【資料公開】今年9月時点における中華スワップ一覧表
2023年9月末時点で中国が外国の中央銀行や通貨当局と締結している通貨スワップ・為替スワップは、29件、金額が4兆元(5487億ドル)を超えている、などとするレポートが出てきました。中国人民銀行による『2023年版人民幣国際化報告』がそれです。同レポートをもとに中国のスワップの残高を集計しても、レポートとは微妙に一致しませんが、それでも本稿ではいちおう公式発表をベースにした人民元スワップ残高を公表しておきます。
実態がよくわからない中華スワップ
中国人民銀行が外国の中央銀行や通貨当局と締結している通貨スワップや為替スワップの全容については、いまひとつ、よくわかりません。
当ウェブサイトではこれまで、中国人民銀行や各国中央銀行などの発表をもとに、中国のスワップの実態がどうなっているのかを調べてきたのですが、発表内容相互間に矛盾があったり、同じレポートの内部でも不整合があったりするなどの理由もあり、その正確な実態は掴めていないというのが実情です。
有効なスワップは29件・4兆元
ただし、本稿ではいくつかの仮定を置いたうえで、人民元建てスワップの実情を集計してみたいと思います。
本稿で使用するのは、中国人民銀行がほぼ毎年公表している『人民幣国際化報告』と題したレポートの2023年版です(PDFファイルでページ数は84ページ)。
2023年人民币国际化报告
―――2023-10-28 13:27付 中国人民銀行ウェブサイトより
このレポートの25ページ目には、こんな記述が出てきます。
「中国人民银行共与40个国家和地区的中央银行或货币当局签署过双边本币互换协议,目前有效协议为29份,互换规模超过4万亿元人民币」。
意訳すると、こんな具合でしょうか。
「中国人民銀行は40ヵ国・地域の中央銀行や通貨当局と二国間ローカル通貨スワップ協定を締結しており、現在有効な協定は29件で、スワップ規模は4兆元を超えている」。
ただ、残念ながら、同レポートには現在有効なスワップの一覧表のようなものはついていません。
そこで、「通貨スワップ」や「為替スワップ」を意味すると考えられる「本币互换」という表現を手掛かりに、2018年10月から2023年9月末までに締結されたものについて、スワップ協定締結日と相手国、金額などの条件を集計し、重複を除外したうえで金額順に並べ替えてみました。
スワップの集計表
それが、図表1です。
図表 中国が外国と締結しているスワップ(2023年9月末時点)
(【出所】『2023人民幣国際化報告』より集計。対象期間は2018年10月1日から23年9月30日までに締結されたもの。なお、同期間内に重複してスワップが締結されている場合は、新しい方を記載。以下同じ)
この条件だと、スワップの件数はちょうど29件となり、レポートの件数と一致しますが、金額については3兆9385億元と、「4兆元を超えている」とする同報告の記述とは微妙に一致しません。
また、一般にスワップの存続期間は3年から5年であるため、図表1に掲載したスワップのうち、たとえばウクライナとのスワップなどについては現時点において失効している可能性もありますが、情報開示が不十分である以上、これ以上深く調べることは難しそうです。
為替スワップと通貨スワップに分けてみた
さて、先進国の場合だと、一般に、通貨スワップと為替スワップは別物です。
通貨スワップ(Bilateral Currency Swap Agreement)は通貨当局が直接、相手国の通貨当局から外貨を入手する協定ですが、為替スワップ(Foreign Exchange Swap Agreement)は通貨当局が相手国の市中金融機関に対し、直接、外国為替を供給するための協定を指します。
中国語の「本币互换」は、どうやらこの両方の意味合いで用いられているようなのですが、相手国(たとえば日本など)では、通貨融通を目的とした通貨スワップと、流動性供給を目的とした為替スワップについては、明確に分けて定義されています。
このため、図表1について、明らかに為替スワップと判明するものを抜き出し(図表2)、それ以外のもの(通貨スワップの可能性が高い取引)を別途集計してみました(図表3)。
図表2 中国のスワップのうち為替スワップとみられる協定
図表3 中国のスワップのうち通貨スワップの可能性が高い協定
すると、為替スワップが2兆元を超える一方で、通貨スワップについては2兆元弱、という結果になりました。
正直、シンガポールとのスワップのように、通貨スワップなのか、為替スワップなのか、やや判断に迷うものもありますが(実際、シンガポールは日本とは通貨スワップ、為替スワップの両方を締結しています)、いちおう、ここでは為替スワップに分類しています。
中国のスワップは、中国人民銀行当局は「4兆元を超えた」、などと華々しく発表していますが、その実態は(人民元流動性供給などを目的とした)先進国向けの為替スワップと、新興市場諸国・発展途上国等を対象とした救済目的の通貨スワップが混在していると考えて良いでしょう。
中華金融の正体は与信能力の欠如
もちろん、中華金融を侮ってはならないことは間違いありませんが、ただ、国際的な金融市場において、4兆元の米ドル換算額は5000~6000億ドル程度であり、このくらいの金額をもって、残念ながら「金融大国」とまではいえません。
なお、以前の『岐路に立つ一帯一路:リスクの取り方を間違う中華金融』などでも指摘しましたが、中国の金融の問題点とは、リスク・リターンの評価が不適切なままで、債務償還能力のない新興市場諸国におカネを貸してしまうことにあります。
よく、世の中では「中国が債務の罠をしかけ、新興市場諸国をカネの力で支配下に置いてしまおうとしている」、などと指摘されることもあります。
この懸念はその通りなのですが、物事はそこまで単純ではありません。逆に、カネの世界では、「借りた側」が強くなることもあるからです。
ちなみに先ほどの『2023年版人民幣国際化報告』25ページには、こんな趣旨の記述も出てきます。
「2023年9月末時点で海外通貨当局が実際に利用した人民元残高は1171億元。中国人民銀行は2023年9月末時点で34億3000万元相当の外貨スワップファンド残高を実際に利用していた」。
おそらく、「9月末時点で相手国から引き出されている残高は1171億元(≒161億ドル)、中国側が引き出した金額は34.3億元(≒5億ドル)」、といった意味合いだと思いますが、報道等によれば、トルコやアルゼンチンあたりが人民元スワップを積極的に引き出しているようでもあります。
他人事ながら、本当に大丈夫なのか、という気がしないでもありませんが、基本的にはこれも「他人事」ということで良いのかもしれません。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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中国人民銀行とサウジ中央銀行との通貨スワップをどう見ますか。
>https://www.afpbb.com/articles/-/3492377
韓国との通貨スワップは中国当局から、韓国に聞け!成否をさけられたんじゃないのか?て、中国とさえ500億ドル。しかも元建て。つまりストレートで両替するわけじゃない。中国は甘くない。借りたら最後、身ぐるみ剥がされる。スリランカをみろ。借財で港を99年とられてしまった。
>トルコやアルゼンチンあたりが人民元スワップを積極的に引き出しているようでもあります。
バックに追い込みをかければ、回収できそうですが、無い袖は振れない・・
まあ外貨準備高が世界一ですから、たぶん大丈夫でしょう
貸した人間はいつまでも覚えていますが、借りた人間は記憶からすっぽり忘れてしまう
貸したカネが返ってこない、借用書作ればよかったなあ・・・。
友人だと思ってたのは、オレだけだったのね。
もう消滅時効ですが。
『図表3 中国のスワップのうち通貨スワップの可能性が高い協定』の表中、南アフリカとのスワップの額が、中国300億元(41億ドル相当)に対して、南アフリカ680億ランド(895億ドル相当)となっているのは間違いでは?
現在の対円のランド相場は1ランド約8円のようですから、ドル換算すれば36億ドル程度になると思います。
伊江太 様
ご指摘のとおりです。後で修正します
引き続き当ウェブサイトをお引き立て賜りますよう何卒宜しくお願い申し上げます
>中国の金融の問題点とは、リスク・リターンの評価が不適切なままで、債務償還能力のない新興市場諸国におカネを貸してしまうことにあります。
かつては日本からのODAを受けつつ新興国にODAを発していた中国。
他人のふんどしで相撲を取ったりせずに、自前の原資でなければ、身につかぬノウハウもあると云うものなのかと。