ポンペオ長官訪日の詳細を読む
マイク・ポンペオ米国務長官が昨日、東京を訪れて日米韓3ヵ国首脳会談を行いました。これについて、米メディアのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に興味深い分析記事があったので、私見を交えながら、これをどう読むかについて解説したいと思います。
目次
続・ポンペオ長官訪日
米国に対して北朝鮮がキレる
マイク・ポンペオ米国務長官が金曜日から土曜日にかけて北朝鮮を訪問し、土曜日の深夜、日本にやってきたという話題については、昨日も『日本が「蚊帳の外」だと言っていた人たちの言い訳が聞きたい』のなかで詳しく触れました。
ポンペオ長官と北朝鮮の金英哲(きん・えいてつ)との間でいかなる議論が行われたのかについては、正直、報道発表がほとんどなされていないため、よくわかりません。ただ、昨日になって出てきた北朝鮮の反応を見ると、だいたいどんな内容が議論されたのか、想像がつきます。
非核化まで制裁とポンペオ長官、「ギャングのような」要求と北朝鮮(2018年7月8日 12:16付 ロイターより)
ロイターによると、ポンペオ長官は日曜日、東京で日米韓3ヵ国外相会談に臨み、その後の共同記者会見で、「完全な非核化の実現まで北朝鮮への制裁を続ける方針を強調した」のだそうです。ただ、北朝鮮側はポンペオ氏訪朝直後に、次のような声明を出したとしています。
「(米国から北朝鮮に対し)一方的でギャングのような非核化要求(を突きつけられた)」「非核化への我々の意思が、揺らぎかねない危険な局面に直面することになった」
いわば、米国に対して北朝鮮がキレた格好ですが、要するに、米朝高官級協議の内容は、北朝鮮にとっては非常に厳しい内容だったという可能性が高いでしょう。北朝鮮は、正論で詰められれば発狂するという特徴がありますが、これはまさに、ポンペオ長官が北朝鮮の非核化を巡り、一歩も譲らなかった証拠です。
日本のマス・メディアのインチキ記事
この短い記事を読むだけでも、朝日新聞を初めとする日本のマス・メディアが、6月12日の米朝首脳会談以降、いかにインチキな記事を流し続けていたかという証拠になると思います。なかでも6月27日の朝日新聞の社説などは、その典型例です。
(社説)ミサイル防衛 陸上イージスは再考を(2018年6月27日05時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より)
朝日新聞は、日本が山口県などに配備を予定している陸上イージス(いわゆるイージス・アショア)を巡り、「米朝両国は対話ムードに入り、緊張は緩和される方向になった」などと決めつけ、「北朝鮮の脅威は低下している」から「配備を見直せ」などと、むちゃくちゃなことを主張しています。
朝日新聞はこの6月27日付の社説を、今のところは撤回していないようですが、こうした手前勝手なインチキ社説を、「言ったら言いっ放し」というのも、いい加減、うんざりします。これで「クオリティ・ペーパー」を自称するとは、厚かまし過ぎるのではないでしょうか?
ただし、朝日新聞にも優れたジャーナリストは所属しています。たとえば、朝鮮半島問題などをめぐっては、『【夕刊】気になる「在韓米軍撤退」の動きの意味とは?』などでも触れたとおり、朝日新聞ソウル支局長の牧野愛博氏がスクープ記事を連発しているのです。
この点については、いちおう、朝日新聞の名誉のために、付言しておきたいと思います。
WSJ記事に見る日米韓関係
米WSJ、「国務長官は楽観論」と報道
さて、私自身が北朝鮮問題を巡り、真っ先に参照するのは、とくにウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)などの米メディアです。WSJは日米韓3ヵ国外相会談後に、東京発で次のような解説記事を掲載しています。
Pompeo Maintains Optimism on Nuclear Talks With North Korea(米国夏時間2018/07/08(日) 03:51付=日本時間2018/07/08(日) 16:51付 WSJより)
リンク先記事にはでかでかとポンペオ長官と安倍晋三総理大臣の写真が掲載されていて、これだけでも「北朝鮮核問題の影の主役は日本」ということが強烈に印象付けられていますが、WSJはポンペオ長官が北朝鮮の報道発表を否定し、「交渉は進展している」と述べた、としています。
今回の同氏の訪朝は3回目ですが、WSJが報じたポンペオ氏の発言によれば、今回、ポンペオ氏が会ったのは金英哲のみであり、北朝鮮の独裁者である金正恩(きん・しょうおん)への表敬訪問はなかったとしています。
一方、記事の中で重要なくだりは、「米朝両国の非核化に向けた取り組みは、先月の米朝首脳会談以降、停滞している(Cooperation between the two sides has stalled since President Donald Trump met Mr. Kim in Singapore last month)」とする指摘です。
しかも、米朝首脳会談で北朝鮮の非核化が合意されたにも関わらず、衛星写真によれば、北朝鮮が核施設の増強などを行っていることが確認されているなどとしており、このあたりは朝日新聞を初めとする日本のマス・メディアが無視している重要なポイントだといえます。
(※余談ですが、私がなぜ、わざわざ無理して英語のメディアであるWSJやWPを読んでいるのかといえば、日本のマス・メディアの報道だと、「報道しない自由」を駆使して、このあたりの事実を歪めて伝えているからにほかなりません。)
影で高まる日本の存在感
さて、なぜ私がわざわざ、WSJの記事を紹介したのかといえば、記事の後半部分で、日本の安倍総理や河野太郎外相などの発言が紹介されているからです。
言うまでもありませんが、朝鮮半島非核化議論において、日本国内には「日本は蚊帳の外だ」とする意見が蔓延しています。とくに昨日も紹介しましたが、元外交官の天木直人氏や元経産官僚の古賀茂明氏の発言からは、あたかも日本が交渉から完全に除外されているかの印象を抱きます。
しかし、WSJは記事のなかで、わざわざ次のとおり、安倍晋三総理大臣がいかにこの問題で強い存在感を示しているかを示唆しています。
Japanese Prime Minister Shinzo Abe greeted Mr. Pompeo at his office in Tokyo and said he looked forward to an update on the status of negotiations.(日本の安倍晋三総理大臣はポンペオ氏を東京の官邸に迎え、非核化交渉の進展を期待していると述べた。)
Mr. Abe has called for the international community to maintain a hard line on North Korea, although Japan has had a less visible role in the process than others in the neighborhood, including South Korea and China.(日本は南朝鮮や中国などを含めた周辺国と比べると、朝鮮半島の非核化において果している、目に見える役割は少ないが、安倍氏は国際社会に対し、北朝鮮に対する強硬姿勢を維持するよう呼びかけている。)
この “less visible role” 、つまり「目に見える役割の少なさ」という表現に、全てが尽くされています。日本のマス・メディアや自称有識者らが「日本は蚊帳の外」と述べているのは、こうした表面的な部分のみに着目しているからであり、そこに、少なくともWSJのような複眼的な視点はありません。
WSJはまた、今回のポンペオ氏の訪日に先立ち、ジェームズ・マティス米国防長官も先月、東京を訪れたという事実を引用。彼らの訪問目的については、北朝鮮の核放棄を巡る日本側の懸念にも配慮したものだとして、次のように述べています。
The U.S. visits have aimed to assuage anxiety that Japanese interests may be sidelined as a result of Washington’s efforts to push North Korea to abandon its nuclear and missiles programs.(両長官の相次ぐ訪日は、米国政府が北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させることにかまけて、日本の国益を疎かにする行為であるとの懸念を鎮めることにある。)
また、ポンペオ氏自身がツイッターに “#DPRK” というハッシュタグで投稿し(※DPRKとは北朝鮮のこと)、河野太郎外相との会談で「北朝鮮に最大限の圧力を維持する」との日本政府の方針について議論したとも述べています。
いわば、北朝鮮に対する強硬姿勢が、米国ではなく、日本が主導しているものであることを見せつけた格好です。
日本と対照的に、能天気な韓国
WSJは米国のメディアのなかでも、とくに保守系の論壇の視点を代弁しているような役割があります。したがって、WSJの報道ぶりを眺めていくと、米国政府内の「空気」のようなものを、何となく感じ取ることができます。
WSJは韓国について、大統領府報道官が「北朝鮮の非核化については楽観視している」としつつ、「シンガポールでの米朝首脳会談を受けて、金委員長(※)とトランプ大統領は相互に信頼を構築した」などと述べた、と淡々と報じています(※「金委員長」(Chairman Kim)とは金正恩のこと)。
つまり、日米韓の3ヵ国の中で、明らかに韓国が能天気であることが、記事からも浮かび上がる、という仕組みですね。ちなみに康京和(こう・きょうわ)韓国外交部長官(外相に相当)の発言については、ヒトコトも引用されていません。
韓国が独り負け、北朝鮮の前言撤回
もっときついことを申し上げるなら、一連の米朝対話における最大の犠牲者は、実は、韓国です。
米国は韓国との主要な合同軍事演習を中止しましたが、これを巡ってWSJは、北朝鮮側から土曜日、こんな見解が出て来たと述べます。
Pyongyang played down the U.S. concession on Saturday, saying that the exercises could resume at any time, while the U.S. demand that it destroy military facilities would be impossible to reverse if Washington retreated from its commitments.(北朝鮮側は土曜日、米韓軍事演習は中止しただけに過ぎず、いつでも再開できるという性質であると指摘。米国が北朝鮮に要求している核武装の解除は、たとえ米国がコミットメントを撤回しても、実現してしまったら再開できないとして批判した。)
要するに、シンガポールでの「非核化宣言」を、公式に否定した格好でもありますが、本当はこちらの方がはるかに大きなニュースではないでしょうか?
それはともかくとして、米国側は、実は米朝首脳会談の前後で、北朝鮮に対する経済制裁をまったく緩和していません。また、経済制裁が緩和されるとしても、それは核武装の完全な解除が実現することが条件だとする姿勢を崩していません。
つまり、米国が1ヵ所だけ北朝鮮に譲歩したのが米韓合同軍事演習の中止であり、いわば、韓国の「独り負け」状態にあります。
それだけではありません。韓国政府高官、なかでも文正仁(ぶん・せいじん)大統領補佐官は6月11日に日本経済新聞社が主催したフォーラムで、「(南北)平和協定締結の暁には在韓米軍は撤退すべきだ」と述べているほどです。
韓国の文補佐官、平和協定後の米軍の必要性に改めて疑念(2018/6/11 18:47付 日本経済新聞電子版より)
今すぐ米韓軍事同盟が消滅すると見るのは早計ですが、このままで行くと、米韓両国の同盟関係は「円満離婚」に向かうと予想せざるを得ないのです。
中国ファクターはこれから本格化へ
さて、冒頭で紹介したとおり、北朝鮮はポンペオ長官に対してキレました。ただ、見方を変えると、これはポンペオ長官が北朝鮮に対して一歩も譲らなかった証拠であり、「北朝鮮が米国に届かない核ミサイルを保有することを米国が容認する」、といった懸念は、とりあえず回避されたと見てよいでしょう。
問題は、北朝鮮の非核化プロセスを進めるに当たって、妨害して来る勢力が出現する、という点にあります。具体的に言えば、その国は、中国と韓国です。
このうち、韓国の方が北朝鮮の非核化を「圧力ではなく対話により解決すべきだ」と主張し、日米両国を呆れ返らせていることについては、指摘するまでもありません。しかし、より深刻な問題があるとすれば、中国が公然と国連安保理決議に違反して北朝鮮支援に乗り出す可能性です。
いや、もっと懸念されることがあります。それは、中国が米国との「貿易戦争」を繰り広げるうえで、北朝鮮を「交渉カード」として使うことです。場合によっては、中国が北朝鮮に対し、半ば公然と、金正恩王朝の存続を支援することも考えられます。
昨年の今ごろであれば、米国が北朝鮮の非核化のために、限定的な空爆に踏み切るのではないかとの観測もありました。実際、中国側も中国共産党の機関紙である『環球時報』(英語版)が、「(米国が)北朝鮮の先制攻撃に反撃するなら、中国は中立を維持する」と述べていたほどです。
しかし、トランプ政権が仕掛けた「貿易戦争」により、この構図は完全に変わったと見て良いでしょう。少なくとも、北朝鮮が米国の「版図」に入ることを、中国が容認するとは思えませんし、もし米国が北朝鮮を懐柔しようとするならば、全力で妨害して来るであろうことは間違いありません。
したがって、私は、「北朝鮮の非核化」を巡っては、かなりの長期戦を覚悟すべきだと考えています。しかし、それと同時に、長期戦の過程で中国が音を上げれば、意外と早く、北朝鮮問題が「手打ち」になる可能性もあると見ています。
具体的には、米中(+日露)が朝鮮半島の新秩序構築で合意さえすれば、金正恩はスイスあたりに亡命し、北朝鮮の金正恩体制は平和裏に解体されるからです。ただし、その場合に韓国はどうなるのか、北朝鮮の領土はどうなるのか、などについて、少し複雑な思考実験が必要です。
そこで、近日中に『大好評・「朝鮮半島の将来シナリオ」2018年6月版』のアップデートを試みたいと思います。どうかお楽しみに!
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