BIS為替データのレビュー:欧州系通貨が大きく下落

国際決済銀行(BIS)の最新版の為替データ(対米ドル相場)が公表されています。せっかくの機会ですので、個人的に気になったいくつかの通貨について、20年分の為替相場の動きを片っ端から調べてみたところ、とくに「スイスフランを除く欧州系の通貨」(ポンド、ユーロ、ポーランド・ズローティ、スウェーデン・クローナなど)が日本円と同じかそれ以上に下落していることが判明しました。

当ウェブサイトでは、議論をする際には「可能な限りデータを使うこと」を重視しているのですが、やはり外為市場に関して議論をする際には、どうしても各通貨の推移をインターネット・サイト等でひとつずつ手入力するのにも限界があります。

こうしたなか、個人的によく使うのが、国際決済銀行(BIS)が毎週公表している、各通貨の対米ドル相場のヒストリカル・データです。データ自体はBISのダウンロードサイト “Download BIS statistics in a single file” で単一のCSVファイル形式にて入手できます。

これについては更新タイミングが週1回であり、かつ、数日前のデータまでしか収録されていない、といった欠点はあります(※たとえば9月7日に公表されたデータに収録されているデータは9月5日時点までのものに限定されています)。

また、収録されている通貨も実質的に62種類であり、マイナーな通貨(たとえば北朝鮮ウォンなど)についてのデータは収録されておらず、さらには通貨によっては「公式レート」しか収録されていない(たとえばイランリヤルなど)というケースもあるので、若干のクセはあります。

ただ、過去数十年分の為替相場を抽出して傾向を見る分には大変使い勝手が良いので、個人的には非常に重宝しているという次第です。

さて、こうしたなか、この62種類の通貨について、過去20年分の対米ドル相場を片っ端から調べてみると、興味深い動きをしている通貨がいくつかありました。

※なお、本稿では便宜上、すべて「米ドルに対する為替相場」で表示しています。ユーロやポンドのように、一般には「1ユーロXドル」と表示する通貨も、本稿では「1ドルXユーロ」、などと表示しているため、マーケットに慣れていらっしゃる方からすると若干の違和感があるかもしれませんが、ご了承ください。

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まずは、今般のドル高局面とはあまり無関係な通貨がいくつかあるとしたら、パターンとしてはアルゼンチンペソやトルコリラのように以前から下落が続いている通貨、スイスフランのように対米ドルでほとんど動きがない通貨、イスラエルシェケルのようにむしろ上昇している通貨などがあります。

次に、日本では「円安」が強調されているきらいがあるのですが、じつは世界では欧州系の通貨が大きく下落している、という事情があります(スイスフランなどは例外です)。

たとえばユーロ、英ポンドがその典型例ですが、それだけではありません。

ユーロと事実上ペッグしているデンマーククローネ、EU加盟国でありながら非ユーロ圏のスウェーデンの通貨・クローナ、さらには東欧のハンガリー・フォリント、ポーランド・ズローティなども同様に、20年来の最安値水準を目指している状況です。

もちろん、日本円の為替相場も対米ドルではかなり下がっているのですが、欧州諸国と比べてみると、これだけ低金利政策を続けていながら、むしろこれだけの下落でとどまっている、という評価もできます。

もっとも、『これぞ円安の恩恵?全産業の経常利益が過去最大を記録』などでも指摘したとおり、日本はもともと通貨ポジション自体が強く、また、円安になれば輸出競争力が増し、輸入代替効果も期待できるため、円安は日本経済を強くするという効果が生じます。

ただ、これは日本円が世界的な「ハード・カレンシー」であり、日本の通貨ポジションが世界最強クラスである、といった特殊事情もかかわっており、日本以外のアジア圏についてもこうした事情が当てはまるというわけではありません。

こうしたなかで気になるのは、アジア通貨の動きです。とくにインドの通貨・ルピーが対米ドルで下落しているほか、韓国ウォン、フィリピンペソなども怪しい動きを示しているようなのです。

その一方で、フィリピンを除くASEAN諸国の通貨は、意外と安定しています。とくにカレンシーボード制を採用しているシンガポールドルについては、ほぼ「小動き」と断言して良いでしょう。

さて、少し気になるのが中国の通貨・人民元です。

人民元については正直、中国人民銀行が為替相場をコントロールしているため、市場メカニズムに厳密に従っているとは言い難いのですが、米ドルになかば人為的にペッグしている状況だと、どうしても中国自身の輸出競争力が損なわれるという事情があります。

こうしたなかで、最近は通貨当局にも「迷い」が生じているのか、微妙に対米ドルで下落しているように見受けられるのは気になるところでしょう。

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いずれにせよ、今般のドル高局面では、ドルに対して下落している通貨が多いことは間違いないにせよ、国によっては安定していたり、むしろ通貨高になっていたりするケースも散見されます。

もちろん、現在のドル高局面はコロナ禍で供給され過ぎた米ドルが回収されるなかでも現象と理解されることが多いのですが、これに加えてウクライナ戦争に伴うエネルギー不安、武漢肺炎にともなう中国のロックダウンといった供給不安も経済の混乱に拍車をかけている状況です。

したがって、通貨安に加えてサプライチェーン不安という「実体経済」の要因が、世界的な通貨危機に発展するという可能性がないかどうかについては、引き続き注目する必要がある論点のひとつであることは間違いないでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 古いほうの愛読者 より:

    本題の趣旨とは少しずれますが,個人投資家が為替で大きな利益を得るのは,結構難しいです。今回の円安ドル高は10年に1度あるかどうかのチャンスでしたが,結果は半年で12%程度の利益でした。昔,1ドル80円近くまで安くなった時は,3年で40%くらい取れ,それが最高記録です。
    もっとも,株のほうも,ここ2年間くらいの収支は,為替と同じくらいで,結構,細かい作業になります。子供が遊んでる「集まれ動物の森」のカブはもっと景気がいいですが。
    WEBで「資産が何倍にも増えた」という話がよく載っていますが,それはなかなか難しいと思います。たぶん,8割くらいの人は,結局損して撤退しているような気がします。
    何もしない人も,インフレで損していると思います。

  2. コジna より:

    >https://seekingalpha.com/etfs-and-funds/etf-tables/countries
    ドル建てですが、下落してる欧州通貨はパフォーマンスが悪い場合が多いです・・・

    円安はデリバティブのヘッジになってるのではないかと個人的に推測します。
    例えば何かを買い支えたい時(売りたい時)に、日本円を売ってヘッジにしてるのではないでしょうか。
    値動きがおかしいです、金利差とか解説がありますが2時間程度で相場が動く原因とは思えません。
    日本国内では輸出系企業がドルから円転してるために、ドルは逆に余ってます。
    ヘッジに使用されてることが分かるのは強烈な巻き戻しが発生した場合になります。
    私は近い将来発生する可能性が高いと思います。
    日本が駄目だからとかとんでもないです、むしろ世界的に見ても最も安定した国家の一つでしょう。
    対ドルでの日本円の実力(適正水準)は90-95円であると、JPMやGSは言っています。

    1. 匿名 より:

      マスコミはなんでも日本オワタ論にするのが大好きだよね。FRB利上げの金融マターなのになんでいつのまにか「日本の国力ガー」とか「叩き売られる日本」とかに話が展開すんのか意味不明。
      今回の円安局面で、海外から何でも安く買えばいいって考えを見直せばいいと思う。長引くデフレの一因だと思う。

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