新味のない「請求権協定資料公表」、むしろマスコミ対策か
産経や日経などのメディアは、昨日の夜、「韓国政府が当初から『精神的な慰謝料』も含めて交渉に臨んでいた」とする証拠となる日韓請求権協定の交渉議事録を外務省が公表した、と報じました。ただ、実際に記事を読んでみたのですが、正直、すでに外務省が公表している『ファクトシート』などと比べても、内容に特段の新味はありません。外務省がこの資料を記者団に対して公表した目的は、「韓国政府対策」というよりはむしろ、「日本のマスコミ対策」という側面が強いような気がしてならないのです。
「外務省が請求権協定議事録を公表」
昨日の夜、わが国のメディアからは、「外務省が日韓請求権協定の交渉時に韓国政府が日本側に示した『対日請求要綱』という資料を公表した」とする報道が出て来ました。
徴用工問題「支払いは韓国政府」で合意 外務省、日韓協定交渉の資料公表(2019.7.29 20:56付 産経ニュースより)
日韓交渉記録公表、徴用工「解決済み裏付け」 外務省(2019/7/29 21:47付 日本経済新聞電子版より)
外務省が日韓交渉記録公表/徴用工「解決済み裏付け」(2019/7/29 22:26付 共同通信より)
「公表した」、とありますが、実際には記者団に対して開示されただけであり、私たち一般国民に開示されているわけではなさそうです。
産経ニュースによると、問題の対日請求要綱は8項目で構成され、そのなかに「被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請求権の弁済を請求する」と記載されていたそうです。
また、この要綱とあわせて公表された交渉議事録によれば、1961年5月の交渉で日本側代表が「個人に対して支払ってほしいということか」と尋ねたところ、韓国側は「国として請求し、国内での支払いは国内措置として必要な範囲で取る」と回答した、としています。
一方、日経電子版の記事は共同通信が配信したものですが、なぜかオリジナルの共同通信の記事よりもボリュームが多く、またタイトルも異なっています。
共同と日経はこの資料について、「1961年5月10日に開催された協定交渉小委員会会合の一部」の記録だとしつつ、韓国側代表が「強制的に動員し、精神的、肉体的苦痛を与えたことに対し補償を要求する」と述べた、としています。
内容に新味なし
この報道が事実であれば、昨年10月30日に新日鐵住金(現・日本製鉄)に敗訴を言い渡した大法院(※最高裁に相当)の判決の根拠が覆る、ということでしょう。
日経によれば、大法院判決では「請求権協定は元徴用工の『精神的な慰謝料』までは含んでいないと判断」して日本企業に賠償を命じたとされているからです。
実際、外務省幹部も「韓国側は当初から『精神的な慰謝料』も含めて交渉に臨んでいた。最高裁判決が協定に反しているのは明白だ」と述べたのだとか。
ただ、産経や日経などが報道した「外務省の資料」というものが、一般に向けて公表されているものではなく、原文を読んだわけではないので、どうもすっきりしません。
なぜ外務省は、これを記者団にだけ公表したのでしょうか?
また、「1961年5月10日の協定交渉小委員会会合」という具体的な日付と会合名が出て来たのに加え、日本側代表が「個人に対して支払ってほしいということか」と尋ねた、という点は確かに新しい情報ですが、正直、内容に新味はありません。
すでに7月19日に時点で河野太郎外相は「新・河野談話」を公表しましたが、外務省はこれにあわせて『旧朝鮮半島出身労働者問題をめぐるこれまでの経緯と日本政府の立場』というファクトシートを公表し、次のように説明しているからです。
1965年12月18日に効力を発生した日韓請求権協定は、日本から韓国に対して、無償3億ドル、有償2億ドルの経済協力を約束する(第1条)とともに、「両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が・・・完全かつ最終的に解決されたこと」、また、そのような請求権について「いかなる主張もすることができない」(第2条)ことを定めている。また、当時の交渉の中で、韓国側が日本側に示した八項目の「対日請求要綱」には、被徴用韓人の未収金や補償金及びその他の請求権が含まれており、また、韓国は、交渉の席上、被徴用者全般について補償を要求することや、これが被徴用者の精神的、肉体的苦痛に対する補償を意味するとの説明を行っている。その上で、日韓請求権協定についての合意された議事録においては、「完全かつ最終的に解決されたこととなる・・・財産、権利及び利益並びに・・・請求権に関する問題には、・・・『韓国の対日請求要綱』(いわゆる八項目)の範囲に属するすべての請求が含まれており、・・・同対日請求要綱に関しては、いかなる主張もなしえないこととなる」と規定されている。(※下線は引用者による加工)
このファクトシートには「1961年5月10日の協定交渉小委員会会合」という文言は出て来ませんが、産経や日経などが報じた内容は、ほぼ網羅されています。
そもそも請求権協定原文にすべて書いてある
いずれにせよ、産経や日経の報道を読むと、外務省が資料を公表した狙いとは、おそらく、「日韓請求権協定には被徴用者の精神的苦痛に対する補償が含まれていない」という韓国の裁判所の根拠を崩すためだと読めます。
ただ、そもそも論ですが、「日韓請求権協定では、精神的苦痛に対する補償が含まれていない」とする韓国の裁判所の判決自体がメチャクチャです。日韓請求権協定第2条を読むと、「いかなる主張もすることができない」ものの範囲は「すべての請求権」と明記されているからです。
日韓請求権協定 第2条
1 両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。
(中略)
3 2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。
(【出所】外務省HP『大韓民国による日韓請求権協定に基づく仲裁に応じる義務の不履行について(外務大臣談話)』より)
本当の狙いは「日本のマスコミ対策」?
手前味噌で恐縮ですが、当ウェブサイトの場合、日本の主張の妥当性については、かなり早い段階から日韓請求権協定の原文を読んで確認して来ました(たとえば昨年11月の段階で、『「請求権消滅せず」?なら日本こそ韓国に請求権を行使しよう』で日韓請求権協定第2条を引用しています)。
ところが、とくに「ATM」と呼ばれるメディアを中心とする日本のマスコミ各社は、どうもそもそも論として、日韓請求権協定を読んでいない(あるいは知っていてわざと無視している)フシがあります(その論説の酷さについては『朝日など3紙社説がWTO巡り、そろって日本政府を批判』もご参照ください)。
このように考えていくと、外務省が一般国民に対してではなく、マスコミに対してのみ、このような情報を開示したのは、単純に「日本のマスコミが事実を正しく報道してくれないこと」への対策ではないか、と思えてならないのです。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私自身のような一般人の場合、政治家や官僚から直接話を聞くということは難しく、今回の日韓請求権協定のような問題であっても、ひと昔前であれば、どうしても新聞やテレビなどのマスコミ報道で知るしかありませんでした。
しかし、現代は便利な時代であり、インターネットを活用して法令などの一次資料を丹念に調べていけば、それなりの論考を作成することができますし、そのような作業をしていれば、むしろ新聞、テレビなどの大マスコミ報道の誤りをすぐに指摘することもできます。
むしろ、「ATM」を中心とするマスコミ報道の低レベルさは、一般人にでもできる初歩的なエビデンスの確認作業を、マスコミ関係者が怠っているという証拠にほかならないと思うのです(そういえば、「エビデンス?ねーよ、そんなもん」と言い放った某大新聞の記者がいたそうですね)。
その意味で、今朝の『もしかして韓国の議員団は日韓関係を破壊しに来るのですか?』の末尾でも少しだけ触れましたが、日韓関係は日本のマスコミ報道のレベルを知るための、ちょうど良い試金石のようなものだと言えるのかもしれません。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
ここまで知らない日本人が、多数派でしょう。
韓国マスコミは、無視を決め込む感じですね。
「新味」だけで勝つ事は出来ません。これは【弾幕】と言うべきではないか?毎日絶え間なく韓国からはウソニュースやら妄言やら粗忽者の不始末のニュースが洪水の様に流れて来る。それには朝鮮人の嘘や朝鮮人のウソを信じ込んだ別の朝鮮人のウソが必ずくっついて来る。従って一つ一つの事件や言動を時間をかけて吟味すると大した事ではない様に思えるがそれには必ずウソ情報が付随して来て、議論が全体として朝鮮人ペースに巻き込まれるのです。
だから「新味」は無くともこうして一貫して事実を押し出す事も肝心。頭がボーッとして来た時にちょっと窓を開けたり冷たい真水を飲んだりする様な意味もあるかも知れません。
世論はどうあれ、韓国政府も韓国司法も原告もそこは解っているから企業を相手取っています。で、議論すべきは「企業が請求権協定の範囲に含まれるか」だったり、各種のファクトチェックだったりなのですが、韓国はテーブルにつくのを拒否しているから国際法違反状態といえるのです。urlにちょうどこの話題を取り上げた私のブログを貼っておきます。
更新ありがとうございます。
韓国ではすでに盧武鉉時代に議事録までが公開されています。(2005年)
盧武鉉政権ですから、当然文在寅もこの公開には噛んでいるはずです。
シンシアリーさんが、韓国語からの日本語訳つきで昨年の11月に公開しています。
すみません。URLが長くなるので、短縮化しました。
http://urx.blue/vB1R
つまり、韓国側は確信犯なんです。
韓国でも、ある程度の年齢の人なら知っているでしょう。
日本としては、むしろ韓国併合再検討国際学術会議の結論を、素人でもわかるようにはっきりと告知すべきです。そこでは、日韓併合が合法であると、はっきり結論されています。韓国の裏工作があったにもかかわらず。文在寅および「お笑い大法院」はこれを無視しているわけです。
http://urx.blue/rdwv
まあ、今の韓国には何を言っても無駄なような気がしますが。
少なくとも韓国語で、短く要約を告知するぐらいしてもよいのかもしれません。
自己レスです。
韓国併合再検討国際学術会議で、併合が合法であったと認められたとするのはやや書きすぎでした。
せいぜい「違法ではなかった」という方向性で終わったというところでしょうね。
注目すべきは、とにかくしつこくしつこくしつこく迫る韓国の粘着力です。
1965年の議事録でも、なんとか日本に違法性を認めさせようとしていることが(日本はこれをかわしている)読み取れます。そこからずっと違法だ違法だといい続けて、36年後国際会議開催にこぎつけ、その場でも参加者全員一丸となって違法だと喚き続ける。
対する日本側といえば、参加者の意見がバラバラで、中には「違法」を主張する者もいるほど。
まあ、20年近く過ぎた今となっては、こういう「自国の不利になろうとも異を唱える者がいる」という日本の姿勢が、結果として趨勢となった合法性に対する信憑性を増す効果にはなったのかもしれません。
こういう姿勢が最後に「強さ」につながればよいのですが。
この間、あまりにも日本はやられ放題だったので、フェアネス・スタイルに自信を持てなくなっている人が増えていることを感じます。価値観の衝突、文明の衝突ですね。結局人類は力と狡猾でしか決着をつけられないのでしょうか。
韓国側が議事録をオープンにしていた以上、日本側が非公開に設定した理由の方が問題ですね。
どうせ、韓国にいいようにやられた外務省の無能の歴史を暴露したくないとかそんな理由だったのでしょう。
外務省の外交文書公開システムにいって、戦後交渉の資料を漁ったら日本・インドネシア協定交渉議事録なんて山ほど公開されているんですよ。
そもそも植民地支配による精神的苦痛に対する賠償の請求なら、当時の法令に従って活動していた企業に請求するのはお門違いで、日本政府に請求すべきものですよね。ただの弱い者いじめです。
りょうちん様へ
当時の日本の外務省は、進んで韓国に多額のお金を捧げたかったのでしょう。
その名目は、個別支給であろうが、役務であろうが、借款であろうが何だっていい。とにかく、日本のお金を韓国に捧げたかった。そんな内容を、日本国内に公開することは難しかったことはわかります。
日本人が優し過ぎて韓国を甘やかし過ぎた、とネットではよく言われますが、そんなことはありません。
当時の外務省には純日本人など、どこを探してもいなかったでしょう。公職追放ですべて排除されていたはずです。あの杉原千畝ですら、公職追放を受けた疑いが濃厚です。歴史の表面には出てきませんが…
最初から最後まで、『韓国人』と『日本人の仮面を被った韓国人』の間で決められたことだったのです。
日本側も、向こうの韓国側のやり口がよくわかっていた。同じ同胞ですからね…
だから、『完全かつ最終的に解決された』との文言を入れることができたのでしょう。
この議事内容は、かなり以前に、韓国から情報が出ていました。個人に対して支払いが必要かというやり取りも、この韓国からの情報に出ており、全く新規ではありません。
spacemanさんが既にコメントしていました。韓国からの情報は、2005年8月の韓日協定交渉関連の外交文書の全面公開です。
>日本側代表が「個人に対して支払ってほしいということか」と尋ねると、韓国側は「国として請求して、国内での支払いは国内措置として必要な範囲でとる」と回答した。
産経新聞から引用しましたが、韓国側の返答での「必要な範囲」とはどういうことでしょうか。
払われた金は韓国政府の裁量に委ねられるということでしょう?
何故、日本側はこの言い分を受け入れたか。
日本側に戦時賠償に忌避感があったのでしょう。
成立したてで統治能力がともなっていない、もっと言うなら戦中までは大日本帝国臣民であった韓国民にたいし、どうして個人賠償という選択を採らなかったのか、完全に日本の政策失敗です。