スリランカ支援のバングラデシュにスワップ要請殺到か
弱小通貨国同士の通貨スワップは「融通手形」のようなものだ、とする仮説に関連し、スリランカのメディアに興味深い報道がありました。バングラデシュがスリランカに2億ドル分を通貨スワップで支援したところ、バングラデシュに対して同様に外貨不足に悩む国からの支援要請が殺到したというのです。
目次
通貨スワップを通じたアジア諸国との関わり
国際金融協力の世界でいう「通貨スワップ」の多くは、2ヵ国の通貨当局同士が緊急時に備え、お互いに通貨を融通し合うことを約束するという取引のことを指します。これについては典型的には日本が外国と締結しているスワップがわかりやすいでしょう。
財務省の『アジア諸国との二国間通貨スワップ取極』【PDF】という資料によると、日本はASEAN加盟5ヵ国に加え、インドとの間で通貨スワップ協定を締結しており、これら6ヵ国とのスワップに基づく日本から相手国への提供額の総額は1187.6億ドルに達します。
また、マレーシアとインドの2ヵ国については日本から提供する通貨は米ドルですが、それ以外の4ヵ国については、相手国が希望すれば米ドル、日本円のいずれでも提供が可能であるとされています。米ドルは世界の基軸通貨ですが、日本円も米ドルには劣るにせよ、国際的に広く通用する通貨です。
相手国にとってみれば、日本円であろうが、米ドルであろうが、自国が通貨危機に陥りそうになったときに、国際的に広く通用する通貨を日本から提供してもらえるというのは非常にありがたい話です(※ただし実際のスワップ引出しに当たってはIMF介入条項などの細かい制限もあります)。
言い換えれば、これらのスワップは相手国から見て、「いざというときに日本が支援してくれる」という安心材料にもなっているのです(※なお、CMIスワップ締結後、東南アジア諸国連合などにはまだ大規模な通貨危機が生じていないため、その威力が発揮されるかどうかは微妙ですが…)。
日本の通貨ポジションは世界最強クラス
その日本は、9月や10月の為替介入で外貨準備を売却しているにせよ、依然として世界で2番目に巨額な外貨準備(図表)を抱え、自国通貨も国際的に通用するハード・カレンシーである、という特徴を有しています。
図表 世界の外貨準備高ランキング(2022年9月末時点)
ランク | 国 | 外貨準備合計 |
---|---|---|
1位 | 中国 | 3兆1936億ドル |
2位 | 日本 | 1兆2381億ドル |
3位 | スイス | 8921億ドル |
4位 | ロシア | 5407億ドル |
5位 | インド | 5327億ドル |
6位 | サウジアラビア(※) | 4574億ドル |
7位 | 香港 | 4192億ドル |
8位 | 韓国 | 4168億ドル |
9位 | ブラジル | 3276億ドル |
10位 | シンガポール | 2861億ドル |
(【出所】 International Monetary Fund, “International Reserves and Foreign Currency Liquidity” より著者作成。なお、サウジアラビアのデータは2022年8月時点のもの)
もっとも、日本が通貨スワップを提供している相手国の外貨準備高は、フィリピンが930億ドル、インドネシアが1308億ドル、タイが1994億ドル、マレーシアが1061億ドル、シンガポールが2861億ドルで、国により多寡はありますが、正直、日本とのスワップがなくても大丈夫な国も増えてきたように思えます。
いずれにせよ、日本は東南アジア諸国やインドに対し、スワップを通じて密接な金融協力を行っているのです。
(※なお、中国との上限3.4兆円の為替スワップなどは「通貨スワップ」ではないため、上記議論には含めていません。)
余談ですが、日本やスイス、ドイツ以外の先進国は、基本的にはさほど多くの外貨準備を保有していませんが、その理由は簡単で、国際的なハード・カレンシー国の場合、一般的にはわざわざ巨額の外貨準備を保有する必要はないからです。
余談ですが、本来、日本も1兆ドル前後という巨額の外貨準備を保有しておく必要などありませんし、外国との通貨スワップもすべて日本円建てに切り替えるべきではないか、というのが個人的な持論でもあります。
トルコとマレーシアの「融通手形型スワップ」
さて、日本が外国に提供している通貨スワップは、日本が外国にスワップとして提供できるほど多額のドル資金を抱えており、これに加えて自国通貨の日本円自体も国際的に通用する通貨である、という事実に支えられている、というわけです。
しかし、こうした条件を満たしていない国同士が下手に通貨スワップを相互に提供すると、厄介なことになりかねません。
以前の『融通手形?トルコとマレーシアの通貨スワップの危険性』などでも指摘したとおり、通貨ポジションが弱い国同士のスワップは、通貨危機を世界中に拡散しかねないという意味で、大変に危険性が高いものでもあります。
ここで「通貨ポジションが弱い国」とは、基本的に、自国通貨がソフト・カレンシー(国際的に通用するとは言い難い通貨)であって、外貨準備が十分ではない国のことを指します(逆にいえば通貨ポジションが強い国とは自国通貨がハード・カレンシーであるか、外貨準備が十分である国のことを指します)。
バングラデシュがスリランカに2億ドルを提供したところ…
こうしたなか、情報の真偽はさておき、もうひとつ、興味深い事例も出てきたようです。
Bangladesh PM reveals what happened after helping Sri Lanka with USD 200m
―――2022/11/28 11:20付 NewsWireより
スリランカのメディア『ニューズワイヤー』は、バングラデシュのメディアの報道を引用するかたちで、バングラデシュのシェイク・ハシナ首相は日曜日、同国がスリランカに対して通貨スワップに基づき2億ドルを支援したところ、ほかの多くの国からバングラデシュに財政支援の要請が殺到していると明らかにしたそうです。
ニューズワイヤ―によれば、この2億ドルは2021年8月3日に両国の中央銀行が締結した通貨スワップ協定に基づいて提供されたもので、貸出金としてはバングラデシュが初めて外国に対して実行したものだと伝えています。
ただし、ハシナ首相はこれについて、「世界中の多くの国が外貨準備の危機に瀕している」としつつも、バングラデシュとしてはこれらの国に対し支援を行う財政的な余力はないとして断った、などと記載されています。
ちなみにスリランカと通貨スワップといえば、『スリランカからの通貨スワップ発動要請を拒否した中国』でも触れたとおり、中国とのスワップを引き出そうとしたところ、中国側が「輸入3ヵ月分をカバーするだけの外貨準備がなければスワップ発動に応じない」として、スリランカ側のスワップ要請を拒絶したという出来事もありました。
公称で3兆ドルを超える外貨準備を持っていて、自国通貨の国際化を進めているという触れ込みであるにも関わらず、中国はいざとなったら支援を行わない国だ、というのも興味深いところですね。
米利上げ局面では日本の友人に対する支援が重要
いずれにせよ、米FRBによる利上げについては、そのペースは鈍るかもしれないにせよ、まだ続きそうです。
そして、米国が利上げをする局面では、たいていの場合、通貨ポジションが弱い国(現在だとさしずめトルコやアルゼンチン、その他約1国)を中心に通貨危機のリスクが高まります。
このあたり、日本によるスワップを通じた支援は、おおむね相手国から歓迎されていると聞きますが、なかにはそうでない事例もあります。かつてスワップによる支援の増額を行ったところ、「日本の支援は遅いし外貨を出し惜しみしている」、「日本はふがいない」などと舌鋒鋭く批判されたという事例もあるからです。
そして、「支援が遅い」、「外貨を出し惜しみしている」、「ふがいない」などと批判されるくらいですから、実際に日本の支援は役に立っていなかったに違いありません。
このように考えていくならば、どうせ支援するならば、日本の支援を必要としている友人にこそ、支援の手を差し伸べるのが正解ではないかと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
毎度、ばかばかしいお話しを。
広辞苑:「通貨スワップとは、費用効果を考えて、自国が利益になる時に、相手国に対して、例え無理をしてでも実施するものであり、その意味では、この定義に反する日本が行った通貨スワップは、未だに研究対象になっている」
この話は、2022年11月29日時点では、笑い話である。
すみません。追加の笑い話です。
韓国:「バングラデシュでさえスリランカを支援しているのに、どうして岸田総理は韓国を経済支援しないのだ」
これって、笑い話ですよね。
ありそうで笑いが引き攣ります。
バングラデシュがその他約1国に集られないか心配しましたが、国旗が魔除けになって大丈夫かな。集中線が無いとダメカナ?
バングラデシュの国旗を思わずググってみました。r=2 に萌えます。
久しぶりにお邪魔します。
世の中にはありがた迷惑という言葉もあるので「借りてやってもいい」ところに迷惑かけるわけにはいきませんね。
日本人の美徳に反します。
>余談ですが、本来、日本も1兆ドル前後という巨額の外貨準備を保有しておく必要などありませんし、外国との通貨スワップもすべて日本円建てに切り替えるべきではないか、というのが個人的な持論
ところでブログ主様の上記を読んでハッとしたのですが、日本政府は日本国民が金融資産を現金・貯金で貯め込んで運用しないので、NISAなどで市場に流し込もうと笛を吹いています。
それなのに政府自体は巨額の外貨準備という名の外貨預金を貯め込んでいる矛盾があるのではないか、と。
主力となる米国債からの利息が特別会計とやらのヘソクリになるまで貯め込み続けていれば取り崩すのは心理的抵抗が強いのでしょう。
ですが少し前に円高時に購入した米国債を売って為替差益を出したのですから、やって出来ないものではない。
増税必須の赤字財政のくせに巨額の外貨準備を保持している巨大な謎があるけど、あるものを上手く運用出来ないのは庶民だけじゃなく政府も同様ではないのか、と思いましたね。
集めることと使うこと、だけでなく運用できることも日本の財政を管理する組織(財務省である必要は無いです)に求められる未来が来てもおかしくないと考えます。
長文お目汚ししました。
では、失礼いたします。
脆弱通貨国同士のスワップの悲哀は
国際社会の現実ですが
スリランカの場合は、
中国に騙されてスッカラカンになってしまって
可哀そうではあります。
一方、同じ脆弱通貨国でも
金融危機絶賛突入中の韓国さんの場合には
背景が異なります。
家計でも、サラ金しこたま借り入れて
返せなくなったら、見栄を張って買った
ベンツやROLEXをまず売って返すものです。
サムスン・フンダイなどの
海外投資や工場をまずは売り払うべきでしょう。
それを売らずに米国や日本に「スワップニダ」と
居上高にせびって来ている厚かましさには
構ってあげる必要などありません。
これは、闇所得や財産隠しての生ポ受給狙って
デマのようなデモに参加する
赤いお旗の人達に多いと言われる人たちとも
オーバーラップするような、
モラルハザードなありようと感じます。
ブログ主様の
「日本も1兆ドル前後という巨額の外貨準備を保有しておく必要などありませんし、
外国との通貨スワップもすべて日本円建てに切り替えるべきではないか」
というご提案は頭の中で考える事は可能ですが
実際問題、米国の許可無しでは実行できません。
これは、日本が米国の金利高に応じて金利を自由に上げられない
理由と同じです。
遥か昔、日本の財務大臣だったかな? 同じような事を言って
クビになりましたよね?
なので、外貨準備高は増える事はあっても
減る事は無いでしょう。
(米国債を買わなくちゃならないのです)
日本に友人はおりません。
あるのは国として「利益又は不利益がある」だけです。
友人なんかとか言い出したら、友人が困ったように
見えたら、黙ってお金を貸すのではなく
与えるものだという国がますます増えてしまいます。
よくわからないのですが、日本が早々勝手にアメリカ国債を売却できないという話と、通貨スワップを日本円建てで設定することにどのような関係があるのでしょう?
膨大な量のアメリカ国債を保有する日本がいきなり大量に市場に放出したらアメリカ国債が暴落してエライコッチャであるというのはわかりますし、アメリカ政府から其れだけはやってくれるなと言われるというのもわかるのですが、そのことと金利設定が自由にできないこととか、通貨スワップを日本円建てにできないということとのつながりがよくわかりません。ちょっとご説明願えますか?