習近平訪日拒絶は妥当だが、次の一手はとても難しい

本稿はちょっとした「小ネタ」です。自民党内で日本政府に対し、中国の習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席の国賓来日中止を求める決議が了承されたそうですが、このこと自体は非常に歓迎したいと思います。ただ、本当の「戦い」はむしろこれからです。というのも、香港から金融センターとしての機能を引っぺがして日本に持ってくる、という役割が求められるからですが、このハードルが非常に高いのです。

自民党内部で習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席の国賓来日中止を日本政府に求める動きが生じているとする話題については、先日、『初動としては歓迎したい「習近平訪日中止要請」=自民』で取り上げました。

これに、続報が出てきました。産経ニュースの次の記事によれば、中国との関係を重視する二階派にも配慮し、原案の文面を修正したうえで、7日の政調審議会で了承したそうです。

自民、中国非難決議を了承 習氏来日中止要請は文面修正

自民党は7日の政調審議会で、中国による香港への統制強化を目的とした香港国家安全維持法に対する非難決議を了承した。<<…続きを読む>>
―――2020.7.7 12:52付 産経ニュースより

産経によると、中山泰秀外交部会長らがまとめた原案では「中止を要請する」と明記されていたそうですが、「二階派の議員が激しく反発したため」、「党外交部会・外交調査会として中止を要請せざるを得ない」とする内容に修正されたのだとか。

産経さん、その「二階派の議員」とやらを、是非報じてくださいよ(笑)

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ただし、これだけでは動きとして十分ではありません。

個人的な知り合いの話で恐縮ですが、香港が国家安全法で揺れていることは事実だとしつつも、とくに金融産業関係者の間では、「だからといって日本に拠点を移すというのはあり得ない」という点で認識が一致しているからです。

もちろん、米国が香港をフェドワイヤーなどの決済システムから排除するという可能性はありますし、そうなれば香港が国際決済拠点としての機能の大半を喪失することも考えられるのですが、もしもそうなった場合、これらの業者の多くは東京ではなく、シンガポールに引っ越すのだそうです。

その理由はなぜか。

少しだけ著者の本業とも関わる話をしておきますが、そもそも日本は法制度(とくに税制や社会保障制度)が複雑すぎ、窓口も非常に多く(税務署、法務局、社会保険事務所、市区町村役場、都税事務所など)、手続にも時間が掛かり過ぎるのです。

また、集団的投資スキームは使い勝手がとても悪く、たとえば有価証券を組み込んだファンドは投信法でいう「委託者指図型投資信託」を使うのが一般的ですが、コストを下げるために「委託者非指図型投資信託」を組成しようとすれば、有価証券が資産の半額を超えてはならないというアホな制約があります。

さらには、特別目的会社(SPC)を使った仕組投資をしようとしても、匿名組合のうえに株式会社・合同会社を組成すると、法人事業税の均等割が少なくとも年間7万円掛かって来ます。パススルー課税を使おうとしても、この均等割りがネックとなってしまうのです。

あるいはJ-REIT(不動産投資法人)の場合、法人税法上の損金算入ルールと企業会計の費用計上ルールが異なっているため、「配当の損金算入」という規定を使うためには「利益超過分配」をせざるを得ず、その場合は投資家側の会計処理が複雑になる、という問題もあります。

以前、『日本が香港の金融業を誘致:課題もあるが着眼点は秀逸』で、安倍政権が香港から優秀な金融業者を日本に連れてこようとしている、という論点を紹介したのですが、その前にまずは日本のクソすぎる法制度を何とかする方が先だと思う次第です。

なお、この点についてはもう少し言いたいことがあるので、別稿にて改めて深堀したいと思います。

読者コメント一覧

  1. 奇跡の弾丸 より:

    新宿会計士様

    日本の法制度が複雑になった経緯や現状のメリット(デメリットではなく)についても触れていただけるとありがたいです。

    1. 匿名 より:

      他国の税制は日本よりシンプルなのでしょうか。
      日本しか知らない、かつ経営者でもないので最低限の税制しか知りませんが、言うほど複雑ですかね。
      でも、もし本当にこの税制がデメリットしかなく、日本の成長の枷になっているなら、改革が必要。

      1. 牛人 より:

        匿名様

        >言うほど複雑ですかね

        新宿会計士様の論旨としては、一般論としての複雑さよりも、証券・信託・組合などを用いた投資税制が、香港などのタックスヘイブンと比べて複雑であるという事に問題意識があるのだと思います。
        そして、その結果、投資の誘致競争に負けるという事ではないでしょうか。

        投資税制の分野では租税回避が横行し易いので、取りはぐれを防ぐために複雑化していく傾向があります。
        タックスヘイブンなどでは、そもそも税率が低いので、取りはぐれを気にせず、税制がシンプルだったりします。

  2. 匿名 より:

    うーん、産経の記事でも、青山繁晴さんのブログと、修正に関する経緯が全然違いますね
    共同の配信記事かと思いきや、署名なし
    でも、中国に配慮っていうのは虚報の類のようですよ

    1. 酒が弱い九州男児 より:

      これですかね。

      ▽実際、滅茶苦茶な報道ぶり(青山繁晴)
      http://shiaoyama.com/essay/detail.php?id=1926

      つながりにくければ・・・

      ▽毎日新聞と時事通信、虚報の競演
      https://blog.goo.ne.jp/o-kami_chikara/e/ea4e74ee544a828e04d89eaa03f5694e

      (一部抜粋)
      見出しの全文は「習訪日中止要請をめぐり自民党外交部会紛糾」です。
      事実は、全く紛糾などしていません。
      (中略)
      その「微修正」とは ( 仮に修正があるとしても ) 国賓訪日の中止を要請する理由に、「香港だけではなく尖閣諸島の領海侵犯や,ウイグル、チベット、南モンゴルでの人権侵害も入れるべきだ、特に尖閣は必須」という意見に基づく修正であり、まるで方向が逆です。
      むしろ「中止」を強化する修正なのです。
      中止という文言を弱める方向とは、真逆そのものです。

      1. 価値観が違いすぎる より:

        青山さんのブログ読みましたが、酷いですね。

        まともな会社なら、こんな間違ったこと書いてたら、普通懲戒もんやないでしょうか。

        情報を扱う仕事なら、間違いがあってはならないという意識がないとあかんと思うのやけど。
        同業者やからと叩かれないことから、全く反省しないんでしょうね。
        間違ったわ、てへ、ぺろ。くらいの感覚なんやろな。
        もしくは完全に意図的なのか。

        どちらにしても、とにかく酷い。

  3. 酒が弱い九州男児 より:

    日本の成熟の為にも、是非とも日本に拠点を移して欲しいと思いますが、問題が山積なんですね。
    それだけ問題があれば、難しそうな気もします。

    > 日本のクソすぎる法制度を何とかする方が先だと思う次第です。
    いつになく、過激なお言葉です(笑)

    深堀続報楽しみにしております。

  4. 非国民 より:

    うちの田舎の一部の場所を外国金融機関向けの特区にしてくれないかな。そこは外資系金融機関とそこで勤める外国人従業員は税金とか社会保険とかはいっさいなし。そのかわり日本人から投資を受けるには最低限1億円からとすればいい。1億もうごかせる人なら金融機関にだまされてもしょうがないだろう。外資系金融機関から税金はとれないけど、それに付随する会社や人々から税金はとれるからね。ビジネスジェットの空港も作るし、超贅沢なマンションも作るけど、そちらは有料だよ。

    1. 匿名 より:

      タックスヘイブン的な考え方で良いと思います。

  5. たい より:

    他国は知りませんが税金はややこしいと思います。
    贈与税の特例だけでほらこんなにw

    住宅取得等資金の贈与と非課税
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4508.htm

    教育資金の贈与と非課税
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4510.htm

    結婚子育て資金の贈与と非課税
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4511.htm

    公平を期するためなのか、経済の活性化のためなのか継ぎ足しで特例を設けた結果煩雑になっている様に思えます。

    1. 牛人 より:

      たい様

      >公平を期するためなのか、経済の活性化のためなのか継ぎ足しで特例を設けた結果煩雑になっている様に思えます。

      然りと思います。

      税法の機能を増やすと、条文は増えます。
      公共サービスの資金調達以外の機能、所得の再配分や、経済対策、社会保障と機能を増やすと複雑になります。

      税法を複雑にすると隙が生まれますので、その隙を用いて租税回避が行われ、租税回避を塞ぐ為にさらに複雑になり、さらにその隙をついてと、イタチゴッコになり複雑性を増します。

      税法にはシンプルな機能しか求めなければ、分かりやすさは増すと思われます。

  6. 豆鉄砲 より:

    安倍政権も残りわずか。改憲が無理なら、この辺りのことをやって最後の花道として欲しいものですね。

    1. 門外漢 より:

      豆鉄砲様

      >安倍政権も残りわずか

      後は副総理がショ-トリリ-フなんて話もありますね、ちょっと期待してますww

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