印象操作?「日系企業の9割が中国事業を拡大・維持」

東洋経済は29日、中国に進出する日系企業の9割超が「拡大・維持」を志向している、などとする記事を配信しました。これだけを読むと、この期に及んで日系企業が中国ビジネスの拡大を意図しているかのような印象を抱きます。しかし、問題の調査報告の原文を読むと、じつは「中国ビジネスの拡大」と答えた企業の割合が、比較可能な2007年以来で最低となっているという点を見過ごしてはなりません。

日系企業の中国事業、9割超が「拡大・維持」

東洋経済が29日、ちょっと気になる記事を配信していました。

日系企業の中国事業、9割超が「拡大・維持」を志向、中国のビジネス環境に対する日系企業の現状認識

―――2023/06/29 14:02付 Yahoo!ニュースより【東洋経済オンライン配信】

記事によると、中国に拠点を置く日系企業8300社あまりで構成する「中国日本商会」が14日、中国のビジネス環境に関する日系企業の現状認識をまとめた『中国経済と日本企業2023年白書』を公表。

このなかで、今後の中国事業の展開について規模を「拡大」または「現状維持」すると回答した日系企業が、全体の9割超に上ったというのです。

そのうえで記事では、「具体的には事業規模を拡大するとの回答が33.4%、現状維持が60.3%だった。なお、中国事業を『縮小』または『第三国に移転ないし撤退』と回答した日系企業は6.3%にとどまった」、などとしています。

原文を冷静に読んでみたら…?

これだけを読むと、日本企業はこの期に及んで中国ビジネスの拡大を意図しているかのような印象を抱きます。

しかし、原文を読んでみると、また違った印象を持つかもしれません。

じつは、記事に言及されている『中国経済と日本企業2023年白書』自体は同団体のホームページ上で日本語版と中国語版が公表されており、誰でも閲覧可能です(※なお、ファイルが少々重いのでご注意ください。全文は『日本語版』と『中国語版』でダウンロードできます)。

少し長いのですが、同白書(日本語版、A4サイズ全195ページ)の21ページ目(印刷面でいうP41)にある、こんな記載を紹介します。

また、今後1~2年の中国での事業展開の方向性について『拡大』と回答した在中国日系企業は33.4%だった。2021年度調査の40.9%から7.5ポイントと大きく低下し、調査として比較可能な2007年度以降で最低となった」。

一方で、『縮小』は4.9%、『第三国(地域)へ移転・撤退』が1.4%と、両者を合わせた比率(6.3%)は2.5ポイントの上昇にとどまり、『現状維持』が5.1ポイント増の60.3%となっている」。

何のことはありません。

前年比で「事業拡大」が大きく低下し、2007年以降で最低になった、というものです。

  • 拡大…40.9%→33.4%
  • 維持…55.2%→60.3%
  • 縮小…*3.8%→*6.3%

しかも、中国事業の方向性を「拡大」と答えた企業の数が、比較可能な2007年以降で最低となったという重要な情報をすっ飛ばしている時点で、どうにも困ったものです。

邦人ビザ停止措置はセルフ経済制裁

これに加えてこの調査自体、今年に入ってから最近行われたものではないようなのです。

出どころは、ジェトロが中国を含む各国・地域の日本企業の現地法人を対象に実施している『海外進出日系企業実態調査』(2022年度調査)であり、「今後海外で事業拡大を図る国・地域」(※複数回答)も米国が29.6%でトップを占め、2位がベトナムで26.5%、中国は26.4%で3位だったそうです。

現時点で調査を実施したら、もしかしたらこの割合はさらに変わるかもしれません。

ちなみに白書では、中国日本商会が「中国人観光客の日本への団体ツアー解禁や、中国を訪れる日本人への15日以内の短期ビザ免除措置などの早期復活」を中国政府に対して要望しているのだそうですが、インバウンド観光がややオーバーツーリズム気味となっている状況を考えると、これも余分な要望かもしれません。

それに、以前の『中国の日本人ビザ免除停止は一種の「セルフ経済制裁」』でも指摘したとおり、中国政府が日本人ビジネスマンらに対するビザ免除措置を中断している状況は、結果的に中国自身に対する「セルフ経済制裁」であるという言い方もできます。

2つの軸で読む外交

いずれにせよ、普段から当ウェブサイトにて議論しているとおり、日本という国がどの国と深く付き合うべきかについては、基本的にはその国が「経済・安全保障などにおいて重要であるかどうか」、「日本と基本的な価値を共有しているかどうか」、という2つの軸から決定されます。

台湾のように地理的に近く、経済的関係も深いうえに日本と自由・民主主義・法治・人権尊重といった基本的価値を共有している相手国もありますが、基本的にはそうした相手国は稀です。

日本と価値を共有する国は米国、豪州、英国のように地理的に離れていることが多く、地理的に近い中国、ロシア、北朝鮮などの「4大無法国家」は日本と基本的価値を共有していません。

日本企業としては、現在は中国に在中工場などを「人質」に取られてしまっているようなものではありますが、昨今の経済安全保障強化などの流れを踏まえるならば、やはり日中関係は「テーパリング」が原則とならざるを得ないのかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    会社の先輩で今はリタイヤしている?人物と FB でとりどきチャットしています。
    ご子息が社命で中国駐在となり、生きて帰って来れないのではないかと心を痛めておられる。コロナ勃発を聞いていよいろ恐ろしくなった。しかし会社をすぐ辞めないかぎりは息子は戻って来れないとも。製造装置メンテナンス?の任務らしいのですが。
    パパの心配を解くため注意喚起を兼ねて目に留まる中国最新情報を URL 回送してあげてます。VPN でこっそり連絡を取り合うのは却って監視ターゲットになるから止めろと忠告しておきました。

    1. 匿名 より:

      いつも思うのだが、サラリーマンは社命で、嫌な仕事、やばい仕事、嫌な転勤、等々、意に沿わない命令を受けた時は、いつでもそれを拒否出来たり会社を辞めたり出来る、能力やキャラクターを、身につける努力をし続けるべきだと思っている。
      いつでも自由な所へ行けるように。
      出来れば,人脈も作って置いた方が楽は出来るが、基本的に人脈は副次的なもの。
      日本のサラリーマンは、自らの能力と人間力と仕事に於ける魅力的なキャラクター作りに精進せずに、社命第一だと思っている。会社とは、自分が利用されるものではなく、自分が利用するものだという事が分かっていない。
      一度立ち止まって、僅かな給料を貰う為に、自分の命を危険に晒す必要があるかどうか考えてみれば、結論は簡単に出ると思うが。

  2. 雪だんご より:

    この東洋経済の記事は「嘘は言ってないよ嘘は!ちゃんと数字だって出してるじゃん!
    勝手に誤解してもそれは読者が悪いんだよ!」と言わんばかりの記事ですね。

    とはいえ、これくらいなら言論・思想・報道の自由の”コスト”として
    許容すべきなのだろうか……?

  3. kurisyu より:

    いつぞやの「改憲の機運なし」タイトル然り、ニュース記事や動画のタイトルに印象操作がしばしば見られますね。そしてコメントで突っ込んだら「日本語読解力がない奴」というコメント返しが付くという。

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