ポンペオ訪朝は米国の北朝鮮に対する優先度が低下した証拠
今朝のニュースでは、ポンペオ米国務長官が8日に北朝鮮を訪問するそうです。また、訪朝に合わせて日本に1泊2日で滞在するほか、中国と韓国も訪れるそうですが、正直、現状で核のCVIDに向けた協議が進むとも思えません。では、なぜ米国がこのタイミングで国務長官を北朝鮮に派遣すると決めたのでしょうか?そして、日本は何をなすべきなのでしょうか?
目次
不安を感じるポンペオ訪朝
マイク・ポンペオ米国務長官は今月7日に、北朝鮮の首都・平壌(へいじょう)を訪問するそうです。本日、主要メディアがいっせいに報じていますが、ここでは産経ニュースと中央日報(日本語版)の報道を引用してみましょう。
ポンペオ米国務長官が7日訪朝へ(2018.10.3 08:27付 産経ニュースより)
米国務長官、7日に4回目の訪朝…金委員長と会談後にソウルへ(2018年10月03日07時18分付 中央日報日本語版より)
産経ニュースによると、ポンペオ氏の訪朝は4回目であり、今回の訪朝目的は「近く実施が見込まれる2度目の米朝首脳会談の最終調整」と、「北朝鮮の完全非核化を実現させるための方策を話し合う」ことだとしています。
また、中央日報によると、訪朝に先立つ6日から1泊2日の予定で日本を訪れ、安倍晋三総理大臣、河野太郎外相と会談し、7日の訪朝直後に同日中に韓国・ソウルに向かい、1泊したあとで、8日には中国を訪問するそうです。
ポンペオ氏の日中韓+北朝鮮訪問日程
- 6日:日本(1泊2日)、安倍晋三総理大臣、河野太郎外相と会談
- 7日:日本から北朝鮮に移動、金正恩(きん・しょうおん)と会談、当日中に韓国に移動して1泊。8日までの滞在中に文在寅(ぶん・ざいいん)大統領、康京和(こう・きょうわ)外相と会談
- 8日:韓国から中国に移動、王毅(おう・き)外相と会談
ただ、ポンペオ氏の訪朝は8月下旬にトランプ氏の指示で中止されたばかりであり(『経済制裁を受けたとしても、国家観を持たぬ韓国の自業自得だ』参照)、北朝鮮側の態度がまったく変わっていないにも関わらず、ここで再びポンペオ氏が北朝鮮を訪問すると決めたことは、正直、非常に不自然です。
正直、米国が北朝鮮の「CVID方式による非核化」に関心を失っているのではないかとの誤ったメッセージを北朝鮮や韓国、中国に与えかねないという懸念もあります。
では、実際のところ、これをどう見るべきでしょうか?
北朝鮮の行動は予想どおり
要点は核の「廃棄方法」
それについて触れる前に、ここまでの動きを簡単に振り返っておきましょう。
6月12日に歴史的な米朝首脳会談が行われ、米朝両国首脳は共同宣言に署名。このなかで両国は、「北朝鮮が朝鮮半島の非核化に向けて努力する」ことを確認しました。
Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.(2018年4月27日の板門店宣言に従い、北朝鮮は朝鮮半島の非核化を完了するよう努力することを再確認する。)
ただ、この共同宣言以降、北朝鮮側は、米国にとって納得がいく形での非核化に向けた動きを見せていません。それどころか、米朝首脳会談から約1ヵ月後の7月6日にポンペオ長官が北朝鮮を訪問した直後に、北朝鮮側はこんな声明を発しているのです。
非核化まで制裁とポンペオ長官、「ギャングのような」要求と北朝鮮(2018年7月8日 12:16付 ロイターより)
ロイターによると、ポンペオ氏が北朝鮮を離れた直後に北朝鮮が出した声明の内容は、次のとおりです。
「(米国から北朝鮮に対し)一方的でギャングのような非核化要求(を突きつけられた)」「非核化への我々の意思が、揺らぎかねない危険な局面に直面することになった。」
私も未熟者ながらも「コリア・ウォッチャー」の1人ですが、一般的に北朝鮮政府や韓国政府の行動パターンに照らすと、彼らが相手を口汚く罵るときは、得てして「自分たちにとって、何か都合が悪いことがあったとき」です。そして、おそらく今回の北朝鮮の声明も、このパターンではないかと思います。
ただ、不思議なことに、ポンペオ氏に対して面前でこれを言う勇気は彼らにはなかったようです。敵が見えないところに居なくなったら途端に勇ましいことを言い始めるあたり、さすが北朝鮮だな、と思ってしまいます。
北朝鮮が主導する「小出しの段階的廃棄ポーズ」
ところで、どうして米国側は北朝鮮の措置に満足していないのでしょうか?
これについて米国側はしばしば、この条項がいわゆる「CVID」、この点、つまり核兵器の「完全な、検証可能な、かつ不可逆な方法での廃棄」(Complete, Verifiable and Irreversible Dismantlement)のことだと主張しています。
一方、北朝鮮が強く主張しているのは「核の段階的廃棄」、いや、もう少し正確にいえば、「北朝鮮が主体となった核の段階的廃棄」です。そして、北朝鮮の核兵器を廃棄させる方法を巡っては、「北朝鮮主体の段階的廃棄」なのか、それとも「CVID」なのかで、プロセスはかなり異なります。
そして、この共同宣言以降の北朝鮮側の言動から判断するならば、北朝鮮が打ち出している戦略とは明らかに「核の段階的廃棄」の方です。
以前私は『CVID実現のために私たち日本国民がやらねばならないこと』のなかで、北朝鮮が今後行うであろう「段階的破棄」のプロセスを私なりに勝手に考えてみると、だいたい次のとおり、「小出しで少しずつ材料を出して破棄する(ふりをする)」という流れではないかと主張しました。
- 北朝鮮が、現在までに製造した核兵器の数と、核兵器を作るために必要な核兵器工場や核実験施設などの施設の場所を自主的に公表する。
- 製造した核兵器を1つずつ破棄する。
- 核実験施設など、公表した拠点を1箇所ずつ閉鎖する。
たとえば、北朝鮮は「わが国がこれまでに開発した核兵器は30個、核兵器製造工場は2箇所、核実験施設は3箇所だ」と公表したとしましょう。そのうえで、
- まずは核兵器製造工場を1箇所閉鎖し、その際に米国が経済制裁を解除してくれたら、次は核実験施設を1箇所閉鎖し、核兵器についても5個破棄する
- 日本が北朝鮮に対する敵視姿勢をやめ、北朝鮮との国交正常化交渉に入るのであれば、さらに核兵器を5個追加で廃棄する
- 日本が北朝鮮に対する経済支援を決断し、実行すれば、その金額次第では核兵器をさらに5個廃棄し、核実験施設をさらに1箇所廃棄することを検討してやっても良い
といった具合に、経済支援などと引き換えにして、少しずつ核兵器を廃棄していく、という考え方です。
非常に手前味噌ながら、この予測はだいたい合っていたのです。この北朝鮮の「段階的廃棄」論の一例として、先月、韓国の文在寅大統領が北朝鮮を訪問した際、金正恩との間で成立させた合意である「平壌共同宣言」の中身を紹介しておきましょう。
【南北首脳会談】/寧辺核施設の永久廃棄で合意 金正恩氏、ソウル年内訪問 「平壌共同宣言」署名(2018.9.19 13:24付 産経ニュースより)
産経ニュースによれば、北朝鮮側は「米国の相応の措置」を条件に、平壌北方の寧辺(ねいへん)にある核施設の永久廃棄を行うと約束したのだそうですが、これなどは上で示した「小出しの段階的廃棄」のポーズそのものです。
段階的廃棄の問題点
つまり、北朝鮮が保有する核施設を小出しにして、少しずつ廃棄することで交渉カード化するという、いつもの北朝鮮の常套手段です。では、この「北朝鮮主導の段階的廃棄」には、いかなる問題点があるのでしょうか?
まず、最初に「自分たちが核開発を行った拠点と、開発済みの核兵器の数」を北朝鮮自身が公表する、という点に、大きな問題があります。泥棒に対して「今まで盗んだ物を洗いざらい告白しろ」と言ったところで、正直に申告する保証などありません。
北朝鮮の核問題に関してもまったく同じことがいえます。先ほどの例では、「製造した核兵器の個数は30個、工場は2箇所、核実験場は3箇所だ」と北朝鮮が自主申告したとしても、実際には製造した核兵器が80個、工場が4箇所、核実験場が5箇所だったとすれば、意味がありません。
次に、「段階的廃棄」の狙いは、「行動対行動」にあります。これは、「核を1個廃棄するごとに100億円を支払え」、といった具合に、日本や米国などから少しずつカネをせしめる、というやりかたです。この場合、北朝鮮の完全な核放棄が済んでいないにも関わらず、北朝鮮に支援金が支払われるのです。
さらに、「段階的廃棄」だと、途中で北朝鮮が「やっぱりやめた」などと言ってくる可能性もかなり高く、結局は北朝鮮がカネだけせしめて、核廃棄が実現しないという危険性があります。
「北朝鮮が約束を守らないと決めつけるな」?
いえいえ。日本、米国などの国際社会は、1994年以降、北朝鮮に騙されっぱなしだったじゃないですか。
北朝鮮の核開発の代償として、軽水炉建設など、日本もかなりの負担を強いられましたが、結局北朝鮮は核開発を続けていたのです。ウソツキ国家を信頼しろといわれても、それはかなりの無理があります。
ここはやはり、「北朝鮮はウソツキ国家だ」と判断したうえで、「ウソツキに対しては相応のハードルを突きつける」というのが、アプローチとしてはまったく正しいと思います。今度こそ国際社会が騙されてはならないことは間違いありません。
韓国が明確に「敵」側に!
文在寅(氏)は北朝鮮のスポークスマン
ところで、日本と米国が北朝鮮の核問題で強力なタッグを組んでいることは間違いありませんが、ここでもう1つ、重要な論点があります。それは、北朝鮮の「南の片割れ」である韓国の動きです。
これについてはすでに、日本経済新聞社の鈴置高史元編集委員を含め、多くの「コリア・ウォッチャー」が取り上げている、次のブルームバーグの記事が参考になります。
South Korea’s Moon Becomes Kim Jong Un’s Top Spokesman at UN(2018年9月26日 9:38 JST付 Bloombergより)
ブルームバーグの記事の書き出しは、次のとおりです。
“While Kim Jong Un isn’t attending the United Nations General Assembly in New York this week, he had what amounted to a de facto spokesman singing his praises: South Korean President Moon Jae-in.”
私自身の文責で意訳すると、
「金正恩はニューヨークの国連総会の場に姿を見せなかったが、事実上のスポークスマンが彼のことをほめたたえてくれた。そう、南朝鮮の文在寅大統領だ。」
といったところでしょうか。ちなみに日本語で韓国のことを「南朝鮮」と呼ぶと、韓国から強い抗議が来るようですが、英語版のメディアでは堂々と “South Korea” と称されているのですが、これについて韓国は抗議しないのでしょうか?不思議ですね。
(※余談ですが、Moon Jae-in(モオン・ジャエ・イン)とは「文在寅(ぶん・ざいいん)」の朝鮮語読み「문재인(ムン・チェイン)」を韓国語風にローマ字音写したものだそうですが、どうやったら「ムン・チェイン」が「モオン・ジャエ・イン」に変わるのでしょうか?韓国語のローマ字音写は相変わらず支離滅裂です。)
ブルームバーグによると、文在寅氏は金正恩のことを「経済的繁栄を人民にもたらす素晴らしい指導者」(a normal world leader who wants to bring economic prosperity to his people)と称賛。
ドナルド・J・トランプ米大統領を含めた世界の指導者が金正恩を「狂った独裁者だ」と批判していることとは好対照をなしている、などとしています。
もはや誰の目にも明らか
当ウェブサイトでは、2017年5月9日に文在寅氏の韓国大統領への当選が確定したときから一貫して、韓国は北朝鮮に擦り寄ると予言して来ました。
当時、当ウェブサイトについては、「極端な嫌韓ブログが何か勝手なことを言っている」といった印象もあったようですが、この1年半の韓国の動きは、ほぼ私の予想通りです。
朝鮮半島がこれからどうなるのかについて、パターンを分けて議論したコンテンツが「朝鮮半島の将来シナリオ」というシリーズですが、先月はその最新版である『朝鮮半島8つのシナリオ・2018年9月版、大幅な確率修正』のなかで、韓国に待っている未来は大きく分けて、
- (1)北朝鮮が主導する「赤化統一」(確率30%)
- (2)中国の影響力が大きくなる「中華属国化」(確率65%)
- (3)現状維持(確率5%)
のどれかだと申し上げて来ました(細かいサブシナリオはもっとたくさんあるのですが、詳しく知りたい方は下記リンクをご参照ください)。
もっとも、私は韓国が赤化統一される前に、米国が韓国軍に軍事クーデターをけしかけたり、通貨危機を発生させたりして、軍事的、経済的な圧迫を加える可能性もあると見ているのですが、それについてはどこか別の機会に論じたいと思います。
そして、韓国が順調に「赤化統一」ルートを歩んでいることが明らかになってしまったなかで、ポンペオ氏が迂闊に北朝鮮の招きで訪朝することについては、非常に危険なことでもあると思います。
「優先順位が下がっただけ」なのか?
ただ、このポンペオ氏訪朝という動きの単体を見ていると、あきらかに間違っている行動であるといえますが、それと同時に私たちは「アメリカ合衆国」という国が、それこそ地球儀を俯瞰するレベルで、世界中に利害を持っていることを忘れてはなりません。
おそらく、私の感覚だと、現在の米国は、核開発問題では北朝鮮よりもイランを、アジアにおける平和と安定の問題では北朝鮮よりも中国を、それぞれ重視し始めたのだと思います。つまり、今年6月12日の時点と比べ、米国から見て北朝鮮の政策的な優先順位が下がっている可能性がある、ということです。
普段から当ウェブサイトで主張しているとおり、いかにアメリカ合衆国大統領であっても、何もかも実現できるという「スーパーマン」ではありません。中国共産党が支配する一党独裁国家である中国と異なり、米国は三権分立の民主主義国家だからです。
ポンペオ氏がこのタイミングで北朝鮮を訪問しても、どうせさしたる成果はないことは間違いありませんが、逆に言えば、中国やイランに集中するという宣言だと考えれば、筋は通っているのです。
いずれにせよ、私たち日本がやらねばならないことは、米朝交渉がどうなろうが、日本としては核、ミサイル、大量破壊兵器のCVIDと日本人拉致問題の完全な解決を要求し続けることです。原則は絶対に捻じ曲げてはなりません。
安倍政権のハンドリングに期待したいと思います。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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< 更新ありがとうございます。
< ポンペオ長官の訪朝、よく米国は決心しましたね。まあ、特に決められる事も無いし、経済制裁緩めんぞッとコワモテで言うだけみたい。口で約束しようが、サインしようが、スグ破るのが国是ですから。韓国も(笑)。
< 韓国と北朝鮮の物資の瀬渡し(瀬取り?)を日本はしっかり取り締まれば良いです。常に日本漁船の安全、中国海軍の勝手な動きを取り締まる名目で、南北を締め上げる。シナルートは致し方ないが、海洋ルート遮断は効果ありです。
< なんなら該当船舶は、強制停船、拿捕、言う事を聞かねば砲門で言う事聞かせて下さい。
日米は北朝鮮を見切っていると思われます。
放置しても大したことは出来ない三下であり、現状のまま制裁を続けるだけで崩壊の崖を転がり落ちるし、国際社会における友人は韓国だけで、中露といえどもやむなし、渋々、仕方なしに味方しているに過ぎず、その支援の度合いは到底金正恩を満足させ得るものではありません。
対してイランと中国は放置すればそれこそ現行の世界のルールに挑戦して書き換えかねない存在であり、国際社会における友人も数多く、ヨーロッパの一流どころとも結びついており、自らを中東、或いはアジアの盟主に擬しています。
北朝鮮とは危険度の格が違います。
既にアメリカは巨人達の戦争に突入しつつあり、放置するだけで勝手に弱っていく北朝鮮に多くのリソースを使う必要を感じず、リップサービスだけでお茶を濁し、時々韓国を小突いてゆっくりと滅亡を待つ構えなのではと考えます。
北朝鮮が滅亡し、韓国が死に体になる時が、本格的な戦いのゴングになるかも知れません。
国際的な北朝鮮に対する制裁は時が経てば経つほど北朝鮮政権の財力を削ぎ取るという意味で効果的に機能しますので、米国はのんびり構えていればいるほど有利な交渉の立場を手に入れることが出来ます。
韓国の政権が邪魔さえしなければ、国際的制裁により北朝鮮政府は財政的に絶体絶命の境地に追いやられるので、中国、ロシアと韓国が制裁破りをしないように手綱を締めながら、機が熟するまで待っていれば良いと思います。
米国にとっては北朝鮮の非核化に期限を切る必要は微塵もありません。
なるほどね。言われてみれば確かにそうだな。ブログ本文見て納得、コメント見て納得。凄い。
そもそもCVID自体が、実現不可能ないちゃもんですからね。
ハルノートもこんな感じだったのでしょう。
しかし、追い詰めるのはいいですけど、金正恩がやけになって、届くかどうかもわからないICBMに核を搭載して一気に十数発とか打ち込んだら、どーすんでしょ。
たぶんその場合、IRBMにも核積んで、日本にも発射しますよ。