先週の『IMFから垣間見る、ポストコロナ時代の米中通貨戦争』では、米FRBからの為替スワップの提供先から漏れた諸国を中心に、IMFのSDRを拡充すべし、とする主張が見られる一方、米国がこれに反発しているらしい、という報道を紹介しました。その一方で、現実の金融市場を確認すると米FRBによる為替スワップに基づく流動性ファシリティについては、「金融大国」である日欧などの中央銀行が積極的に引き出していることがわかりますが、金融大国でもない韓国が、なぜか100億ドルを超える為替スワップ借入を行っているという状況でもあります。
G20と為替スワップとSDR巡る米中通貨戦争?
「G20」といえば、次の20ヵ国・地域のことです。
- G7(日米英仏独伊加+EU)
- BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)
- 豪州、サウジアラビア、トルコ、ブラジル、アルゼンチン、韓国、インドネシア
例の武漢コロナウィルスSARS-CoV-2の蔓延を受けて、現在、世界ではこの疫病への対処に加え、全世界的な経済、金融不安にどう対処するかという点が大きな問題となっています。
こうしたなか、『速報:米FRBが9つの中央銀行と為替スワップを締結』で報告したとおり、米国の中央銀行に相当する連邦準備制度理事会(FRB)は、世界の9つの中央銀行・通貨当局と、一時的に(とりあえず半年間限定で)為替スワップ協定を復活させました。
米FRBは、もともと日本・英国・欧州・スイス・カナダの5ヵ国・地域と常設・金額無制限の為替スワップを締結しているのですが、今回の措置により、金額・期間制限つきであらたに為替スワップが開かれた国と、G20でありながら為替スワップから漏れた国があるのです。
米FRBと為替スワップ
- グループ①期間・金額無制限…日英欧瑞加の5中銀
- グループ②期間6ヵ月~・金額上限600億ドル…豪州、ブラジル、韓国、メキシコ、シンガポール、スウェーデン
- グループ③期間6ヵ月~・金額上限300億ドル…デンマーク、ノルウェー、ニュージーランド
- グループ④米国との為替スワップがないG20加盟国…中国、ロシア、インド、インドネシア、トルコ、アルゼンチン、南アフリカ、サウジアラビア
- グループ⑤G20諸国でもなく、米国との為替スワップもない国・地域…アジアでいえば香港、台湾、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンなど、中東でいえばイランなど
ただ、こうした状況を踏まえてでしょうか、一部の国では世界の主要国を差別せずに米ドルなどで支援する仕組みが必要だ、などとして、国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)の仕組みを拡充しようとする提案を行っているようですが、米国がこれに抵抗している、とする報道があります。
『IMFから垣間見る、ポストコロナ時代の米中通貨戦争』でも報告したとおり、そもそもSDR自体が広い意味では通貨スワップの変種のようなものですが、これを大きく拡充するともなれば、米国としては中国やイランに米ドルが渡ってしまうということを懸念しているということでしょうか。
引出額は日本がトップ、次に欧州
さて、当ウェブサイトでは最近、不定期にチェックしているのが、FRBニューヨーク連銀のウェブサイト “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページに掲載されるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results ” です。
これについて、米FRBが為替スワップを締結している14の中央銀行・通貨当局について、4月20日時点における残高と、平均金利・日数、3月4日以降の累計の引出額について一覧にしたものが、次の図表です。
図表 米FRBからどの銀行がいくら引き出しているか
中央銀行 | 4/20時点残高 | 平均金利・日数 | 累計引出額 |
---|---|---|---|
日本銀行 | 1958.7億ドル | 0.34%/81.8日 | 3340.9億ドル |
欧州中央銀行 | 1397.8億ドル | 0.36%/80.6日 | 2296.0億ドル |
イングランド銀行 | 222.8億ドル | 0.35%/76.9日 | 612.3億ドル |
韓国銀行 | 140.9億ドル | 0.72%/83.8日 | 151.6億ドル |
スイス国民銀行 | 113.5億ドル | 0.32%/60.7日 | 252.7億ドル |
メキシコ銀行 | 65.9億ドル | 0.77%/84.0日 | 65.9億ドル |
シンガポール通貨庁 | 61.0億ドル | 0.60%/74.2日 | 133.7億ドル |
デンマーク国民銀行 | 52.9億ドル | 0.33%/68.1日 | 53.2億ドル |
ノルウェー銀行 | 18.5億ドル | 0.35%/84.0日 | 18.5億ドル |
豪州準備銀行 | 11.5億ドル | 0.33%/84.0日 | 11.5億ドル |
NZ準備銀行 | なし | ― | なし |
スウェーデンリクスバンク | なし | ― | なし |
カナダ銀行 | なし | ― | なし |
ブラジル銀行 | なし | ― | なし |
合計 | 4043.4億ドル | 0.37%/80.3日 | 6936.2億ドル |
((【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページに掲載されているエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” に掲載されている4月20日実行分までの入札情報を参考に著者作成)
これで見ると、引出額で最大なのは日銀であり、その金額は2000億ドル近くに達していますが(1ドル=110円と仮定すれば22兆円弱)、おそらくその最大の使途は、本邦機関投資家のヘッジ付き外債投資におけるファンディングだと思います(著者私見)。
本邦金融機関にとっては、OISプラス0.25%という金利で資金調達できるわけであり、たとえばこれで米10年債(先週金曜日時点で利回り0.65%)を買えば、自動的にその差分の年0.30%分だけ儲かります(※ただし機関投資家はイールドカーブリスクや流動性リスクなどを負います)。
また、資金調達額で2位の欧州中央銀行(ECB)は、慢性的に米ドルの資金調達に苦しんでいる欧州金融機関に資金供給するために、この為替スワップをフル活用しているのだと思いますが、日欧両中銀だけで、借入額全体(4043.4億ドル)の83%を占めているというのも凄い話ですね。
韓国銀行の調達額
さて、これら14ヵ国・地域の中で、韓国の借入額は4番目であり、借入上限(600億ドル)のうち、現時点での借入残高は150億ドル弱で、まだかなりの余裕があります。
(※余談ですが、米FRBとのスワップは「通貨スワップ」ではありませんが、『韓銀、為替スワップを通貨スワップと意図的に誤記か?』で報告したとおり、韓国銀行は今回の為替スワップをなかば意図的に「通貨スワップ」と誤記し続けており、韓国国内ではこれが「通貨スワップである」と信じ込まれているようです。)
これまで韓国国内では都合3回の為替スワップに基づく流動性供給入札が実施されたのですが、3回とも「札割れ」となっています。
- 1回目…120億ドルの予定に対し応札額は87.2億ドル
- 2回目…80億ドルの予定に対し応札額は44.15億ドル
- 3回目…40億ドルの予定に対し応札額は20.25億ドル
「札割れ」とは、中央銀行側が予想したほどの資金需要が民間金融機関の側になかった、という意味であり、これだけを見ると、「韓国の民間金融機関の資金需要は、韓国銀行が考えているほどは状況は悪くない」ということです。
ただ、借入額で100億ドルを超えている5中銀のうち、韓国銀行を除く4中銀はいずれも金融大国ばかりであり、逆にいえば、韓国は金融大国でもなく、また、新興市場諸国からの資金流出がある程度落ち着いている状況にも関わらず、これだけの金額を借りている、ということでもあります。
このように考えるならば、果たして韓国は現在、「資金需要はさほど逼迫していない」といえるのか、それとも「危機的状況にある」といえるのかについては、なかなか見極めが難しい局面でもあります。
さて、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に本日、こんな記事が掲載されていました。
韓銀、21日に4回目の韓米通貨スワップ資金供給
韓国銀行(韓銀)が韓米通貨スワップで調達した資金を21日にまた供給する。今回の第4次供給規模も第3次水準(40億ドル)程度になると予想される。<<…続きを読む>>
―――2020.04.20 11:37付 中央日報日本語版より
記事のタイトルの段階で、相変わらず「韓米通貨スワップ」などと誤記されているのはご愛嬌として、これによると韓国銀行が為替スワップを行使し、4回目の資金供給を実施する、というものです。
過去の流動性供給入札は3月31日(火)以降、4月7日(火)、4月14日(火)と、いずれも火曜日に行われているのですが、今回の為替スワップについては、前回(4月14日実施分)の借り換えとなる部分は1000万ドルに過ぎません。
このため、個人的には、期間3ヵ月物(つまり84日物)の入札がさらに増えるのかどうかがひとつのポイントではないかと思っている次第です。
View Comments (18)
「もっと欲しいけど、担保が無いニダ」だと思うんですけどね。
だんな 様
担保自体は韓国政府保証債やウォンの現物でも適合だったと思いますので、為替スワップを用いた米ドル調達は、文政権のバラマキ政策次第なのかもです。
ただ、ウォンの下落に応じて無限の追証を求められる仕組みなので韓国式量的緩和の実施は、「終わりの始まりの物語」になってしまうのかもしれないですね。
質流れ前提での資金調達なら、受けた恩をウォンで返すことになります。それもハイパーウォンで・・。
大韓航空の永久債スキップのように一度だけの手札切り(信用と引換え)にためらいを見せないのが彼らの特性と言ってしまえばそれまでなのですが、通常の企業会計だと1度目の不渡りで銀行間での不渡り情報開示。2回目の事例で当座取引停止なんですけどね。
自身の信用毀損で時を稼いでも、たどり着く結末は同じ。
取引の基本に帰り「いつもニコニコ 現金商売!(信用ゼロ)」ってところなのだと思います。
だんな 様
同感です。大韓航空は今月の支払いがショートするかもと言われています。
担保があるとは思えないですね。
新宿会計士さま
お題が難しいせいか、レスが少ないスレになりましたね。
分からないので、質問させてください。
韓国は貿易立国ですので、輸出入に使うだめに必要なドルは、他の新興国より多くてもおかしくないと思います。
それが理由で、借り入れが多いという可能性は無いのでしょうか?
それにしては、金利が高いかな。
また、既に米ドルでの企業債が発行しにくくなってるようです。
カズさんが書いている、韓国企業向けの(銀行経由)、金融緩和の一環と見るのは、どうでしょうか。
果たして韓国は現在、「資金需要はさほど逼迫していない」といえるのか、それとも「危機的状況にある」といえるのかについては、なかなか見極めが難しい局面でもあります。
このため、個人的には、期間3ヵ月物(つまり84日物)の入札がさらに増えるのかどうかがひとつのポイントではないかと思っている次第です。
が、答えなんでしょうかね。
だんな 様
いつもコメントありがとうございます。
そもそも論として、為替スワップは「金融機関が相手国中央銀行から相手国通貨を借り入れるためのファシリティ」であり、当初の借入金利は日英欧瑞豪などと比べて非常に高かったのですが、それでも巨額の借入を行ったこと自体、個人的にはどうしても腑に落ちない点です。
いずれにせよ、明日の流動性供給入札については関心を払う価値がありそうですね。
引き続き当ウェブサイトのご愛読ならびにお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
新宿会計士さま
お返事ありがとうございました。
明日は、その「個人的にはどうしても腑に落ちない点」を、お聞かせくださいませ。
私は、韓国が既に「貧乏になってる」と思ってます。
> お題が難しいせいか、レスが少ないスレになりましたね。
韓国スワップネタに飽きただけです。株式市場への外国人の資金の出入りを見ていれば,日本以外からの韓国の評価も大体分かりますし。あと,日本経済には,中国の生産や流通の分析のほうが大切で,個人的関心がそっちに向いています。昔なら,金正恩氏が心臓手術とかいう記事に反応しましたが,このご時世,そんなことは些細なことはどうでもいいかと思うようになりました。欧米の不況から見れば,韓国は優等生です。
>だんな さんへ
横から失礼
大韓民国の大企業の株式は、大半が外人のもと。銀行は、大企業以上に外人のもの。
毎年、4月は莫大な配当金(莫大なドル)が大韓民国から流出する。
一方、大韓民国の輸出激減=大韓民国のドル激減
ということで外人さんに払うドルがない、とてつもなくドル不足→FRBの『ドル貸すぞ』に飛び付いた(金利1%以下は大喜び?)
以
上 ド素人の戯言でした
ところで
>輸出入に使うドル
と
ありましたが、輸出はドルを稼ぐんですよね。
本物の詐欺師は、騙す対象にいきなり大金を借りるものではありません.
最初は少額ずつ借り、相手と信用関係を作って相手がすっかり気を許したところでズバッと大金の融資を申し出るのが典型例です.
今回の場合、米国との「為替」スワップは韓国内金融機関の外貨調達には有効に働いているようですが、韓国(韓銀)当局としても、外貨調達や自国通貨の防衛にはやはり「通貨」スワップ、特に日銀やFRBとのドル取引が欲しいわけで、その前段状態として米韓「為替」スワップの償還(意図的に「通貨スワップ」と偽って)を滞りなくこなしている、というアピールとして機能させているのでしょうか.米国とうまくやっている、という疑似信頼関係を米国を騙すだけでなく日本に対する宣伝にも使っているように思えます.
昨晩から今朝の各紙に「韓国政府が日米にマスクを支援する」と打たれています.それも政府当局者がわざわざ「米国は同盟国として、日本は隣国として支援するという意味だ」と述べたということです.
韓国のマスク需要に余裕が生じたとは決して言えない今、こういう勿体ぶりをわざわざやる意図はやはりマスクを「毒饅頭」として送り付ける意味以外にあり得ないでしょう.
特に日本にとって「韓国マスク」を押し付けられた場合、その次はスワップ要求にとどまらず、現在行われている韓国に対する規制強化措置の撤回要求もなされるでしょう.韓国にとっては仮に日本が拒否しても国際的に「日本の狭量さ」を全力で宣伝するいい機会になりますからね.
韓国は国が出来て70年余の間ずっと、あの北朝鮮と「宣伝戦」をしてきた国だということを、日本政府はもう一度思い起こすべきです.
捨韓人さま
日本にマスクを恵んでやる。言ってみたかったんでしょう。
そこまで日本は、落ちぶれちゃ居ません。
もし送りつけられたら、朝鮮学校にでも配って、お仕舞いにすれば良いと思います。
なるほど、朝鮮学校へとはいい考えですね.
さて続報ですが、私は勝手に押し付けて難癖付けてくると思ってましたが、結局日本の対応待ちらしいです.
「日本政府からマスクの要請ない…支援検討に着手する段階ではない」=韓国外交部(WoW!Korea)
(略) 外交部当局者は20日、記者たちに「日本の中央政府から支援要請があったということではないものと把握している」とし、「日本(へのマスク支援)について、具体的に検討を着手したと見る段階ではない」と述べた。
(略) 韓国政府は、朝鮮戦争参戦国に対し、マスク支援策を優先的に検討していると伝えられた。
そうであれば、日本は無理に反応せずに無関心でいれば良いでしょうね.ATMが「韓国が差し伸べた手を握って協力し、両国関係を改善すべきだ」と社説を書くまでは一直線でしょうから.(記者会見で波立たせようと突っ込んで来られた時の対応は考えておくべきですが)
捨韓人様
そしてわざわざ台湾からのマスク支援を感謝すると。
武漢ウィルス付きマスクを朝鮮学校にあげたら、そのまま転売され果てしない武漢ウィルス蔓延になるわな
だんな様へ
≫もし送りつけられたら、朝鮮学校にでも配って、お仕舞いにすれば良いと思います。
マスクの毒見役を押しつけるのですね…
あまりにキワドイ…(笑)
名無Uさん 様
何か困ることでもあるニカ?
大変興味深い記事の追加情報&考察ありがとうございます。
偉そうな乞食の韓国が正式に「通貨」スワップの打診が無い事に、「本当に必要がないほど外貨が充実している」のか「ただやせ我慢している」のかの見極めの1つになるのかもしれません。
もしくはこの金利でも為替スワップで借りる方がメリットがあるのか。
日本にマスクを支援してスワップをタカるみたいな憶測もありますが、もし外貨が十分にあるとすれば残念ながら韓国デフォルトの予想が外れる、もしくはかなり先送りされる可能性もありますね。
明日を注視たいと思います。
ドルが充分にあれば、FRB
の
『米国債持ってるか~、持ってりゃ
『金(ドル)貸すぞ~
に
飛び付きませんよ。
「為替スワップで調達した米ドルへの入札が札割れしたのは、市中銀行での米ドル流動性がそれほど逼迫していないからである」という観測にどうにも納得がいきません。
本当に市中銀行で米ドル調達にそれほど困っていないというのであれば、なぜこれほど短期間に入札が繰り返されるのでしょう?よほど酷い自転車操業に陥っているのならばともかく、巷に流れる「韓国の金融機関には110%の担保を入れるほどの余力も残されていない」説の方が妥当性があるようにすら思えるのですが。