【昼刊】中央日報で辿る、韓国「韓日スワップ」哀願史

本日、中国の李克強(り・こっきょう)首相、韓国の文在寅(ぶん・ざいいん)大統領が来日し、安倍晋三総理大臣との三者会談が行われます。こうしたなか、韓国側からは、もはや「醜悪」といえるほどにしつこく「通貨スワップ」に関する報道が出て来ていますが、ここでは少しだけ視点を変え、韓国側が通貨スワップをどう報じていたのか、きちんと振り返っておきましょう。

野田政権下のスワップと韓国側報道

日韓両国、700億ドルスワップで合意!

日韓両国政府は、通貨スワップの規模を700億ドルに拡大することに合意した――。

といっても、これは最新ニュースではありません。今から約6年半前、東日本大震災の余波も冷めやらない2011年10月19日の話です。当時の野田佳彦首相と韓国の李明博(り・めいはく)大統領は、韓国大統領府で首脳会談を開き、スワップの拡大で合意したのです(ただし、肩書きは当時)。

<韓日首脳会談>通貨スワップ700億ドル規模拡大に合意(2011年10月19日15時00分付 中央日報日本語版より)

どうして唐突にこんな記事を紹介したのかといえば、2つの理由があります。

1つ目の理由は、韓国メディア『中央日報』日本語版は、過去の記事を遡って無料で参照することができるからです。こんなメディア、韓国どころか世界中を探してもめったに見つかりません。その意味で、アーカイブを無料公開してくれている中央日報には感謝申し上げたいと思います。

しかし、2つ目の理由は、当時韓国側のメディアが日韓スワップをどう見ていたのか、ということを、しっかりと思い出す必要がある、というものです。とくに、当時の韓国側では、日韓スワップを純粋に歓迎する論調に加えて、「何か日本には狙いがあるに違いない」といった不快な解説も見られたからです。

「韓日スワップに金融市場安定効果」

最初に紹介するのはこの社説です。

【社説】韓日通貨スワップ、金融市場安定効果ある(2011年10月21日08時24分付 中央日報日本語版より)

社説ではこの700億ドルスワップについて、とりあえずは「歓迎する」と言っておきながら、第2パラグラフにはさっそくこんな文章が出て来ます。

もちろん世の中にタダのものはない。通貨スワップのためにウォン安が止まり、輸出競争力が低下するという心配もある。韓日首脳会談で歴史など政治的に解決が難しい問題を伏せるための日本側の術策、韓日自由貿易協定(FTA)を早期に推進しようという意図という分析もある。正確な内幕は分からないが、たとえそうだとしても通貨スワップの締結はよかった。2カ月ほど前、米国債の格下げで国際金融市場がどれほど揺れ動いたかを考えると分かることだ。

スワップを結んでもらっておきながら、「歴史問題などから目をそらす術策」、「政治的意図」などと日本を批判しているのです。どうしてこの新聞社は、素直に「日本が韓国との通貨スワップを結んでくれて助かった」といえないのでしょうか?非常に大きな謎です。

李明博大統領の侮日行為と通貨スワップ

当時、世界の金融市場では、東日本大震災に続き、欧州債務危機問題からリスク資産売りが続いており、韓国の通貨・ウォンもリスク資産と見られて売り浴びせられる危険性がありました。しかし、このスワップのおかげで、ウォン相場は一気に安定しました。

【解説】韓日通貨スワップ、規模が拡大した背景は(2011年10月20日09時46分付 中央日報日本語版より)

いわば、「世界最強の通貨ポジションを持つ国・日本」との巨額の通貨スワップが締結されたこと自体、さっそくその翌日には全世界の投機筋に対する強いアナウンスメント効果として働き、それだけで市場を牽制した格好です。

では、韓国国民と李明博大統領は、日本に対して感謝したのでしょうか?

まず、韓国国民からの答えは、日本大使館前に設置された、日本を侮辱する慰安婦像です。

駐韓日本大使館前に「13歳の慰安婦少女」の平和の碑(2011年12月15日08時23分付 中央日報日本語版より)

これは、同年12月14日、日本大使館前での「水曜集会」の第1000回目を記念し、「13歳の慰安婦少女」という歴史に存在しないウソの存在を捏造し、すべての日本人を侮辱する目的で日本大使館に設置した問題です。

すでに当ウェブサイトでは何度も指摘しましたが、慰安婦問題とは、「捏造された問題に基づく、韓国人にによる日本人に対するヘイト犯罪」のことです。ですが、この慰安婦像は今日に至るまで、日本大使館前に設置され続けています。通貨スワップに対してお礼どころか侮辱で返してきたのです。

こうした「恩をあだで返す」態度を取ったのは、韓国国民だけではありません。李明博大統領自身も全く同じでした。

何と、スワップ締結から10か月後の8月、李明博大統領本人が韓国が不法占拠中の日本固有の領土である島根県竹島に不法上陸。あわせて天皇陛下を侮辱する発言を行ったのです。

李大統領、独島上陸に続き天皇に謝罪要求…日本「悪影響、数年続く」(2012年08月15日09時24分付 中央日報日本語版より)

ちなみに中央日報は「悪影響は数年続く」と述べていますが、実際には「数年」どころではなく、ほぼ「永久に」続く、の間違いではないかと思います。というのも、「天皇陛下の侮辱」は、さすがに温厚な日本人の逆鱗に触れた行為だったからです。

期限延長が近づくと…

ところが、ここで韓国側に1つの誤算が生じます。それは、当時の日本の野党・自由民主党で総裁選が行われ、総理大臣経験者でもある安倍晋三氏が総裁に選出されたことです。

このことは、野田首相と民主党に対して強い圧力として働きます。さすがに、通貨スワップを締結しておきながら、その相手からとことん舐められていたことは、日本国民から民主党政権に対する信認が地に堕ちる原因ともなったからです。

そして、700億ドルスワップの期限である2012年10月に入ると、「日本が通貨スワップを延長してくれないかもしれない」という憶測を、中央日報は「日本の通貨スワップ圧力」と報じたのです。

日本の通貨スワップ圧力…「韓国からの要請ないなら中断」(2)(2012年10月04日08時37分付 中央日報日本語版より)

記事の中でさりげなく、

通貨スワップは日本の立場でも必要だった。円高圧力を緩和でき、日本円の国際的な位置づけを高めるカードとして活用されるからだ。

という、事実に反する下りが含まれているのは「ご愛嬌」ですが、実質的に見て、この通貨スワップには日本に対するメリットなど皆無でした。結局、日本は「韓国からの要請がなかった」として通貨スワップの更新に応じず、2012年10月末をもって日韓スワップの規模は130億ドルに戻ってしまいます。

安倍政権後の日韓スワップ

韓国の大誤算:安倍政権の誕生

その後、2012年11月14日の国会審議で、安倍晋三・自民党総裁と野田佳彦首相との論戦のなかで、野田首相は衆議院解散に言及。実際に2日後の11月16日に、衆議院を解散してしまいます。翌12月16日の総選挙で民主党は政権を失い、自民党が圧勝して第2次安倍内閣が発足。

安倍晋三総理大臣、麻生太郎副総理兼財相という「黄金のコンビ」により、日本経済は復活に向けて強く歩み始めることになりました。

その後、2013年7月3日には日本銀行の円建てのスワップ(30億ドル相当額)が失効。2015年2月16日にはドル建てのスワップ(100億ドル)も失効し、現在に至るまで、日本と韓国との間にはいかなるスワップ協定は存在していません。

こうしたなか、スワップ失効後も韓国メディアからは相次いで「日韓スワップ必要論」が出て来ます。

韓日通貨スワップから結ぼう(1)(2016年01月11日11時19分付 中央日報日本語版より)
韓経:韓米・韓日通貨スワップ締結に弾み?(2016年06月27日09時02分付 中央日報日本語版より)

たとえば、『韓日通貨スワップから結ぼう』とする記事では、2015年12月に日韓慰安婦合意が妥結したことで「韓日通貨スワップ再開の話が出ている」と指摘。

1997年12月の通貨危機当時、林昌烈(イム・チャンヨル)経済副首相が日本財務省を訪ねて資金支援を要請したが門前払いされ、結局、国際通貨基金(IMF)に手を出さなければならなかった苦い記憶がまだ鮮明に残っている。

と、さりげなく事実に反して日本を侮辱する内容も記載されていますが、これも韓国メディアのいつものことです。また、英国の欧州連合(EU)離脱(いわゆる「ブレグジット」)直後には『韓経:韓米・韓日通貨スワップ締結に弾み?』という記事の中なかで、

韓米・韓日通貨スワップ締結に関心が集まっている

などと記載されています。

スワップ懇願と慰安婦像問題

その後、韓国側は2016年8月27日の「日韓財相対話」で、通貨スワップ協定の再開を懇願して来ます。

韓国政府は、二国間の経済協力を強化すること、及び、その証として双方同額の新しい通貨スワップ取極を締結することを提案した。本通貨スワップ取極は、地域金融市場の安定を高めるものである。両国政府は、本通貨スワップ取極の詳細について議論を開始することに合意した。

そして、『日韓スワップ「500億ドル」の怪』でも触れたとおり、韓国側では「あらたなスワップは500億ドル規模になる」といった荒唐無稽な報道が過熱しましたが、実際には2016年12月末に釜山の日本総領事館前に慰安婦像が設置されたことで、日本側がスワップ交渉を打ち切り、本日に至ります。

いわば、韓国側がソウルと釜山の慰安婦像を撤去しなければ、日本政府としてはスワップ交渉にすら応じない姿勢を明らかにしたというわけです。

外貨不足額は1200億ドル?

では、どうして韓国がここまで日韓通貨スワップ協定にこだわるのでしょうか?

その理由として考えられる仮説は、大きく2つあります。

1つ目は、韓国が主張する「4000億ドル近い外貨準備高」については、かなりのウソが混じっている、というものです。以前執筆した『【夕刊】外貨準備:韓国はいつものウソをつく』で行った分析を再掲しておくと、韓国の外貨準備額の最大値は1734億ドルに過ぎません。

また、『韓国紙「韓国の外貨不足額は1200億ドル」』でも触れたとおり、韓国国内の研究機関が「通貨危機に見舞われた際の外貨不足額は1200億ドル以上に達する」とする試算を発表しています。これは、私自身が予測する韓国の外貨不足額とも大きく異なりません。

韓国、米利上げ時に通貨危機の可能性…日米との通貨スワップ必要(2018年03月19日13時47分付 中央日報日本語版より)

2つ目は、韓国が保有している通貨スワップ協定の欠陥です。韓国は現在、5ヵ国とスワップを締結していると主張していますが、使い物になるものは、オーストラリアとのスワップ(100億豪ドル、約75億米ドル)とスイスとのスワップ(100億フラン、約100億米ドル)しかありません。

また、カナダとは金額・期間無制限の「為替スワップ」を締結していますが、これは通貨スワップではありません。危機の際に通貨当局が借りてきて使う、ということはできません。

このように考えていけば、韓国にとっては日韓通貨スワップは、それこそ「喉から手が出るほど」欲しいものなのでしょう。

結語

以上の議論は、次の2点に集約されます。

  • 日本が韓国に提供する通貨スワップ協定は、韓国側には甚大なメリットがあるが、日本側には一切メリットがない。
  • 過去に日本が韓国に通貨スワップ協定を締結した際には、韓国は日本に対して「恩をあだで返す」という振る舞いを行った。

日本が韓国との通貨スワップ協定再開に応じるべきかどうかについては、本稿ではあえて申し上げません。安倍政権には賢明なご判断を頂きたいと思います。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. poponta より:

    お疲れ様です。
    過去最高の外貨準備高を有しながら盛んに秋波を送る南朝鮮ですが、かなり焦っているのでしようか?実際に懐具合が相当悪いのかあるいは表面に出てきていない危ない案件があるのか?放置できないのでしよう。日本パッシングと言って牽制していますが終始スタンスが変わらない日本に痺れをきらしているようにも見えます。
    米朝会談は内弁慶でヘタレのトランプ大統領ですが北の坊ちゃまとは最初からカウンターの応酬を期待したいところで外交、経済とかの民族にはしっかりと教育的指導をしましょう。

  2. めがねのおやじ より:

    < 昼刊ありがとうございます。
    < 『歴史問題から目をそらす術策』『世の中にタダの物はない』ーーーなんで【ありがとうございます。本当に助かります】と、ひと言言えないのか(怒)。アンタラ韓国人はタダの物と思ってるだろ、日本人には。スワップしてもらって当たり前とか思ってるんじゃないのか(笑)。
    < ハッキリ私、言わせてもらいます、【韓国とのスワップ協議は、基本、未来永劫ありません】。韓国との500億ドルまたは円のスワップなどよりも、額は少ないが、たとえ100億ドルでもアジア各国、西欧東欧諸国にばら撒いた方がずっと『マシ』ですわ。喜ばれることはあっても、恨まれる事はありません。それが非常識なんです。
    < 明日が愉しみだなー。文、早く来て早く帰れ。拉致問題解決とCVIDをキッチリ宣言に入れる事。李首相は何の決定権もないし、韓国のスワップ無しを表明してくれるだけでいい。メシでも食って帰ってくれ。そういえば金正恩は日本に渡航歴があるとか。偽造パスポートが見抜けなかったか。残念!失礼します。

  3. poponta より:

    ブログ主様
    二重投稿になってしまいました、最初の投稿を削除をお願いいたします、お手数おかけします。

    1. poponta 様

      いつもコメントありがとうございます。二重投稿の修正の件、承知しました。すぐに対応します。

      引き続きご愛読ならびにお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

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