日本が香港の金融業を誘致:課題もあるが着眼点は秀逸

香港で国家安全法制が制定される方針が決定され、米国が香港について「中国からの高度な自治を喪失した」と認定するなどの混乱も続いているのですが、こうしたなか、日本からは密かに香港から逃げ出す金融業者に無料でオフィスを提供するなどの誘致策が検討されているようです。日本と中国は基本的価値を共有しない国同士ですが、日本がテーブルの下で中国の足を蹴っ飛ばすような行動は積極的に続けてほしいと思う次第です。

香港の国家安全法制

先月、中国で香港に対して適用される「国家安全法制」の制定方針が決定され、米国が香港について、「中国政府からの高度な自治を喪失した」と宣言した、とする話題については、『【速報】米「香港は中国からの高度な自治を喪失」認定』などでも取り上げました。

国家安全法制は中国が直接、香港に対して適用するために準備しているものですが、香港が1997年に英国から中国本土に返還された際の国際的な約束である「香港の高度な自治」という原則に反するとして、米国はこれに強く反発しているものです。

香港では通貨・香港ドル自体が米ドルにペッグ(固定)しているという事情もあり、また、米国は香港が中国からの「高度な自治」を維持しているという前提で、いくつかの優遇措置を適用して来ましたが、こうした優遇措置がいつまで続くのかは不透明な情勢です。

当然、金融産業関係者の間でも、「香港が将来、国際的な金融センターとしての地位を喪失するのではないか」、といった懸念も出て来ているのではないでしょうか。

日本が香港から金融業者の移転を勧奨

こうしたなか、米メディアのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に先週、こんな記事が掲載されていました。

Japan Woos Hong Kong Business as Abe Cools to China

Beijing says it will protect investors’ rights in the territory, seeking to counter global concerns<<…続きを読む>>
―――米国夏時間2020/06/18(木) 07:28付=日本時間2020/06/18(木) 20:28付 WSJより

(※リンク先は英文であり、かつ、契約していないと閲覧できない可能性もありますのでご注意ください。)

WSJによると、日本政府は香港に拠点を置く金融事業者に対し、東京への移転を促進するための優遇措置を打ち出す一方、中国がこれらの金融業者に対して香港に留まるように呼びかけているとのことであり、いわば、香港不安を受けた日中両国のさや当てが始まっている、としています。

また、WSJは安倍政権が「日本主導でG7対中声明を取りまとめたい」などと述べたとする話題を引用しながら、「伝統的に中国の内政から距離を置いてきた日本が、香港国家安全法をきっかけに、この問題に介入しようとしている」と述べているのです。

(※余談ですが、安倍政権が中国を批判するG7声明を主導したいと述べたとする話題については、当ウェブサイトの『「日本主導でG7対中声明」は共同通信虚報のおかげ?』でも説明したとおり、「共同通信の虚報」が安倍政権の対中強硬姿勢を招いた可能性があると考えています。)

ちなみに、WSJには日本が香港企業を誘致するためにどんな措置を講じるのかについての具体的な記載はありませんが、これについては意外なことに、わが国のメディアではなく韓国メディア『中央日報』(日本語版)に続報が出ています。

「無料でオフィス提供も」香港のヘッジファンドに積極的に求愛する日本

東京が危機に陥った香港の金融会社に対する求愛レベルを高めている。<<…続きを読む>>
―――2020.06.23 07:49付 中央日報日本語版より

中央日報は英フィナンシャルタイムズ(FT)の記事を引用し、日本の当局が香港の金融人材を引き込むために、日本での営業免許を迅速に取得できる短期ビザ免除プログラムを稼動する計画だとしつつ、東京都では香港から移転する金融業者に無料オフィス提供を検討しているとも述べています。

こうした政策については、どんどんと実施して欲しいものですね。

中国が嫌がることをやるのが正解

さて、中国というのは非常に面白い国で、「これをやると困る」と思うことに対し、さっそくに批判して来ます。たとえば、安倍総理の「G7共同声明」発言の直後には、中国外交部はさっそく、これを批判する声明を出しています。

G7声明 中国「重大な関心」(2020/6/10 18:30付 日本経済新聞電子版より)

日経電子版によると、安倍総理が国会で「対中G7共同声明を日本がリードしたい」と述べたことに関連し、中国政府・外交部の華春瑩(か・しゅんほう)報道局長が

「(香港は)完全に中国の内政に属し、いかなる外国も干渉の権利はない

などと述べたそうです。わが国の総理大臣が靖国神社に参拝したときにはやたらとギャーギャー騒ぐくせに、自分たちが香港の自治を弾圧しようとするときには「内政問題だ」と文句をいうというのも、見事なダブルスタンダードで呆れます。

いずれにせよ、ここで重要なのは、日中両国は基本的な価値観をいっさい共有していない、という点でしょう。これについて、「基本的価値」に照らして日中を比較してみると、日中両国はみごとにまったく異なった国であることがわかります。

図表 日本と中国の基本的価値
基本的価値日本中国
自由主義日本は自由主義国家である中国は共産主義国家である
民主主義日本は民主主義国家である中国は独裁主義国家である
法治主義日本は法治主義国家である中国は人治主義国家である
基本的人権日本では人権が大切にされる中国では人権が無視される
平和主義日本は平和主義国家である中国は軍事主義国家である

(【出所】著者作成)

もちろん、グローバル金融企業などが国家安全法制だけを理由に、金融インフラが整っていて税率が低い香港という拠点を簡単に捨てるとも思えませんし、日本のように法人税・消費税・所得税などの税率が高い国に好き好んで彼らがやって来るかどうかは微妙でしょう。

その意味で、日本にも課題は山積していますし、増税原理主義の財務官僚を駆除することができるかどうかは、今後の私たち日本国民の努力次第でしょう。

しかし、それと同時に本来ならば金融業は自由・民主主義・法治主義国家で発展してきたものであり、中国のような共産党一党独裁国家で成り立つようなものではありません。東京には香港に代わってアジア、世界の金融センターとなる資格は十分にあるのです。

いずれにせよ、武漢コロナ禍という話題の裏で、日本がテーブルの上でにこやかに中国と握手しつつ、まずは経済・金融面において、テーブルの下で中国の足を思いっきり蹴るような行動は、是非積極的に続けてほしいものです。

読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    日本政府が中国から日本国内への企業回帰を促しているという報道は海外メディアでなんどか目にしています。大いに気に掛かる情報なのでしょう。海外で報道されているわりには日本国内メディアで取り上げられることは少ない。NHKや日経が記事報道するようになって初めて知るようでは企業経営者として展望が甘いと言わざるを得ません。逃げ遅れにならないよう目配り必須な情勢ですね。

    1. 惚け老人 より:

       専門家の話では支那から逃げ出す企業が多いのに未だにトヨタ、日産など多くの企業は支那に入れ込み、技術は吸い取られ、資金を提供するが利益は日本に送金できない状況が続いているとのことで、商機かと思える印象ですね。

       勿論ただ吸い取られるだけでなく何らかの得るところがあるという目算なのでしょうけど、目算通り行かないのが支那という国の性質であり、約束を守らないのもまた支那と言う国の性質なんでしょうけどね。

       けがをしないようにご注意を都市か言い様がないですが、素人考えではトヨタ、日産などは株主代表訴訟を起こされる可能性が非常に高いような気がしますけどね。

      1. 門外漢 より:

        惚け老人様へ

        「商機かと思える印象」 は 「正気かと思える印象」 ですよね?
        商機でも意味が通じなくはないですが・・・

    2. 引きこもり中年 より:

      はにわファクトリー様へ
      >海外で報道されているわりには日本国内メディアで取り上げられることは少ない。

       「赤信号、みんなで渡れば怖くない」
       「報道しない、みんなでやれば怖くない」
       「中国残留、みんなでやれば怖くない」

       おあとがよろしいようで。

  2. だんな より:

    ただでさえ強い日本の金融が、益々強くなると良いと思います。

  3. ミナミ より:

    一番の障壁はやはり言語(日本語)の壁なんでしょうが、
    考えてみれば、証券会社等にはかなりの外国人が所属している筈で、
    そういうところのコミュニケーションは、それなりの部分が英語だろうとも思います

    香港が金融センターの役割を終えるなら、代替地は上海等、中共国内には絶対にならないでしょう
    それならそもそも香港のままで良いからです
    香港(中共国内)を出ざるを得ない理由があるなら、上海などに務まる訳が無い
    ライバルはシンガポールだけでしょうね。日本(東京)への移転が何とか具現化されて欲しいものです

  4. 心配性のおばさん より:

    >自分たちが香港の自治を弾圧しようとするときには「内政問題だ」と文句をいうというのも、見事なダブルスタンダードで呆れます。

    中国の人は『中国4000年の歴史』とか、サラっとおっしゃいますが、いえいえ、中華人民共和国はその4000年の歴史を捨てて誕生した建国71年の新生国家なのですよ。それまでの4000年の歴史の根拠である文化や思想は捨て去って、継承していないハズでしょう?ご都合のよい時だけ、4000年の歴史の末裔を名乗る、それも中華ダブルスタンダードではないかしら?このようなダブルスタンダードは、半島国家もそうですよね。中華発祥文化なのかもしれません(笑)。

    さて、日本の大手メディアはチャイナマネーに身も心も売り渡してしまっている現状なので、彼らに不都合な記事は一切掲載しません。一種の日本国内での情報統制ですわね。ただ、Webのニュースサイトには玉石混合ではありますが、多種多様のニュースを紹介されています。そのニュースの検証は私たち読み手に委ねられているとはいえ、ありがたい時代ですこと(笑)。

    そのWebのニュースサイトにもちらほらと、日本の官民合わせたサプライチェーン再構築の動きと思われる海外ニュースが紹介されています。本日のお題は、香港の金融業を解体して日本に移植する構想ですが、中国の不法行為を非難するだけでなく、それを新たな世界構築に利用する動きとすれば、頼もしい限りです。

  5. 惚け老人 より:

     専門家の話では支那から逃げ出す企業が多いのに未だにトヨタ、日産など多くの企業は支那に入れ込み、技術は吸い取られ、資金を提供するが利益は日本に送金できない状況が続いているとのことで、正気かと思える印象ですね。

     勿論ただ吸い取られるだけでなく何らかの得るところがあるという目算なのでしょうけど、目算通り行かないのが支那という国の性質であり、約束を守らないのもまた支那と言う国の性質なんでしょうけどね。

     けがをしないようにご注意をとしか言い様がないですが、素人考えではトヨタ、日産などは株主代表訴訟を起こされる可能性が非常に高いような気がしますけどね。

    1. 門外漢 より:

      やっぱりそうなんですね。

  6. はぐれ鳥 より:

    実情に疎い素人の感想です。

    そもそも香港の役割は、基本的価値の全く異なる二つの地域を連結するための緩衝材か変換装置だったと思います。ですから、自由主義/法治と共産主義/人治の顔を巧妙に使い分けし、「ぬえ」のように振舞っていた訳です。なので、自由主義/法治の国でこの役割をソックリ引き受けるのは難しいような気がします。

    或いは、特区として場所を区切り、治外法権のような特権を認めれば別かも知れません。そして、そこが香港の代替地を目指す以上、中国との取引が相当規模となるでしょう。となると、そこでは中国式の人治も認めざるをえず、そうなった場合の心配は、その地が、日本に置かれた中国の「租借地」や「トロイの木馬」にならないかという点です。

    ま、ただ、リスクも取らないとリターンもない訳ですから、この目論見も悪くは無いでしょう。さらには、日本人の鈍感力を鍛え、島国的潔癖症を治すのに役立つかも知れません。(笑)

  7. 惚け老人 より:

     香港の金融業はドルでの担保がない香港ドルを失なうのを嫌気して香港から逃げ出すとして、仮に日本を選んだ場合、殆どの日本人に英語が通じない、金融庁の必要以上の締め付けがあり、所得税率が高い等のデメリットがあり、一国二制度の香港のようなエリアを提供しない限り香港の金融業者が日本に移転してくることはあり得ないと思いますが、日本が治外法権の一国二制度を保証することは間が憎いような気がします。

     嘗てシティーバンクが日本で営業をしていましたが余りに無体な金融庁の締め付けに嫌気してリテール部門(個人金融部門)は早々にSMBC信託銀行に業務を売却して日本から出て行きました。笑い話のようですが、銀行は「銀行」という看板を掲げなければならないと言う理由で金融庁は「シティーバンク銀行」という名称を強要したと言う話があります。金融庁としては英語が読めないわけではないでしょうけど、何も知らない人に被害を及ぼさないためにという配慮があってのことでしょうけど、バンクという英語が銀行という意味では無いと思う日本人は皆無と思うのですけどね。安政や慶応の時代に生まれた日本人ならあり得ようけど、そのような人はほとんど生存していないと思いますけどね。

     SMBC信託銀行は三井信託銀行の系列だから金融庁の無体な要求に離れているのでさして苦痛を感じることなく業務を継続でき、運用システムも殆どシティーバンクのシステムをそのまま継続できるし、富裕層(富裕層と言っても、世界の富裕層のような桁違いの資金を持った人ではなく、1000万円以上の資金を有する日本の基準での富裕層でしかないですが)の資金を一括で引き受けられる等のメリットがあるから営業権利を購入したのでしょう。

     しかし、台湾は未だにリテール部門が残っており、正常に運営しているようです。

     台湾なら業務を行う人々は日本人より遙かに英語堪能な人が多いようなので、日本に移転するくらいなら似たような環境で日本より遙かに営業上の自由度がありそうな台湾に移転するのではないでしょうか。

     しかし、台湾も香港同様に支那の毒牙にかかる寸前にあるので果たして将来どうなるか心配ですが。まして台湾は国際法上に認められた香港のような一国二制度の保証もないし、その意味でも問題があるかも知れませんね。

     となると、やはり英語が普及しているシンガポールと言うことになるのでしょうかね。

     いずれにしても営業スペースを無料で提供されたとしても、金融後進国日本なんかの出番はないような気がします。

     これは金融庁が一念発起したくらいでは解決できる問題ではないように思えます。

  8. 惚け老人 より:

     香港の金融業はドルでの担保がない香港ドルを失なうのを嫌気して香港から逃げ出すとして、仮に日本を選んだ場合、殆どの日本人に英語が通じない、金融庁の必要以上の締め付けがあり、所得税率が高い等のデメリットがあり、一国二制度の香港のようなエリアを提供しない限り香港の金融業者が日本に移転してくることはあり得ないと思いますが、日本が治外法権の一国二制度を保証することは間が憎いような気がします。

     嘗てシティーバンクが日本で営業をしていましたが余りに無体な金融庁の締め付けに嫌気してリテール部門(個人金融部門)は早々にSMBC信託銀行に業務を売却して日本から出て行きました。笑い話のようですが、銀行は「銀行」という看板を掲げなければならないと言う理由で金融庁は「シティーバンク銀行」という名称を強要したと言う話があります。金融庁としては英語が読めないわけではないでしょうけど、何も知らない人に被害を及ぼさないためにという配慮があってのことでしょうけど、バンクという英語が銀行という意味では無いと思う日本人は皆無と思うのですけどね。安政や慶応の時代に生まれた日本人ならあり得ようけど、そのような人はほとんど生存していないと思いますけどね。

     SMBC信託銀行は三井信託銀行の系列だから金融庁の無体な要求に慣れているのでさして苦痛を感じることなく業務を継続でき、運用システムも殆どシティーバンクのシステムをそのまま継続できるし、富裕層(富裕層と言っても、世界の富裕層のような桁違いの資金を持った人ではなく、1000万円以上の資金を有する日本の基準での富裕層でしかないですが)の資金を一括で引き受けられる等のメリットがあるから営業権利を購入したのでしょう。

     しかし、台湾は未だにリテール部門が残っており、正常に運営しているようです。

     台湾なら業務を行う人々は日本人より遙かに英語堪能な人が多いようなので、日本に移転するくらいなら似たような環境で日本より遙かに営業上の自由度がありそうな台湾に移転するのではないでしょうか。

     しかし、台湾も香港同様に支那の毒牙にかかる寸前にあるので果たして将来どうなるか心配ですが。まして台湾は国際法上に認められた香港のような一国二制度の保証もないし、その意味でも問題があるかも知れませんね。

     となると、やはり英語が普及しているシンガポールと言うことになるのでしょうかね。

     いずれにしても営業スペースを無料で提供されたとしても、金融後進国日本なんかの出番はないような気がします。

     これは金融庁が一念発起したくらいでは解決できる問題ではないように思えます。

    1. 非国民 より:

      東京や大阪でない、どこかの田舎に金融特区を作って、そこでは金融関係者に限り、所得税も法人税も地方税もかからない場所を作れたらいいね。金融業者から税金はとれないけど、それ以外からは税金がとれるし、巨額のお金が動くときは、必ず何らかの経済波及効果があると思う。

      1. 門外漢 より:

        非国民様へ

        淡路島か八丈島辺りを島ごと「なんでも特区」にして、金融だけでなくカジノも自動運転も売〇も買〇もフリーの実験場にしてはどうでしょうね?

  9. 惚け老人 より:

    新宿会計士様

     香港の金融業はドルでの担保がない・・・・で投稿したものが操作ミスがあったようでて連続して表示されています。お手数ですが片方(最初の投稿)の削除をお願いいたします。

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