トランプ政権、独中韓3か国に「通商宣戦布告」か?

本日は予告通り、米国財務省が先週金曜日に公表した「為替監視対象国」レポートの最新版を紹介します。

米国「為替監視対象国」の最新版

米国財務省は先週金曜日、『米国の主要貿易相手国における外国為替政策』(原題“Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States”)と題する資料を公表しました。

Treasury Releases Report on Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States(2017/04/14付 米国財務省ホームページより)

米財務省によると、このレポートは、「1988年包括貿易競争力法(the Omnibus Trade and Competitiveness Act of 1988)」と「2015年貿易促進・貿易強制法(the Trade Facilitation and Trade Enforcement Act of 2015)」などの法令に基づき、米国の財務省が半年に1度公表するものです。

ポイントは、次の3つの要件に該当した国を、米財務省が「為替操作国」に該当すると認定して議会に報告する、というものです(図表)。

図表 米国の為替操作国の認定基準
基準概要原文
200億ドル貿易黒字基準少なくとも米国との間で200億ドル以上の重要な貿易黒字を抱えていることA significant bilateral trade surplus with the United States is one that is at least $20 billion
経常黒字GDP3%基準少なくともGDPの3%以上の重要な経常収支黒字を抱えていることA material current account surplus is one that is at least 3 percent of GDP
為替介入GDP2%基準外貨の純購入が反復的に行われていることを伴って、恒常的に片方向の為替介入が生じており、過去12か月間で少なくともGDPの2%に達していることPersistent, one-sided intervention occurs when net purchases of foreign currency are conducted repeatedly and total at least 2 percent of an economy’s GDP over a 12 month period.

今回のレポートは前回(2016年10月)に次いで公表されたものですが、結果的に、今回のレポートでも「為替操作国」として認定されたケースはありませんでした。ただし、前回の6ヵ国(中国、日本、韓国、台湾、ドイツ、スイス)は引き続き「為替監視対象国」として監視対象国とされています。

レポートのサマリー

今回のレポートについて、国ごとに抄訳をしておきましょう。

中国

中国に関しては、今回、非常に長い文章が記載されています。

中国は継続的で大規模な片方向の外国為替介入に関与するという長い実績を有しており、ざっくりと10年間、貿易・経常黒字が上昇しているにもかかわらず、人民元(RMB)の上昇を防いできた。中国はRMBの上昇を少しずつしか認めておらず、RMBの当初の深い過小評価状況が修正されるためには長い時間を要した。中国のこの時期の為替政策に起因する国際的な貿易システムの歪みは、米国の労働者や企業に対し、重要で長期に及ぶ困難を課した。さらにいえば、中国は輸入された製品やサービスに対する市場開放を制限しており、そして、外国人投資家に不利な影響を与える投資の仕組みを維持している。

中国は現在、米国との間で、極めて巨額で継続的な二カ国間貿易黒字を抱えているが、このことは中国経済が米国の製品・サービスに対してさらに開放される余地があることを示唆しており、それと同時に中国の経済は家計消費の拡大に向けてより一層改革と均衡を加速させなければならないことを意味している。中国の米国との製品貿易における黒字は2016年に3,470億ドルに達しており、これは米国の他の貿易相手国と比べても群を抜いて高い。2016年の貿易黒字は、過去最大となった2015年と比べて5%しか低下していない。中国経済を米国の製品・サービスに対してさらに開放することに加え、中国経済を家計消費の拡大方向に改革・リバランスすることで、こうした貿易不均衡の解消に寄与する。極端に巨額で継続的な貿易不均衡と比べて、中国の多国間外貨収支はここ数年、大きく調整されており、同国の経常収支黒字の額は2015年にGDPの2.8%だったものが、2016年には1.8%にまで減少している。さらにいえば、片方向で大規模な為替介入が10年間、RMBの上昇を防いできたことは事実だが、中国の最近の為替介入はむしろRMBの減価を避ける方向に行われており、このことは米国、中国、そして世界経済に対して悪影響を及ぼしている。

米国財務省としては、特に、中国の異常に巨額の対米貿易黒字という観点から、中国の貿易・通貨政策を非常に緊密に監視し続ける予定である。中国は過去3年間、通貨高に対する為替介入を行っていないが、市場における上昇圧力が生じた場合にRBMの上昇を容認することにより、これをより長期的な政策に転換することを実践すべきである。米国財務省は中国に対し、通商を目的に為替相場の競合的な切り下げを行うべきではないとするG20共同声明を遵守することを求める。米国財務省はまた、中国の為替相場や外貨管理におけるより一層の透明性が重要であることを強調する。

これは前回のレポートと比べ、明らかに長文です。そして、「貿易不均衡」が「米国の市民と企業に悪影響を与えている」という下りは、前回のレポートにはなかったものです。

以前も紹介したとおり、ドナルド・トランプ大統領はWSJとの単独インタビューに対し、北朝鮮問題と通商問題のバーターでの解決を中国の習近平国家主席に提案したことを明らかにしています。

Trump Says He Offered China Better Trade Terms in Exchange for Help on North Korea(米国時間2017/04/12(水) 16:15付=日本時間2017/04/13(木) 05:15付 WSJオンラインより)

WSJは

President Donald Trump said Wednesday he has offered Chinese President Xi Jinping a more favorable trade deal for Beijing in exchange for his help on confronting the threat of North Korea.(ドナルド・トランプ大統領は水曜日、WSJとのインタビューに応じ、中国の習近平大統領との首脳会談の席上、北朝鮮の脅威という問題を解決に協力する場合には貿易摩擦問題での譲歩の用意があると提案したことを明らかにした。)

としたうえで、「今年4月の為替操作国認定については見送る」「ただし、中国の対米黒字をこれ以上続けることはできないことを知るべきだ」と述べたとしています。

その意味で、今回のレポートでは米国が中国を為替操作国と認定することを見送るであろうことは予想されていましたが、その割に、実に手厳しいレポートであるという印象を拭い去ることはできません。

日本

日本に関する記述は、前回と比べて大きく変わるところはありません。

日本では需要の成長率の弱さが続いているが、このことは日本の貿易不均衡にも寄与しており、また、国内の需要を回復し、低インフレ状態から脱却し、輸出主導の経済成長に戻ることを避けるための、あらゆる政策を採用することの重要性を高めている。日本は米国との間で重要な貿易黒字を抱えており、製品黒字は690億ドルとなっている。日本の2016年の経常黒字はGDPの3.7%で、2015年の3.1%から上昇しており、2010年以来最高となっている。ただし、日本は5年以上、外為市場に介入を行っていない。米国財務省の想定では、大規模で自由に取引される外為市場において、為替介入は適切な事前協議を伴い、限定的な状況で例外的に行われるに留めるべきである。国内経済活動や需要成長率の弱さは日本の貿易不均衡の要因となっているため、緩和的な金融政策と柔軟な財政政策に加え、継続的な構造改革により労働市場を強化し、生産性を高め、長期的な経済見通しを改善することが重要である。

つまり、日本に関しては米国との間で貿易不均衡が生じているものの、現在の日本が行っている大規模な金融緩和政策については追認している格好です。余談ですが、米国財務省は以前から「日本は柔軟な財政政策により国内需要を喚起すべきだ」と述べていますが、この点については私も個人的に全く同感です。

ただ、重要な点が一つあるとすれば、米国財務省レポートでは、日本に対しては一切、「現在の為替管理政策が問題だ」と述べていない、という点でしょう。つまり、貿易収支や経常収支基準で「為替監視対象国」となってしまっているものの、現状で日本が行っている「デフレ脱却努力」については、米国としても高く評価しているという言い方をしても良いと思います。

韓国

一方、韓国に関しては、今回のレポートでも何かと問題視されています。

韓国は非対称的な外国為替相場に対する介入の実績があるが、このことは、同国の当局が外国為替市場への介入を、為替市場が無秩序な状況にある時に限定するよう、持続的に政策を転換することが急務であることを浮き彫りにしている。韓国は米国との間で重要な二カ国間貿易黒字を抱えており、製品黒字は2016年において280億ドルだった。また、2016年の経常黒字はGDPの7.0%にまで上昇している。米国財務省としては、韓国が2016年を通じて、外国為替市場で66億ドル(GDPの0.5%)程度の外貨を純額で売り越したと試算している。このことは過去数年における、ウォンの上昇を防ぐための為替介入とは注目すべき違いとなっている。前回のウォンに関する分析では、国際通貨基金(IMF)がウォンを過小評価であるとする評価を維持していた。この過小評価状態は、韓国の経常黒字状態と、内需の欠落が継続している状況を支えている。米国財務省は韓国に対し、外国為替相場の柔軟性を高めることを強く促すとともに、韓国の為替介入実務を緊密に監視し続ける。

韓国に関する記述は、中国に関する記述と比べると非常に短いものの、米国財務省は明らかに韓国当局が為替介入を行っている点を問題視しています。ただし、為替操作国の認定基準は「自国通貨高を抑制するための為替介入」ですので、たまたま今回は「為替操作国」としての認定基準を満たさなかっただけだ、と読むこともできるでしょう。

台湾

今回のレポートでは、台湾についても、為替介入を行っていること自体は問題視しています。

台湾は非対称的な外為市場への介入の長い実績があり、このことは同国の為替政策を、為替介入を行う場合は為替相場が無秩序な状況に陥ったことに限定するなどに転換することが焦眉の急であることを浮き彫りにしている。台湾は2016年において、経常黒字がGDPの13%に達するという、極端に多額の経常黒字を抱えている。名目のドル建てで見ると、台湾の経常黒字額は710億ドルで、これは全世界で上位5位となる。米国財務省の試算では、台湾は2016年を通じて、外為市場において100億ドルの外貨購入を行っており、これはGDPの1.8%に達するが、その購入の大部分は同年第Ⅲ四半期までに行われている。ただし、2016年は、ここ数年で初めて、台湾の外貨購入額がGDPの2%を割り込んだ年でもある。米国財務省としては台湾当局に対し、外国為替市場への介入については例外的で無秩序な状況に限定し、外国為替市場と介入、為替管理の透明性を高めることを強く促したい。

ただし、台湾の場合は引き続き「為替操作監視国」に指定されているものの、米国との貿易不均衡自体、それほどは大きな問題とされていません。

ドイツ

今回のレポートの中で、隠れた問題点はドイツでしょう。

ユーロ圏最大の経済大国であるドイツは、内需をより一層拡大するための政策手段―特に財政政策の拡大―を採用すべきである。そのことにより、ユーロの名目・実行為替相場を押し上げ、同国の対外不均衡を削減することに寄与するであろう。ドイツは米国との間で650億ドルにも達する製品貿易黒字を抱えており、2016年における経常黒字もGDPの8.3%と極端に巨額となっている。ドル建ての名目値で、ドイツの経常黒字額は3,000億ドルと世界最大規模だ。この黒字は、潜在的にドイツの国民所得に照らして、同国の内需拡大余地が大きいことを意味している。ドイツの実質的に低い為替相場に照らして、ドイツの内需がより強くなることはこれから将来の鍵となる要素だ。欧州中央銀行(ECB)は2011年の日本の地震・津波に伴う円市場の安定に関するG7協調介入措置以来、外為市場に介入は行っていない。

ドイツは中国や韓国と異なり、「為替介入」自体を行えるわけではありません。なぜなら、ドイツは共通通貨であるユーロを採用しており、欧州中央銀行(ECB)はユーロ圏内の特定の国の産業競争力を助けるための為替介入を行っていないからです。ただ、外形標準として、ドイツが主要国と比べても、明らかに巨額の貿易・経常収支不均衡を抱えていることは事実でしょう。

いわば、使い捨ての難民・移民労働力を使って製品を作り、ユーロという仕組みを悪用して無制限に貿易黒字を積み上げ続けるというドイツのビジネスモデルは、デフレを世界中に輸出しているようなものです。私は「為替操作認定」という形ではなく、他の形で、ごく近い将来、米独貿易紛争が深刻化すると見ています。

スイス

6か国の最後はスイスです。

スイスは過去数年、外為市場において安全資産としての外貨流入やデフレ圧力に対抗するために、外貨の購入を続けている。スイスは国内の経済活動を強制的に喚起するための財政政策を採用する余力を有しており、伝統的な金融政策手段(例:金利)を活用することで、現在のような為替介入を減らしながら、デフレ圧力に対抗することは可能だ。スイスはGDPの10.7%にも達する巨額の経常黒字を抱えているが、ドル建ての名目値では710億ドルと、世界で6番目の水準にある。米国財務省の試算によれば、スイスは昨年を通じて、かなり大規模な片方向の為替介入を行っている。国際通貨基金(IMFはスイス・フランが過大評価されていると見ている。小国であり、国内資産が限られているというスイスの経済状況の特殊性に鑑み、また、安全資産としての継続的な外資流入を制限するための金融政策の選択肢が限られていることを踏まえると、スイスは外為市場の透明性を高めるための為替介入を限定するために、政策金利への依存度を高める余地がある。

スイスに関しても、実は、前回のレポートから大きな変更がありました。前回のレポートでは、「スイスが小国であること」、「外国からの資金流入に晒されていること」などから、「スイスが為替介入を行うことはやむを得ない側面がある」とされていましたが、今回のレポートでは、「政策金利などの手段を使い、外貨の流入を防ぐことが必要だ」と指摘されています。正直、この下りは意味不明です。

スイス国民銀行(SNB)は主要国中央銀行の中でも、かなり早い段階でマイナス金利政策を採用してきましたし、また、2012年から15年に掛けて、「1ユーロ=1.20フラン」という「為替下限制度」を導入していました。

その意味で、スイスの為替介入は中国、韓国、台湾が行っているものとは全く性質が異なるものであり、今回の米国財務省のレポートは、こうしたスイス当局の努力を一切無視する、現実離れしたものであると言わざるを得ません。

実質的には中韓独を問題視

以上、私なりにレポートを読んでみましたが、米国財務省はこの6か国の中で、日本を除く5か国に対し、為替政策に関する何らかの注文を付けている格好です。

特に問題なのは中国でしょう。今回のレポートでは、「トランプ政権色」が色濃く反映されているからです。異例に長く、また、

The distortion in the global trading system resulting from China’s currency policy over this period imposed significant and long-lasting hardship on American workers and companies.(この10年間を通じ、中国の通貨政策に起因して世界経済に生じた歪みは、米国の労働者や企業に対して深刻かつ長期に及ぶ困難をもたらしている。)

など、厳しい調子での批判がなされていることを見ると、米国財務省は中国を引き続き重要な為替監視対象国とすることは間違いありません。

ただ、それと同時に、半ば公然と為替介入を行う韓国、内需拡大努力を怠るドイツに対しても、米国財務省は(言葉を選びながらも)厳しい調子で批判しています。

このことから、私は引き続き米国が、アジアでは中国と韓国を相手に、欧州ではドイツを相手に、通商問題で戦うのではないかと強く予想する次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 黒猫のゴンタ より:

    現状、世界中のあきんどは、基軸通貨の米ドルにひれ伏すしかない
    でもお前が儲けるのは俺の損だから許さねえってさ
    お代官さますぎねえかアメリカ
    加えて「為替操作国」、認定するしないも恣意的なジャイアンすぎる
    何様だよって、まあアメリカ様なわけだが
    他国の為替操作は許せねえって言うこと自体
    裏返せばそれってアメリカの為替操作そのものじゃん

    ビットコインの類がダイレクトで流通するようにならない限り
    米ドルの基軸通貨は揺らがないんだろうなあ
    とはいえローマも大英帝国も永遠じゃなかったしな

    今思うと不思議なのは
    GHQが公用語を英語にしなかったこと
    日本の通貨を米ドルにしなかったこと

    穿った見方すれば、そんな愛情は日本に対してなかったんだろうな
    愛情溢れる日本が朝鮮半島を併合したのとは全然次元が違う

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