韓国とUAEが通貨スワップ協定が復活 「通貨危機遠のく」?
韓国がアラブ首長国連邦(UAE)との通貨スワップ協定を復活させたようです。金額は200億ディルハムで、米ドルに換算したら55億ドル弱、といったところでしょうか。米ドルに対するペッグ制を採用するUAEとの通貨スワップは、ほかの発展途上国との通貨スワップと比べれば、ある程度は役に立つという言い方ができなくもありません。ただ、そもそも論として、なぜ韓国が「ローカル通貨建て通貨スワップ」の締結に力を入れているのかと考えていくと、やはり、自国通貨の国際化を怠り、外貨依存という状態を放置し続けた韓国が、深刻な外貨不足に直面することを何よりも恐れているからではないか、と思わざるを得ません。
韓国の外貨準備高はどこがおかしいのか?
以前から当ウェブサイトでは、どうも隣国・韓国の外貨準備高統計がおかしいのではないかという点について、疑問を投げかけています。
国際決済銀行(BIS)の「ローカル・バンキング統計(LBS)」によれば、韓国が外国から借りているおカネのうち、通貨別内訳が判明する部分については、米ドル建ての借入が8割を超えていることがわかりますが、ということは、自然に考えたら外貨準備も8割が米ドル建てであるはずです。
しかし、どうも韓国の外貨準備高については、米ドル建て資産の比率は多くてもせいぜい5割、下手すると3割を割り込む水準にあり、残りの部分はユーロ建てなどのジャンク債、あるいは不良資産ではないかとの疑いを抱いているのです。
いちおう、韓国銀行による公式の統計によれば、2018年12月末時点において、韓国の外貨準備高は4053億ドルだそうですが、そのわりに米国財務省の統計(TICレポート)で判明する、韓国が国を挙げて保有している米国内の有価証券残高は3186億ドルに過ぎません。
韓国の外貨準備高におけるデータ上の不整合(2018年12月末時点)
- 韓国銀行が主張する外貨準備高:403,694百万ドル…①
- TICレポート上、韓国が国を挙げて保有する有価証券の残高:318,593百万ドル…②
- ②のうち、米国債:106,782百万ドル…③
- ②のうち、エージェンシー債:44,735百万ドル…④
- ②のうち、③、④以外の債券:49,237百万ドル…⑤
- ②のうち、株式:117,839百万ドル…⑥
仮に韓国の外貨準備高の8割が米ドル建てだったとすれば、韓国銀行が保有する外貨準備高4037億ドル(①)のうち、3200億ドル程度が米ドル建て資産であるはずですが、TICレポート上、韓国が国全体で保有する米ドル建ての有価証券は3200億ドル弱に過ぎません(②)。
ちなみに、上記②の金額には、韓国銀行だけでなく、韓国の保険、年金基金など民間部門が保有する対外証券投資も含まれているため、韓国銀行が外貨準備で保有する金額は、この②の金額よりもかなり少ないはずです。
しかも、この②の金額のうち、「安全資産」とされる米国債の金額は1068億ドル(③)に過ぎず、エージェンシー債447億ドル(④)とあわせても1515億ドル(③+④)に過ぎません。
しかも、上記②の金額は、社債やジャンク債など、③、④以外の債券492億ドル(⑤)や株式1178億ドル(⑥)を含めた金額ですが、一般に外貨準備で株式を保有することは考え辛く、このことからもやはり、韓国銀行が主張する外貨準備高には、相当の怪しい資産が紛れていると思わざるを得ません。
外貨不足を嘆く韓国メディア
さて、私自身の分析では、韓国経済が「短期的な資金繰りに窮して突然死するリスク」については、意外と高くないと考えています(『韓国のドル建て短期債務と資金ショート、そして日韓スワップ』参照)。
ただ、これはあくまでも「短期的な債務」の話であり、中・長期的な視点となれば、話は別です。
韓国が国全体として借りている金額は、所在地ベースで2000億ドル、最終リスクベースで3000億ドルを超えており、これに対外直接投資や貿易信用などを加えれば、外国からの投資残高は約6000億ドル、といったところでしょうか。
昨年、韓国メディア『中央日報』(日本語版)には、韓国が緊急時には1200億ドル程度の外貨不足に陥るとの話題も掲載されていましたが(下記参照)、それだけ韓国には「外貨不足」という点が強く意識されている証拠ではないでしょうか。
韓国、米利上げ時に通貨危機の可能性…日米との通貨スワップ必要(2018年03月19日13時47分付 中央日報日本語版より)
祝!?UAEとの通貨スワップ協定復活!
こうしたなか、土曜日にはこんなニュースが流れていました。
UAE, South Korea renew Dh20b currency swap agreement(2019/04/13 21:21付 Khaleej Timesより)
カレージ・タイムズとは、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで刊行されている英字紙だそうですが、これによるとUAEと韓国は200億ディルハム・6.1兆ウォン相当額のローカル通貨建て通貨スワップ協定(※期間3年)を締結したのだそうです。
かつて、韓国はUAEとのあいだで、200億ディルハム・5.8兆ウォンの通貨スワップ協定を保持していましたが、2016年10月12日付で失効していました。それから3年弱が経過し、少しだけ条件が変わったものの、ほぼ同額で復活した格好です。
日本貿易振興機構(ジェトロ)のホームページの説明によると、ディルハム自体、1998年以降、1ドル当たり3.6725UAEディルハムに固定されているのだそうであり、200億ディルハムを米ドルに換算すれば約54.5億ドルです。
もちろん、今回の通貨スワップ協定において、引き出せる通貨はUAE側が韓国ウォン、韓国側がUAEディルハムであり、危機の際に役立つ米ドルではありません。
といっても、先ほどのジェトロの説明によれば、UAEでは貿易取引での決済通貨、手段などの規制もなく、貿易外取引でも特段の規制は設けられていないなど、資本規制が非常に少ない国でもあります。
近年、ドバイでは2004年に「ドバイ国際金融センター」(DIFC)が創設され、
「外資100%可、利益・配当送金の自由、法人・個人とも無税(50年間)、外国人雇用の自由といったインセンティブを有する金融フリーゾーン」
であり、外国金融機関が多数進出しているそうです(ただしDIFCに進出した金融機関は、現地通貨建ての調達が禁止されているほか、UAE国内市場への参入も制限されているそうです)。
韓国が通貨危機に陥った際、韓国はUAEから同国通貨を受け取り、1ドル=3.6725ディルハムで米ドルに両替すれば、外貨準備を補完することくらいはできるのかもしれません(UAEがそれを許すかどうかは別ですが…)。
発展しつつある中東の金融センターであるUAEとの金融協力は、わずか50億ドル少々とはいえ、韓国の通貨ポジションの安定に役立つのかもしれませんし、あるいは逆に、UAEの通貨ポジションが韓国に引きずられて不安定化するのかもしれません。
韓国の外貨ポジションは
以上を踏まえ、現在の韓国における外貨ポジション(とくにスワップ協定)についてまとめておきましょう(図表)。
図表 韓国銀行が外国通貨当局と締結している二ヵ国間通貨スワップ協定(自称も含む)
相手国 | 相手通貨と米ドル換算額 | 韓国ウォン |
---|---|---|
インドネシア | 115兆ルピア(81.6億ドル) | 10.7兆ウォン |
マレーシア | 150億リンギット(36.5億ドル) | 5兆ウォン |
スイス | 100億フラン(99.8億ドル) | 11.2兆ウォン |
オーストラリア | 100億豪ドル(71.7億ドル) | 9兆ウォン |
UAE | 200億ディルハム(54.5億ドル) | 6.1兆ウォン |
中国 | 3600億元(537億ドル) | 64兆ウォン |
合計 | 約881億米ドル相当額 | 106兆ウォン |
(【出所】各国中央銀行等ウェブサイトを参考に著者作成。なお、UAE以外の各国通貨の米ドル換算額は金曜日時点のWSJの引け値を参照。また、韓国はこの6ヵ国以外にも、カナダとの為替スワップ協定を保有している)
ただし、この図表を読む際に注意しなければならない点が、2つあります。
1つ目は、ここに記載された通貨スワップ協定の中で、「米ドルを引き出すタイプのもの」は1つもない、という事実です。
韓国はチェンマイ・イニシアティブ・マルチ化協定(CMIM)に参加していて、384億ドルを引き出すことが可能ですが(※ただしIMFデリンク制限に引っかからない上限は115.2億ドル)、CMIM以外のスワップに関して米ドルを引き出すものは1つもない、という点には注意が必要でしょう。
2つ目は、中国との3600億元のスワップについては、すでに失効済みの可能性が高い、という点です。
このスワップは2017年10月10日でいったん失効しているのですが、その数日後、韓国側が一方的に「中韓通貨スワップ協定は口頭で延長に合意した」と述べただけに過ぎず、もし韓国が通貨危機に陥ったとしても、中国は人民元の引出を拒絶する可能性があるのです。
もっとも、中国とのスワップが今でも有効だったと仮定しても、国際通貨でもない人民元を引き出すタイプの通貨スワップに危機対応という性格があるのかどうかはきわめて疑問ですが…。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
さて、韓国が外国通貨当局との通貨スワップ協定の締結に積極的であることは事実ですが、オーストラリアやスイスとの通貨スワップ、カナダとの為替スワップ、CMIMスワップを除けば、国際的に通用する通貨との両替が可能なスワップは存在しません。
また、嫌な言い方をすれば、スワップの相手国が通貨危機に陥ったときに、韓国は相手国に対して韓国ウォンを引き渡さなければならないということでもありますし、相手国が韓国ウォンを外為市場でドルと両替すれば、そのことが契機となって、韓国にも通貨危機が飛び火するかもしれません。
インドネシアやマレーシアがその典型例ですが、怖いのは中国でしょう。
中国が(存在しないはずの)中韓通貨スワップ協定に基づき、64兆ウォン(1ドル=1135ウォンと仮定すれば、約564億ドル)の引き渡しを韓国銀行に要求し、韓国銀行がこれに応じた瞬間、64兆ウォンが一気に外為市場で売られ、韓国自身が通貨危機に陥る、というシナリオが考えられるからです。
通貨ポジションが脆弱な国を近隣に抱えるわが国にとっては、金融市場の混乱に派生する騒擾には十分に注意しなければならないことも、間違いないでしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。
ツイート @新宿会計士をフォロー
読者コメント一覧
※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。
やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。
※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。
※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。
当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。
コメントを残す
【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
どなたか金融に詳しい方にお尋ねします。UAEと韓国が通貨スワップ
を結んだ場合、UAE側のメリットは何ですか。韓国と距離が離れている
UAEにとって、もし、韓国経済が混乱しても、その悪影響が及ぶ可能性
は低いと思うのですが。
よろしくお願いいたします。
金融はド素人ですみませんが、バラカ原子力発電所がからんでいるのではないかと邪推します。
前々からバラカ原発がらみで、韓国はUAE軍訓練と原発地の警備の名目で軍隊を派遣していますが、李明博政権時に有事の際に韓国軍がUAEを支援する密約があったことが、文在寅政権下で表面化し、積弊精算されかけました。これにUAE側が怒り、何度も交渉が行われました。その後どうなったのか分からないのですが、恐らく国会に対してうやむやな説明のまま密約を継続しているのではないかと。
「UAEとの秘密軍事協定」、火の粉かぶる現地韓国企業
http://japan.hani.co.kr/arti/economy/29482.html
「UAE軍事秘密協定に非常時の韓国軍自動介入盛り込む」
https://japanese.joins.com/article/260/237260.html
その後で3号機格納建物のコンクリート壁からグリスが漏れ出す問題が見つかりましたが、どうにか対処したようで、両国の関係は一層深まることになったそうです。
韓経:脱原発の韓国の弱点狙ったUAE、整備価格買いたたき
https://japanese.joins.com/article/889/248889.html
一般社団法人 日本原子力産業協会
https://www.jaif.or.jp/190228-a
韓国とUAE両国の首脳、バラカ計画以降の協力関係拡大で合意
—-
バラカ原子力発電所(韓国製140万kW級PWR×4基)建設プロジェクト以降も両国が協力関係をさらに深め、第3国においても両国が協力して海外展開の機会を模索することで、韓国の文在寅大統領と合意したことを伝えた。
—-
で、UAEがスワップを締結することのメリットは特に無いと思います。色々と値切りまくり、無理言いまくりだし、今後の展開によっては両国間の資金の移動が増えそうだしで、「せ、せめてスワップだけでも結んで欲しいニダ」とお願いされたのではないかと。
ご回答、ありがとうございます。
しかし、UAE側に明確なメリットがないということは、いざとなれば
UAEは(何らかの大義名分がつくという条件付きで)スワップ実施を断
ることも可能と思います。(特に相手が韓国ならば)
原子炉の60年保証とかとんでもない条件で契約を勝ち取ったので、韓国に飛ばれては困るのです。
ご回答ありがとうございます。
UAEは原発の60年保証のために、かえって、「余分な危険性を負っ
た可能性がある」ということですね。
韓国が通貨危機に陥った際に、各国の通貨を怒られない範囲で少しずつ売って、米ドルを調達するつもりではないでしょうか?
所詮、やったもん勝ちでしょう。
韓国は、いざとなれば協定とか関係ないし。
でもこれ、ウォンの引き出しを各国から一斉に求められると、ウォンの流通量が激増するんでないの?
韓国の悪事を暴いてスワップ締結国で結託すれば、韓国を一気に破綻させられるかも・・・
まあ、ただの妄想ですが・・・
更新ありがとうございます。
中国は韓国とのスワップにダンマリを決め込んで、一昨年の『締結した』と韓国が言ってた頃も、韓国メディアに対しては『韓国に聞けッ』と言ってました。
立ち話で公表した韓国もあり得ない発表スタイルでしたが、実は私も中韓スワップは嘘だろうと思っていたのです。しかし、会計士さんの『韓国が中国に64兆ウォンを引き渡し、外為市場に出せば一気に韓国は通貨危機に陥る』と。
中国はさすが生殺与奪の切り札を持ってますね。これでは韓国は急所を握られているのと同じ。今だに日本とのスワップを望むはずだ。日本をコケにした代償は大きいぜー(笑)。
中国と言いUAEと言い、裏に黒いものを感じますね。
恐らく、数年後に積弊スワップという名前に変わるかと。
https://m.news.naver.com/read.nhn?oid=025&aid=0002899172
「外貨マイナス通帳」限度増え… 韓UAE通貨スワップ再締結2019.04.13
>韓国銀行は、中国(560億ドル)、カナダ(限度なし)及びスイス(106億ドル)及びオーストラリア(77億ドル)及びインドネシア(100億ドル)及びマレーシア(47億ドル)など7カ国との二国間通貨スワップを結んだ。
これと共に東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国や日本と共同で作成されたチェンマイ・イニシアティブ(CMI)から384億ドルを取り出し書くことができる。
「外貨マイナス通帳」って・・・。
元記事は、中央日報なので、日本語版も地近々アップされると思うけど、その際、中国とのスワップが記載されるかどうかに注目ですね。もしかしたら、無くなってるかもしれないし・・・。