自民党PT中間報告に含まれる財政健全化という大ウソ

下村博文、宮沢洋一の両氏は、国を滅亡させようとしているのでしょうか。自民党の財政再建PTが取りまとめた中間報告書では、「財政健全化」という、非常にわかりやすいウソが堂々と盛り込まれています。新型コロナウィルス感染症拡大に伴う財政出動の次は、その反動として、再び財務省による「増税不況」が到来する危険性があります。それを防ぐためには、私たち有権者が財政に関する正しい知識を身に着ける以外にありません。

度重なる、「国の借金と財政破綻」論のウソ

当ウェブサイト『数字で読む日本経済』シリーズや、今年刊行した拙著『数字でみる「強い」日本経済』などを含め、これまで何度も説明して来た論点が、「国の借金と財政破綻」論の大ウソです。

あらためて説明すると、これは「日本には『国の借金』がたくさんある」、「『国の借金』がGDPの2倍を超えている」、などとする議論で、たいていの場合、「だからこそ増税(または緊縮財政)が必要だ」、とする結論につながります。

「国の借金と財政破綻」論
  • ①日本には「国の借金」が山ほどある。
  • ②このままでは日本はにっちもさっちもいかなくなり、財政破綻する。
  • ③財政破綻を避けるためには、財政再建が避けられない。
  • ④財政再建のためには、いま、増税と歳出削減が必要だ。

この「国の借金と財政破綻」論、個人にたとえてみれば、非常にわかりやすいということもあり、多くの人が盲信しています。

数字も理論もなく財政破綻を議論するとは…

しかも、まことに残念な話ですが、「公認会計士」と名乗る人を含めた集団が執筆した書籍にも、そのような主張が含まれています。たとえば、2012年10月29日に某出版社から出版されたとある書籍の122ページ目には、こんな記述が含まれています。

よく耳にするのが『海外の国は国債を世界中で売っている。特にアメリカ国際派90%を海外の銀行、金融機関、投資家が買っている。しかし日本の国債は日本人が持っているからデフォルトしない。日本は大丈夫だ』という話です。初めてこれを聞いた時になぜ、みんなビックリしないのかが不思議でした。日本の国債は日本人が持っているからデフォルトしないというのは、よく考えてみると日本人は国債を買ってもお金に換えてくれとは言わないから大丈夫ですという事なのでしょうか。(中略)こんなひどい話はないと思いますが(後略)」

「武士の情け」ではありませんが、あえて著者の実名、出版物の名前は伏せておきます。

「こんなひどい話」とは、資金循環統計も経済学の基礎理論もなしに「日本の財政破綻は今日起こってもおかしくはない!」などと主張する、彼ら自身のことではないでしょうか。

いちおう、マジメに突っ込んでおきましょう。

①日本には「国の借金」が山ほどある。

→「国の借金」なる概念は、そもそも存在しません。国債などは「国の借金」ではありません。「中央政府の金融負債」です。また、経済主体として個人と中央政府は別物であり、日本国が存在する限り、中央政府は永続します。

②このままでは日本はにっちもさっちもいかなくなり、財政破綻する。

→「財政破綻」の定義が「国債デフォルト」を指しているのだとしたら、「国債デフォルトの3要件」をすべて満たさない限り、日本国債は絶っっっっっっっっっっ対にデフォルトしません。

③財政破綻を避けるためには、財政再建が避けられない。

→財政再建が必要かどうかは、国債の絶対額やGDPとの比較で決まるのではありません。日本のように自国通貨で国債を発行していて、国内に莫大なデフレギャップを抱えているような国の場合、むしろ財政拡大が必要な局面もあります(ちなみにいまがその局面です)。

④財政再建のためには、いま、増税と歳出削減が必要だ。

→百歩譲って財政再建(債務削減)が必要だとなった場合には、増税と歳出削減の前に、少なくとも1兆円を超える金融資産を保有しているNHKの解体・資産の国庫返納、外為特会の日銀移管、天下り法人の解散、電波オークションの実施など、各種資産の売却・有効活用を実施すべきです。

資金循環統計を無視するな!

つまり、「国の借金が多すぎるから財政再建しなければならない」というのは、議論がイチから間違っているというお粗末な代物なのですが、これを大真面目に信じ込んでいる人が多いというのもおかしな話でしょう。

だいいち、「国の借金が1000兆円を超えている」と問題視する人たちは、なぜ、「家計金融資産が2000兆円近くに達しようとしている」という点を問題視しないのでしょうか。

金融商品の世界では、「誰かにとっての資産」は、「他の誰かにとっての負債」です。

国債は中央政府にとっては負債ですが、預金取扱機関や中央銀行にとっては資産です。

預金は預金取扱機関にとって負債ですが、家計にとっては資産です。

つまり、日本国債は、間接的には家計が保有する1880兆円という莫大な金融資産、企業が保有する300兆円を超える預金などが回りまわって運用されているなかのごく一部分にすぎず、そして日本全体で金融資産が有り余っているため、むしろ外国に純額で373兆円貸している状態です。

図表 日本全体の資金循環(2020年6月時点・ストック、速報値)(※クリックで拡大、大容量注意)

上記のPDF版

(【出所】日銀『データの一括ダウンロード』のページより『資金循環統計』データを入手して加工)

逆にいえば、日本国債は少なく見積もって373兆円、下手すると500~800兆円くらいは増発する余地がある、ということです(もう少し正確にいえば、「日本国内でそのくらいの資金需要が発生しなければ、デフレ圧力も緩和しない、ということです)。

それなのに、デフレ下の日本では消費税などの増税が実施されて来ました。いわば、凍傷にかかっている人の患部を一生懸命氷で冷やしているようなものですね。その意味では、誤った概念を広めて増税を主導してきた財務官僚こそ、日本の「失われた30年」を主導してきた最大の戦犯なのでしょう。

下村博文と宮沢洋一の両氏は恥を知れ!

こうしたなか、またしても意味不明な「提言」が出て来たようです。

財政危機なら円急落 健全化への道筋提示を―自民PT・中間報告

―――2020年11月20日07時15分付 時事通信より

この記事は、19日に明らかになった、下村博文・自民党政調会長が本部長を務める「自民党財政再建推進本部」のプロジェクトチーム(座長は宮沢洋一元経済産業相)がまとめた「中間報告」の内容を取り上げたものです。

これによると、「財政危機が発生した場合は、外国為替市場で円の急落を招く懸念がある」などとしたうえで、新型コロナウィルス対策での大規模な財政出動を巡っても、「中期的な観点から財政健全化の道筋に戻って行かなければならない」、などとしているのだとか。

さらに、時事通信によれば、中間報告では財政拡張について「子や孫の世代に負担を先送りし続けることは無責任だ」、「メリハリの利いた財政政策が求められている」などとしているのだそうです。

正直、下村博文、宮沢洋一の両氏を筆頭に、このタイミングでこの手の中間報告を取りまとめた自民党の神経を疑います。果たして彼らは、日本の「失われた30年」を、「失われた40年」、「失われた50年」、「失われた100年」にしたいのでしょうか?

それに、「子や孫の世代に負担を先送りすることは無責任」とする言説こそ無責任です。

当たり前の話ですが、子供の教育や通信網など、さまざまなインフラなどに現時点で投資をすれば、それは将来にわたって莫大な恩恵をもたらします。その意味では、本来、それらのインフラ投資は、むしろ「受益者」たる私たちの子供や孫が負担すべき話でしょう。

なにより、「貨幣価値は変わらない」という前提を勝手に置くのもやめてもらいたいですね。

プラスの経済成長が続けば、名目債務の価値は減少します。

たとえば、現在のGDPが500兆円、国債の発行残高が1000兆円だったとすれば、「国債GDP比率」は200%です。しかし、仮に国債の発行残高が1000兆円のままだったとして、毎年2%の経済成長が続けば、35年後にはGDPは1000兆円になります。

つまり、べつに増税も何もしなくても、経済成長だけ達成し続ければ、「国債GDP比率」は勝手に100%に落ちるのです。さらに、2012年以降の「アベノミクス」の経験でもわかるとおり、経済成長が続けば税収も増えますので、国債発行残高が1000兆円のままで推移するとは限りません。

こうした議論を一切無視して、なにが「円の信認を守る」、ですか。

下村博文、宮沢洋一の両氏は恥を知りなさい。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

さて、東京都では昨日、新型コロナウィルスの陽性者数が534人と、初めて500人台に乗りました。これを受けて東京都は感染状況を「感染が拡大していると思われる」、医療提供体制を「体制強化が必要であると思われる」とそれぞれコメントしています。

これから冬場を迎えるなか、感染拡大には注意が必要であり、これまで以上に「集合・近接・閉鎖(しゅう・きん・ぺい)」を避けなければならないことは言うまでもないことですが、それと同時に万が一、ふたたび経済活動が停止することがあれば、その際には再び大規模な財政出動を余儀なくされるでしょう。

そのように考えていくならば、2019年10月の消費税・地方消費税の増税は、政策としてハッキリ「間違っていた」と認め、この際、消費税と地方消費税の適用を停止すべき(あるいは新聞以外の全品目を「ゼロ%軽減税率」の対象に指定すべき)でしょう。

それも、租税特別措置法に条文を1本付け加えれば済む話です。

是非、菅義偉、麻生太郎の両総理にはご英断を願いたいと思う次第です。

読者コメント一覧

  1. ミナミ より:

    国会財政と家計簿は全く別次元の話です
    家計(お父さん)には寿命がありますが、国家にはありません
    家計(お父さん)には通貨発行権がありませんが、国家にはあります

    財政破綻ガーとか言われますが、今年コロナ事態で60兆円もの臨時支出を余裕で出しました
    更に30兆円の臨時支出をするとも言われています
    それでも国債金利は全く動きませんでしたし、
    インフレ率もむしろ下がってデフレ再突入になりそうな情勢です

    この昨今の事態から、多くの人に財政破綻論、ハイパーインフレ論は、
    財務省による悪質なプロパガンダでしか無いと、気付いて頂きたいものです
    失われた20年30年は、その大半の理由は財務省と日銀の失政と、
    それに対抗できなかった政治家のせいです

  2. 茶筒 より:

    更新お疲れ様です。
    それにしても、麻生さんは何をやってるのでしょうね?
    私の中では、最近国民の敵の一人として認定してもいいのではないかとすら考えています。
     
    少し考えればわかることなんですけど。
    「赤字国債(笑)返済のため、PBを黒字にする」ということは、
    それすなわち、「市場にある円を回収する」ことなんですよね。
    つまり「日本国民から円資産を取り上げる」と。
     
    誰がどう考えても、景気悪化することわかる上に、極論として「円が市場になくなったら破綻するよね」と。
    「国債によって市場の円の供給量増やし続けなければ破綻する」ということを、もっと国民は理解するべきだと思います。

    1. 引っ掛かったオタク より:

      麻生さん80ですし、ソロソロ後進に…

      しかし、誰が良いでしょうナァ…

      1. カズ より:

        アナログで骨太なモノたちは、ソロソロと言い出してからが長い・・のかと。まだまだ健在なのかと。

    2. はるちゃん より:

      麻生さんは資産家なので国税に弱みがあるのではないかと勘繰っています。
      財務官僚の言いなりになりすぎです。
      あくまでも私の勝手な想像ですが。

  3. とある福岡市民 より:

    「ダルビッシュ有が考える、日本野球界の問題」から引用します。
    ↓ ↓ ↓
    https://real-sports.jp/page/articles/266435682434548571

     今の(育成年代の)監督やコーチなんて、本当に時代遅れの人たちばっかりですから。やっぱり人って、成功体験で生きてるじゃないですか。
     今の監督やコーチの年代って、とにかく走り込んで根性を鍛えて、先輩からのしごきにも耐えて、だらこそ今の自分がある、と思っている人たちだから、そういうこと(指導者や先輩からの暴力)をある程度肯定している部分があると思うんですよ。だからこそ、未だにそういうことが引き起こされるんだろうし。
     だから、自分たちぐらいの年代の人たちが、監督やコーチになる時が来るまでは、根本的にはそういう体質というのは変わってこないんじゃないかと思ってます。

     与野党問わず、今の政治家は消費税導入を決めた竹下登内閣以降にキャリアを重ねて来た人ばかりです。その世代では当然、消費税は重要かつ安定した財源であり、国債が増えれば国家は必ずデフォルトしてしまうと錯覚しています。
     それが嘘であると気づいた若手政治家が政権を取るようになるまでは変わらないのではないでしょうか。もっとも、その頃には経済力の衰退が取り返しのつかない所まで来てるかもしれませんけれど。

    1. 阿野煮鱒 より:

      > やっぱり人って、成功体験で生きてるじゃないですか。

      この言葉は「わかってる感」がありますね。ダルビッシュは時々変なことも言いますけど。

      時代が変わればそれに応じて変革が必要なのに、自己の成功パターンにしがみつくのは、人の性(さが)です。何らかの強制力ある世代交代は必要なのかもしれません。

      韓国のように強制的な「名誉退職」による世代交代ですら、日本の企業よりはスピード感ある経営ができています。何だかんだ言っても韓国の経済成長は続いていますし。

      米国経済は、韓国よりも健全な形で、社会の新陳代謝を活発に維持できる仕組みを作れているように見えます。厳しい格差社会という代償が伴いますが。

  4. 新聞情弱読者 より:

    菅総理は日本の財政問題を理解しているのか疑問です。
    財務省のご注進をそのまま信じている気配が濃厚のように見えます(根拠はないけど)。

  5. 茶筒 より:

    私は、単に「麻生財務省に逆らえない」だけだと思っています。
     
    麻生さんは、財務相としての資質がある方なのでしょうか。
    「国民のためを思って行った給付金政策を、愚かなマスコミに乗せられた国民により潰された。国民は愚かであり、もはや救うような政策を行う必要はない」というような、「人間に裏切られて魔王になったような存在」としか、最近の行動見ると、感じられないのです…
     
    だって、この10年で1度でも、「景気回復のためにこうする」って発言、しました?麻生さん…

  6. くろくま より:

    私は2つのことを考えました。
    一つ目は、自民党財政再建推進本部が財務省の官僚に操られている可能性。
    二つ目は、世界を牛耳る経済勢力に対し、日本はあなた方の意向を考えていますというポーズをとっている可能性。
    私は、二つ目かなと思っています。麻生さんは世界の勢力構造を熟知しておられるお方です。ばりばりですよ。

    1. ミナミ より:

      それはソースを示せない陰謀論でしかないでしょう
      今までの政策から判断すれば、単純に麻生は経済オンチの無能だからですよ

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。なお、コメントに際しては当ウェブサイトのポリシーのページなどの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。