ロシア政府がドル建て債券の元利金をルーブルで支払い
ついにロシアが米ドル建てユーロ債の元利金をルーブルで支払ったようです。しかも、米銀などがロシアのユーロ債の取り扱いを取りやめたため、今回の元利金はロシア国内に(勝手に)作られた保護預かり口座に入金されたというのが実情のようです。そして、もしもロシアが30日以内に米ドルでの元利払いを行わなければ、正式にロシア国債のデフォルトが確定する可能性が出て来ました。
目次
ロシアの外貨準備凍結と「踏み倒し宣言」
西側主要国の金融制裁により、ロシアは現在、6400億ドルとされる外貨準備のうち少なくとも3000億ドルが凍結されているという話題については、『西側、制裁逃れのロシアに今度は外貨準備の金取引規制』などでも紹介してきました。
また、ロシアが公表した「非友好国リスト」に含まれた「非友好国」に対しては、1000万ルーブルを超える外貨建ての債務のをルーブルで支払うと宣言したという話題については、『ロシア「非友好国リスト」は金融制裁が効いている証拠』などでも触れてきたとおりです。
いわば、実質的な踏み倒し宣言、というわけでしょう。
ロシアがドル債のルーブル払いなら3CEのどれかに該当か
ただ、こうした宣言にも関わらず、とりあえず3月中旬に支払期日が到来したドル建ての「ユーロ債」(※)については、ロシア政府はきちんと米ドルで利息の支払いを行っています(『ロシアはいったんデフォルト回避』等参照)。
(※なお、「ユーロ債」とは、「ユーロ建ての債券」、という意味ではありません。一般に「オフショア債券」と呼ばれる、発行国以外の市場で発行されている債券のことを広く指す、金融界の俗語です。)
このあたりについては、結局のところ、ロシアが「テクニカル・デフォルト」に陥るのを可能な限り避けようとしたためだ、というのが個人的な見解です。
『ロシアがドル債をルーブル償還ならCDSはどうなる?』などでも議論しましたが、ドル建ての債券の元利金を、勝手にドル以外の通貨で支払ってしまった場合には、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の3つのクレジット・イベント(CE)のうちの「支払い不能」や「債務更改」などに該当してしまう可能性が高いからです。
「契約条件と異なる通貨で元利金を支払うこと」は、俗世間でいう「デフォルト」、「債務不履行」などの概念には該当しなさそうにも見えますが、金融の世界では、債務不履行の定義を満たします。
「4月6日に6億4900万ドルの金利を支払わなければならない」という契約条件であれば、「4月6日に6億4900万ドルを支払わなかった」という状態に陥ったら、基本的には「契約条件で決められた債務を履行しなかった」ことになるからです。
ただし、一般にユーロ債の多くは、30日間の猶予期間が設けられています。これは、「支払日にその元利金の支払ができなかったとしても、そこから30日以内に無事利払を終えることができれば、債務不履行にはならない」という条項です。
したがって、正式な債務不履行状態に陥るまでには、1ヵ月程度のタイムラグがある、という点については注意が必要でしょう。
ロシア財務省「ルーブルで債務は完全に履行された」
さて、こうしたなかで、現地時間の6日には、とうとうロシア政府がドル建てユーロ債の金利をルーブルで支払うという事例が発生したようです。まずはロシアのタス通信の報道を眺めておきましょう。
Минфин впервые исполнил в рублях обязательства по евробондам на $649,2 млн
―――2022/04/06 18:30付 タス通信より
タス通信によれば、問題の債券はドル建てのユーロ債である「ロシア2022」と「ロシア2042」の2本で、ロシア財務省は2022年4月4日時点でロシア中央銀行が公表する公式為替レートで「国家決済預託機構(ational Settlement Depository)」に対し送金支持を出した、などと記載されています。
この処理が行われた理由について、ロシア財務省は、「外国のコルレスバンクが『ロシア2022』のクーポン支払いと元本の償還を拒否したため」などとしており、送金された総額は「ロシア2042」の利子とあわせて6億4920万ドル、としています。
その際、「2022年3月5日付のロシア連邦大統領令第95号」、つまり「非友好国の債務の弁済をルーブル建てで行っても良い」とする大統領令に従い、これらの債券の預託機関の顧客口座にルーブルで振り込んだことで、「『ロシア2042』と『ロシア-2022』の債券の義務は完全に履行された」と述べたのだそうです。
なお、タス通信によれば、2022年2月1日時点でロシア連邦の外貨建ての公的債務残高は595億ドルで、償還期は2022年から2047年に到来する、としています。
この点、唐突に「国家決済預託機構」と言われても困惑してしまいますが、これについてはどう考えれば良いのでしょうか。
ここで参考になるのが、タス通信の記事に記載されている「法令の規定」とする記述です。
これによると、3月5日にウラジミル・プーチン大統領が署名した大統領令では、「非友好国」に外貨建て債務を支払う場合、債務者は外国の債権者の名前でロシアの銀行に口座を開設し、支払日に中央銀行が決めた為替レートで換算した金額をルーブルで支払うことができる、としています。
また、経済制裁に参加していない国の債権者に関しては、ロシアの債務者が特別な許可を得た場合にユーロないしドルで支払いを行うことができる、などとしています。なんだか、凄まじいペテンであるように思えてならない次第です。
ロシアが30日以内に債務を支払うかどうかがポイント
次に、ロイターの記事です。
Russia to pay Eurobonds in roubles as long as reserves remain blocked
―――2022/04/06 21:50 GMT+9付 ロイターより
ロイターによると、米国が4日、米国内の銀行に対し、ロシア政府発行のユーロ債に関する利払の扱いをしないように指示を出したことを理由に、ロシア政府は4月6日に支払期日を迎えたユーロ債の利息をルーブルで支払ったと発表した、と報じています。
そのうえで、ロシア政府側は「外貨準備が制裁の影響で凍結されている間は、同じように金利はルーブルで支払う」と述べた、などとしています。
(※なお、ロイターの記事では「ロシアが1917年のボルシェビキ革命以来、外国から借りた債務のデフォルトを起こしたことがない」とも記載されていますが、この記述は正しくありません。ロシアは1998年に外貨建て債務のデフォルトを発生させているからですが、とりあえず本筋とは関係ないので、本稿では無視します。)
ロイターはまた、米国の措置を巡って、あるファンドマネージャーが「ロシアが支払の意思と能力を使い果たすまでの時間が短縮された」などと述べているとしていますが、まさに今後の焦点は、30日以内に改めてロシア政府がドルで支払いを行うかどうか、といった点にかかっているのでしょう。
また、ロイターの記事ではロシアが発行している外貨建ての債券については15種類、総額400億ドル相当、などとしていますが、先ほどのタス通信の記事と金額が異なっているのは、おそらくは両記事の債券の範囲が異なっているからではないかと思います。
中国を経由した制裁逃れに出て来るか、それとも?
いずれにせよ、ロシアがついに「一線」を越えたことで、いよいよ本格的にロシアのデフォルトが確定する可能性が出て来ました。
もっとも、『西側の対ロシア金融制裁で中国に1000億ドル負担も』などでも議論したとおり、個人的にはロシアが中国の銀行システムを使用するなどして、なんとか外貨建てでの債券の利払を行おうとするのではないかとも予想しています。
実際、ロシアは2021年6月末時点において、外貨準備のうち人民元建てで少なくとも800億ドル程度の外貨準備を所持しているとされています。つまり、ロシアが中国の銀行を使用し、人民元を米ドルに換えて送金するかたちでデフォルトを回避しようとする流れについても予想しておく必要はあるでしょう。
もっとも、この場合は大きく2つの問題点が生じるかもしれません。
ひとつは、実務上、ロシアがユーロ債の支払の取扱者を事後的に中国などの銀行に変更することができるのかどうかという点であり、もうひとつは、中国などの銀行がこれに応じるかどうか、です。
とくに後者に関しては、中国も米国からセカンダリー・サンクションを喰らうのは本意ではないでしょうから、中国の銀行がこれに応じないという可能性もありますし、個人的には「応じない」という可能性が高いと見ている次第です。
いずれにせよ、西側諸国の金融制裁により、ロシアは法的デフォルトを余儀なくされる可能性が上昇したという点では、また一段階、新たなフェーズに入ったという言い方もできますが、それと同時に、ロシアが「開き直る」という可能性もあります。
本件を巡る西側諸国とロシアの神経戦は、まだ当分続くと見ておいて良いでしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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ロシアのCDSをしこたま保有してる金融機関はどこなんでしょうね…。
おはようございます。金融のお話には口をはさむ知識はないのですが、ロシアとウクライナへの対応のことで、日本すばらしいと思えるニュースが本日のサンケイデジタル2面に掲載されていました。
「首相、中国の仲裁危惧。先月G7で懸念訴え。」「欧州は反発。日本の説得は続く。」だそうです。この件では、日米versus独仏のようです。
日本が自分の意見を述べるなんて、思っていたほどクズではないと思いました。甘いでしょうか? でも1万円歳費天引き寄付えっへんのシェーシェーモテギ幹事長は即解任すべきです。
甘いに決まっている
一方的に保護預かりとするのにしても、国外の第三機関によるものでなければ意味がありません。
個人が手元の返済用封筒に現金を入れたからと言って返済をしたことにはならないのと同じです。
*金地金を実勢換算で送り付けるのならまだしも、「紙切れになりかねない自国通貨(かつ独自レート)での決済」なんてのは論外ですね。天然資源のルーブル決済(”先に外貨調達”)は間に合わなかったみたいですね。
ロシアの命運は、中国がどれだけ肩入れするかに左右されそうですね。
今の所中国は「おいおいロシア、なんでこんな無様なんだ……
こいつら見捨てるべきか?でもそしたら次は俺達が針のむしろになるかも知れないし……」
とでも言わんばかりにかなり迷っている様ですが。
もっとも、中国は中国でコロナのアウトブレイクがまた起きた様で
(今まで抑え込んできたと言われても、全く信用できませんでしたが)、
ロシアを支援したくても出来ない、なんてオチもありそうですね。
ロシア関連のCDSの引き受け手は誰?
リーマンショックの時はCDSの引き受け手はAIGだったと記憶しているけど。
ロシアの差し押さえている外貨準備金をウクライナの再建賠償費用に充てていくように動くことはできないのでしょうかね、そうすると戦争を続けるほど、どんどん戦費もかさみ、再建賠償金額も増えていき、足りなくなったら、ロシアの土地さえも差し押さえていくというぐらいのことを国連で決めていく(国連では無理ですね)国際裁判所でもどこでもいいので、差し押さえられている外貨準備金や高官の資産も全部ウクライナの再建に回せるようにしていけば、さすがのロシア国民も早くプーチンを追い出して戦争をやめないと国がつぶれると認識するのでは
もうウクライナの言っていたあの時点で80兆円ならすでにロシアは再建補償を迫られた時点で完全に破綻するのでは
>差し押さえている外貨準備金をウクライナの再建賠償費用に充てていく
面白いと思いました。既に、
差押え外貨準備4000億ドル<損害額80兆円(ウクライナ主張)
なので、既に差し押さえられた外貨準備は全額召し上げですね。
それ以外のロシア国内の土地や資産の差し押さえとなると、ロシアが全面降伏でもしない限りは無理じゃないでしょうか。
どっちみち、ロシア軍の電撃戦失敗時のBプランは焦土化しか無いみたいですから、加減はできないような気がします。
重い現実ですが。
良い案ですね
既に凍結している現なまだけでは足りないので
レニングラードあたりを割譲決定ですね
もちろん現在住んでいるロシア人は不法占拠扱いだから、戦争が終わると同時に全員が退去する形で
新宿会計士様
いつも勉強になる記事の配信、ありがとうございます。
私は金融に関する知識がありません。
そこで、下記の2点につき
①国家がデフォルトした場合、どのような不利益が予想されるのでしょうか?
②仮に今回、ロシアがデフォルトを起こした場合、信用不安というより経済制裁の結果だと思われます。こういう場合でもデフォルトには代わりは無いという事なのでしょうか?
可能であれば、どこかのタイミングで記事にて言及いただければ幸いです。
勝手なお願いで恐縮です。
皆さん、お尋ねします。
もしロシアが国連分担金をルーブルで支払ったら、どうなるのでしょうか。(すでに、ルーブルで支払っていたら申し訳ございません)
国連が市場で売り払って必要な通貨に換金するのかと。
韓国がイランの未納負担金を支払ったのも外貨を溶かさなくて(ウォンで決済)よかったからだと思います。
国連分担金はドル支払いが必須という条項あったっけ?
よく知らんけど
いに、ロシアは何か正しいことをした。 ロシアとウクライナの戦争が始まって以来、ロシアに対する私の見方は変わりました。 もちろん、私は彼らの人々を悪く思わない。 その代わり、私は彼らの政府を取るに足らないものと見ている。 偏見を持っているだけなのか、個人的には戦争についてよく知らないのかもしれないが、ロシアは今のところ良くない状況にある。