中国が米ドル建スワップ提供か=アルゼンチン大統領府
中国が人民元建てのスワップ以外に、アルゼンチンと米ドル建てのスワップを結んだ可能性が出てきました。アルゼンチン大統領府が「両国がG20サミットの機会に会談し、50億ドルのスワップの締結で合意した」と述べたからです。いまのところこれはアルゼンチン側の一方的な発表によるものですが、もしこれが事実なら、中国のスワップ外交にとっては一種の転機となるかもしれません。
人民元建てスワップ
以前の『ECBが人民元スワップ延長も、なぜか韓国より小模規』を含めて、当ウェブサイトにてときどき取り上げる話題のひとつが、人民元建ての通貨スワップ・為替スワップです。
中国人民銀行が公表している『人民幣国際化報告』と題したレポートに基づけば、昨年8月末時点において、中国は少なくとも世界の25ヵ国・地域の中央銀行との間で、3兆元を超える人民元建ての通貨スワップ・為替スワップを締結しています。
これについて一覧にしたものが図表1です(これのテキスト化データについては少し長くなるので、本稿の末尾に別途示しておきます)。
図表1 中国が外国中央銀行等と締結している人民元建ての通貨スワップ・為替スワップ
(【出所】中国人民銀行レポートをもとに著者作成。なお、為替換算は国際決済銀行データ、もしくはベンダー等のウェブサイトで検索した最新データを使用)
中国のスワップは金融センターと発展途上国が中心
中国が提供している金額が最も多いのは5000億元の香港で、韓国が4000億元でこれに続き、さらには英国と欧州中央銀行(ECB)が3500億元、シンガポールが3000億元などと続いており、日本はインドネシアと並ぶ2000億元です。
このあたり、香港、ECB、英国、日本がスワップの相手となっている理由は、香港やロンドン、ユーロ圏がオフショア人民元の決済センターであること、日本の金融機関が少額ではあるにせよ「パンダ債」を発行していることなどが考えられます(ただ、米FRBは中国人民銀行とスワップを結んでいません)。
これに対して韓国やインドネシアがスワップの相手国であるという理由は、おそらく、中国お得意の「支援外交」によるものなのでしょう。
正直、国際金融の世界で人民元を受け取ってもあまり使い様がないのですが、実物取引の世界だと、人民元は中国からの輸入品の決済代金に充てることができるため、2020年6月にはトルコが中国からのスワップを引き出したという実例もあります(『トルコが中国との通貨スワップを実行し人民元を引出す』等参照)。
つまり、人民元のスワップは、国際金融センターないしハード・カレンシー採用国にとっては資金供給が不安定な人民元決済のバックストップとして、資金不足に悩んでいる国々にとっては中国からおカネを借りる手段として、それぞれ意図されているのではないか、というのが当ウェブサイトにおける感想です。
アルゼンチン大統領府の不思議な発表
こうしたなか、アルゼンチン大統領府によると、先日、インドネシアのバリ島で行われたG20で、アルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス大統領は中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席と会談し、中国がアルゼンチンに対し、「50億ドルを自由に処分することを許可した」と発表しました。
Alberto Fernández se reunió con el presidente Xi Jinping
―――2022/11/15付 アルゼンチン大統領府HPより
該当する原文は、次の通りです。
“El presidente destacó que dialogaron sobre ‘dos temas puntuales que nos preocupan: El primero fue la ampliación del Swap, que venimos trabajando hace varios meses y no teníamos respuesta. Hoy nos informó que el Gobierno chino autorizó a que Argentina disponga libremente de los 5.000 millones de dólares’.”
ちなみにこれについて、トルコのメディア『アナドル通信(AA)』の英語版の記事によると、フェルナンデス大統領は今年2月に中国を訪問した際、中国との通貨スワップの規模を30億ドル拡大することで合意していた、などとしています。
Argentina, China agree to currency swap at G20 summit
―――2022/11/15付 アナドル通信(英語版)より
ただ、先ほどの図表1、あるいはのちほど掲載する図表2を見ていただければわかりますが、アルゼンチンはすでに昨年8月末時点で中国と総額700億元のスワップを結んでおり、これを1ドル=7.1元で換算すれば約99億ドルに相当します。
文脈に照らすと、中国がアルゼンチンに対して700億元(約99億ドル相当)のスワップとは別枠で、アルゼンチンに対して「米ドル建てのスワップ」を提供することにした、という意味でしょうか。
もしそうなのだとしたら、当ウェブサイトでときどき説明してきたとおり、米国以外の国が米ドル建てのスワップを提供するというのは、非常に異例ですし、「人民元の国際化」を旗印に掲げているはずの中国が、人民元ではなく貴重な外貨である米ドルをスワップの形で外国に提供するというのは不自然な話でもあります。
あるいは、米ドル建ての巨額の外貨準備を持つ日本、あるいは米ドル紙幣の印刷設備を持っているとも噂される北朝鮮以外に、米ドルを提供するスワップを結ぶ国がいるとは意外です。
いずれにせよ、アルゼンチンといえば外貨不足に苦しんでいる国ですが、本当に中国がアルゼンチンと米ドル建てのスワップを結んだのだとしたら、これは中国のスワップ外交にとっても転機となる可能性は十分にあります。外国に外貨建てのスワップを提供することで、中国の外貨準備が流出するかもしれないからです。
こうした視点からは、続報に注目してみる価値はあるかもしれません。
参考:中国のスワップ一覧・テキスト化データ
先ほどの図表1で示した、昨年8月末時点で中国が外国中央銀行等と締結している人民元建ての通貨スワップや為替スワップのデータをテキスト化したものが、次の図表2です。
図表2 中国が外国中央銀行等と締結している人民元建ての通貨スワップ・為替スワップ
締結相手・締結日 | 人民元とドル換算額 | 相手通貨とドル換算額 |
---|---|---|
香港(20/11/23) | 5900億香港ドル(753億ドル) | 5000億元(708億ドル) |
韓国(20/10/11) | 70.0兆韓国ウォン(528億ドル) | 4000億元(566億ドル) |
英国(18/10/13) | 400億ポンド(472億ドル) | 3500億元(495億ドル) |
ECB(19/10/08) | 450億ユーロ(464億ドル) | 3500億元(495億ドル) |
シンガポール(19/05/10) | 610億シンガポールドル(444億ドル) | 3000億元(425億ドル) |
日本(18/10/26) | 3.4兆円(242億ドル) | 2000億元(283億ドル) |
インドネシア(18/11/16) | 440.0兆ルピア(283億ドル) | 2000億元(283億ドル) |
豪州(21/07/06) | 410億豪ドル(274億ドル) | 2000億元(283億ドル) |
マレーシア(21/07/12) | 1100億リンギット(239億ドル) | 1800億元(255億ドル) |
ロシア(20/11/23) | 1.8兆ルーブル(290億ドル) | 1500億元(212億ドル) |
アルゼンチン(20/08/06) | 7300億ペソ(45億ドル) | 700億元(99億ドル) |
タイ(20/12/22) | 3700億バーツ(103億ドル) | 700億元(99億ドル) |
チリ(20/07/31) | 5.6兆ペソ(63億ドル) | 500億元(71億ドル) |
マカオ(19/12/05) | 350億パタカ(43億ドル) | 300億元(42億ドル) |
パキスタン(20/07/31) | 7200億パキスタンルピー(32億ドル) | 300億元(42億ドル) |
ハンガリー(19/12/10) | 8640億フォリント(22億ドル) | 200億元(28億ドル) |
エジプト(20/02/10) | 410億エジプトポンド(17億ドル) | 180億元(25億ドル) |
ウクライナ(18/12/10) | 620億フリヴニャ(17億ドル) | 150億元(21億ドル) |
モンゴル(20/07/31) | 6.0兆トゥグルク(18億ドル) | 150億元(21億ドル) |
ナイジェリア(21/06/09) | 9670億ナイラ(22億ドル) | 150億元(21億ドル) |
トルコ(19/05/30) | 109億リラ(6億ドル) | 120億元(17億ドル) |
スリランカ(21/03/19) | 3000億ルピア(8億ドル) | 100億元(14億ドル) |
アイスランド(20/10/19) | 700億クローナ(5億ドル) | 35億元(5億ドル) |
スリナム(19/02/11) | 11億スリナムドル(0.4億ドル) | 10億元(1億ドル) |
合計 | 約4391億ドル | 3.2兆元(4514億ドル) |
(【出所】中国人民銀行レポート)
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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対米対立の激化を視野に入れた食糧対策の一環だったりするのでしょうか?
人は食べないと生きられないのですし。
毎度、ばかばかしいお話しを。
韓国:「我が国も、中国との間で、米ドル建てスワップを結ぼう」
中国:「我が国も、韓国との間で米ドル建てスワップを結んで、いざという時は、韓国から米ドルを引き出そう」
これって、笑い話ですよね。
中国:ドルを寄越せ!
韓国:「辛ヌー”ドル”」nida.
中国:・・。
ほぼほぼ冗談であることを予めお断りしておきます。
さて、スペイン語はまるで分らないのですが、文面を眺めると、「ドル」とは言っているもののUSDとは明記されてないようにも見えます。なので、ひょっとしてひょっとすると、USDではなく、HKDとのスワップであるのかもしれません(そんなバカな……)。
すでに北京は香港を完全に扼殺しましたので、HKDを自由にコントロールできる可能性があります。HKDに以前ほどの信用力はなさそうですが、アルゼンチンとしても、RMBを貰うよりはHKDの方が使い勝手が良い……かもしれません。
龍様。
ワタシはぜんぶ冗談で投稿です。
北京は(人民銀行ではなく)中国銀行に必要な時はHKDの印刷を指示すると思います。
北京はHSBCにはHKDの印刷は頼まないでしょう。
ワタシは中国銀行にHKDの印刷を指示に100ウォンです。
YENの手持ちがないのでウォンでベットです。
disponga の意味を取り違えるとまずいような気がします。
スペイン語堪能のかたのフォローに期待。
中国は、アメリカ包囲網の一環として、南米も狙っているのでしょうね。
地球を俯瞰する外交という事で。知らんけど。
※最近関東方面の若い人の間でも「知らんけど」という言葉が流行っているそうですけど、本当でしょうか?
図表1および2の1行目(つまり各列の表題を示している行)の2列(あるいは,カラム)目の表題(人民元とドル換算額)と3列目の表題(相手通貨とドル換算額)とが,2行目以降の実データの内容(2行目以降は2列目が相手通貨で3列目が人民元)と逆になってますね.