ロシアの外貨準備高は間もなく枯渇か=IMFデータ

国際通貨基金(IMF)のデータ上、ロシアの外貨準備が(公式ベースでは)900億ドル減ったことがわかりました。ただ、ロシアの違うデータに基づけば、2022年1月末時点のロシアの外貨準備については、すでに4000億ドル弱が凍結済みであり、ロシアが自由に使える部分は2000億ドル少々だったはずで、しかもこのうち1000億ドル少々は金地金という使い勝手が悪い資産です。もしかすると、ロシアは案外早く、外貨準備が枯渇しきってしまうのかもしれません。

IMFのIRFCLで見る各国の外貨準備

以前から当ウェブサイトで力を入れて追いかけているテーマのひとつが、各国の外貨準備高です。

国際通貨基金(IMF)のウェブサイトには『IRFCL』というデータベースが用意されています。データベースの英語の正式名称は ” International Reserves and Foreign Currency Liquidity” であり、これで世界の主要国の外貨準備に関する状況を確認することができます。

ただし、このデータベースはダウンロードするまでにIMFへのユーザー登録(※無料)が必要であるほか、ダウンロードしたデータも使い勝手が良いとはいえないため、データを加工するにはちょっとしたテクニックが必要です(もしこれについて知りたいという方が多いようであれば、例のエクタツにて取り上げたいと思います)。

これについて著者自身は国名を入れればすぐにその国の過去データを抽出できるようにしているほか、年月を入れればランキング表が取得できるように関数を組み込んでおり、先ほどの『スリランカ支援のバングラデシュにスワップ要請殺到か』でも取り上げた図表(図表1)も、こうした関数の成果です。

図表1 世界の外貨準備高ランキング(2022年9月末時点)
ランク外貨準備合計
1位中国3兆1936億ドル
2位日本1兆2381億ドル
3位スイス8921億ドル
4位ロシア5407億ドル
5位インド5327億ドル
6位サウジアラビア(※)4574億ドル
7位香港4192億ドル
8位韓国4168億ドル
9位ブラジル3276億ドル
10位シンガポール2861億ドル

(【出所】 International Monetary Fund, “International Reserves and Foreign Currency Liquidity” より著者作成。なお、サウジアラビアのデータは2022年8月時点のもの)

ロシアの外貨準備高、なぜか「内訳」がない!

さて、こうしたなかで、上位10ヵ国に関するデータを眺めていると、1ヵ国、非常に不可解なデータを発見しました。

ロシアです(図表2)。

図表2 ロシアの外貨準備高の推移

(【出所】 International Monetary Fund, “International Reserves and Foreign Currency Liquidity” より著者作成)

2004年12月以前の外貨準備高がゼロと表示されている理由は、これ以前のデータがIRFCLに収録されていないからです。

それはともかくとして、ロシアの外貨準備高は、2022年1月までを最後に、その内訳(証券、預金、金地金など)のデータが消えてしまいました。データ上、特別引出権(SDR)やIMFリザーブ・ポジションについては残高が確認できるのですが、それ以外の明細データは存在しないのです。

ロシアの外貨準備のうち4000億ドル弱が凍結済み?

これは、なかなかに面白い現象です。

ロシアの外貨準備高といえば、『開戦準備の証拠?ロシア外貨準備でドルが急減していた』などでも指摘したとおり、2022年1月時点において、1年前と比べて米ドル建ての資産の比率を急激に落としていたことが確認されています。

これについて図表を整えたうえで数値を再掲しておくと、図表3のとおりです。

図表3 2022年1月時点のロシアの外貨準備の通貨別内訳(想像図)
通貨別構成金額全体の割合
ユーロ2085億ドル33.90%
米ドル671億ドル10.90%
英ポンド381億ドル6.20%
日本円363億ドル5.90%
加ドル197億ドル3.20%
豪ドル62億ドル1.00%
シンガポールドル18億ドル0.30%
西側諸国通貨小計(①)3777億ドル61.40%
金地金1323億ドル21.50%
人民元1052億ドル17.10%
西側諸国通貨以外(②)2374億ドル38.60%
合計(①+②)6151億ドル100.00%

(【出所】「割合」はロシア中央銀行・ロシア下院向けレポート【※PDF】のP123、「金地金」の「金額」はIMF、「合計額」は「金地金の金額÷割合」、各通貨の金額は「合計額×割合」で算出。「合計」額は必ずしもIMFデータと整合するものではない)

すなわち、ロシアの外貨準備高のうち、西側諸国通貨建ての割合が60%少々であり、これらについては西側諸国により、すでに凍結されてしまっています。凍結されていないのは人民元建ての1052億ドルと、金地金1323億ドルの、あわせて2374億ドルに限られます(※SDR等を除く)。

また、先ほどの図表2でもわかるとおり、ロシアの外貨準備高全体は、2022年1月の6302億ドルをピークに減り続けており、データが手に入る直近の2022年9月時点だと、これが5407億ドルです。すなわち、ウクライナ戦争を始めてからの8ヵ月間で、ロシアは外貨準備を900億ドル近く減らした計算です。

ただし、ロシアにとっては西側諸国通貨建ての外貨準備を使うことはできません。よって、この「900億ドル近く減ったもの」は、金地金か人民元建てのもののいずれか、ということだと考えられます。

ロシアはすでに「使える外貨準備」が枯渇し始めている

ロシアの外貨準備に占める金地金・人民元の金額は、1月末時点では2374億ドルだったと推察されますが、これが900億ドル減ったのだとすれば、利用可能な2374億ドルのうちのざっと4割を、この8ヵ月で使い果たしてしまったということです。

これは、冷静に考えてみれば、なかなか凄いことです。

現在のロシアにとって辛うじて使い物になる貴重な外貨準備については、もうあまり残っていないという可能性が高そうです。

また、2月から9月までの8ヵ月間で900億ドル減っているということは、1ヵ月平均でだいたい100億ドルずつ減らしている、という計算ですが、このペースでの減少が続けば、だいたいあと15ヵ月でロシアの外貨準備はスッカラカンになります。

しかも、この「あと15ヵ月」は、「金地金の売却がうまく行けば」、の話です。もしも中国が人民元建ての資産から順番に使用していたのだとすれば、ロシアの外貨準備はそろそろ枯渇していると見るべきなのかもしれません。

もちろん、ロシアの外貨準備の減少速度が現在のペースで進んだ場合でも、ロシアは中国との通貨スワップを持っているため、もう少しは耐えられる、という可能性もあります(ただし、中国がスワップ引出しに応じるかどうかは別問題ですが)。

しかし、ロシアの対外支払能力が制限されている状態が続けば、この国際法に違反した戦争をロシアの敗北に終わらせることに役立つかもしれません。

国際法を「守らせる」ことが大事

最後に余談です。

ロシアによるウクライナ侵略が国際法に違反した行為であり、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を旗印に掲げるわが国にとっても到底容認できない行為であるという点については、当ウェブサイトで何度も強調してきたとおりです。

このあたり、世の中には大変残念な方もいて、「国際法が~などとわめくのはバカの極みだ」、「なぜなら中国、ロシア、北朝鮮、イランなど、国際法など最初から眼中にない国もあるからだ」、などと強弁される方がいらっしゃるようです(「国際法が~とわめくのはバカの極み」のくだりこそ、支離滅裂の極みですね)。

まさかとは思いますが、こうした思想をお持ちの方は、「ロシアなどが国際法を守らないのだから、日本も国際法を守らなくてよい」、などと考えていらっしゃるのでしょうか?「相手が法を無視するのだから私たちも法を無視しろ」とでもおっしゃりたいのでしょうか?

本当に謎です。

もちろん、日本は自由主義国ですので、誰がどんな思考を持とうが自由ですが、「法を守らない者が得をする国にしてはならない」、「国際法を守らない国が得をする国際社会にしてはならない」という原則を逸脱する思考が日本社会の多数を占めるのだとしたら、これは由々しき話でしょう。

幸いにして、わが国では「法を守ること」に対する意識が大変に強く、社会の構成員に対して法を守らせることを強制するためのコストは、諸外国と比べて低いといえます(「順法意識の高さ/低さが社会運営全体に与えるコスト」という視点から、別稿にて議論しても良いかもしれません)。

もっとも、「国際法や国際合意、国際条約などをナチュラルに無視する国」があったとして、国際社会がその国にペナルティを与える手段が少ないことはそのとおりでしょう。

もちろん、現在のロシアのように(あるいはもしかすると少し未来の中国のように)、戦争遂行能力を低下させることなどを目的として、国際社会(というよりも主要国)が厳しい制裁を科す、という事例が出てくることはあり得ます。

その意味では、日本としてはむしろ西側諸国の一員として、無法国家に対し、「国際法を破った結果、どんな不都合が発生するか」を身をもってわからせるように努力すべきではないかと思う次第です。

読者コメント一覧

  1. 元ジェネラリスト より:

    ロシアへの耳寄り情報:「バングラディシュがドルを貸してくれるかもしれない」
    打診してみたらどうでしょうかね。w

    国際法が万能でないのは確かですけど、効果を発揮する場面もあるわけなので国際法は無駄というのは極論でしょう。核さえ持ってりゃすべてOKとほとんど同じです。
    でも極論を投げかけることによる波紋は、当たり前と思ってることをもう一度捉え直すいい機会になったりしますね。極論を述べるのはなかなかですけど、それ自体は無駄じゃないですね。
    ルールに基づく自由な議論の場が大事だなと思う次第。

  2. 匿名 より:

    ロシアは資源を輸出してるから1000億ドル以上何かを買ったってことなんでしょうかね?それとも通過防衛で溶かした?

  3. 一之介 より:

    >「国際法を破った結果、どんな不都合が発生するか」を身をもってわからせるように努力すべき  ではないかと思う次第です。

    その通りだと思います。
    日本は真っ先に韓国に落とし前をつけさせなけばいけませんね。こういうことをきちんとすれば岸田内閣ももう少しは延命できるかもしれませんが、今のままだと岸田総理筆頭にハニー林、ポチ鈴木、等々役立たずの内閣は年内にも総辞職しろですね。

    1. JJ朝日 より:

      同感です、ROKに対する姿勢。

  4. パーヨクのエ作員 より:

    いつも知的好奇心を刺激する記事。配信ありがとうございます。

    >国際法を「守らせる」ことが大事

    大いに同意します。
    個人的には日本がより国際的に貢献するには「敵国条項」の決議可決で即時廃止は必須と思います。
    日本が活動すると都合が悪い国が日本に対して打開策を打つには「敵国条項」を名目にするのが最適だからです

    国連加盟国の権利として敵国条項に基づき戦術核でロシアに敵対的行為を行う日本に軍事制裁を実施する。

    冒頭の方法はウクライナ及び西側諸国にロシアが牽制する方法論としてもしかすると残った唯一の方法かもしれません。
    日本以外はもはやNATO加盟国ですのでロシアが敵国条項を適用するにはリスクが大きすぎるのです。

    さて、アメリカへの影響を最低限にする為の条件を考慮すると南千歳の第7師団の戦車部隊に戦術核を使用するのが最も効果的と思います。
    米軍が常駐しない北海道で補充が困難な機甲戦力を集中的に集めた戦術予備を核で無力化すると同時に冒頭の宣言を行うのがアメリカの介入を最低限にすると思うのです。西側諸国とウクライナには「次はオマエだ」の恫喝もできますし。

    ウクライナの泥沼化をロシア有利に解決手段がウクライナのインフラ攻撃以外に上記以外あるのでしょうか。

    敵国条項の廃止ができれば上記手段は日本の核武装とロシアへのシベリアの戦略核への「核攻撃による無力化」が取れますが、敵国条項を放置した核武装は「赤クアッド」による日本への軍事制裁措置があり得ます。
    西側同士の諍いをアメリカが嫌うならば泣き寝入りです。

    日本が遺憾砲以外で実効性を持たせて国際法を守らせるには環境づくりが必須です。これには充分な議論が必要と思います。国民の意識の変化も必要でしょう。

    以上です。駄文失礼しました。

  5. トシ より:

    ん~、悪いけどサイト主はお花畑思考としか言えないねw

    >「法を守らない者が得をする国にしてはならない」、「国際法を守らない国が得をする国際社会にしてはならない」

    >その意味では、日本としてはむしろ西側諸国の一員として、無法国家に対し、「国際法を破った結果、どんな不都合が発生するか」を身をもってわからせるように努力すべきではないかと思う次第です。

    で、戦後日本はどうなの?

    ・北朝鮮の拉致問題の解決すらできない
    ・韓国に竹島を不法占拠され徴用工問題の解決もできない
    ・ロシアに北方領土を不法占拠されて解決もできない
    ・中国は沖縄の領有権や日本のEEZを否定

    もちろん国際法を遵守させることは重要だよ?
    でも日本はこのようにいいようにやられているんでしょ?

    断言してもいいが、遠くない将来中国は尖閣と沖縄を奪いに来る。

    その時も「遺憾ダ―」「国際法ガー」とやるの?
    「国際法を守れ」と中国に言うの?

    違うでしょ?

    現実としてまず核戦力や集団的自衛権という抑止力を持つ。
    そのうえでならず者国家に国際法の遵守を求める。

    これが現実議論。

    サイト主のようにただ国際法の遵守を求めても逆効果でしかない。
    米国が「台湾には出兵しない」の一言で地獄と化すぜ?

    こういう意見もあると参考にしてくれ!

  6. トシ より:

    確かに前回の投稿は「角度を付け」過ぎました。
    不快にさせたことはサイト主やサイト住人に謝罪します。

    ただロシアの侵略についてもう一回言わせてほしい。

    ウクライナは腐敗や汚職がひどく政権支持率がひどく低迷。
    よって大統領はEU、NATO加盟を歌ったりロシアに強硬姿勢を取った。
    それがロシアのレッドラインを踏み侵攻を招いた。

    これはしっかりと認識しなければならない。
    なぜなら日本は中国という大国と向き合っているのだから。

    中国とは細心で繊細な注意を払わないといけない。
    でないと遠くない将来間違いなく日本はやられる。

    ウクライナの「失敗の本質」から学べる点は多いし、ウ国の先走りに感謝すべき。

    (私の投稿が深いならば遠慮なくブロックしてください。素直に身を引きます)

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