デジタル人民元がロシアに対する経済制裁の「穴」になるかもしれない、といった議論を発見しました。正直、執筆された方は金融市場の専門家というわけではなく、人民元自体、オフショア債券市場やデリバティブ市場が未成熟であるという点に言及がない時点で、議論としては不十分と言わざるを得ません。ただ、中国が「人民元ブロック経済圏」を作り、そこにロシアを引き込むという可能性については、警戒は必要です。
目次
外貨準備凍結措置
対ロシア制裁の本質は「ハード・カレンシーの没収」
ロシアに対する西側諸国による経済・金融制裁については、基本的には「ロシアからハード・カレンシーを取り上げるもの」だと考えておけば良いと思います。
ここで、拙著からの引用で恐縮ですが、「ハード・カレンシー」とは「その通貨の発行国・地域だけでなく、広く全世界で通用する通貨」のことであり、俗に「国際通貨」「基軸通貨・準基軸通貨」などと呼ばれている通貨のことだと考えていただければよいと思います(正確な定義ではありませんが)。
では、ロシアが保有している外貨準備に対し、どれほどの影響が生じたのでしょうか。
事実関係を確認しておくと、2022年1月末時点において、ロシアが保有している外貨準備は6302億ドルですが、その内訳は図表1のとおりです。
図表1 ロシアの外貨準備(2022年1月末時点)
項目 | 金額(ドル換算) | 構成比 |
---|---|---|
有価証券 | 3113億ドル | 49.39% |
預け金 | 1520億ドル | 24.11% |
IMF-RP | 52億ドル | 0.83% |
SDR | 241億ドル | 3.82% |
金 | 1323億ドル | 20.99% |
外貨準備その他 | 54億ドル | 0.86% |
外貨準備合計 | 6302億ドル | 100.00% |
(【出所】International Monetary Fund, International Reserves and Foreign Currency Liquidity より著者作成)
これらの項目のうち、一般に「すぐに使用できる外貨準備」といえば、有価証券(3113億ドル)や預け金(1520億ドル)であり、金(マネタリー・ゴールド)1323億ドル、特別引出権(SDR)241億ドル、IMFリザーブポジション52億ドルについては、すぐに使用できるものではありません。
したがって、西側諸国の制裁のターゲットも、3113億ドルの有価証券、1520億ドルの預け金の合計4632億ドルに向けられていると考えて良いでしょう(ちなみに有価証券・預け金4632億ドルと金地金1323億ドルの合計額は、ざっくり6000億ドル弱、といったところです)。
通貨別内訳
もっとも、合計4632億ドル分の有価証券や預け金の通貨別内訳は、IMFのデータ上、明らかではありません。
ただ、『ロシア「非友好国リスト」は金融制裁が効いている証拠』などでも引用したとおり、ロシア中央銀行のレポート(※)によれば、2021年6月末時点において、ロシアの外貨準備の21.7%を金が、13.1%を人民元が占めている、と記載されています。
(※レポートの表題は “BANK OF RUSSIA FOREIGN EXCHANGE AND GOLD ASSET MANAGEMENT REPORT” で、表紙を含めて9ページからなるレポートですが、リンクを張ることについては控えておきます。)
中国は対露「1000億ドル支援」に耐えられるかロシアによる「非友好国リスト」に対する事実上の「借金踏み倒し宣言」は、ロシアに対する「SWIFT排除」「外貨準備凍結」「起債制限」などの金融制裁がてきめんに効いている証拠です。そして、明らかに国際法に違反する大統領令を出したことで、ロシアは却って国際的な信用を喪失することになるでしょう。本稿ではこれについて、報道や統計データなどをもとに、その実態を詳細に検討してみます。ロシアの違法な一方的宣言「非友好国リスト」は一種の「借金踏み倒し宣言」『「借金踏み... ロシア「非友好国リスト」は金融制裁が効いている証拠 - 新宿会計士の政治経済評論 |
こうしたなか、金地金、現金預金、有価証券の3項目に限定したうえで、同レポートを組み合わせて2021年6月末時点のロシアの外貨準備を推計したものが、次の図表2です。
図表2 ロシアの外貨準備の通貨別構成・推定金額(2021年6月末時点、SDR/IMFRP除く)
種類 | 割合 | 推定金額 |
---|---|---|
ユーロ | 32.30% | 1942億ドル |
金 | 21.70% | 1304億ドル |
米ドル | 16.40% | 986億ドル |
人民元 | 13.10% | 787億ドル |
英ポンド | 6.50% | 391億ドル |
日本円 | 5.70% | 343億ドル |
加ドル | 3.00% | 180億ドル |
豪ドル | 1.00% | 60億ドル |
その他 | 0.30% | 18億ドル |
合計 | 100.00% | 6011億ドル |
うち、金地金以外 | 78.30% | 4707億ドル |
(【出所】ロシア中央銀行、国際通貨基金)
「消えた1000億ドル」の謎
図表1と図表2は時点が異なっており、また、項目もきれいに対応しているわけではないので、少しわかり辛いのですが、それでも先ほど図表1のところで述べた「預け金+有価証券」の合計額・4632億ドルと、図表2の「金地金以外」の4707億ドルが、ほぼ一致していることから、さほど見当外れというわけでもなさそうです。
ここで外貨準備の構成が図表2のとおりだったと仮定し、また、人民元と金(マネタリー・ゴールド)については凍結されていないと仮定すれば、凍結されている金額は最大で4000億ドル前後(つまり「凍結されていない金額」は最低でも2000億ドル前後)です。
一方で、ロシア当局の発表に基づけば、ロシアが保有している外貨準備は総額が6400億ドルほどであり、このうち西側主要国の金融制裁の影響で凍結されてしまっているのは3000億ドル前後だそうです(『西側、制裁逃れのロシアに今度は外貨準備の金取引規制』等参照)。
ウクライナ戦争に伴い西側諸国はロシアの外貨準備を凍結しました。ロシアはこれを逃れるために、「非友好国に対しては天然ガスをルーブルでしか売らない」と発表したりしています。こうしたなか、西側諸国はロシアの外貨準備のうち、1300億ドル以上を占めると見られる金地金をターゲットにし始めたようですが、もともと金地金を決済手段として使うのは極めて非現実的でもあります。ロシアの外貨準備の凍結外貨準備の凍結がロシアに与えた影響ウクライナ戦争を巡っては、開戦から1ヵ月以上が経過するにも関わらず、依然としてロシア側... 西側、制裁逃れのロシアに今度は外貨準備の金取引規制 - 新宿会計士の政治経済評論 |
このあたり、「3000億ドル」と「4000億ドル」だと、1000億ドル前後の隔たりがあり、どちらが正しいのか(あるいはどちらも正しくないのか)については、よくわかりません。
もしロシアが主張する「3000億ドル」ならば、人民元建ての資産の割合が図表2に示したよりも多くなる可能性が高いのですが、正直、ロシアが2021年6月末と比べ、そこまで人民元建ての資産の割合を急激に増やしていると考えるのも不自然です。
この「消えた1000億ドル」、いったいどこに行ったのでしょうか?
これに関してはいくつかの仮説が考えられます。
たとえば、ロシア政府が1000億ドル分の外国現金を「紙幣」で国内に保管している、という可能性も考えられなくもないのですが、1000億ドル分といえば、100ドル紙幣に換算して10億枚(!)ということであり、100ドル紙幣1枚が1グラムだとすれば、重量換算で1000トン(!)と、少々非現実的です。
また、この1000億ドルについては、ロシア中央銀行がオフショアの銀行に仮名口座を開設して隠匿しているという可能性もないではありません(もしそうだとしたら、ロシア中央銀行はどこかの犯罪組織が使うマネロンと同じ手法でも使っている、ということなのでしょうか?)。
いずれにせよ、凍結されているロシアの外貨準備の金額が3000億ドルなのか、4000億ドルなのか、そしてその差額の1000億ドルがどこに消えてしまっているのか、といった実態については、結局はよくわからないのです。
ロシアは人民元へのアクセスは失っていない
ただし、ここで重要なことは、「凍結されている外貨準備の正確な金額」ではなく、「ロシアが外貨支払能力を制限されている」という事実です。
今回、G7を含めた世界各国がロシアの外貨準備の凍結、新規の債券発行の禁止措置などに踏み切ったことで、ロシアはハード・カレンシーへのアクセス能力をかなり制限されています。
そして、ロシアの通貨・ルーブルは国際的なハード・カレンシーではありませんので、ルーブルで外国からさまざまな製品を購入する、といったことはできません。制裁が長期化すれば、ロシアは外国からさまざまな製品を買って来ることもままならなくなるかもしれません。
(※もっとも、西側諸国はこれらの金融制裁に加え、ロシアに対して半導体などの輸出を制限する措置を講じていますので、もしもおカネがあったとしてもロシアが西側諸国から自由に製品を輸入することは難しい実情ですが…。)
そして、もうひとつ重要な点があるとしたら、ロシアは人民元へのアクセスについては制限されていない、という点でしょう。中国自身が国際的な金融制裁に加わっていないからです。
人民元の使い勝手とは?
人民元自体は国際的な決済通貨ではない
ただし、人民元自体が国際的な決済通貨として適格性があるかどうかといわれれば、そこはまた非常に微妙でしょう。人民元という通貨自体が、中国国外でも広く使われている、という状況にはないからです。
米ドルの場合だと、たとえば米国が介在しない取引(石油取引など)においても使用されていますが、人民元の場合は、たとえば「日本がサウジアラビアから石油を輸入するのに人民元を使う」、といった取引は、現状において、ほとんど考えられません。
これに加え、『人民元は基軸通貨とならない①成長が止まった債券市場』でも議論しましたが、そもそもある通貨が国際的なハード・カレンシーといえるかどうかに関しては、その通貨で国際的な債券の発行が活発になされているかどうかが重要です。
中国の通貨・人民元が米ドルに代わって基軸通貨になることがあり得るのか。結論的には「NO」です。なぜならそもそも基本的なレベルで人民元が国際通貨として機能していないからです。人民元が国際的にどのように使われているかに関する統計にはさまざまなものがあるのですが、本稿では「オフショア債券市場統計」という見慣れない統計とともに、そもそもの前提条件として、そもそも中国が人民元の国際化に対する覚悟を持っていない、という点を指摘しておきたいと思います。通貨の実力人民元に関する一連論考の予定現在、とある事情... 人民元は基軸通貨とならない①成長が止まった債券市場 - 新宿会計士の政治経済評論 |
この点、人民元建てのオフショア債券市場については、2015年を境に、成長がピタリと止まっていることを、当ウェブサイトでは過去に何度か指摘してきています(たとえば『国際的な債券市場と人民元:2015年を境に成長停止』など)。
当ウェブサイトでは「通貨」を切り口に、国際的なハード・カレンシー、ソフト・カレンシーなどの議論を続けてきました。こうしたなか、「自由で開かれたインド太平洋」などの構想に賛同していない国の通貨が、国際的な金融市場で大きな力を得ることについては、私たち西側諸国の国民としては警戒しなければなりません。こうしたなか、人民元の力を読むうえで、参考になるのが「債券」という切り口です。債券市場の重要性債券と債権:2種類の「さいけん」債券(さいけん)という金融商品があります。債権(さいけん)と日本語の発音は... 国際的な債券市場と人民元:2015年を境に成長停止 - 新宿会計士の政治経済評論 |
そして、中国のオフショア債券市場の成長が2015年前後を境にピタリと止まったことについては、「中国が本気で人民元の国際化をするつもりがないからだ」、という仮説を置けば、大変にうまく説明が付きます。
今から約2年前の『いったいなぜ、IMFは人民元をSDRに加えたのか』でも議論しましたが、中国は人民元のIMFの特別引出権(SDR)構成通貨入りを目指し、オフショア債券市場などを創設したものの、2016年10月にこの目標が達成されたことをもって、これ以上の人民元国際化を避けた、という可能性です。
本稿は、当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』を開設する動機のひとつでもある、「中国の通貨・人民元の本質」について、改めて振り返っておこうという企画です。今から3年少々前に、当ウェブサイトでは『人民元のハード・カレンシー化という誤解』という記事を皮切りに、人民元をテーマにした記事をいくつか執筆しました。その際に提示した疑問点が、「なぜ人民元のように自由利用可能とはいえない通貨をIMFはSDRの構成通貨に指定したのか」という点なのですが、これについて現時点で最も納得がいく論考を発見しました... いったいなぜ、IMFは人民元をSDRに加えたのか - 新宿会計士の政治経済評論 |
国際収支のトリレンマという経済学の「掟」
ではなぜ、中国が人民元の国際化を嫌がるのでしょうか。
その最たる理由は、「国際収支のトリレンマ」と呼ばれる、経済学の「掟(おきて)」にあります。
『月刊Hanada2022年3月号』に寄稿した『デジタル人民元脅威論者たちの罠』という記事で議論した内容とも重なるのですが、基本的に地球上のありとあらゆる国は、「3つの金融目標」を同時に達成することができません。
この「3つの金融目標」とは、①資本移動の自由、②為替相場の安定、③金融政策の独立、です。
ある通貨が国際的なハード・カレンシーとなるためには、このうち「①資本移動の自由」が保証されていることが必要です。その通貨が国際的な取引に使用されるためには、おカネが国境を越えて自由に移動できなければならないのは、ある意味で当然の話でしょう。
ところが、国家がこの「①資本移動の自由」を保証すると、ほかの「②為替相場の安定」、「③金融政策の独立」の2つの目標のうち、どちらか1つを放棄しなければなりません。
たとえば、国境を越えた資金移動が自由にできるという状況のもとで、中央銀行が利上げして外国よりも金利が高くなれば、その高金利を目当てに外国からその国に投機資金が殺到し、結果としてその国の通貨の価値が上昇してしまいます(現在の米国のような状況でしょう)。
日本、米国、欧州中央銀行(ECB)、英国などは、「③金融政策の独立」を重視していますので、その結果、「②為替相場の安定」を捨てています。米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドといった主要通貨は、お互いにてんでバラバラに乱高下します(とくに英ポンドのボラティリティの激しさは外為市場では有名です)。
これに対し、「①資本移動の自由」を保証しながら「②為替相場の安定」を重視するならば、「③金融政策の独立」という目標を捨てなければなりません。香港の場合は米ドルに対して1米ドル≒7.8香港ドルの準固定相場を採用しており、香港金融管理局(HKMA)は米FRBの金融政策に、ほぼ追随しています。
「デジタル人民元がドル覇権を揺るがす」、本当?
おそらく中国の場合、「②為替相場の安定」、「③金融政策の独立」という2つの目標を捨てることができないため、仕方がなしに、「①資本移動の自由」を制限せざるを得ないのです。
だからこそ、IMFのSDRの構成通貨でありながら、人民元はオフショア債券市場が未成熟であり、デリバティブ市場についても未発達であるなど、いまだに使い勝手が非常に悪く、国際的な企業の資本取引に適した通貨ではないのです。
そして、『月刊Hanada』でも説明したとおり、人民元については最近、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の一種である「デジタル人民元」の試験がさかんに行われていますが、通貨をデジタル化したところで、そもそも人民元での資本取引が制限されているという状況はかわりません。
この点、中国の通貨・人民元自体が米ドルに代替する国際的な基軸通貨となる、という可能性は非常に低いものの、中国はこれとは別に、人民元ブロック経済圏の創設を目論んでいるフシもあるため、こうした動きに注意する必要はあるでしょう。
デジタル人民元を警戒する東洋経済オンラインの記事
しかし、「デジタル人民元が米ドルに代わって世界の基軸通貨になる」、といった議論を読んでいると、正直、お話にならないものも多々あります。ウェブ評論サイト『東洋経済オンライン』に先日掲載されていた、こんな記事なども、その典型例でしょう。
デジタル人民元で対ロシア制裁すり抜けは可能か/ドル覇権の弱体化を狙う中国の思惑
―――2022/03/30 8:30付 東洋経済オンラインより
リンク先記事、端的にいえば、「人民元決済がロシアに対する西側諸国の制裁の抜け穴となる可能性がある」、というもので、とくに中国が「デジタル人民元」を「ドル覇権弱体化」の切り札にしている、とする主張です。
執筆されたのは共同通信の客員論説委員の方だそうで、ジャーナリストご出身の方らしく、綿密な取材などをなさっているのは間違いないのですが、大変残念なことに、人民元の債券市場、デリバティブ市場が未成熟であるという点に言及がありません。
正直、「デジタル人民元がドル覇権を揺るがす」とする主張については、ほかにも各所で見かけるのですが、「デジタル人民元は便利な支払手段だ」、という印象と、「だからデジタル人民元がドル覇権の脅威となる」という結論が短絡的に結びついてしまっているのは大変に残念です。
この点、この東洋経済の記事でも、ウラジミル・プーチン大統領が2022年2月3日付の新華社への寄稿で、「中露は(ドルを介さない)両国通貨決済を継続的に拡大し、一方的制裁の悪影響を埋める仕組みを作って来た」と書いた、と指摘します。
しかし、中露両国の貿易で人民元ないしロシア・ルーブルが使われることはあっても、中露以外の国との貿易でこれらの通貨を使うことは難しいのが実情でしょう。
さらに、東洋経済の記事では、ロシアが2014年に導入した「SPFS」と呼ばれる金融メッセージシステム、中国が2015年に導入した「CIPS」と呼ばれる人民元建ての国際決済システムにも言及があるのですが、どちらもSWIFTと比べて市場シェアは微々たるものです。
通貨をデジタル化しても制度自体が変わらなければ意味がない
そのうえで、デジタル人民元については、次のように記載されています。
「デジタル人民元ベースの国際決済にはドルが介在しないため、長期的にはドルの国際的影響力が弱まる可能性がある」。
なりません。
デジタル人民元について、著者の方がどこまで理解なさっているのかは存じませんが、基本的にCBDCは紙のおカネ(=紙幣)、金属のおカネ(=コイン)を電子化したものです。
また、決済記録などを巡ってはブロックチェーンの仕組みを使うこともありますが、当ウェブサイトなりの私見に基づけば、ブロックチェーン自体、実際には日常的に大量の取引の記録には適していません。ブロックチェーンが今すぐSWIFTに代替するほど安定した技術ではないのです。
だいいち、いくらデジタル人民元の「通貨としての」使い勝手が上昇したとしても、人民元が国際的な債券発行、デリバティブ取引などに適した通貨ではないという前提条件が変わっていない以上、「ドルの国際的な影響力が弱まる」という議論にはつながりません。
ブロック経済圏には要注意!
ただし、ロシアの今回のウクライナ侵攻と、これに伴う国際社会の経済・金融制裁は、結果的に中国にとっては、人民元の国際的地位を高めるという意味で「漁夫の利」を得る可能性があることも事実でしょう。
個人的に、人民元が今すぐ、米ドルに代替する国際的なハード・カレンシーとなるとは考えていませんが、それと同時に、中国共産党としては、まずは「人民元ブロック経済圏」を作ろうとしているフシがあるのです。
かつて世界は西側と東側に分断され、鉄のカーテンの左右で経済圏自体がまったく異なっている、という事態が生じていました。
つまり、かつてのソ連・ルーブル経済圏を復活させるにせよ、新たに人民元経済圏を創設するにせよ、「米ドル・ユーロ・日本円」などを中心とした西側経済から分離したブロック経済圏を作り、人民元(ないしルーブル?)がそのブロック経済圏の「盟主」となれば良い、という発想です。
この場合、人民元は米ドル・ユーロ・日本円などの「西側経済圏」に対しては資本移動の自由を認めず、人民元経済圏に属する諸国(中国、ロシア、パキスタン、北朝鮮、ベラルーシ、韓国など)に関しては資本移動の自由を完全に認める、といった扱いがなされるかもしれません。
このように考えていくと、むしろ中国が狙っているのは「人民元の国際化」ではなく「人民元のブロック化」ではないでしょうか。
もちろん、ロシアが素直に「人民元ブロック経済圏」の軍門に下るかどうかは微妙ですし、中露が共通通貨を創設する、といった構想も、両国の経済規模の違いなどを踏まえるならば、非現実的です。
しかし、中露がお互いの通貨での貿易決済の比重を高めることや、西側諸国が禁止する品目が中国経由でロシアに輸出される、といった可能性については、十分に織り込んでおいて良い論点ではないでしょうか。
その意味では、「デジタル人民元」云々の雑な議論は脇に置くとしても、いずれ中国がロシア制裁の「抜け穴」となる可能性がある、という点については、当ウェブサイトとしては同意したいと思います。
もっとも、次に来る論点は、中国を含めた「西側諸国の金融・経済制裁の穴となり得る国」に対するセカンダリー・サンクション(二次的制裁)ではないかと思うのですが、これについては、可能ならば近いうちに別稿にて議論したいと思う次第です。
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そう言えば、金の産出量にて中国とロシアは1位と3位ですが。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/gold.html
ブロック経済構築にあたって此れはポジティブな条件なのか、ふと思いました。
中露における人民元通貨圏や共通通貨の実現には無理があるにしても、西側のテクノロジーや外貨を欲するロシア側の事情と食糧やエネルギーを欲する中国側の事情を鑑みれば、米ドルを介さない「両建てor輸出側の自国通貨建て」での通貨互助会的経済圏(レッドゾーン?)の実現は十分にあり得そうな気がします。
ただし、制限中のテクノロジーや外貨の授受の事実をもって、中国に対してのセカンダリー制裁発動要件を満たしてしまうんでしょうけどね・・。
ロシアはインドに対してもルーブル・ルピーでの直接取引の仕組みの構築を模索しているようです。当事者達の口は固いようです。
4/1 reuter ロシア、「友好国」インドとの貿易で西側制裁回避 外相が訪問
https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-india-currency-idJPKCN2LT3QA
ラブロフ外相は、両国はロシアルーブルとインドルピーで原油や軍用機器などの取り引きを決済するとし、ロシアにはインドに必要なものを供給する用意があると表明。
3/30 bloomberg ロシア、インドにSWIFTに代わる決済手段の利用提案-関係者
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-03-30/R9JOY8DWLU6M01
インドは、厳しい国際的制裁を受けるロシアから原油や武器を引き続き購入したい意向。ロシア側の提案には、メッセージシステムSPFSを利用するルピーとルーブル建ての決済が含まれるという。ロシア中銀の当局者が詳細を詰めるため来週インドを訪問する公算が大きい
3/11 bloomberg インド、ロシアとの取引でルピーやルーブルでの決済を検討-関係者
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-03-11/R8KRG8DWRGG701
ロシアの銀行に対する制裁措置の影響で、インドの輸出業者に対して、約5億ドル(約584億円)の支払いが保留されている。
インド・ルピーとロシア・ルーブルが
交換成立しても、両国間だけで
それ以外の世界では通用しません。
鳩山・ルーピーとロシア・プーチンが
友愛成立しても、ならず者間だけで
世界はもとより、
日本国内でも相手にされません。 (^.^)
ラブロフ外相のインド訪問の実体は「作り笑顔のセールスマンを演じた」と要約できると思います。
Times of India 紙 2022-4-2 記事
https://timesofindia.indiatimes.com/india/lavrov-will-bypass-sanctions-to-supply-any-goods-to-india/articleshow/90600108.cms
見出しははっきりこう記されています
Lavrov: Will bypass sanctions to supply any goods to India
インド側が原理原則に則って行動せよと言葉少なに応じているのに対して、外相はロシアの言い分に饒舌をふるったという伝え方になっています。
(リターンキー推し過ぎでまたもうっかり誤投稿したのは、はにわファクトリーです)
インドとしては派手にはできないものの、目下の多少の実利はあるのだから、ロシア側があまり宣伝しないほうがうまくいくかもしれないですね。
東洋経済の記事を読みましたが、一点だけ。
>木内登英氏は「デジタル人民元による取引は、アメリカドルが介在しない『ブロックチェーン取引』のため、SWIFTは取引を捕捉できない」と説明する。
中国人民銀行が、デジタル人民元には当面ブロックチェーンは取り入れないって言ってたと思います。
あとは、「SWIFTを回避できる理由がブロックチェーン技術」、という言い方もあまり正しくなくて、直接的には関係ないと思います。
ブロックチェーン技術が何なのか。
サトシ・ナカモトがbitcoinを世に問うた最初の論文と言われているものが今も読めます。
ブロックチェーンの基本的な考え方がまさに記されています。
現在のbitcoinはブロックに含めるデータの範囲が変わるなど、マイナーチェンジをしていますが基本的な考え方は変わっていません。
原文
https://bitcoin.org/bitcoin.pdf
日本語訳
https://bitcoin.org/files/bitcoin-paper/bitcoin_jp.pdf
(送金)トランザクションデータを束ねたブロックというデータの塊を、一筋につなげていきますが、前のブロックのハッシュ値(関数にブロックを入れて出た答え)を次のブロックに含めることで、最新のブロックから最初のブロックまで辿っていくことができます。信頼性を担保する仕組みも合わせて作り込んでいます。
西側諸国と取引しようとするから、基軸通貨問題は生じますが
セカンドCOCOM圏内であれば、基軸通貨問題は生じないと思いたいです。
圏内だけなんだけども、裏側にある基軸通貨との交換レートが微妙に
引っ掛かってくると思うからです。
圏内基軸通貨は「元」になるのでしょうか?
「ルーブル」が圏内で日本円のような働きができるかどうかが問題だと
思います。 園内に参加するのは露・中・何とか半島諸国あたりかな?
印・ベトナムはどうするのか?
問題は残りの東南アジアなんですよね~。 どっちつかずになるのかな?
いつも楽しみに拝読しております。
人民元のブロック経済化を目論んでいる中国から見たら、今の追い込まれているロシアは逆に美味しい獲物に見えているかもしれません。この後の展開次第ですが、プーチン政権が崩壊し混乱の中でロシアが外国の切取り放題になったら、中国は迷わずロシア極東に進出して傀儡政権を作ろうとするように思います。
中国もロシアも、条約や約束を屁とも思わないならず者国家なので、十分あり得るシナリオのように思いますが、その時に我が国の北方領土がどうなるのかなぁと妄想しています。
インドとロシアは関係が良好だが、その理由はロシア(旧ソ連)と中国の仲が悪いということだったはず。ロシアと中国が手を結べばインドはどうするのだろう。
確かにロシアは負けないにせよ勝てはしない戦争を始めてしまった。
ロシアの国力激減 → 中国より支援 →中国より物購入 → 中国ブロック経済圏 →
元ルーブルレートキンペー次第 → ロシア激怒(インド、パキスタン、等中国西側働き掛け)
ですかね、今後の動きは。
北方領土の件はこの騒ぎがどこまで大きくなるか。
それ次第で東欧もロシアにいじめられた大きさ比例で騒ぎが大きくなるでしょう。
必ず
アメリカがどこまでを狙っているかですが。(まさかウクライナを助けるためだけ?)