世銀が「日本の輸出規制が世界経済を脅かす」、本当?

韓国メディア『中央日報』(日本語版)は本日、「世界銀行は、日本の輸出規制措置に伴う韓日緊張関係の持続が世界経済を脅かす要因として作用するとの懸念を示した」、「日本の輸出規制が昨年末の韓日首脳会談以降も顕著な改善がみられないでいるとし、東アジア地域の貿易縮小を脅かす主要要因になると指摘した」と報じました。はて、世銀が本当にそんなことを言ったのでしょうか?

中央日報「日本の輸出規制が世界経済を脅かすと世銀が言った!」

日本政府が昨年7月に発表した、韓国に対する輸出管理適正化措置を巡っては、あくまでも単なる輸出管理上の措置であり、貿易報復でも経済制裁でも何でもありません(『総論 対韓輸出管理適正化と韓国の異常な反応のまとめ』、『輸出管理の「緩和」を「対韓譲歩」と勘違いする人たち』等参照)。

ただ、韓国政府や韓国メディアはこれについて、しつこく「輸出規制」などと誤記し続けていて、日本に対してその輸出「規制」の撤回を求め続けています(たとえば『韓国外相「日本の態度次第ではGSOMIA終了」』等参照)。

なぜ韓国が日本の輸出管理適正化措置を「輸出規制」と呼んで、その撤回を求めているのかについては諸説あるのですが、先日の『対韓輸出が急減しているのは「低価格フッ化水素」か?』でも報告したとおり、当ウェブサイトとしては韓国が「(旧)ホワイト国」の地位を悪用しているという事情があると見ています。

こうしたなか、本日、どうしても「速報」(?)として紹介しておきたい話題があります。

韓国メディア『中央日報』(日本語版)は先ほど、

世界銀行は、日本の輸出規制措置に伴う韓日緊張関係の持続が世界経済を脅かす要因として作用するとの懸念を示した

と報じました。

世界銀行「日本の輸出規制、世界経済を脅かす要因」(2020.01.10 11:06付 中央日報日本語版より)

中央日報によると、世銀は8日に公表したレポートで

日本の輸出規制が昨年末の韓日首脳会談以降も顕著な改善がみられないでいるとし、東アジア地域の貿易縮小を脅かす主要要因になると指摘

したと述べているのですが、はたして、これは事実でしょうか。

世銀レポートにどう書かれているのか

おそらく、該当するレポートは、 “Global Economic Prospects” のことでしょう(世銀のウェブサイトで全文をダウンロードすることが可能です)。

この点、たしかに同レポート前文( “Foreword” )には、次のような記載があります。

Even this tepid global rally could be disrupted by any number of threats. Trade tensions could re-escalate. A sharper-than-expected growth slowdown in major economies would reverberate widely. A resurgence of financial stress in large emerging markets, an escalation of geopolitical tensions, or a series of extreme weather events could all have adverse effects on economic activity.

意訳すると、

この期間における世界経済の成長については、いくつかの要因で阻害される可能性がある。貿易の緊張が再び高まる可能性がある。主要国における経済成長が想定よりも減速する可能性がある。主要な新興市場諸国において地政学的な緊張や異常気象などが経済成長の重しになり、金融市場の混乱要因となる可能性がある。

というものであり、「貿易の緊張」が世界経済の重しになる可能性されているのは事実です。

また、レポート本文には、日韓関係について触れた記述がほかにもあります。

まずは、世界経済( “Global trade” )について述べた部分に、こうあります。

Trade tensions between the United States and China escalated throughout most of 2019, and new tariffs were implemented on the majority of their bilateral trade. These tensions, and the ensuing increase in policy uncertainty, have resulted in sizable aggregate losses for world trade; while they have also had a positive impact on some EMDEs through trade diversion, this impact has been relatively small. Trade frictions have also risen elsewhere, including between the United States and some of its other trading partners such as the European Union (EU), as well as between Japan and the Republic of Korea. (同P10。ちなみに “EMDEs” とは “emerging market and developing economies” 、つまり「新興市場諸国と発展途上国」のことです。)

簡単にいえば、米中の緊張状態が高まったことが非常に大きいとしつつも、それ以外にも「米欧関係」や「日韓関係」など、世界各地で「貿易上の緊張」( “trade tention“ )が発生している、という部分で日韓関係が出て来ているのです。

東アジア・太平洋地域について述べている部分をもう一箇所拾っておきましょう。

The East Asia and Pacific (EAP) region has been experiencing a continued cooling of domestic demand in China alongside sizable external headwinds (Figure 2.1.1). Global demand has weakened, and trade policy uncertainty related to trade disputes between China and the United States was elevated prior to the recent bilateral agreement. In addition, trade tensions between Japan and the Republic of Korea, a maturing electronics cycle, and disruptions caused by rapid shifts in technological and emission standards, have also weighed on regional manufacturing activity and trade (World Bank 2019a, 2019b).(同P63)

この部分も、「中国の需要低迷により東アジア・太平洋地域は向かい風に晒されている」という文脈のなかで、

「(こうした中国要因に加えて)日本と韓国との貿易上の緊張(trade tention)や半導体サイクルの到来、テクノロジーの進歩や環境保護基準などがこの地域の製造業の重しになっている

という部分に日韓関係が言及されているに過ぎません。

曲解、歪曲

さて、以上を踏まえたうえで中央日報の記事に戻りましょう。

中央日報はハッキリと

  • 世界銀行は、日本の輸出規制措置に伴う韓日緊張関係の持続が世界経済を脅かす要因として作用するとの懸念を示した
  • 日本の輸出規制が昨年末の韓日首脳会談以降も顕著な改善がみられないでいるとし、東アジア地域の貿易縮小を脅かす主要要因になると指摘した」(※下線部は引用者による加工)

と断言しているのですが、世銀レポートに言及されている単語は「貿易上の緊張」( “trade tension“ )であり、中央日報がいう「輸出規制」( “export restriction” あるいは “export control” )といった単語は、レポートには一切出て来ません。

また、先ほどの記述を読んでも、「日韓間でトレード・テンションが高まっている」という表現はありますが、ここでいう「トレード・テンション」が「日本の輸出管理適正化措置に伴うもの」なのか、「日本の輸出管理適正化措置を受けて韓国が大騒ぎしているもの」なのかは定かではありません。

というよりも、「日本の輸出規制措置に伴う日韓間のトレード・テンション」といった記述は、このレポートでは確認できないのです(もしかして私自身の見落としという可能性もありますが…)。

だいいち、「東アジア・太平洋」の章についてもざっと読んでみたのですが、「日本の輸出規制が昨年末の韓日首脳会談以降も顕著な改善が見られない」なる記述はみあたりません(もちろん、精読すれば、中央日報の記者にとって、そのように読める記述があったのかもしれませんが…)。

いずれにせよ、中央日報さんには、あらためて自紙が主張した部分について、原文を示してもらいたいと思います。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 一国民 より:

    会計士様のご指摘で、やはりね、と思いました。

    韓国マスゴミお得意の勝手な解釈に基づく、と言いますか、ほとんどねつ造のね記事ですね。

  2. ペタッ より:

    この記事は中央日報の提携先である二流のマネートゥデイの記事を日本語にして中央日報日本語版にペタッと貼ったもので、中央日報韓国語版には見当たりません。
    ポータルのNAVER、DAUNも取り上げてません、韓国でもこんな記事は殆んど人目につかないと思います。中央日報日本語版の記事とは所詮この程度のものです。

    以下 (マネートゥデイ wiki 抜粋)
    日本の経済報復事件以来、経済メディアの中でも特に、強力に不買運動や日本安倍首相批判の記事を吐き出す等、反日記事がかなり多く、特にYouTubeチャンネルであるMTNマネートゥデイ放送では反日とナショナリズムを刺激する経済関連映像を頻繁にアップロードし、反日を刺激する内容で人気を得ている。

  3. りょうちん より:

    「韓国君のテンションアがッってンナァ、おいwww」

    という翻訳になりますが・・・。

  4. 墺を見倣え より:

    「世銀」って、昨年2月迄、7年程、韓国系アメリカ人が総裁やってたとこでしょ。
    7年も汚鮮されてりゃ、後遺症も出るカモ。
    1年弱では除鮮し切れない?

  5. 心配性のおばさん より:

    >はて、世銀が本当にそんなことを言ったのでしょうか?

    うふふ。言ったかもしれませんよ。パラレルワールドの世界銀行であれば。
    現実世界では、韓国経済が世界経済に及ぼす影響なんて、ほとんどありませんでしょう?

    >中央日報さんには、あらためて自紙が主張した部分について、原文を示してもらいたいと思います。

    ムリムリ(笑)。民族性として、願望が現実となってしまうに加えて、あの国で英語教育はというより、反日教育以外どこまでやっているのかしら?

    なにせ、あの国の外交部ですら、バルト三国をバルカン三国、分離独立したチェコとスロバキアをチェコスロバキアとして統一してしまったのですから(笑)。

  6. あまこちゃん より:

    世界銀行が完全に米国のコントロール下にあることは、知らぬ人はおりません。その世界銀行が、そのような発表をする事はあり得ません。韓国の新聞記者の程度はこの程度。多分、これでも韓国の有名大学を出たエリートなんでしょう。という事は、世界で最優秀な民族ではなく、最底辺の民族であることを自ら証明していることになります。まあ、それすらわからないのでしょうが。

  7. だんな より:

    世銀の発表と記事に齟齬が有るのは、新宿会計士さんの言う通りです。
    見方を変えれば、韓国のニュースレベルは、腹は立つけどこんな物。国民が、反日的なニュースを喜び、真実を報道すると親日的だと批判します。
    特に中央日報は、長年こんな記事ばかり書いて、どれだけ日本国内の嫌韓を増やす事に、貢献したか分かりません。
    このフェイクニュースで、また嫌韓が増えるでしょう。
    韓国にマイナスにしかならない、ニュースだと思います。

  8. イーシャ より:

    そもそも論として、韓国が DRAM 等の世界シェアがどうこう言おうと、大部分は中国向けです。
    「経済を発展させれば中国共産党の力が弱まるだろう」という予想がはずれ、むしろ逆効果だったことに
    米国が気付き、中国経済弱体化に舵を切った中では戯言に過ぎません。
    それに、日本政府が輸出管理の強化に踏み切る前から、半導体不況の中で、
    ・マイクロンテクノロジー広島工場
    ・東芝メモリー(現キオクシア)
    が増産に向けた投資を行い、後には台湾でも半導体の大規模投資が行われています。
    西側世界は、とっくに韓国を切り捨てる準備を整えているのです。

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