ロシア制裁参加国は48ヵ国だが金融面の影響力は絶大

ロシア制裁に参加している国はたった48ヵ国に過ぎませんが、この48ヵ国を「通貨」という観点から見ると、その支配力は90%を優に超えていることがわかります。とくに世界の外貨準備の構成通貨、オフショア債券市場の通貨別市場規模、国際送金シェアなどの「数字」で見ると、これら「たった48ヵ国」の国々が持つ力が絶大です。少なくとも国際的な送金市場などにおいて、ロシアが除外された措置は、ロシア経済を着実に苦しめます。

ロシア制裁参加国は「たった48ヵ国」

英国防衛省による「ロシアが外債で戦費調達」指摘

昨日の『ロシアが戦費調達で外債発行なら当該国に二次的制裁も』では、英国防衛省の「インテリジェンス・アップデート」というツイートをもとに、どうやらロシアが「友好国」に引き受けさせるかたちで、外貨建のソブリン債の発行を目論んでいるらしい、という話題を取り上げました。

国内の資金不足を受け、戦費を調達する必要があるからです。

ロシアがいう「友好国」とは、基本的に「ロシアに対し、経済制裁をしていない国」のことでしょう。

少し古い情報ですが、経済産業省が刊行する『通商白書2022』のウェブ版によると、昨年3月24日時点において、ロシアが「非友好国」に指定している相手国は、英国・スイス・ノルウェーなどを含めた欧州諸国に加え、北米(米国・カナダ)、豪州、ニュージーランド、日本、韓国、台湾、シンガポールなどです。

世界にはロシア制裁に参加していない国の方が多い

しかし、これを地図に表してみると、図表1のとおり、むしろ対露制裁に参加している国の方が少ないのが実情であり、「全世界が一致団結してロシアによるウクライナ侵略に抗議している」、という図式は正しくないことがわかるでしょう。

図表1 対ロシア制裁への参加状況(2022年3月24日時点)

(【出所】『通商白書2022』ウェブ版『第Ⅰ-1-1-1図 各国のロシアへの対応』)

ちなみに昨年の『ロシア「非友好国リスト」は金融制裁が効いている証拠』でもなどでも触れたとおり、「非友好国」リストは全部で48ヵ国です(EU加盟国は27ヵ国であるため)。

ロシアが指定した「非友好国」リスト

米国、カナダ、欧州連合(EU)加盟国、英国、ウクライナ、モンテネグロ、スイス、アルバニア、アンドラ、アイスランド、リヒテンシュタイン、モナコ、ノルウェー、サンマリノ、北マケドニア、日本、韓国、豪州、ミクロネシア、ニュージーランド、台湾、シンガポール

(【出所】タス通信英語版・2022年3月7日付 “Russian government approves list of unfriendly countries and territories” など)

逆に言えば、G20諸国でも、たとえば世界第2位の経済大国である中国、同じく第5位の経済大国であるインドを含め、多くの国々が対ロシア制裁には参加していません。

対ロシア制裁に参加していない国としては、ほかにも「BRICS」と称される諸国のうち中国、インド以外のブラジルや南アフリカもそうですし、アジア諸国にしたって、シンガポール以外のASEAN諸国も参加していません。G20諸国ではサウジアラビアやトルコも参加していません。

ということは、G20のなかで、先進国9ヵ国・地域(G7とEUと豪州)に関してはすべて対ロシア参加していますが、発展途上国11ヵ国のなかで対露制裁に参加しているのは韓国のみであり、韓国以外の発展途上国はすべてロシア制裁には参加していません。

G20構成国
  • 先進国(G7=日米英独仏伊加の7ヵ国、欧州連合(EU)、豪州)
  • BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)
  • BRICS以外の途上国(サウジアラビア、トルコ、アルゼンチン、メキシコ、韓国、インドネシア)

(分類は著者による)

したがって、対ロシア制裁には「実効性がなにもない」、あるいは「主要国がロシア制裁に加わっていない以上、対ロシア制裁には実効性はない」、などと考える人がいても不思議ではないでしょう。

ただし通貨支配力は絶大

世界の外貨準備の少なくとも93.86%が「非友好国通貨」

もっとも、「世界で対ロシア制裁に参加している国がたった48ヵ国だ」、というのは事実かもしれませんが、だからといって「ロシア制裁に実効性はない」と決めつけるのは、端的にいえば、非常に不勉強であり、極めて甘い認識です。

金融の世界では、じつは対ロシア制裁に参加している国(とくに米国、ユーロ圏、日本、英国など)の通貨は、世界の外貨準備高、オフショア債券発行残高、国際送金などの点において9割を大きく上回るシェアを占めているからです。

たとえば水曜日の『世界の外貨準備統計で人民元建ての資産は増えていない』では、国際通貨基金(IMF)が公表する「COFER」(正式名称は “Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves” )という統計データを基にした分析を紹介しました。

これによると世界の外貨準備高は11兆9629億ドルで、その内訳を示したものが次の図表2です。

図表2 世界の外貨準備の通貨別構成(2022年12月末時点)
通貨金額割合
内訳判明分11兆0890億ドル100%
 うち米ドル6兆4713億ドル58.36%
 うちユーロ2兆2704億ドル20.47%
 うち日本円6109億ドル5.51%
 うち英ポンド5487億ドル4.95%
 うち人民元2984億ドル2.69%
 うち加ドル2637億ドル2.38%
 うち豪ドル2175億ドル1.96%
 うちスイスフラン253億ドル0.23%
 うちその他通貨3828億ドル3.45%
内訳不明分8739億ドル
合計11兆9629億ドル

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves をもとに著者作成)

この図表自体、少々読み辛いのですが、通貨別の内訳が判明しているのは11兆0890億ドルであり、各通貨のシェアは、あくまでもこの「内訳が判明している部分」に対する割合ですので、ご注意ください。

ただ、「内訳判明分」のうち、米ドル、ユーロ、日本円など、少なくとも明らかにロシアにとっての「非友好国」の通貨とわかる割合を集計してみると93.86%ですし、「その他通貨」3.45%についてもおそらく、北欧通貨やシンガポール・ドルなどが含まれている可能性が高そうです。

したがって、世界の外貨準備に占める通貨のうち、「ロシアにとっての非友好国の通貨」の割合は、おそらく95~97%程度には達するのでしょう。

ちなみに外貨準備に組み込まれる通貨というのは、それだけ流動性も信頼性が高い通貨です(人民元に関しては怪しいところですが)。そして、このなかにロシアにとっての友好国の通貨は、おそらく最大でも5%程度、下手をするとそれ以下であると考えておいて良いでしょう。

オフショア債券の97.4%以上が非友好国通貨

「ロシアにとっての友好国」の通貨の弱さを示す指標は、ほかにいくつもあります。

たとえば、『G20に「相応しくない」アルゼンチン、韓国、インド』などでも取り上げたとおり、世界の「オフショア債券市場」を眺めてみると、やはりオフショア債券市場では先進国通貨が圧倒的な強みを持っていることがわかります。

図表3は、通貨別にオフショア債券発行残高とシェアを並べたものですが、上位10位に関しては、7位に人民元、9位に香港ドルが入っている以外は、いずれもロシアにとっての「非友好国」の通貨ばかりです。

図表3 オフショア債券発行額とシェアのランキング(2022年12月末時点)
通貨金額とシェアシェア
1位:米ドル13兆1065億ドル47.83%
2位:ユーロ10兆4912億ドル38.29%
3位:英ポンド2兆0334億ドル7.42%
4位:日本円3587億ドル1.31%
5位:豪ドル2546億ドル0.93%
6位:スイスフラン1948億ドル0.71%
7位:人民元1733億ドル0.63%
8位:加ドル1369億ドル0.50%
9位:香港ドル1144億ドル0.42%
10位:スウェーデンクローナ1139億ドル0.42%
その他4249億ドル1.55%
合計27兆4025億ドル100.00%

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Debt securities statistics データを参考に著者作成)

ちなみにこちらの図表3では、1位から10位までのうち、人民元と香港ドルを除く8通貨のシェアを合計すると、97.40%にも達しています。ロシアにとっての「友好国」の通貨が占める割合は最大でも2.6%、ということです(厳密に集計すると、ロシアにとっての「友好国通貨」が占める割合は2%にも満たないものです)。

つまり、ロシアが「「友好国」で債券を発行しようと思っても、世界シェアのわずか2%以下の市場で無理やり発行せざるを得ないのですが、世界シェアの2%ということは、金額にして2700億ドル程度に過ぎず、たとえばロシアが1000億ドル程度のオフショア債券を発行したら、マーケットはぶっ壊れてしまいます。

図表3でもわかるとおり、たとえば「ロシアにとっての友好国通貨」のなかで、債券市場の規模が最も大きい人民元も、市場規模はせいぜい1733億ドル程度に過ぎません。そんな小さい市場で、ロシアが戦費を調達するだけの債券を発行するのは至難の業でしょう。

非友好国の国際送金シェアに占める割合は93.45%以上!

こうしたなか、「友好国通貨の実力」という視点では、もうひとつ、大変に興味深い統計があります。

それが、SWIFTが毎月のように公表している、『RMBトラッカー』と呼ばれるレポートに含まれる、通貨別の国際送金シェアとランキングです。

これに関し、著者自身は同レポートの存在に早くから気付いており、また、2012年1月分から2023年2月分までの全86回分のランキング表をすべてエクセルに手入力し、データベース化しています。

(※ただし、データにはなぜか欠落があるほか、毎月のランキングは上位20位までしか公表されておらず、したがって、20位付近の通貨に関しては、データがあったりなかったりするなど、正確性と網羅性には若干の問題はあります。)

いずれいんせよ、これについて過去すべてのデータを集め、平均シェアと登場回数を一覧にしてみると、図表4のとおりです。

図表4-1 国際送金通貨シェアランキング(登場回数と平均シェア、ユーロ圏込みのデータ)

図表4-2 国際送金通貨シェアランキング(登場回数と平均シェア、ユーロ圏除外データ)

(【出所】『RMBトラッカー』をもとに著者作成)

これによると、ロシアにとっての「非友好国」の通貨のシェアはユーロ圏込みの場合では93.45%、ユーロ圏除外の場合では95.91%にも達します。ということは、「友好国通貨」のシェアは、最大でもユーロ圏込みの場合で6%以下、ユーロ圏除外の場合では4%以下に過ぎません。

世界の通貨の9割超を支配する「非友好国」

このように考えていくと、「通貨」という面では、間違いなく、ロシアに対する包囲網は強まっているといえそうです。

ロシアにとっての「非友好国」通貨の実情
  • 世界の外貨準備に占めるシェア…最低でも93.86%
  • オフショア債券市場に占めるシェア…最低でも97.40%
  • 国際送金市場に占めるシェア…最低でも93.45%

(【出所】図表2、図表3、図表4)

以上より、ロシア制裁に参加している国はたった48ヵ国に過ぎませんが、この48ヵ国を「通貨」という観点から見ると、その支配力は、決済、資金運用などの世界において、いずれも90%を優に超えていることがわかります。圧倒的な支配力です。

もしロシアが中国、インド、ブラジル、インドネシア、トルコなどの「友好国」の通貨で債券を発行したところで、ロシアにとって役立つとも限りません。それらの通貨の使い勝手は非常に悪いからです。

いずれにせよ、少なくとも国際的な送金市場などにおいて、ロシアが除外された措置は、ロシア経済を着実に苦しめますし、その意味においては「とても価値のある48ヵ国」、という言い方をしても良いでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. sqsq より:

    太平洋戦争、日本は3年8か月持ちこたえた。
    しかも開戦時にアメリカにあった金融資産や金は差し押さえられた。
    戦争遂行にカネがあることは重要だと思うがカネがなくても何とかなっているのでは?
    北朝鮮がよい例だ。
    カネを惜しんで戦争に負ければすべてを奪われることを忘れずに。

  2. めがねのおやじ より:

    アレ〜?朝5時の「汚染水の件で韓国野党議員が来日」という会計士さんの文を読み、コメントしました。が削除されてる(^^)?公序良俗に反する事、人格攻撃等に関するコメントはしてないつもりでしたが、気を取り直して再送します。

    要は日韓議連会長が菅義偉総理で良かったと言うこと。
    韓国野党議員らがアポも取らず、東京電力に押しかけたが無駄だった事。菅義偉会長も合わない、来ないで欲しいと伝えたこと。
    いずれも真っ当なやり方です。韓国政治家は、日韓関係を潰すつもりなんでしょう。まずは自国の原発汚染垂れ流しを改めなさい!

    1. めがねのおやじ より:

      失礼します。
      このコメントは5時の汚染水に投稿したものです。ダブってすみません。

  3. めがねのおやじ より:

    ロシア制裁参加国は、たった48ヵ国。でも北朝鮮が戦費調達に賛同する、と言っても露国は困るだろうなぁ(笑)。インド、中国、ブラジル、メキシコ、シンガポール、、、こんなメンバーだけなら怖くない。非友好国の国際送金シェアは93.45%以上!ですか。早くスッテンテンになれ!

    1. そばっしゅ より:

      シンガポール「」

  4. 匿名 より:

    RUB/USDも下がってますね。
    財政難とも聞きます。

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