでも「現役ビジネスマン」「金融規制の専門家」の立場から、政治・経済ニュースを深読みしていく活動については続けたいと考えています。

こうした中、本日、私が選ぶテーマは、久しぶりに「人民元」です。

――↓本文は以下に続きます↓――

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人民元の現状

中国が採用する通貨・人民元は国際通貨とは呼べない―。これが私の以前からの持論です。これについて、興味深い記事が、『中央日報』日本語版に掲載されました。

ドルを超える基軸通貨目指して4年で反対に進む「人民元崛起」(1)(2017年05月04日11時13分付 中央日報日本語版より)

リンク先の記事は日経などの報道の孫引きであり、記事の内容自体に大した価値はありませんが、韓国メディアが「宗主国」である中国に対して向ける「不安のまなざし」が興味深いところです。

ところで、せっかく久しぶりに人民元に関する報道が出たのですから、ここらで「人民元の現状」について、おさらいしておきましょう。

2種類の人民元

実は、人民元には2種類あります。

市場関係者にとっては常識ですが、1つは中国本土(オンショア)で流通する人民元で、もう1つは香港など「オフショア」で流通する人民元です。

人民元に「オンショア」と「オフショア」の種類ができてしまう理由は、中国当局が中国本土への外貨流入規制を厳格に規制しているためです。

米国や欧州連合(EU)、日本、英国などの先進国では、通常、資本規制はありません。銀行等金融機関を初めとする外国人機関投資家は、直接、これらの国の国債や株式を購入することが可能です。また、先進国では信託・カストディの仕組みが整っているため、ファンド(金銭の信託、投資信託など)の形態で投資することも容易です。

しかし、中国の場合、たとえば日本の機関投資家が中国本土で発行されている人民元建ての中国国債を購入することは、極めて困難です。資本の持ち込み、持ち出し規制があるからです。

そこで、英国の元植民地で、アジアの金融センターである香港など、中国国外(オフショア)で人民元を流通させ、国外で流通する人民元と国内で流通する人民元を明確に分けようとするのが、中国当局の狙いなのです。

なお、通貨コードは中国本土の人民元がCN(「チャイニーズ・ユアン」のことでしょうか?)、オフショアの人民元がCNです。CNHの末尾の「H」は、代表的なオフショア・センターである「香港」のHでしょうか?

キャピタル・フライトのリスク

では、なぜ中国の金融当局は、国内の資本市場を閉鎖したままなのでしょうか?

あくまでも私の仮説ですが、中国の金融当局としては、資本流出(キャピタル・フライト)を極端に恐れているのではないでしょうか?

一般に、資本移動を自由化した瞬間、外国からの資本流入だけでなく、国内からの資本流出も可能になります。そうなれば、国内の家計や企業などが、手持ちの人民元を米ドルや日本円などの「安全資産」に替えておこうとする動きに出るかもしれません。そうなれば、市場メカニズムに従って、「人民元を売りたい」という人と、「人民元を買いたい」という人が均衡するところにまで、人民元の価値は下落することになります。

中国当局者がこの「キャピタル・フライト」を恐れているのではないかとの考え方を裏付ける報道があります。少し前の話ですが、英フィナンシャル・タイムス(FT)の電子版に、「人民元の国際化は道半ば」とする記事が掲載されました。

Renminbi internationalisation remains elusive(英国時間2017/01/30(月) 10:06付=日本時間2017/01/30(月) 19:06=付 FTオンラインより)

FTオンラインによると、人民元最大の「オフショア市場」である香港で、人民元建ての預金量が急減していると指摘しています。すなわち、香港のオフショア人民元建て預金量は、2014年には1兆元の大台に達していましたが、これが2016年12月末時点で5,467億元(米ドル換算で795億ドル相当)とおよそ半減しています。

これについてFTオンラインは、「人民元の供給を引き締めることで為替操作をやりやすくする狙いがある」と述べていますが、いわば、人民元の急落を防ぐために、まずは自由に取引されている香港市場における人民元の供給量を絞った、ということでしょう。

「自由利用可能通貨」の概念

中国が「CNH」と「CNY」を並立させるという、こんなまどろっこしいことを行っている大きな理由の一つは、人民元を国際通貨基金(IMF)の「特別引出権(SDR)」の構成通貨に入れることにありました。

人民元は昨年10月、SDRの構成通貨となりましたが、SDR入りに際し、IMFは中国に対し、人民元を「自由利用可能通貨」(a Freely Usable Currency)とすることを求めました。

この「自由利用可能通貨」とは、次の2つの要件を満たしているとIMFが判断した通貨のことです。

  • 国際取引での支払いに広く使われていること
  • 主要な取引市場で広く取引されていること

なお、昨年10月のSDR構成比率見直しに伴い、現時点でIMFの「自由利用可能通貨」を構成しているのは、SDRに加えられている、次の5つの通貨です(カッコ内は構成比率)

  • 米ドル(41.73%)
  • ユーロ(30.93%)
  • 人民元(10.92%)
  • 日本円(8.33%)
  • ポンド(8.09%)

ただ、人民元がこの「自由利用通貨」の要件を満たしているかといわれれば、非常に微妙です。

SDR自体は一種の引出権のようなものですが、別に加盟国がSDRを行使したとしても、この5つの通貨で引き出す必要があるものでもありません。IMFの約款上、あくまでもSDRを行使する国が、IMFに対し、5つの通貨のうち自分が必要な通貨を選んで通知すれば良い話です。

自由利用通貨の提供

A participant designated by the Fund under Section 5 of this Article shall provide on demand a freely usable currency to a participant using special drawing rights under Section 2(a) of this Article.

(仮訳)本条セクション5に従いIMFから指定された国は、SDR利用国の要求に応じて「自由利用可能通貨」を、本条セクション2(a)に従って、SDR利用国に提供しなければならない。

(【出所】IMF「Articles of Agreement」第19条セクション4)

つまり、「オフショア人民元」とは、単にIMFのSDR入りするという「名声」のためだけに創設された市場に過ぎず、中国当局がオフショアとオンショアの市場統合をすることはないと見て良いでしょう。

流通状況はむしろ悪化へ

ところで、銀行間の国際決済電文システムを運営するSWIFT社は、毎月、興味深いデータを公表しています。これが「RMBトラッカー」です。

RMBとは「人民元」の中国語発音(Ren Min Bi)の略であり、「CNY」とならぶ通貨コードとして通用しています。同じ通貨にコードが2つも3つもあるという時点で胡散臭さ満点ですが、それはさておき、SWIFTは毎月、人民元の決済ランキングを公表しています(図表1)。

図表1 RMBトラッカーで見る通貨別決済ランキング

このランキングは、「国際決済総額に占める人民元建て決済額の割合(顧客を送金人とする決済額および銀行間決済額・SWIFT上で交換されたメッセージ)」を集計したものです。人民元決済高が過去最高となったのは2015年8月で、この時は瞬間的に、人民元のシェアが日本円のシェアを抜き、世界4位となりましたが、その後はずるずると落ち込んでいます(図表2)。

図表2 決済高の比率
通貨 2015年8月時点 2017年3月時点
米ドル 1位(44.82%) 1位(41.80%)
ユーロ 2位(27.20%) 2位(31.20%)
英ポンド 3位(8.45%) 3位(7.13%)
人民元 4位(2.79%) 6位(1.78%)
日本円 5位(2.76%) 4位(3.31%)
加ドル 6位(1.79%) 5位(2.00%)

華々しく「人民元の国際化」が喧伝された割には、人民元の「決済電文シェア」が日本円を追い抜いて4位に浮上したのは2015年8月だけであり、その後は「鳴かず飛ばず」の状況にあるといえます。

資本取引では極めて低い

つまり、人民元の国際化といっても、あくまでもSWIFTが集計するデータ上、顧客・銀行間取引の決済シェアが、2015年8月の単月で日本円を抜いて4位に浮上したというだけの話であり、それ以上のものではありません。

しかも、SWIFTデータはあくまでも「顧客送金・銀行間決済」しか集計対象にしておらず、DVP決済が中心の資本取引(たとえば機関投資家による国債の売買やデリバティブの決済など、巨額の取引)については集計から漏れています。

ということは、「人民元の国際化」とは、メディアが報道しているほど進展しているというものではないことは間違いありません。

――↓本文は以下に続きます↓――

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きちんとした金融規制の知識が必要

いずれにせよ、経済ニュースを読む際には、背景として、金融規制の知識が必要であることが、多々あります。そうでないと、「人民元は国際通貨になった」といった誤ったニュースを信じてしまうこともあるからです。

冒頭にも申し上げた通り、4月下旬に娘が誕生して以来、現在の私はどうしてもプライベートで忙しく、こちらのウェブサイトの更新についても、それほど時間を費やすことができません。

ただ、それでも私は「現役ビジネスマン」、あるいは「金融規制の専門家」という立場から、政治・経済ニュースについて、分析を続けていきたいと思いますので、どうか引き続きご愛読下さると幸いです。

※本文は以上です。

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  • 著者のコンタクト先:info@shinjukuacc.com

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