日本企業の中国撤退の背中を押す「訪中ビザの厳格化」
中国が日本にとって重要な国なのかどうかと問われれば、一応、経済関係だけで見れば「重要な国」であることは間違いありません。ただ、それと同時に、日本企業にとってはこれ以上、中国に深く入れ込むのではなく、引き返すという決断を下すことも、現時点であればまだ可能です。そうした日本企業の背中を押すのは、もしかしたら中国のビザ厳格化かもしれません。中国に出張するだけで個人情報をすべて中国に抜き取られるのだとしたら、コンプライアンス面からも日本企業は中国との距離を置かざるを得ないからです。
目次
「中国は日本にとって大事な国だ」
日本にとって中国とは、本当に必要な国なのでしょうか。
そんなことをいうと、こういうお叱りを受けるかもしれません。
「現在の中国は日本にとっても最大の貿易相手国だし、大変に多くの日本企業が中国に進出している。中国人観光客は訪日外国人数を押し上げるのに寄与している。ヒト、モノ、カネのすべての面において、日中関係は切っても切れない関係にある」――。
ただ、大変恐縮ですが、この「日中の経済的なつながりは大変に強い」、という命題自体、少し誇張のし過ぎではないでしょうか。
当ウェブサイトの「ウリ」は、「数値化できるものは可能な限り数値化する」、という点にありますが、ある国との経済的関係が深いかどうかに関しても、基本的には(可能な限り最新のデータを使い)「数値化」して判断すべきではないかと思います。
ここで、経済的関係の代表的な指標は、「ヒト、モノ、カネ」です。
このうち「ヒト」については両国の短期的な往来、両国に長期滞在する人々の人数で、「モノ」については貿易高などで、「カネ」については金融機関の対外与信や企業の直接投資で、それぞれつながりの深さを測ることができます。
ただし、中国の場合、たとえば「中国を短期ビザで訪問した日本人の総数」などのデータは公表されておらず、また、「中国の金融機関が日本企業などに貸しているカネ」などのデータも存在しないため、日中の「ヒト、モノ、カネの往来」については、どうしても一部のデータが不完全になってしまいます。
この点は、ある意味では仕方がありません。結局、「ヒト、モノ、カネ」のつながりを測るうえでは、存在するデータを使うより方法はなさそうです。
数字で読む日中関係
短期的な人的往来はコロナ以降激減中
そういうわけで、まずは人的往来です。
先日の『訪日外国人は189万人:「インバウンド大国」の日本』などでも取り上げたとおり、日本政府観光局(JNTO)が先日公表した『訪日外客統計』の最新データ(速報値)によると、2023年5月に日本に入国した外国人の総数は1,898,900人でした。
コロナ禍以前の数値には及ばないにせよ、特定国からの入国者が激増しているなどの事情もあり、日本に入国する外国人の総数に関しては、順調に回復傾向にあります(それが日本経済にとって良いことかどうかについては別問題ですが…)。
ただ、この1,898,900人という入国外国人総数に対し、中国人は134,400人で国籍別に見たら5位であり、また、入国外国人全体に占める割合は7.08%です。コロナ禍以前であれば、中国人は訪日外国人のトップを占めていたのですが、コロナ以降は中国人のインバウンド需要は回復していません。
また、今年1月から5月までの5ヵ月間の累計値でいえば、日本に入国した外国人の総数は8,638,543人でしたが、このうち中国人は386,090人で、パーセンテージを計算してみると4.47%と、やはり全体に占める割合は大きいとはいえません。
これに関し、中国人の入国者と、入国者全体に占める中国人の割合を1枚のグラフに示しておくと、図表1のとおりです。
図表1 中国人の日本入国状況
(【出所】日本政府観光局データをもとに著者作成)
日本に在留する中国人、中国に在留する日本人
続いて外務省が公表している『海外在留邦人数調査統計』と呼ばれる統計に基づけば、外国に在留する日本人(「長期滞在者+永住者」の合計)は昨年10月1日時点で1,308,515人だそうですが、このうち中国在留者は102,066人で2位であり、全体の7.80%を占めています。
決して少ない人数ではありませんが、それでも遠く離れた米国に418,842人が暮らしていることと照らし合わせると、中国在留日本人は米国在留日本人の4分の1ほどです。
これに加え、法務省が作成している『在留外国人統計(旧登録外国人統計) 在留外国人統計』によれば、2022年12月末時点で日本に在留する外国人は3,075,213人で、このうち中国人は761,563人と全体の24.76%(つまり約4分の1)を占めていることがわかります。
すなわち、人的往来という意味では、短期的な往来はコロナ以降、多いとは言えない状況にありますが、長期的な在留者数はお互いにかなりの数に達しているものの、どちらかというと日本との関係を深めようとしているのは中国の側である、という見方もできそうです。
なお、中国を訪れている日本人の人数が何人だったのか、といったデータについては、中国政府が発表をしていないため、正直、その実態はよくわかりません。
日中貿易の現状:最大の貿易相手国だが…
続いて、「モノの流れ」についても簡単に確認しておきましょう。
一番わかりやすいのは、財務省が公表している普通貿易統計のデータですが、これによると、2023年5月時点のデータ上、単月の輸出額は1兆3413億円で、これは日本の輸出額全体(7兆2920億円)に対して18.39%と、かなりの割合を占めています。米国に次いで2番目です。
また、輸入額については輸出額よりも多く、その金額は1兆8818億円ですが、これは日本の輸入額全体(8兆6739億円)に対して21.69%を占めており、もちろんトップです。
さらに、輸出額と輸入額を合計した「貿易額」に関していえば3兆2230億円で、トータルの15兆9694億円に対して20.18%を占めており、これはもちろん最大の貿易相手国であるといううことを意味しています。
ただ、輸出入品目を委細に眺めると、日本から中國への輸出品の中心を構成しているのは、俗に「素材、部品、装備」などと呼ばれる品目、つまり「モノを作るためのモノ」が中心です。これに対し中国からの輸入品目の多くは、PC、スマホ(金額的にはこれらが大きいです)に加え、衣類、雑貨などの最終製品が中心です。
もちろん、「数字の上では」日中貿易額は大きいのですが、その内情は、「日本から基幹部品を中国に輸出する」、「中国で生産された汎用品を日本が逆輸入する」、といった状況だと考えれば良く、今後、円安が長期化すれば、脱中国の流れも出て来るかもしれません。
対中与信、対中投資残高は隣国と思えないほど少ない
さらに、金額的なつながりという意味では、たとえば『邦銀の香港向け与信残高が急減中』などでも取り上げた、日銀が公表する日本の対外与信統計データが参考になるかもしれません。
対外与信統計によると、2023年3月末時点における邦銀の対外与信(最終リスクベース)は4兆7752億ドルに達していますが、このうち中国に対する与信は825億ドルで、シェアは1.73%程度に過ぎません。隣国同士という事情を考えれば、これは意外な少なさです(図表2)
図表2 中国に対する与信(最終リスクベース)
(【出所】日本銀行『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトデータをもとに著者作成)
とくに、直近では対中与信、対外与信に占めるそのシェアがいずれも落ち込んでおり、対中与信総額は再び1000億ドルの大台を割り込み、いまや800億ドル台前半、といったところでしょう。
これに加えて、JETROが公表している『直接投資統計』によれば、2022年12月末時点の日本の対外直接投資残高は2兆0792億ドルですが、中国への投資額は1426億ドル程度で、対外直接投資全体の6.86%であり、隣国同士と考えると、意外なほどの少なさです。
なお、同じく2022年12月末時点における中国から日本への投資額は73億ドルで、日本への対内直接投資全体(3494億ドル)に対して2.09%であり、これについては日中の経済規模等に照らしてほぼ無視して良いレベルでしょう。
今後の日中関係はどうなるのか
関係の総括表
以上をまとめたものが、図表3です。
図表3 日中のヒト、モノ、カネの関係
比較項目 | 具体的な数値 | 割合 |
訪日中国人(2023年5月分、速報値) | 134,400人 | 訪日外国人全体(1,898,900人)の7.08% |
訪日中国人(2023年1~5月の累計) | 386,090人 | 訪日外国人全体(8,638,543人)の4.47% |
中国在住日本人(2022年10月1日時点) | 102,066人 | 在外日本人全体(1,308,515人)の7.80% |
日本在住中国人(2022年12月末時点) | 761,563人 | 在留外国人全体(3,075,213人)の24.76% |
対中輸出額(2023年5月分) | 1兆3413億円 | 日本の輸出額全体(7兆2920億円)の18.39% |
対中輸入額(2023年5月分) | 1兆8818億円 | 日本の輸入額全体(8兆6739億円)の21.69% |
対中貿易額(2023年5月分) | 3兆2230億円 | 日本の貿易額全体(15兆9694億円)の20.18% |
対中輸出額(2023年1~5月累計) | 6兆6228億円 | 日本の輸出額全体(38兆6099億円)の17.15% |
対中輸入額(2023年1~5月累計) | 9兆8252億円 | 日本の輸入額全体(45兆6133億円)の21.54% |
対中貿易額(2023年1~5月累計) | 16兆4480億円 | 日本の貿易額全体(84兆1071億円)の19.56% |
邦銀対中与信(最終リスクベース)(2023年3月末時点) | 825億ドル | 邦銀の対外与信総額(4兆7752億ドル)の1.73% |
対中直接投資額(2022年12月末時点) | 1,426億ドル | 日本の対外直接投資全体(2兆0792億ドル)の6.86% |
中国からの直接投資(2022年12月末時点) | 73億ドル | 日本の対内直接投資全体(3,494億ドル)の2.09% |
(【出所】著者作成)
これで見ると、日中の経済関係はたしかに非常に深いものの、日本にとって中国との関係が切断された場合、「致命的な打撃」がもたらされるというものではありません。
関係がとくに深いのは人的分野(お互いの国に在留する相手国明)と物的分野(貿易高)ですが、短期的な往来(観光客など)については本調子ではなく、また、金融・投資面では、正直、隣国同士とは思えないほどの関係の薄さです。
こうした状況を踏まえると、日本にとっては今後、中国との関係をさらに深めることで、対中依存度をより大きくしていくこともできますし、逆に少しずつ中国との関係を整理し、対中依存度を減らしていくことだってできるかもしれません。
どちらを選ぶかは今後の日本次第ですが、現在だと中国との関係をこれ以上深めずに引き返すことが可能です。たしかに人的・物的関係に関しては深いのですが、金融・投資面で見るならば、そこまで中国に「ベット」しているわけではないからです。
「中国事業を拡大」と答えた日本企業は07年以降最低
では、日本企業は今後、どちらの方向に舵を切るのでしょうか。
これについては先日の『印象操作?「日系企業の9割が中国事業を拡大・維持」』でも触れたとおり、ジェトロが実施した『海外進出日系企業実態調査』(2022年度調査)では、中国での事業規模を「拡大する」との回答は2007年以降最低の33.4%に留まったのだそうです。
- 拡大…40.9%→33.4%
- 維持…55.2%→60.3%
- 縮小…*3.8%→*6.3%
もちろん、現時点において中国事業を露骨に「縮小する」と答えている割合はまだ高くありませんが、それでも方向性としては、中国事業について「様子見」ないし距離を置く企業が徐々に増え始めていることは間違いなさそうです。
中国に渡航したければ個人情報を抜き取られる
こうしたなかで、ちょっと気になる話題があるとすれば、ウェブ評論サイト『ダイヤモンドオンライン』が土曜日に配信した、こんな記事かもしれません。
中国に行きたければ裸になれ!?厳しすぎる「ビザの壁」に悲鳴をあげる日本人が続出
―――2023/07/08 11:32付 Yahoo!ニュースより【DIAMOND online配信】
記事を執筆したのはジャーナリストの姫田小夏氏ですが、これによると、日本人が最近、商談や家族訪問などで中国への渡航を希望しても、ビザ申請の壁が「あまりにも高くなっている」、というのです。
そもそもコロナ禍以前であれば、滞在期間が15日以内であれば、日本人はノービザで中国を訪問することができていたはず。
ところが、姫田氏によると、現在、訪中には事前にビザの取得が必要であり、その申請の手順も、オンラインで申請表を作成したうえで、手続日にビザセンターで航空券のコピー、ホテル手配確認書、招聘状などの申請書類一式を提出する、といった流れなのだそうです。
しかも「オンラインでの申請表の記入事項は多く、なかなか次のページに進めないどころか、パソコンがフリーズしてはやり直しで、大変骨が折れる」という代物。煩雑であるだけでなく、個人情報を含め「あらゆる情報を打ち込まなければならない」、というのです(これが記事タイトルの「裸になれ」、の意味です)。
つまり、コロナ禍以降に関しては、日本人の中国訪問に当たっては、本当に手続も煩雑であるだけでなく、ありとあらゆる情報が中国側に筒抜けとなるなど、日本人ビジネスマンにとっては、中国に渡航するのが難しくなる要因ばかりです。
最終的にはセルフ経済制裁に?
ただ、こうしたビザの厳格化は、正直、日本企業にとっては中国ビジネスを縮小するうえでのきっかけのひとつとなり得るでしょう。
日本では現在、個人情報などの機微情報の扱いも厳しくなっていますので、大企業であればあるほど、自社の従業員を「個人情報を中国当局に提出させてまで」中国に出張させることが、コンプライアンス面からも問題となることは間違いありません。
このように考えていくと、現在の中国は、みずから往来の自由に制限を加えることで、いわば「セルフ経済制裁」でも課そうとしているかにも見えます。ビザ厳格化は、ただでさえ中国事業と距離を置こうとしている日本企業にとって、中国撤退という決断の背中を押す要因のひとつとなるからです。
いずれにせよ、日中の経済関係は(一見すると)深いのですが、現在であれば、まだ引き返せる水準にあることもまた事実でしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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黒色中国さんというかたがいます。中国愛に満ち溢れているのは自他認めるところです。その彼はリツイートしたり短文要約する情報は極めて有用なのですが、最近の発言の中には、日本に今行けばといじめられると思っているとの言及があるのです。すなわち日本人(だけじゃなくて)をいたぶっているのは市井の公民にも知れ渡っている。よって自分たちが日本渡航すると嫌われてヤな思いをすると恐れている。心理学用語でいう投影の顕れです。つまり日中離間は確実進行している。中国に巻き取らる心配しないでいいです。河野くんやデニーくんのふるまい(心理構造)が異常なだけです。
>日本では現在、個人情報などの機微情報の扱いも厳しくなっていますので、大企業であればあるほど、自社の従業員を「個人情報を中国当局に提出させてまで」中国に出張させることが、コンプライアンス面からも問題となることは間違いありません。
純粋な経済活動として訪中・在中する従業員しか居ない会社にとっては、不愉快で終わる問題かと思います。
ただ、遠藤誉氏のように“情報提供”を求められる事例や、スパイ活動を求められる事例があると考えられます。
習近平が反スパイ法を改正した理由その2「中国の国内事情」 日本はどうすべきか
遠藤誉7/4(火) 21:04
https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20230704-00356580
法務省の公安調査庁が民間人にスパイ活動を依頼して、中国当局に捕まっても何ら助けは無く見捨てられるだけ、ってな岸田・林外交に“責任感”や“国民を守る姿勢”は一切感じられません。
早く岸田文雄を下ろして、対韓対中だけでなく対米外交でも筋を通せる政治家に総理になって欲しいですね。
>早く岸田文雄を下ろして、対韓対中だけでなく対米外交でも
じわじわ弱らせる戦術を採るがいいと思います。
無謀なべた踏み粗暴運転が特に問題視されているだけですべてが間違っているわけでないからです。
「日本側経営者の中国での事業の話」とは逆になってしまいますが。
そういえばここ数年で、近隣の大農家の中国人労働者が激減しました。よくある中国人観光客と違って、彼らはどうしても多少の文化の違いはあれど普通に共存できていたので、快適になったなどとは言えません。またそれはもうよく働き、日本に家まで建て骨を埋める勢いの方は帰国せず続けておられます。帰化しているかはわかりませんが。
まず第一に出入国の都合があり、次にそれをふまえ安定して就労できるかで採用判断にかなり影響するのでしょう。代わりに他のアジア系や地元民の雇用(と賃金)が増えています。人の奪い合いとなっていて平均賃金が上がっているので、経営側としては負担となり、立場的には両手離しで良い事とは言えませんが。地方のミクロな視点でも対中テーパリングしつつある、というお話。
毎度、ばかばかしいお話しを。
日本企業の平社員:「社長。中国への出張には行きたいですが、中国訪問ビザをとるのが難しいので行けません。(これで、中国本土でスパイ容疑で逮捕される危険性がなくなった)」
これって、笑い話ですよね。
零細企業の経営者・管理職からの立場でこのお話にレスしますと・・・
平社員「行けません」
上司「四の五の言わずにとっとと逝け」
中華「スパイ容疑で拘束する!」
平社員「帰れません」
上司「それ、自己責任」「出向してるのでうちに責任ありません」
コンプラ?なにそれ美味しいの?な実話です。
まあ、そんな会社辞められないそいつも悪いよね
自分の身は自分で守らないと、誰も守ってくれませんからね。
クスリ漬けにした国を「自国内での規制で締め上げる」のが中国の常套手段。
それって、”中毒(依存症)” の深さを鑑みなければ効かないんですけどね・・。
・・・・・
↓日本語が妙?
親中派:「中国は日本にとって大事(ダイジ)な国だ!」お付き合いは”けっこう”です。(肯定)
現実派:「中国は日本にとって大事(オオゴト)な国だ!」お付き合いは”けっこう”です。(否定)
・・。
河野洋平やデニーを国安法で逮捕してくれんかのぉ