ウォン急落受け「テキーラショック」再来懸念=韓国紙
韓国ウォンが本日、一時2020年3月以来2年ぶりの安値を更新しました。おりしも先月は85億ドルも減少しましたが、こうしたなかで韓国紙に本日、「テキーラショック再来」を懸念する記事も掲載されていたようです。そういえば、韓国紙は以前、「日本が韓国の真の友人なら韓日スワップを締結せよ」と主張したこともありましたが、日韓通貨スワップ議論はこれから(韓国で一方的に)本格化するのでしょうか?
目次
アルゼンチンペソ、トルコリラが急降下
金融市場が変調を来しているのでしょうか。
新興市場諸国の通貨のなかにはかなり下落しているものが生じ始めています。
国際決済銀行のデータをもとに対米ドル相場を集めてみると、たとえばアルゼンチンペソ(USDARS、図表1-1)、トルコリラ(USDTRY、図表1-2)当たりの下落幅が非常に大きいことがわかります。
図表1-1 USDARS(2002年5月以降の20年分の推移)
(【出所】the Bank for International Settlements, US dollar exchange ratesを参考に著者作成)
図表1-2 USDTRY(2002年5月以降の20年分の推移)
(【出所】the Bank for International Settlements, US dollar exchange ratesを参考に著者作成)
こうしたマーケットの変調は、もちろん、すべての通貨において発生しているわけではありません(たとえばインドネシアルピア、タイバーツ、マレーシアリンギットといったアジア通貨は比較的安定しています)。
韓国ウォンは1270ウォン超えが常態化
ただ、アルゼンチンペソやトルコリラほど極端ではないにせよ、私たちの隣国である韓国の通貨・ウォンの動きが怪しくなっていることについては、気に留めておく必要があるかもしれません。
韓国銀行のデータによれば、5月11日時点の韓国ウォンの対米ドル為替相場(USDKRW)は、日中最安値が1ドル=1280.20ウォンと、2年2ヵ月ぶりの最安値を更新。終値ベースでも1275.50ウォンであり、先週金曜日以来、4営業日連続での1270ウォン超えとなりました(図表2-1)。
図表2-1 USDKRW(3月25日以降のチャート)
(【出所】韓国銀行)
韓国の通貨・ウォンは、アジア通貨危機やリーマン・ショックなどの特殊な時期を除けば、少なくとも2009年以降は1ドル=1000~1200ウォンの間に収まっており、とりわけ2015年以降に関しては、韓国の通貨当局としては、そのレンジを1ドル=1100~1200ウォンに抑え込もうとしてきたフシがあります。
ただ、2020年3月のコロナ禍のときには瞬間風速的に、2020年3月19日時点で1ドル=1296ウォンと「1300ウォン」直前にまで下落。その後は米韓為替スワップなどの影響もあり、ウォン高基調のなかで外貨準備を積み増していたのですが、ここにきて再び為替相場が不安定化しているのです(図表2-2)。
図表2-2 USDKRW(2002年5月以降20年分)
(【出所】韓国銀行)
ついに1ドル=1284.5ウォン:2年ぶりの安値に!
こうしたなか、先ほどWSJのマーケット欄をチェックしていると、このUSDKRWが瞬間的に、1ドル=1284.50ウォンと、日中最安値としては2020年3月23日の1282.50ウォン以来、約2年ぶりとなる安値水準を更新していたのです。
もちろん、韓国のことですから、早ければ本日午後、あるいは近日中に1ドル=1300ウォン前後の段階で為替介入(外貨売り・ウォン買い介入)が入ることが予想されます。韓国は日本と異なり、ウォン安にもウォン高にも弱いからです。
とくに、韓国企業のビジネスモデルは日本など先進国から「モノを作るためのモノ」(韓国語でいう素材・部品・装備、あるいは「素部装」)を仕入れ、それを国内で加工して外国に輸出するという構造ですので、ウォン安になれば「素部装」の輸入価格が押し上げられる、というマイナスの効果が生じます(※)。
(※もっとも、日本も円安ですので、その効果を勘案すれば、ウォン安のデメリットは緩和されているはずです。)
これに加えて韓国は外国の金融機関から4000億ドル近い資金を借り入れており(※最終リスクベース)、このうちの外貨建ての割合は6~7割に達すると考えられるため(※著者試算)、ただでさえ過剰債務に苦しむ韓国でウォン安が進めば、外貨建ての債務の弁済負担が押し上げられてしまいます。
このあたり、なかなか苦しいところでしょう。
韓国銀行が通貨防衛などを目的に利上げに踏み切れば、家計や企業が深刻な打撃を受けます。その一方で、家計・企業への打撃を防ぐために利上げに踏み切らなければ、ウォン安がさらに進むからです。
韓国の外貨準備は減少局面に!
もちろん、為替介入で一時的にウォン高を演出することはできますが、それでも『韓国の外貨準備が急減:韓国でいま何が起きているのか』で述べたとおり、韓国の外貨準備はすでに「減少局面」に入ってしまいました。
具体的には、韓国の外貨準備は全体として前月比85億ドルも減少し、その内訳は有価証券と現金預金の2項目だけで79.4億ドルにも達しています(図表3)。
図表3 韓国の外貨準備高(2022年4月時点)
項目 | 2022年4月末 | 増減 |
---|---|---|
有価証券 | 4,088.3億ドル | ▲13.8億ドル |
現金預金 | 162.5億ドル | ▲65.6億ドル |
SDR | 149.8億ドル | ▲4.4億ドル |
IMF-RP | 44.5億ドル | ▲1.3億ドル |
金地金 | 47.9億ドル | ±0 |
合計 | 4,493.0億ドル | ▲85.1億ドル |
(【出所】韓国銀行『2022年4月末の為替保有高』【※韓国語】)
前月比85億ドルもの減少というのは、89億5704万ドルの減少を記録した2020年3月以来のことでもあります(図表4)。
図表4 外貨準備の前月比増減
(【出所】韓国銀行)
とくに、図表4を見れば、韓国の外貨準備が減少基調に入った可能性が高いと判断できるのではないかと思います。
この点、韓国は米FRBによる金融緩和時代に自国通貨高を抑制するために為替介入(自国通貨売り・外国通貨買い介入)を行い、外貨準備を500~600億ドルは蓄え込んだと見られますが、今後、毎月50~100億ドルのペースで外貨準備を吐き出していけば、再び外貨準備が枯渇するかもしれません。
中央日報が「テキーラショック」に言及
こうした予測が正しい証拠でしょうか。
韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝、こんな記事を発見しました。
20年ぶりに最強のスーパードル…新興国に「テキーラ危機」再来するか
―――2022.05.12 08:33付 中央日報日本語版より
中央日報の記事のタイトルにある「テキーラ危機」とは、1994年に発生した、メキシコ通貨危機に端を発する新興市場諸国の危機のことだそうです。個人的に、韓国が気にしなければならないのは「テキーラ危機」よりも「アジア通貨危機」ではないかと思うのですが…。
それはともかくとして、FRBの金融引締めの影響か、中央日報によると25の通貨で構成されているMSCI新興国通貨指数が10日、1672.62ポイントと、4月4日の終値1746.64ポイントと比較して1ヵ月で4.2%下落したと述べます。
中央日報は、ドル高を煽っているのがFRBによる緊縮に加え、中国の新型コロナウィルス(武漢肺炎)に関するロックダウンにより、輸入品価格の上昇、といった要因だと指摘するのですが、実際、各国は「先を争って政策金利を引き上げ、防衛線を構築している」、とも指摘します。
たとえばブラジルでは昨年3月以来、10回連続の利上げにより、2.75%だった政策金利が13.75%に上昇したのだそうであり、インドも2018年8月以来、初めてレポ金利を4%から4.4%に引き上げた、などとしています。
こうした「FRBの利上げを契機にした新興国ショック」という見方が正しいのかどうかはさておき、少なくともこんな記事が中央日報に掲載されるほど、現在の韓国では「金融危機」、「通貨危機」への意識が強い、という証拠ではないかと思います。
「韓日協力の証としての通貨スワップ」
いずれにせよ、韓国側から再び、「二国間の経済協力を強化すること、及び、その証として双方同額の新しい通貨スワップ取極を締結すること」に関する「提案」が出てくる可能性は十分にあります。実際、韓国側からは『日本が韓国の真の友人なら韓日スワップを締結せよ』といった主張が出てきたこともあるからです。
正直、日韓通貨スワップ自体、日本にとって百害あって一利なしですが(『1270ウォン目前の韓国:「通貨安」がもたらす課題』等参照)、今後の韓国の為替状況については注目に値する論点のひとつであることは間違いないでしょう。
…、と思っていたら、やっぱり出てきました。
急激なウォン安…米国・日本との通貨スワップの必要性が急浮上
―――2022.05.12 10:47付 中央日報日本語版より
韓国が通貨スワップを必要としているのはそのとおりかもしれませんが、日本や米国はそれを必要としていません。本稿ではその点だけ指摘しておきたいと思います。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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「テキーラ危機」で「ウォンドルが飛んでいく」
通貨スワップの環の強さは、一番強い鎖(後ろ盾)の強さ
中国(下落):韓国・トルコ・アルゼンチン
日本(安定):タイ・インドネシア・マレーシア
↑つまりは、そういうことなのかと・・。
>韓国紙は以前、「日本が韓国の真の友人なら韓日スワップを締結せよ」と主張したこともありました
この仮定が正しいとしたら結論は正しいでしょう。
しかし、南朝鮮人が日本人から殴る、蹴る、踏んづけられる、盗まれるなどの乱暴狼藉を受けたとき、南朝鮮人が日本人を真の友人と思いますでしょうかね。そのあたりをよく考えたら冒頭の主張が正しいか、誤りかが自分で理解できるでしょう。
韓国はこう言うでしょう「日本の方が円安でしょう。ヤバくないですか?」
いやいや単純に円安だからヤバいわけじゃないんです。それこそ韓国とは違うんです。
日本は世界最強レベルの債権国。民間の外貨資産がたんまりある。もし円安でヤバいと思ったらそれを一部引き出して日本に持ち帰れば済む話(円安だから利益も乗ってるね)
いや、困っていることがないわけでもないんです。原発が動いていないから石油の購入費用がかさんでしまう。非常に困った状況なのでやはりここは原発再稼働しかありません。確実に世界の石油の需給も改善し、円安も緩和するかも知れません。
まあでも、円安で輸出産業がめちゃ儲かってるし、これはこれで良いのかなとも思ってますよ。
金のないK君と金持ちのJ君が居酒屋に行きました。
K君は言いました「今夜はスワップで思いっきり飲もう!」
居酒屋の支払いはJ君がしました。
K君は別れ際に「J君、お金なくなったらいつでも言ってね」
翌日K君から電話がありました。「今日もスワップで飲みにいかない?」